問16 生体内のヘムの形成と鉛中毒に関する次の文中の A ~ C に入れる語句の組合せとして、正しいものは(1)~(5)のうちどれか。
「生体内のへムの形成は次の ①~④の過程で行われる。
① サクシニルCoAとグリシンから、 A が形成される。
② 2分子の A からピロール環を有するポルフォピリノーゲンが形成される。
③ 4分子のポルフォピリノーゲンから B が形成される。
④ B はプロトポルフィリンを経てヘムとなる。
鉛は、②と④の過程を阻害し、その結果、ヘムの合成が阻害され C となる。
従って、尿中の A と B を定量することが鉛中毒の診断の指標となっている。」
A | B | C | |||
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(1) | 馬尿酸 | δ-アミノレブリン酸 | 貧血症 | ||
(2) | ヘモグロビン | 馬尿酸 | 血小板減少症 | ||
(3) | δ-アミノレプリン酸 | コプロポルフィリン | 貧血症 | ||
(4) | δ-アミノレプリン酸 | ヘモグロビン | 血小板減少症 | ||
(5) | コプロポルフィリン | ヘモグロビン | 貧血症 |
このページは、2013年の労働安全衛生コンサルタント試験の「労働衛生一般」問題の解説と解答例を示しています。
解説文中の法令の名称等は、適宜、略語を用いています。また、引用している法令は、読みやすくするために漢数字を算用数字に変更するなどの修正を行い、フリガナ、傍点等は削除しました。
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2013年度(平成25年度) | 問16 | 難易度 | 労働生理に関する高度な知識問題である。難問だったと考えられる。 |
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鉛中毒 | 5 |
問16 生体内のヘムの形成と鉛中毒に関する次の文中の A ~ C に入れる語句の組合せとして、正しいものは(1)~(5)のうちどれか。
「生体内のへムの形成は次の ①~④の過程で行われる。
① サクシニルCoAとグリシンから、 A が形成される。
② 2分子の A からピロール環を有するポルフォピリノーゲンが形成される。
③ 4分子のポルフォピリノーゲンから B が形成される。
④ B はプロトポルフィリンを経てヘムとなる。
鉛は、②と④の過程を阻害し、その結果、ヘムの合成が阻害され C となる。
従って、尿中の A と B を定量することが鉛中毒の診断の指標となっている。」
A | B | C | |||
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(1) | 馬尿酸 | δ-アミノレブリン酸 | 貧血症 | ||
(2) | ヘモグロビン | 馬尿酸 | 血小板減少症 | ||
(3) | δ-アミノレプリン酸 | コプロポルフィリン | 貧血症 | ||
(4) | δ-アミノレプリン酸 | ヘモグロビン | 血小板減少症 | ||
(5) | コプロポルフィリン | ヘモグロビン | 貧血症 |
正答(3)
【解説】
スクシニルCoAとグリシンは、δ-アミノレブリン酸シンターゼ(ALAS)により、ピリドキサルリン酸を補酵素としてδ-アミノレブリン酸(5-アミノレブリン酸)に合成される。
生合成された2分子のδ-アミノレブリン酸は、ポルフォビリノーゲンシンターゼ(ALAD)によって脱水縮合され、1分子のポルフォピリノーゲンと2分子の水が生成される。このとき亜鉛イオンが利用されるが、鉛が存在すると亜鉛が鉛に置き換えられて縮合が阻害される。このため、鉛中毒では尿中にδ-アミノレブリン酸が増加する。
4分子のポルフォピリノーゲンは、ポルフォピリノーゲンデアミナーゼ(PBGD)によって重合反応し、1分子のハイドロキシメチルビランが生成される。さらに、いくつかの酵素によって、ウロポルフィリノーゲン、コプロポルフィリノーゲンと生成が進む。
コプロポルフィリノーゲンは、ミトコンドリア酵素であるコプロポルフィリノーゲンオキシターゼ(CPOX)によって、プロトポルフィリノーゲンへ生成が進む。CPOXが鉛によって阻害されるかどうかは分かっていないが、鉛にばく露することにより、尿中のコプロポルフィリンが増加することは判明している。
※ 以上、原田幸一「ヘム生合成と鉛貧血」(熊本大学医学部保健学科紀要2006年)によった。
さらに、プロトポルフィリノーゲンは、さらに鉄を取り込んでヘムが合成され、ヘムはグロビンと結合してヘモグロビンが生成される。ところが、血中に鉛が存在すると、スクシニルCoAとグリシンからヘモグロビンが生成されるまでの過程の一部が阻害されるために貧血が起きるのである。
従って、問題文のA~Cには次に示す用語が入り、正答は(3)となる。
【完成文】
「生体内のへムの形成は次の ①~④の過程で行われる。
① サクシニルCoAとグリシンから、δ-アミノレブリン酸が形成される。
② 2分子のδ-アミノレブリン酸からピロール環を有するポルフォピリノーゲンが形成される。
③ 4分子のポルフォピリノーゲンからコプロポルフィリンが形成される。
④ コプロポルフィリンはプロトポルフィリンを経てヘムとなる。
鉛は、②と④の過程を阻害し、その結果、ヘムの合成が阻害され貧血症となる。
従って、尿中のδ-アミノレブリン酸とコプロポルフィリンを定量することが鉛中毒の診断の指標となっている。」
また、参考までに鉛則の関連条文を挙げておくが、一定の鉛業務について、尿中のδ-アミノレブリン酸と赤血球中のプロトポルフィリンの測定が義務付けられている。
【鉛中毒予防規則】
(健康診断)
第53条 事業者は、令第二十二条第一項第四号に掲げる業務に常時従事する労働者に対し、雇入れの際、当該業務への配置替えの際及びその後六月(令別表第四第十七号及び第一条第五号リからルまでに掲げる鉛業務又はこれらの業務を行う作業場所における清掃の業務に従事する労働者に対しては、一年)以内ごとに一回、定期に、次の項目について、医師による健康診断を行わなければならない。
一~五 (略)
六 尿中のデルタアミノレブリン酸の量の検査
2 (略)
3 事業者は、令第二十二条第一項第四号に掲げる業務に常時従事する労働者で医師が必要と認めるものについては、第一項の規定により健康診断を行わなければならない項目のほか、次の項目の全部又は一部について医師による健康診断を行わなければならない。
一及び二 (略)
三 赤血球中のプロトポルフィリンの量の検査
四 (略)
【考察】
本問が、かなりの難問だったことは間違いないだろう。ただ、鉛中毒の診断の指標が尿中の「馬尿酸」だとしている(1)と(2)は間違いだと気付かなければならない。
また、鉛による健康障害に貧血症があることは覚えておく必要がある。従って、Cに入る用語として貧血症が間違いではないことは分かるだろう。問題は鉛によって血小板減少症になることがないかである。ないということを自信を持っていうことは難しいが、鉛による健康障害として覚えているものの中にないのだからないと考えよう(※)。従って、鉛による健康影響を分かっていれば、(4)も正答ではないだろうと見当がつく。
※ 鉛中毒の治療に用いられるキレート剤の長期投与の副作用によって発症することはあり得る。
最後に、鉛健診の指標として、尿中のヘモグロビンとδ-アミノレプリン酸のどちらが正しいかだが、尿中にヘモグロビンがあるということは尿潜血があることを意味する。これは、鉛とは無関係だと分からなければならない。