労働衛生コンサルタント試験 2012年 労働衛生一般 問21

GHSに基づく有害性の意義




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 このページは、2012年の労働安全衛生コンサルタント試験の「労働衛生一般」問題の解説と解答例を示しています。

 解説文中の法令の名称等は、適宜、略語を用いています。また、引用している法令は、読みやすくするために漢数字を算用数字に変更するなどの修正を行い、フリガナ、傍点等は削除しました。

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2012年度(平成24年度) 問21 難易度 GHSの有害性の意義に関するやや高度な知識問題である。難問だが確実に正答しておきたい。
GHSの有害性

問21 JISに準拠したラベルや安全データシート(SDS)の記載で使用される化学物質の有害性に関する次の記述のうち、誤っているものはどれか。

(1)生殖細胞変異原性とは、次世代に受け継がれる可能性のある突然変異を誘発する性質をいう。

(2)遺伝毒性とは、DNAの構造、含まれる遺伝情報、又は染色体の分離を変化させる性質をいう。

(3)変異原性とは、細胞又は生物集団における突然変異の発生率を増加させる性質をいう。

(4)生殖毒性とは、雌雄の成体の性機能及び受胎能に対し悪影響を及ぼす性質、又は子の発生に対し悪影響を及ぼす性質をいう。

(5)誤えん有害性とは、気体の吸入ばく露により、化学性肺炎、肺損傷、死亡のような重篤な急性の作用を引き起こす性質をいう。

※ オリジナルの問では(5)の冒頭は吸引性呼吸器有害性とされていた。しかし、本問出題後に、吸引性呼吸器有害性が、誤えん有害性と表記方法が変わったので、問題文を修正した。

正答(5)

【解説】

本問は、JIS Z 7252-2019「GHS に基づく化学物質等の分類方法」(以下「分類JIS」という。)に関する問題である。なお、解説では「化学品の分類および表示に関する世界調和システム(GHS)改訂6版」(以下「GHS(改訂6版)」という。)も併せて参照する。

(1)正しい。分類 JIS に、生殖細胞変異原性(germ cell mutagenicity)について「次世代に受け継がれる可能性のある突然変異を誘発する性質」とされている。

なお、GHS(改訂6版)の図3.5.1(160頁)には、生殖細胞変異原性の区分1とは「ヒト生殖細胞に経世代突然変異を誘発することが知られているかまたは経世代突然変異を誘発すると見なされている物質」とされている。

(2)正しい。分類 JIS に、遺伝毒性(genotoxicity)について「DNA の構造、含まれる遺伝情報、又は染色体の分離を変化させる性質」とされている。

なお、GHS(改訂6版)の3.5.1.4(159頁)には、「遺伝毒性物質および遺伝毒性とは、DNAの構造や含まれる遺伝情報、または DNA の分離を変化させる物質あるいはその作用に適用される。これには、正常な複製過程の妨害により DNA に損傷を与えるものや、非生理的な状況において(一時的に)DNA 複製を変化させるものもある」とされている。

※ 政府向け GHS 分類ガイダンス(令和元年度改訂版)によると、「国連 GHS では、「変異原性試験」と「遺伝毒性試験」を使い分けており、変異原性試験は遺伝子突然変異、染色体の構造あるいは数的異常を指標としたものが該当し、遺伝毒性試験はそれら以外の、例えば、DNA 損傷や DNA 修復を指標としたものが該当する」とされている。

(3)正しい。分類 JIS に、変異原性(mutagenicity)について「細胞の集団又は生物体における突然変異の発生率を増加させる性質」とされている。

なお、GHS(改訂6版)の定義に「変異原性物質(Mutagen)とは、細胞の集団または生物体に突然変異を発生する頻度を増大させる物質をいう」とされている。

(4)正しい。分類 JIS に、生殖毒性(reproductive toxicity)について「雌雄の成体の生殖機能及び受精能力に対し悪影響を及ぼす性質及び子の発生に対し悪影響を及ぼす性質」とされている。

なお、GHS(改訂6版)の3.7.1.1(177頁)には「生殖毒性には、雌雄の成体の生殖機能および受精能力に対する悪影響に加えて、子の発生毒性も含まれる」とされている。

(5)誤り。分類 JIS に、誤えん有害性について「誤えんの後、化学肺炎若しくは種々の程度の肺損傷を引き起こす性質、又は死亡のような重篤な急性の作用を引き起こす性質」とされている。誤嚥とは「液体又は固体の化学品が、口若しくは鼻くうから直接,又はおう吐によって間接的に気管及び下気道へ侵入すること」であり、気体の吸入ばく露によるのではない。

なお、GHS(改訂6版)の3.10.1.3(209頁)には「吸引性呼吸器有害性は、誤嚥後(※)に化学肺炎、種々の程度の肺損傷を引き起こす、あるいは死亡のような重篤な急性の作用を引き起こす」とされているる。

2022年01月11日執筆