労働衛生コンサルタント試験 2016年 労働衛生一般 問05

高気圧障害の症状




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合格

 このページは、2016年の労働安全衛生コンサルタント試験の「労働衛生一般」問題の解説と解答例を示しています。

 解説文中の法令の名称等は、適宜、略語を用いています。また、引用している法令は、読みやすくするために漢数字を算用数字に変更するなどの修正を行い、フリガナ、傍点等は削除しました。

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2016年度(平成28年度) 問05 難易度 高気圧障害の症状に関する基本的な知識問題。合否を分けるレベル。やや難問だが確実に正答したい。
高気圧障害の症状

問05 高気圧障害に関する次の記述のうち、適切でないものはどれか。

(1)高気圧環境では、窒素分圧が上昇し、窒素酔いを引き起こす。

(2)加圧時には、耳、前額部、歯などの痛みを伴うスクイーズ(締付け傷害)が生じる。

(3)減圧症の症状として、めまいや知覚障害がある。

(4)体脂肪率が高くなるほど、減圧症のリスクが低くなる。

(5)減圧症の予防として、作業時間を適正化し、作業回数を減らす必要がある。

正答(4)

【解説】

(1)適切である。あるガス(Aガスとしよう)の分圧とは、ある気体に含まれるAガスのモル濃度にその気体の圧力を乗じたもので、単位は「気圧」で表す。空気には窒素が80%近く含まれているので、空気を高圧化すれば、窒素分圧が高まることは当然である。そして、窒素酔い(窒素中毒)は、高分圧(3~4気圧程度以上)の窒素を摂取することにより発症する。本肢には空気の高気圧環境とは書かれていないが、当然の前提としているのであろう。従って適切でないとは言えない。

なお、窒素酔いそのものはそれほど危険なものではないが、軽い躁状態となり、危機感が薄れるので、事故の原因となり得る。

(2)適切である。急速に身体に加圧すると、どうしても体内の圧力が均一に上がるのではなく、不均衡に上がる。スクイーズとは、体内に圧力が不均衡に加わることによって発生する障害である。

耳の鼓膜の内外に圧力差を生じると耳が痛くなることは、飛行機に乗っていてもよく経験することである。鼻では、鼻腔と副鼻腔の圧力差によって前額部に疼痛を受けることがある。

(3)適切である。減圧症とは、高気圧状態から急速に減圧したとき、血液中に溶解していた窒素ガスが気泡となって、気泡による血流障害(気泡塞栓)や、気泡が組織を圧迫することによる障害の総称である。凝固系や補体系の活性化や、種々の液性因子の放出によって、さまざまな障害が起きる。

減圧症は、比較的軽度なⅠ型減圧症と、より重篤なⅡ型減圧症に分類される。Ⅰ型には、皮膚の掻痒、疼痛、発疹などの皮膚型と、四肢の関節・筋肉痛などの筋肉関節型減圧症(ベンズ)などがある。Ⅱ型には、前胸部痛や呼吸困難、ショックなどの呼吸循環器型減圧症(チョークス)や、重篤な運動麻痺や感覚障害などの中枢神経型、めまいや嘔気などの内耳前庭型などがある。

(4)適切ではない。脂肪は窒素が溶け込みやすいので、体内の脂肪分が多いと減圧時に窒素の気泡がより多く形成されやすくなり、減圧症のリスクが高まると考えられている。

なお、肥満は減圧症のリスクになることは、多数の研究によって報告されている。Dembert他は、米国海軍のダイバーについての研究によって、肥満は減圧症のリスクファクターになると報告している(1)。また、Lam他も、肥満は重要なリスクファクターになるとしている(2)。Carturan他は、男性ボランティア50人の実験により、潜水後に発生する気泡の量は、体脂肪率と浮上速度に関係しているとし、体脂肪率が17.5%以上の者は、それ未満の者より気泡発生が多く、減圧症のリスクが高いと報告している(3)。また、Webb他も、BMIが高いダイバーほど減圧症になりやすいと報告している(4)

1 Dembert ML,Jekel JF,Mooney LW「Health risk factors for the development of decompression sickness among U.S. Navy divers」(Undersea Biomed Res 1984)

2 Lam TH,Yau KP「Analysis of some individual risk factors for decompression sickness in Hong Kong」(Undersea Biomed Res 1989)

3 Carturan D,Boussuges A,Vanuxem P,Bar-Hen A,Burnet H,et al.「Ascent rate. Age,maximal oxygen uptake,adiposity,and circulating venous bubble after diving.」(J Appl Physiol 2002)

4 Webb JT,Kannan N,Pilmanis AA「Gender not a factor for altitude decompression sickness risk.」(Aviat Space Environ med 2003)

(5)適切である。作業時間の適正化と、作業回数の減少は、減圧症のみならず、多くの有害因子による疾病に対する予防として有効である。

  1. ※ 肢(4)の解説に当たり山見信夫「減圧症にならない潜り方」(日本高気圧環境・潜水医学会雑誌 Vol.45(3)2010)を参照した。
2019年12月01日執筆 2020年04月18日修正