問08 熱中症の予防対策に関する次の記述のうち、適切なものはどれか。
(1)曇天の屋外作業であったが蒸し暑かったので、自然湿球温度と黒球温度を測定してWBGT値を求めた。
(2)梅雨明けの急に暑くなった日から2週間の炎天下の作業が入ったので、初日は作業を午前中のみ行い、2日目から終日作業を行った。
(3)炎天下で屋外作業を朝から行っていたら、午後4時頃に体がぐったりして力が入らなくなるなど熱中症のⅡ度の症状が出てきたので、日陰で休息して体調が回復するのを待った。
(4)作業者の暑熱作業中の心拍数が毎分180を超えていたが、そのまま作業を継続した。
(5)暑熱作業中にのどの渇きを感じたので、2%の食塩水を飲んだ。
このページは、2015年の労働安全衛生コンサルタント試験の「労働衛生一般」問題の解説と解答例を示しています。
解説文中の法令の名称等は、適宜、略語を用いています。また、引用している法令は、読みやすくするために漢数字を算用数字に変更するなどの修正を行い、フリガナ、傍点等は削除しました。
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2015年度(平成27年度) | 問08 | 難易度 | 熱中症の予防対策に関するごく初歩的な知識問題。確実に正答できなければならない。 |
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熱中症の予防対策 | 1 |
問08 熱中症の予防対策に関する次の記述のうち、適切なものはどれか。
(1)曇天の屋外作業であったが蒸し暑かったので、自然湿球温度と黒球温度を測定してWBGT値を求めた。
(2)梅雨明けの急に暑くなった日から2週間の炎天下の作業が入ったので、初日は作業を午前中のみ行い、2日目から終日作業を行った。
(3)炎天下で屋外作業を朝から行っていたら、午後4時頃に体がぐったりして力が入らなくなるなど熱中症のⅡ度の症状が出てきたので、日陰で休息して体調が回復するのを待った。
(4)作業者の暑熱作業中の心拍数が毎分180を超えていたが、そのまま作業を継続した。
(5)暑熱作業中にのどの渇きを感じたので、2%の食塩水を飲んだ。
正答(1)
【解説】
本問は、平成21年6月19日基発第0619001号(一部改正令和2年5月27日基発0527第2号)「職場における熱中症の予防について」(以下、本問の解説において「旧予防通達」と略す。)等からの出題であると思われるが、通達の内容を知らなくとも、内容はほぼ常識問題のレベルである。
なお、旧予防通達は令和3年4月20日基発0420第3号「職場における熱中症予防基本対策要綱の策定について」(以下、本問の解説において「新通達」と略す。)によって廃止されているが、本問の趣旨に影響はない。
この解説は、新通達の別紙「職場における熱中症予防基本対策要綱」(以下「要綱」という。)によって解説しているが、必要に応じ旧予防通達にも触れている。
(1)適切である。WBGTとは、暑熱環境による熱ストレスの評価を行う暑さ指数で、次式により算出される。本肢の曇天の屋外作業の場合は①式となるので、自然湿球温度と黒球温度からWBGT値が求められる。
【WBGTの求め方】
① 屋内、屋外で太陽照射のない場合(日かげ)
WBGT値=0.7×自然湿球温度+0.3×黒球温度
② 屋外で太陽照射のある場合(日なた)
WBGT値=0.7×自然湿球温度+0.2×黒球温度+0.1×乾球温度
(2)適切ではない。熱中症の防止のためには、熱への順化を行うことが望ましい。要綱の「解説」の「3 作業管理について」の(1)のアによれば、熱への順化の例として「作業を行う者が順化していない状態から7日以上かけて熱へのばく露時間を次第に長くする」とされている。本肢のように2日目から終日作業を行うべきではない。
(3)適切ではない。日本救急医学会では2000年以降、熱中症の重症度を「具体的な治療の必要性」の観点から、Ⅰ度(現場での応急処置で対応できる軽症)、Ⅱ度(病院への搬送を必要とする中等症)、Ⅲ度(入院して集中治療の必要性のある重症)に分類している(※)。Ⅱ度は「体がぐったりする、力が入らないなどがあり、『いつもと様子が違う』程度のごく軽い意識障害を認めることがある」とされており、少しでも意識がおかしい場合には、Ⅱ度以上と判断し病院へ搬送する必要がある。
※ なお、熱中症の重症度をⅠ度からⅢ度までに分類するのは、日本救急医学会の「熱中症診療ガイドライン 2015」で紹介された「熱中症重症度分類 2015」によっている。同学会は、「熱中症診療ガイドライン 2024」(5ページ以降)において、熱中症の重症度をⅠ度からⅣ度までに分類する新しい分類法を公表している。
(4)適切ではない。要綱の「解説」の「4 健康管理について」の(3)には、次の場合等は「熱へのばく露を止めることが必要とされている兆候である」とされている。本肢のように、作業者の暑熱作業中の心拍数が毎分180を超えているにもかかわらず、そのまま作業を継続することは好ましくない。
【熱へのばく露を止めることが必要とされている兆候】
① 心機能が正常な労働者については1分間の心拍数が数分間継続して180から年齢を引いた値を超える場合
② 作業強度のピークの1分後の心拍数が120を超える場合
③ 休憩中等の体温が作業開始前の体温に戻らない場合
④ 作業開始前より1.5%を超えて体重が減少している場合
⑤ 急激で激しい疲労感、悪心、めまい、意識喪失等の症状が発現した場合
(5)適切ではない。長時間の運動などで多量に発汗している場合には、塩分の補給も必要になる。しかし、前記「職場における熱中症の予防について」によれば、食塩水を飲むのであれば、0.1 ~ 0.2%程度の食塩水が適当であるとされている。飲料の場合、ナトリウム量は100mlあたり40~80mgとする。本肢の2%は食塩が多すぎる。