労働衛生コンサルタント試験 2013年 労働衛生一般 問06

酸素欠乏症及び硫化水素中毒




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 このページは、2013年の労働安全衛生コンサルタント試験の「労働衛生一般」問題の解説と解答例を示しています。

 解説文中の法令の名称等は、適宜、略語を用いています。また、引用している法令は、読みやすくするために漢数字を算用数字に変更するなどの修正を行い、フリガナ、傍点等は削除しました。

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2013年度(平成25年度) 問06 難易度 酸素欠乏症/硫化水素中毒に関する基本的な知識問題である。正答できなければならない。
酸素欠乏/硫化水素中毒

問06 酸素欠乏症と硫化水素中毒に関する次の記述のうち誤っているものはどれか。

(1)無酸素空気の1回の吸入では、意識消失には至らない。

(2)酸素欠乏症では脳の浮腫が急激に生じ、意識回復後も持続する。

(3)高濃度の硫化水素ばく露により、意識消失、呼吸麻痺等の中枢神経系の症状が生じる。

(4)防止措置として、作業場所の酸素濃度が18%以上、硫化水素濃度が10ppm以下に保たれるよう換気をする。

(5)硫化水素中毒が疑われる被災者の救出においては、二次災害を防ぐため空気呼吸器や墜落制止用器具を着用する。

※ 本問出題後の安衛法令の改正の用語と一致させるため(5)は「安全帯」を「墜落制止用器具」と修正した。

正答(1)

【解説】

(1)誤り。無酸素空気を1回でも吸入すると、肺胞毛細血管中の酸素濃度より肺胞内の酸素濃度の方が低くなる。こうなると、外呼吸(肺胞のガス交換)が不可能になる。このため、酸素濃度の低い空気は一呼吸するだけでもきわめて危険である。無酸素の空気を1回でも吸入すると意識喪失の危険がある。

(2)正しい。林他によると、酸素欠乏症等で全脳虚血になり、脳血流停止が長時間になると、①脳温の上昇と低酸素症、②脳浮腫、③頭蓋内圧亢進、④脳ヘルニア、⑤脳幹病変という病態を呈する(※)とされている。

※ Hayashi N, Utagawa A, Kinoshita K et al.「Application of a novel technique for clinical evaluation of nitric oxide-induced free radical reactions in ICU patients.」(Cell Mol Neurobiol. 19(1) 1999年)

脳の浮腫は頭蓋内圧を上昇させるため虚血状態がさらに助長され、浮腫が急激に生じることになる。また、意識が回復したからといって、浮腫が消失することはなく持続する。浮腫の改善には酸素投与や高気圧酸素療法が行われる。

なお、肺など脳以外の細胞でも、低酸素状態が続くと血管が拡張するため、血管内の水分が増加して細胞へ漏出し、浮腫が発生することがある。

(3)正しい。硫化水素には神経毒性があり、高濃度の硫化水素を吸入すると、平衡感覚障害、記憶力低下、神経行動変化、意識消失、呼吸麻痺等の中枢神経系の急性症状が生じる。

また、硫化水素中毒では、嗅覚の麻痺、眼の損傷、呼吸障害、肺水腫を引き起こし、重篤な場合は死に至る事故も発生していることも覚えておく必要がある。

(4)正しい。酸素欠乏症及び硫化水素中毒の防止措置として、作業場所の酸素濃度が18%以上、硫化水素濃度が10ppm以下に保たれるよう換気をする。酸素濃度の18%は安全限界とされ、換気が必要な濃度である。また、硫化水素の許容濃度は10ppmである。

(5)正しい。硫化水素中毒が疑われる被災者の救出においては、二次災害を防ぐため空気呼吸器や墜落制止用器具を着用する必要がある。なお、墜落制止用器具の使用は、意識喪失によって墜落事故となることを防止するためである。

2021年02月15日執筆