労働衛生コンサルタント試験 2012年 労働衛生関係法令 問08

安衛法上の健康診断




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合格

 このページは、2012年の労働安全衛生コンサルタント試験の「労働衛生関係法令」問題の解説と解答例を示しています。

 解説文中の法令の名称等は、適宜、略語を用いています。また、引用している法令は、読みやすくするために漢数字を算用数字に変更するなどの修正を行い、フリガナ、傍点等は削除しました。

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2012年度(平成24年度) 問08 難易度 健康診断に関する基本的な知識問題。確実に正答できなければならない。
健康診断

問8 健康診断に関する次の記述のうち、労働安全衛生法令上、正しいものはどれか。

(1)事業者は、特定化学物質の第3類物質を取り扱う業務に従事する労働者に対し、当該業務への配置替えの際、及びその後6月以内ごとに1回、定期に、特殊健康診断を行わなければならない。

(2)事業者は、塩酸等歯又はその支持組織に有害な物のガス、蒸気を発散する場所における業務に従事する労働者に対し、当該業務への配置替えの際、及びその後6月以内ごとに1回、定期に、医師又は歯科医師による健康診断を行わなければならない。

(3)事業者は、ベリリウム及びその化合物を製造し又は取り扱う業務に従事させたことのある労働者で、現に使用していない者については、1年以内ごとに1回、定期に、特殊健康診断を行わなければならない。

(4)事業者は、深夜業に従事する労働者であって所定の要件に該当するものが、自ら受けた健康診断の結果を証明する書面を提出した場合、健康診断の結果に基づき、当該健康診断項目に異常の所見があると診断された労働者については、健康を保持するため必要な措置について医師の意見を聴かなければならない。

(5)事業者は、特定化学物質の特別管理物質を取り扱う業務に従事する労働者について特殊健康診断を行ったときは、その結果に基づき特定化学物質健康診断個人票を作成し、これを40年間保存しなければならない。

(4)

【解説】

(1)誤り。安衛法第66条第2項の特殊健康診断の対象業務は、安衛令第22条に定められている。その第三号は特定化学物質を製造し又は取り扱う作業について定めるが、第3類物質は対象となっていない。

第3種有機溶剤も同様であるが、第3類特定化学物質は、アクシデントによる漏洩の防止に主眼が置かれている。そのため、慢性ばく露を前提として定期的に行われる健康診断や作業環境測定の義務は課されていないのである。このことは覚えておくこと。

【労働安全衛生法】

(健康診断)

第66条 (第1項 略)

 事業者は、有害な業務で、政令で定めるものに従事する労働者に対し、厚生労働省令で定めるところにより、医師による特別の項目についての健康診断を行なわなければならない。(後段略)

3~5 (略)

【労働安全衛生法施行令】

(健康診断を行うべき有害な業務)

第22条 法第六十六条第二項前段の政令で定める有害な業務は、次のとおりとする。

一及び二 (略)

 別表第三第一号若しくは第二号に掲げる特定化学物質(同号5及び31の2に掲げる物並びに同号37に掲げる物で同号5又は31の2に係るものを除く。)を製造し、若しくは取り扱う業務(同号8若しくは32に掲げる物又は同号37に掲げる物で同号8若しくは32に係るものを製造する事業場以外の事業場においてこれらの物を取り扱う業務及び同号3の3、11の2、13の2、15、15の2、18の2から18の4まで、19の2から19の4まで、22の2から22の5まで、23の2、33の2若しくは34の3に掲げる物又は同号37に掲げる物で同号3の3、11の2、13の2、15、15の2、18の2から18の4まで、19の2から19の4まで、22の2から22の5まで、23の2、33の2若しくは34の3に係るものを製造し、又は取り扱う業務で厚生労働省令で定めるものを除く。)、第十六条第一項各号に掲げる物(同項第四号に掲げる物及び同項第九号に掲げる物で同項第四号に係るものを除く。)を試験研究のため製造し、若しくは使用する業務又は石綿等の取扱い若しくは試験研究のための製造若しくは石綿分析用試料等の製造に伴い石綿の粉じんを発散する場所における業務

四~六 (略)

2及び3 (略)

別表第3 特定化学物質(第六条、第九条の三、第十七条、第十八条、第十八条の二、第二十一条、第二十二条関係)

 第一類物質

1~8 (略)

 第二類物質

1~37 (略)

 第三類物質

1~9 (略)

(2)誤り。安衛法第66条第3項(及び安衛令第22条第3項)により、事業者は、塩酸等歯又はその支持組織に有害な物のガス、蒸気を発散する場所における業務に従事する労働者に対し、歯科医師による健康診断を行わなければならない。歯又はその支持組織に有害な物を扱う業務に従事する労働者に、医師による健康診断を受けさせることは不自然だと気付かなければならない(※)

※ 仮にこのような法令を制定しようとしても、内閣法制局が認めることは考えられない。また、それ以前の原案策定の段階で、歯科医師のサイドから批判を受けることになるだろう。受験テクニックとしては、医師、歯科医師などの国家試験による資格者の職掌と矛盾するような法令が制定されている可能性は、ほとんどないと考えてよい。

なお、当該業務への配置替えの際、及びその後6月以内ごとに1回、定期に健康診断を行わなければならないことは、安衛則第48条により正しい。

【労働安全衛生法】

(健康診断)

第66条 (第1項及び第2項 略)

 事業者は、有害な業務で、政令で定めるものに従事する労働者に対し、厚生労働省令で定めるところにより、歯科医師による健康診断を行なわなければならない。

4及び5 (略)

【労働安全衛生法施行令】

(健康診断を行うべき有害な業務)

第22条 (第1項及び第2項 略)

 法第六十六条第三項の政令で定める有害な業務は、塩酸、硝酸、硫酸、亜硫酸、ふつ化水素、黄りんその他歯又はその支持組織に有害な物のガス、蒸気又は粉じんを発散する場所における業務とする。

【労働安全衛生規則】

(歯科医師による健康診断)

第22条 事業者は、令第二十二条第三項の業務に常時従事する労働者に対し、その雇入れの際、当該業務への配置替えの際及び当該業務についた後六月以内ごとに一回、定期に、歯科医師による健康診断を行なわなければならない。

(3)誤り。以下により誤りとなる。

① 安衛法第66条第2項後段(及び安衛令第22条第2項(第七号))は、事業者が、ベリリウム及びその化合物を製造し又は取り扱う業務に従事させたことのある労働者で、現に使用している者について特殊健康診断を行わなければならないとしている。現に使用していない者については義務付けていない。

② 一方、現に使用している者については、その頻度は胸部のエツクス線直接撮影による検査を除き、6月以内ごとに1回である。1年毎に1回ではない。

【労働安全衛生法】

(健康診断)

第66条 (第1項 略)

 事業者は、有害な業務で、政令で定めるものに従事する労働者に対し、厚生労働省令で定めるところにより、医師による特別の項目についての健康診断を行なわなければならない。有害な業務で、政令で定めるものに従事させたことのある労働者で、現に使用しているものについても、同様とする。

3~5 (略)

【労働安全衛生法施行令】

(健康診断を行うべき有害な業務)

第22条 (第1項 略)

 法第六十六条第二項後段の政令で定める有害な業務は、次の物を製造し、若しくは取り扱う業務(第十一号若しくは第二十二号に掲げる物又は第二十四号に掲げる物で第十一号若しくは第二十二号に係るものを製造する事業場以外の事業場においてこれらの物を取り扱う業務、第十二号若しくは第十六号に掲げる物又は第二十四号に掲げる物で第十二号若しくは第十六号に係るものを鉱石から製造する事業場以外の事業場においてこれらの物を取り扱う業務及び第九号の二、第十三号の二、第十四号の二、第十四号の三、第十五号の二から第十五号の四まで、第十六号の二若しくは第二十二号の二に掲げる物又は第二十四号に掲げる物で第九号の二、第十三号の二、第十四号の二、第十四号の三、第十五号の二から第十五号の四まで、第十六号の二若しくは第二十二号の二に係るものを製造し、又は取り扱う業務で厚生労働省令で定めるものを除く。)又は石綿等の製造若しくは取扱いに伴い石綿の粉じんを発散する場所における業務とする。

一~六 (略)

 ベリリウム及びその化合物

八~二十四 (略)

 (略)

【特定化学物質障害予防規則】

(健康診断の実施)

第39条 (第1項 略)

 事業者は、令第二十二条第二項の業務(石綿等の製造又は取扱いに伴い石綿の粉じんを発散する場所における業務を除く。)に常時従事させたことのある労働者で、現に使用しているものに対し、別表第三の上欄に掲げる業務のうち労働者が常時従事した同項の業務の区分に応じ、同表の中欄に掲げる期間以内ごとに一回、定期に、同表の下欄に掲げる項目について医師による健康診断を行わなければならない。

3~六 (略)

別表第3 (第三十九条関係)

業務 期間 項目
(略) (略) (略) (略)
(九) ベリリウム等を製造し、又は取り扱う業務 六月

一 業務の経歴の調査(当該業務に常時従事する労働者に対して行う健康診断におけるものに限る。)

二 作業条件の簡易な調査(当該業務に常時従事する労働者に対して行う健康診断におけるものに限る。)

三 ベリリウム又はその化合物による呼吸器症状、アレルギー症状等の既往歴の有無の検査

四 乾性せき、たん、咽頭痛、喉のいらいら、胸痛、胸部不安感、息切れ、動、息苦しさ、けん怠感、食欲不振、体重減少等の他覚症状又は自覚症状の有無の検査

五 皮膚炎等の皮膚所見の有無の検査

六 肺活量の測定

一年 胸部のエツクス線直接撮影による検査
(略) (略) (略) (略)

(4)正しい。深夜業に従事する労働者であって所定の要件に該当するものは、安衛法第66条の2の規程に基づいて、自ら受けた健康診断の結果を証明する書面を提出することができる。この場合、安衛法第66条の4により、事業者は、健康診断の結果に基づき、当該健康診断項目に異常の所見があると診断された労働者については、健康を保持するため必要な措置について医師の意見を聴かなければならない。

なお、本肢は文意から安衛法第66条の2のことであり、同第66条第5項但書のことではないと考えられる。しかし「深夜業に従事する労働者であって所定の要件に該当するもの」が、同第66条第5項但書に基づいて「自ら受けた健康診断の結果を証明する書面を提出した」としても結論は変わらない。

【労働安全衛生法】

(健康診断)

第66条 (第1項~第4項 略)

 労働者は、前各項の規定により事業者が行なう健康診断を受けなければならない。ただし、事業者の指定した医師又は歯科医師が行なう健康診断を受けることを希望しない場合において、他の医師又は歯科医師の行なうこれらの規定による健康診断に相当する健康診断を受け、その結果を証明する書面を事業者に提出したときは、この限りでない。

(自発的健康診断の結果の提出)

第66条の2 午後十時から午前五時まで(厚生労働大臣が必要であると認める場合においては、その定める地域又は期間については午後十一時から午前六時まで)の間における業務(以下「深夜業」という。)に従事する労働者であつて、その深夜業の回数その他の事項が深夜業に従事する労働者の健康の保持を考慮して厚生労働省令で定める要件に該当するものは、厚生労働省令で定めるところにより、自ら受けた健康診断(前条第五項ただし書の規定による健康診断を除く。)の結果を証明する書面を事業者に提出することができる。

(健康診断の結果についての医師等からの意見聴取)

第66条の4 事業者は、第六十六条第一項から第四項まで若しくは第五項ただし書又は第六十六条の二の規定による健康診断の結果(当該健康診断の項目に異常の所見があると診断された労働者に係るものに限る。)に基づき、当該労働者の健康を保持するために必要な措置について、厚生労働省令で定めるところにより、医師又は歯科医師の意見を聴かなければならない。

(5)誤り。事業者は、特化則第40条第2項の規定により、特定化学物質の特別管理物質を取り扱う業務に従事する労働者について特殊健康診断を行ったときは、その結果に基づき特定化学物質健康診断個人票を作成し、これを30年間保存しなければならない。40年間ではない。

なお、健康診断の結果の記録を40年間保存しなければならないのは、石綿健康診断である。試験の直前でも構わないので、本サイトの「労働安全衛生法上の健康診断」の表「健康診断(主なもののみ)の実施時期と記録の保存等」を覚えておくこと。

【特定化学物質障害予防規則】

(健康診断の結果の記録)

第40条 事業者は、前条第一項から第三項までの健康診断(法第六十六条第五項ただし書の場合において当該労働者が受けた健康診断を含む。次条において「特定化学物質健康診断」という。)の結果に基づき、特定化学物質健康診断個人票(様式第二号)を作成し、これを五年間保存しなければならない。

 事業者は、特定化学物質健康診断個人票のうち、特別管理物質を製造し、又は取り扱う業務(クロム酸等を取り扱う業務にあつては、クロム酸等を鉱石から製造する事業場においてクロム酸等を取り扱う業務に限る。)に常時従事し、又は従事した労働者に係る特定化学物質健康診断個人票については、これを三十年間保存するものとする。

2021年12月31日執筆