労働衛生コンサルタント試験 2015年 労働衛生一般 問03

じん肺及び粉じん作業




問題文
トップ
合格

 このページは、2015年の労働安全衛生コンサルタント試験の「労働衛生一般」問題の解説と解答例を示しています。

 解説文中の法令の名称等は、適宜、略語を用いています。また、引用している法令は、読みやすくするために漢数字を算用数字に変更するなどの修正を行い、フリガナ、傍点等は削除しました。

 他の問題の解説をご覧になる場合は、グローバルナビの「安全衛生試験の支援」か「パンくずリスト」をご利用ください。

 柳川に著作権があることにご留意ください。

2015年度(平成27年度) 問03 難易度 じん肺及び粉じん作業に関するかなり高度な知識問題。難問の部類だろう。
じん肺及び粉じん作業

問03 じん肺及び粉じん作業に関する次の記述のうち、誤っているものはどれか。

(1)粉じんの沈着部位は粒径に依存し、大きい粒径の粉じんは鼻腔、咽頭などに沈着し、肺胞まで到達しにくい。

(2)慢性のけい肺症では、胸部エックス線写真で上肺野に多発性の小粒状影がみられる。

(3)日本産業衛生学会の粉じんの許容濃度は、遊離けい酸含有率の値を用いて計算式から求められる。

(4)金属研磨作業では、局所排気装置又はプッシュプル型換気装置のそれぞれの設備ごとに検査・点検責任者を選任する。

(5)じん肺健康診断で新規に有所見となった者に対し、「じん肺有所見者に対する健康管理教育のためのガイドライン」に基づく教育を実施する。

正答(3)

【解説】

(1)正しい。吸気中に含まれる粒子は、粒径が大きいものは鼻腔や咽頭で沈着し、粒径が小さくなると肺胞まで到達する。ACGIHは、粉じんのTLVを定めるにあたって、鼻やのどで止まるインハラブル(吸引性)粒子、のどをとおり気管まで到達するソラシック(咽頭通過性)粒子、肺胞まで到達する吸入性レスピラブル(吸入性)粒子に分類している。

ISO 7708の定義によれば、透過率が50%となる空気動力学径は、インハラブル粒子で100μm、ソラシック粒子で10μm、レスピラブル粒子で4μmとされている。

(2)正しい。けい肺とは、じん肺症の一種であり、長期にわたってけい酸粉じんを吸入することによって発症する。初期には線維増殖性変化が始まり、進行すると小結節影がびまん性に出現する。上肺野に変化が強い。

なお、けい肺は上肺野に優位な小粒状影を呈することが多いが、肺門・縦隔リンパ節の石灰化が主体となることもまれではない。特に、遊離けい酸の含有率が少ない粉じんの場合は、リンパ節に石灰沈着をきたしやすいとされている。

(3)誤り。日本産業衛生学会の粉じんの許容濃度は、計算式で求めるのではなく、吸入性結晶質シリカが0.03mg/m3とされ、その他、第1種粉塵が吸入性粉塵0.5mg/m3、総粉塵2mg/m3、第2種粉塵が吸入性粉塵1mg/m3、総粉塵4mg/m3、第3種粉塵が、吸入性粉塵2mg/m3、総粉塵8mg/m3などと定められている。

なお、粉じんの管理濃度は、平成21年3月31日に改正され、平成21年7月1日から適用になっているが、遊離けい酸含有率の値を用いて計算式から求められるようになっている。うろ覚えの受験生を落とすためのひっかけ問である。

【粉じんの管理濃度】

E=3.0 ÷(1.19 × Q+1)

   E:管理濃度(mg/m3)

   Q:遊離けい酸含有率(%)

【例】

Q= 0(%):E=3.0 ÷(1.19×0+1)= 3.0mg/m3

Q=100(%):E=3.0 ÷(1.19×100+1)= 0.025mg/m3

(4)正しい。平成25年2月19日基発0219第2号「第8次粉じん障害防止総合対策の推進について」の別添「粉じん障害を防止するため事業者が重点的に講ずべき措置」には、「2 金属等の研磨作業に係る粉じん障害防止対策」として、「局所排気装置、プッシュプル型換気装置又は除じん装置のそれぞれの設備ごとに、局所排気装置等の定期自主検査者講習を修了した者から『検査・点検責任者』を選任すること」とされていた。

そして、平成30年2月9日基発0209第3号「第9次粉じん障害防止総合対策の推進について」の別添「粉じん障害を防止するため事業者が重点的に講ずべき措置」には、「6 その他地域の実情に即した事項」に「第8次粉じん障害防止総合対策の「粉じん障害を防止するため事業者が重点的に講ずべき措置」の「(2)金属等の研磨作業に係る粉じん障害防止対策」の「ウ 局所排気装置等の適正な稼働並びに検査及び点検の実施」の措置を引き続き講じることとされている。

従って、本肢は正しい。なお、出題当時は第8次粉じん障害防止総合対策の期間中であった。現在は、第9次粉じん障害防止総合対策の期間中であるが、同様に正しい肢となる。

【第8次粉じん障害防止総合対策】

[別添 粉じん障害を防止するため事業者が重点的に講ずべき措置]

第2 具体的実施事項

 金属等の研磨作業に係る粉じん障害防止対策

(3)局所排気装置等の適正な稼働並びに検査及び点検の実施

 局所排気装置等の適正な稼働並びに検査及び点検の実施

  事業者は、局所排気装置、プッシュプル型換気装置又は除じん装置のそれぞれの設備ごとに、局所排気装置等の定期自主検査者講習を修了した者から「検査・点検責任者」を選任すること。

 局所排気装置等の検査及び点検の実施

  事業者は、選任した「検査・点検責任者」に対し、局所排気装置、プッシュプル型換気装置又は除じん装置について、定期自主検査及び点検を行わせるとともに、当該検査・点検の結果に基づく補修等の必 要な措置を講じること。

【第9次粉じん障害防止総合対策】

[別添 粉じん障害を防止するため事業者が重点的に講ずべき措置]

第2 具体的実施事項

 その他地域の実情に即した事項

  地域の実情をみると、引き続き、アーク溶接作業と岩石等の裁断等の作業に係る粉じん障害防止対策、金属等の研磨作業に係る粉じん障害防止対策等の推進を図る必要があることから、事業者は、必要に応じ、これらの粉じん障害防止対策等について、第8次粉じん障害防止総合対策の「粉じん障害を防止するため事業者が重点的に講ずべき措置」の以下の措置を引き続き講じること。

(1)(略)

(2)金属等の研磨作業に係る粉じん障害防止対策

ア及びイ (略)

 局所排気装置等の適正な稼働並びに検査及び点検の実施

 (以下略)

※ 第9次粉じん障害防止総合対策の(通達の)別添「粉じん障害を防止するため事業者が重点的に講ずべき措置」で、第8次粉じん障害防止総合対策の(通達の)別添「粉じん障害を防止するため事業者が重点的に講ずべき措置」を準用したことは、一般の事業者に対して無用の混乱をもたらしているといえる。

まず、第8次と第9次で同じ名称なので、ネットで検索してヒットしても、事業者にはどちらの「粉じん障害を防止するため事業者が重点的に講ずべき措置」なのか区別がつかないのである。さらに、第9次粉じん障害防止総合対策の「粉じん障害を防止するため事業者が重点的に講ずべき措置」をネットで表示させて、「検査・点検責任者」でページ内検索をかけても何もヒットしないので、この制度が廃止されたのだろうと思うからである。

(5)正しい。平成9年2月3日基発第70号「『じん肺有所見者に対する健康管理教育のためのガイドライン』の周知・普及について」により本肢は正しい。

なお、粉じん障害防止総合対策に、この教育についての記述がないことも、事業者に対する粉じん対策についての分かりにくさの一因となっている。これは「じん肺有所見者に対する健康管理教育」は「粉じん対策」ではないという形式的な理由によるものであろう。

2019年12月01日執筆 2020年05月03日修正