労働衛生コンサルタント試験 2013年 労働衛生一般 問20

労働衛生からみた作業姿勢と動作




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ポジティブな人のイラスト(女性)

 このページは、2013年の労働安全衛生コンサルタント試験の「労働衛生一般」問題の解説と解答例を示しています。

 解説文中の法令の名称等は、適宜、略語を用いています。また、引用している法令は、読みやすくするために漢数字を算用数字に変更するなどの修正を行い、フリガナ、傍点等は削除しました。

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2013年度(平成25年度) 問20 難易度 あまりにも些末な内容の趣味的な問題である。内容そのものが不適切であり、捨て問と割り切るべき。
作業姿勢と動作

問20 作業姿勢や動作に関する次の記述のうち、誤っているものはどれか。

(1)ストレッチャーで人を運ぶ場合、運び手の背部への負荷は、押して運ぶよりも引いて運ぶほうが小さくなる。

(2)あぐらをかいた姿勢で座作業を行うと、椎間板内圧は立位姿勢に比べて高くなる。

(3)重量物を持ったまま身体をひねると腰部への負荷は増加する。

(4)VDT作業での下肢の筋肉疲労は、大腿部が圧迫されるために起こる血液循環不全によることが多い。

(5)車両運転時、上体をまっすぐにのばした姿勢は、リラックスした姿勢よりも、振動により腰部の筋緊張が高まり末端血流が減少する。

正答(1)

【解説】

本問は極めて些末な内容の知識を問うており、一般的な労働衛生コンサルタントに必要と考えられる内容の問題ではない。

例えば(1)については、ストレッチャーを運ぶ作業で背部への負担はもとより、腰部への負担さえ労働衛生の観点からはほとんど問題となっていない。(4)も、情報機器の関連作業で下肢の疲労はほとんど問題となっていない。(5)となると、自動車の振動が腰痛や疲労の原因となり得ることについて問題となっていることは事実だが、運転姿勢と振動と血流の関係などほとんど関心の持たれていない分野である。

あまりにも、細かな内容についての知識を問う割には意味の不明な文章もあり、捨て問と考えて良い。しかも、ストレッチャーを引くことなど常識に反していることから(1)が誤りだと考えれば正答はできる。詳細な内容を学ぶ必要などない問題である。

看護師2名でストレッチャーを運ぶ

©看護roo!

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(1)誤り。まず、本肢を検討する前提として、ストレッチャーを引いて運ぶ方法が記されていないことがある。医療機関などで、患者を載せたストレッチャーを2人の看護師が運ぶ場合、前側(進行方向側)の看護師は進む方向を向いてストレッチャーを操作する役割を果たす。また、後ろ側の看護師が患者の表情を確認しながらストレッチャーを押すことになる。そもそもストレッチャーを1人の看護師が引いて運ぶことなど考えられない。

そこで、ストレッチャーを引いて運ぶ状況として、進行方向側から片手を後ろ側に延ばしてストレッチャーをつかみ、体をやや横向きにして顔を前を向けて引く場合を考えよう。それ以外にストレッチャーを引いて運ぶ状況は考えにくい。押す場合は、1人で前向きになって後ろから押すことになろう。

そのように考えれば、不自然な姿勢を維持したまま引く方が、押して運ぶより運び手の背部への負荷は大きくなることは当然だろう。

(2)正しい。「職場における腰痛予防対策指針及び解説」に、「直接床に座る座作業では、強度の前傾姿勢が避けられないため、腰部の筋収縮が強まり、椎間板内圧が著しく高まる」とされている。

(3)正しい。「職場における腰痛予防対策指針及び解説」に「『腰部に負担のかかる動作』には、物を持ち上げる・引く・押す、身体を曲げる・ひねる等の動作がある」とされている。物を持ったまま腰をひねることは腰に負担の大きい動作である。

(4)正しい。一般論として、筋肉疲労の原因は、科学的に明確に解明されているわけではない。近年では、筋肉の運動によって起きる乳酸の生成過程で水素イオンが発生して筋肉が酸性に傾くことや、エネルギー源である筋グリコーゲンが減少すること等が関係しているとされている。従って、その解消のためには血行を増やすことが有効であり、一般的な意味で血液循環不全が疲労の原因だとすることは誤りではない。

VDT作業で下肢の筋肉疲労がそれほど問題になるとは思えないが、下肢に疲労が起きたとすれば、他に原因が考えられないので大腿部が圧迫されるために起こる血液循環不全が原因だと言ってよいであろう。なお、宮尾は「長時間のVDT作業は末梢血液循環が不良となり疲労の原因になる」としている(※)が、このことと関係があるかは微妙である。

※ 宮尾克「VDT作業の改善のサポート」(日本産業衛生学会第8回産業衛生技術部会大会(2003年)での発表資料)

明確な根拠をご存じの方がおられたら、掲示板等でご教示いただければ幸いである。

(5)正しい。本問も(1)と同様、問われている状況が必ずしも明確ではない。「上体をまっすぐにのばした姿勢」と「リラックスした姿勢」がどのような姿勢かが記されていないのである。

運転をしているのであるから、「上体をまっすぐにのばした姿勢」を「シートの角度が調節できず、形状が直線的なシートに密着させた姿勢」の意味だとし、「リラックスした姿勢」が「シートの角度が調整でき、適切な形状をしたシートに密着した姿勢」を指すと考えよう。この場合、腰に良いのは後者である(※)

※ もっとも「上体をまっすぐにのばした姿勢」を「体をシートに密着させた姿勢」、「リラックスした姿勢」を「シートに浅く腰掛け、頭と背中の上下部分をシートから離した楽な姿勢」と考えれば、結論は逆になる。本問は(1)が明らかに誤っていると思われるので、無理に正しい肢であると解釈しているのである。このようにどうとでも理解されるという意味でも、本問は不適切である。

そして、振動刺激を持続的に骨格筋に与えると筋紡錘を興奮させ、緊張性振動反射によりその筋の緊張が増大することがある(※)が、過度に長時間拘束されたままのときは筋緊張は増大すると考えられる。また、筋緊張の増大が末端血流を減少させることは正しい。

※ 例えば、戸田香他「振動刺激が筋活動におよぼす影響について」(理学療法学Supplement 2007年)など。なお、一般には身体に振動を与えると、筋緊張は緩和される。このため、腰痛の治療などでは身体に振動を加えることがある。

また、「職場における腰痛予防対策指針及び解説」は、「運転座席は、座面・背もたれ角度が調整可能、腰背部の安定した支持、運転に伴う振動の減衰効果に優れたものに改善されることが望ましい。このような運転座席を導入することで、運転に伴う拘束姿勢や不安定な姿勢・動作や振動のリスクを低減することが可能となる。また、運転作業開始前に操作性を配慮し、座面角度、背もたれ角度、座席の位置等の適正な調整を行わせることも重要となる。振動減衰に優れた運転座席への改善やこうした構造を有する車両の採用ができない場合には、クッション等を用いて振動の軽減に努めること」としている。

2021年02月23日執筆