問18 作業環境測定結果の評価に関する次の記述のうち、誤っているものはどれか。
(1)1日のみのA測定の結果から単位作業場所の評価値を求める場合、幾何平均値(M)として、1日目の幾何平均値(M1)の値を使用する。
(2)A測定及びB測定を実施した場合、第1評価値が管理濃度より小さく、B測定値が管理濃度より小さいときは第1管理区分である。
(3)測定値が管理濃度の10 分の1に満たない場合には、管理濃度の10分の1を当該測定点における測定値とみなして幾何平均値と幾何標準偏差を計算してもよい。
(4)A測定及びB測定を実施した場合、B測定値が管理濃度未満であっても、第2評価値が管理濃度を超えていれば第3管理区分になる。
(5)1日のみのA測定の結果から単位作業場所の評価値を求める場合、幾何標準偏差(σ)として、1日目の幾何標準偏差(σ1)の値を使用する。
このページは、2015年の労働安全衛生コンサルタント試験の「労働衛生一般」問題の解説と解答例を示しています。
解説文中の法令の名称等は、適宜、略語を用いています。また、引用している法令は、読みやすくするために漢数字を算用数字に変更するなどの修正を行い、フリガナ、傍点等は削除しました。
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2015年度(平成27年度) | 問18 | 難易度 | 作業環境測定結果の評価に関する高度な知識問題。作業環境測定士以外には難問だったようだ。 |
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作業環境測定結果の評価 | 5 |
問18 作業環境測定結果の評価に関する次の記述のうち、誤っているものはどれか。
(1)1日のみのA測定の結果から単位作業場所の評価値を求める場合、幾何平均値(M)として、1日目の幾何平均値(M1)の値を使用する。
(2)A測定及びB測定を実施した場合、第1評価値が管理濃度より小さく、B測定値が管理濃度より小さいときは第1管理区分である。
(3)測定値が管理濃度の10 分の1に満たない場合には、管理濃度の10分の1を当該測定点における測定値とみなして幾何平均値と幾何標準偏差を計算してもよい。
(4)A測定及びB測定を実施した場合、B測定値が管理濃度未満であっても、第2評価値が管理濃度を超えていれば第3管理区分になる。
(5)1日のみのA測定の結果から単位作業場所の評価値を求める場合、幾何標準偏差(σ)として、1日目の幾何標準偏差(σ1)の値を使用する。
正答(5)
【解説】
これは、作業環境評価基準(昭和63年9月1日労働省告示第79号:最終改定平成29年4月27日厚生労働省告示第186号)に関する問題である。
本問のうち、(2)(3)(4)は、作業環境評価基準を読めば、正しい肢か誤った肢かが判断できるだろう。
問題は(1)と(5)である。これは、A測定、B測定の意味と、A測定での第1評価値と第2評価値の意味、さらに、基本的な統計の知識がなければ、問題の意味そのものが理解できないかもしれない。その意味では、かなりの難問であり、作業環境測定士以外の受験生にとっては“捨て問”と割り切った方が良いかもしれない。
1 作業環境評価基準について知っておくべきこと
(1)A測定
ここで、A測定とはその作業場における、通常時の気中濃度の分布を知るための測定だと考えよう。
そして、第1評価値とは、「単位作業場所について考えられるすべての測定点の中に、管理濃度を越える濃度が存在する可能性が5%未満であるような水準値として数量化された値」であり、第2評価値とは「作業環境中の有害物質の平均濃度が、管理濃度を超えるような水準値として数量化された値」ということになる。
なんのことか分からないかもしれないが、第1評価値とは、「その作業場所で気中濃度が高い方から5%のところの濃度」と考えておけばよい。また、第2評価値とは「その作業場所の気中濃度の算術平均値」と考えておけばよい。第1評価値が管理濃度よりも低ければ第一管理区分となり、第2評価値が管理濃度よりも高ければ第3管理区分となる。
(2)B測定
次にB測定とはその作業場において、作業者の行動範囲での最も気中濃度が高くなる場所、時間における濃度と考えておこう。B測定の結果が管理濃度より低ければ第一管理区分となる。そしてB測定結果が管理濃度の1.5倍がよりも低ければ第2管理区分となる。
(3)総合評価
そして、A測定とB測定のそれぞれで管理区分を評価して、その悪い方がその作業場所の管理区分となる。
A測定 | X<A2 | ①第3管理区分 | ④第3管理区分 | ⑦第3管理区分 |
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A2≦X≦A1 | ②第2管理区分 | ⑤第2管理区分 | ⑧第3管理区分 | |
A1<X | ③第1管理区分 | ⑥第2管理区分 | ⑨第3管理区分 | |
A1:第1評価値、A2第2評価値 B:B測定結果、X:管理濃度 |
B<X | X≦B≦1.5X | 1.5X<B | |
B測定 |
2 作業環境と統計についての基礎知識
さて、作業環境測定の基礎理論では、作業場の気中濃度の分布は「対数正規分布」となることになっている。そして、対数正規分布をする濃度の算術平均濃度EA2は、幾何平均値をM、幾何標準偏差をσとすると、
となるのである。
また、上から5%の値EA1は
となる。
ここまで理解できれば、本問は正答に達することができる。
(1)正しい。1日で測定を行った場合は作業環境評価基準第3条第1項の規定によって第1評価値と第2評価値を算出する。すなわち、第1評価値EA1、及び第2評価値EA2は同項により、次式によって算出する。
ここに、M1はA測定の測定値の幾何平均値である。
(2)正しい。作業環境評価基準第2条第1項第2号の規定(表)により正しい。
(3)正しい。作業環境評価基準第2条第3項の規定により正しい。
(4)正しい。作業環境評価基準第2条第1項第2号の規定(表)により正しい。
(5)誤り。作業環境評価基準第3条第1項の規定により誤っている。
すなわち、1日目の幾何標準偏差σ1をそのままσとして用いるのではなく、
log2σ=log2σ1+0.084
によって、修正するわけである。要は、経験的にみて測定したσ1よりバラツキが大きくなるので、若干高い数値を用いるわけである。