※ イメージ図(©無料の写真素材「ぱくたそ」 )
WEBサイトを作成するに当たって、著作権上のトラブルや意図せずに違法行為することを避けなければなりません。また、炎上を避けることも心がけるべきです。
本稿では、判例なども引用しつつ、実務に則して、WEBサイトを運営する際に留意するべき事項について説明しています。
- 1 最初に
- 2 WEBサイト運営と法
- (1)法違反を犯したり、他人に違法な損害を与えない
- (2)著作権法違反
- (3)名誉に対する罪と信用に対する罪
- (4)秘密漏洩罪と守秘義務違反
- (5)広く、犯罪の幇助及び教唆の罪
- (6)その他
- 3 WEBサイトの運営上の"炎上"への対応
- (1)WEBサイトに掲示するべきではないこと
- (2)その他の留意事項
- (3)炎上が起きたときの処し方
1 最初に
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ホームページを運営している場合、注意しなければならないこととして、法違反を犯したり、他人に違法に損害を与えたりしないことと、"炎上"の原因を作らないことに注意することがある。この2点は、WEBサイトを運営しようとする限り、常に念頭におかなければならないことである。
以下に、いくつかの注意すべき事項等をまとめてみた。
2 WEBサイト運営と法
(1)法違反を犯したり、他人に違法な損害を与えない
※ イメージ図(©photoAC)
繰り返しになるが、WEBサイトを運営していてもっとも注意しなければならないことは、法令に違反したり、他人の権利を侵害する不法行為などの問題を起こしたりしないことである。WEBは、基本的に言論・表現の場ではあるが、言論・表現といえども無制限に許されるわけではない。言論・表現が、ときには犯罪を構成したり、他人に違法に損害を与えたりすることもあるのだ。
言論・表現によって成立し得る犯罪の例としては、以下のようなものが考えられよう。
【言論・表現による犯罪の例】
Ⅰ 著作権法違反
Ⅱ 刑法違反
Ⅲ 広く、すべての犯罪についての教唆・ほう助
Ⅳ ヘイトクライム(各種条例)
ただし、Ⅱの⑤の脅迫などについては、通常のWEBサイトを運営している場合であれば、"己の欲する所に従えども則を超える"ようなことはないだろうから、あまり気にしなくてよい。
また、上記の他、インターネットを利用した犯罪として詐欺罪が考えられるがこれも同様であろう。あえて気を付ける必要があるとすれば、広告等を載せている場合に不適切な広告が載らないように注意することくらいであろうか。
④のわいせつ物頒布(その他児童ポルノ法など)は、報道写真や医療写真などで問題となることがある。例えば、フェイスブックで米軍のナパーム弾攻撃を受け負傷した少女の写真が問題となったり(※)、書籍の話だが本田勝一氏がベトナムカンボジア国境で撮影した写真に白抜き表示をせざるを得なかったことがある。
※ AFP BBNews2016年9月10日記事「フェイスブック『ナパーム弾の少女』写真検閲で物議 批判受け撤回」参照
なお、著作権法違反、名誉に対する罪、信用に対する罪は、そのまま被害者への民法上の不法行為ともなり得ることに留意するべきだろう。
(2)著作権法違反
上記の犯罪の例のうち、最も気を付けなければならないのは著作権法違反である。他人が作成した"著作物"についての様々な権利を侵害することを避ける必要がある。
ア 著作物とは何か
※ イメージ図(©無料の写真素材「ぱくたそ」 )
著作権はあくまでも"著作物"について成立する。"著作物"でなければ著作権法違反の問題は発生しない。そして、"著作物"とは、「思想又は感情を創作的に表現したものであつて、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するもの(著作権法第2条第1項第一号)」をいうとされている。
この定義だけを読むと、たんなる商品の写真、生き物、建築物は、思想や感情を創作的に表現したとは思えず、著作物に当たらないように思えるかもしれない。しかし、何が著作物に当たるかの判断は難しい面がある。
アフリエイト広告用に商品を2つ並べて光線を当てて写真撮影した画像が著作物とされた判例(知財高判平成18年3月29日)(※)や、家禽の長尾鶏が著作物に当たるとした判例(高知地判昭和59年10月29日)もある。
※ 松本肇「ホームページ泥棒をやっつける」(2006年花伝社)
では、建築物はどうであろうか。これは、後述するように著作権法中に著作物として例示されている。ところが、判例では「通常のありふれた建築物」は著作物とはされない(大阪地判平成15年10月30日)とされている。
こうなってくると、なにが著作物に当たるのかは判例や解説書を調べてみなければ判らないと考えた方がよい。
もちろん、著作物中に、"1789年にフランス革命が勃発した"とか、"富士山の高さが何メートルだ"といった、事実関係が含まれていても、その事実関係そのものについて著作権法の保護を受けることはない。WEBサイトに、なにかの文献を参考にして"フランス革命が1789年に勃発した"と書いて、参考文献名を示さなかったとしても、問題になることがないことは当然であろう。
これらが表形式になっている場合、表そのものも著作権の保護を受けないことになる。
また、ビジネス文書の定型的な表現なども著作物とはいえない(東京地判平成7年12月18日ラストメッセージ in 最終号事件参照)とされている。
さらに、小説の題名なども著作物とは言えない。現に、同じ題名の小説なども存在しているが、とくに問題は発生していない。
さらに、ぬいぐるみなどは玩具であって著作物とはいえない(東京地判平成20年7月4日プードルぬいぐるみ事件)とされているので、ぬいぐるみの写真をWEBにアップしても問題はない。これは、人形として個性のあるファービー人形であっても同様とされている(仙台高判平成14年7月9日)。ただし、博多人形やひな人形などについては著作物として認めるべきとする説(※)もある。
※ 例えば高林龍「標準著作権法(第3版)」(2016年有斐閣)
本サイトの"映画と労働安全衛生"のページトップには、孫悟空とその眷属の人形の写真(※)を掲示している。この人形は、観賞用ではなく玩具であり、この判例によって著作権とはならないと判断しているからである。
※ 撮影は柳川が行っている。他人が撮影した写真をWEBにアップすると、その写真が著作物かどうかの問題が発生する。
ところで、著作権法によって保護を受ける著作物は、同法第6条によって、
【著作権法によって保護を受ける著作物】
- ① 日本国民(わが国の法令に基づいて設立された法人及び国内に主たる事務所を有する法人を含む。以下同じ。)の著作物
- ② 最初に国内において発行された著作物(最初に国外において発行されたが、その発行の日から三十日以内に国内において発行されたものを含む。)
- ③ 前二号に掲げるもののほか、条約によりわが国が保護の義務を負う著作物
の3つに限られている。しかし、国交のない国(北朝鮮)を除き、外国の著作物も③によって、日本の著作権法によって保護されていると考えておく方が無難である。
なお、同法の第10条には、著作物の例として以下のものが挙げられている。ただし、これらはあくまでも例示にすぎないことに留意する必要がある。
【著作物の例】
- ① 小説、脚本、論文、講演その他の言語の著作物
- ② 音楽の著作物
- ③ 舞踊又は無言劇の著作物
- ④ 絵画、版画、彫刻その他の美術の著作物
- ⑤ 建築の著作物
- ⑥ 地図又は学術的な性質を有する図面、図表、模型その他の図形の著作物
- ⑦ 映画の著作物
- ⑧ 写真の著作物
- ⑨ プログラムの著作物
イ 他人の著作物を利用できる場合
※ イメージ図(©photoAC)
では、他人の著作物は、権利者の同意を得ない限りまったく使用できないかといえばそのようなことはない。著作権はかなり強力な権利であるが、制限はあるのだ。従って、その制限の範囲内であれば、他人が作成した著作物であっても使用することは可能となる。
まず、そのもっとも確実な場合は、権利者が同意している場合である。当サイトも、フリーの画像や動画を使用している。もちろん、フリーといっても使用許諾条件がある場合は守らなければならない。また、著作権者に対する礼儀は守るべきである。
(ア)法令等
まず、法令、告示、訓令、通達等については、著作権の対象とはならないので自由に利用できる(著作権法第13条)ことは当然である。なお、通達等については、国や地方自治体が発出したものはいうに及ばず、それらの附属機関などの他、独立行政法人が発出したものも含まれる。
また、裁判所の判決、決定、命令及び審判並びに行政庁の裁決及び決定で裁判に準ずる手続により行われるものについても同様である。
さらに、上記のものの翻訳物や編集物であったとしても、国や地方公共団体の機関、独立行政法人又は地方独立行政法人が作成するものも自由に用いることができる。
なお、本サイトで “緑地に白十字の記号” を使用している。これは日本工業規格で “衛生指導標識” として定められているものである。中央労働災害防止協会などの労働災害防止団体も労働衛生旗などに用いているので、これらの団体の権利の対象であると思われることがあるがそのようなものではない。
なお、JISについて著作権の保護が及ぶかどうかについては争いがある(※)。しかし、“緑地に白十字の記号” の記号を使うことそれ自体には問題はない。
※ 日本国政府は、著作権の保護が及ぶとしているが、学説には批判的なものが多い。
(イ)著作者の死後50年(70年に延長される)を経過したもの
著作者の死後 70 年を経過した著作物は、パブリックドメインとして自由に使用することができる(著作権法第51条)。
※ なお、わが国ではかつて50年とされていたが、諸外国では保護期間を死後70年とするものが多いため、TPPの関係から我が国においても70年に延長されたものである。改正前に50年の期間が過ぎているものは、改正後も自由に使用できる(平成28年12月16日附則第7条)。
また、死後の期間には “戦時加算” と呼ばれる加算期間がある。例えば、アメリカ、イギリス、フランス、オーストラリアなどでは3,794日が加算される。なぜ、このような制度があるかといえば、戦時中には著作権が無視されることが多いので、その分を加算するためである。
本サイトのトップページに、アントニオ・カノーヴァ(1757-1822)の「アモルの接吻で蘇るプシュケ」などいくつかの彫像の写真(※)を使用している。これは、この条文によって著作権がなくなっているから使用しているのである。
※ あくまでも著作権がなくなっているのは彫像そのものである。写真は、ルーブル美術館で柳川が撮影しており、写真は柳川の著作物である。
なお、ルーブル美術館(あるいはフランス国家)は、この彫像を所有しているが、所有権と無体財産権としての著作権とは別な権利である(※)。著作権の方はすでになくなっているので、ルーブル美術館が、仮にカノーヴァから公表権等を譲り受けていたとしても、著作権に基づいて、他人が公表することを制限することはできない。
※ 他人から手紙を受け取れば、その手紙の所有権は、通常は受け取った者にあると考えられるだろうが、三島由紀夫から受け取った手紙を公表することが著作権侵害となるとする判例がある(東京高判平成12年5月23日剣と寒紅事件)。
仮に、ルーブル美術館が館内における写真の撮影や、その公表を禁止するとすれば、それは著作権によってではなく、入館者との契約に基づくものと考えられる(※1)。しかし、同館は入館者に対して写真撮影を許可しており、また、その公表についても特に制限はしていない(※2)。
※1 オルセー美術館もかつて館内の写真撮影を禁止していたが、現在は許可している。わが国内の小規模な博物館や美術館も、写真撮影を認めるようになっているものが多い。
※2 もちろん、著作権のなくなっていない美術品の写真を公表することは、ルーブル美術館が禁止していなくとも許されないと考えるべきである。
(ウ)引用する場合
公表された著作物は引用して使用することができる。ただし、その引用は、公正な慣行に合致するものであり、かつ、報道、批評、研究その他の引用の目的上正当な範囲内で行なわれるものでなければならない(著作権法第32条第1項)とされている。
しかし、何が「公正な慣行」で、「目的上正当な範囲」が何を意味するかの判断は難しい。少なくとも以下の2点に留意する必要がある。
第1に、引用元を明確にした上で、引用した部分とその他の部分が明確に分かるようにしておかなければならない。<q>タグで囲むと共に、引用元を<cite>タグで明示する必要がある。また、インターネットから引用する場合は、<q>タグのcite 属性でURLを記すようにする。
第2に、あくまでも引用部分は、自らの著作物において「従たるもの」でなければならないということである。とりわけ、書籍・雑誌のコピーや他のサイトの図を使用するときは、それに対する解説や批評を加えたり、自説に対する根拠づけの目的としたりすることが必要である。
なお、個人や企業のサイトについては、文章の一部引用はともかくとして、図や写真などは、明確に許可されている場合を除いて、そのままの形で使用することは避けた方が無難だと思う。
確かに、著作権法で引用が認められる引用の方法もないわけではないが、知的財産については専門の裁判所が設置されているほどで、判断が意外に難しいのである。図画をそのまま引用することは、引用元を明らかにしたとしても、法違反となるかなりのリスクを伴うと思った方がよい。
また、仮に法律上は問題とならない行為だったとしても、抗議を受けることがあれば、そのことだけでもかなりのエネルギーのロスになるからである。
例外的に使用してもよいのは、「国若しくは地方公共団体の機関、独立行政法人又は地方独立行政法人が一般に周知させることを目的として作成し、その著作の名義の下に公表する広報資料、調査統計資料、報告書その他これらに類する著作物」の場合である(著作権法第32条第2項)。ただし、これの使用を禁止する旨の表示がある場合は、使用してはならない(※)。
※ もちろん引用元のサイトに引用に関するルールが記されている場合はそれに従うべきである。例えば、厚生労働省の「職場のあんぜんサイト」の災害事例は、「社員教育、事業場内教育、社員への啓蒙等での活用に限ります」との記述がある。このような場合は法律的な問題は別としても、WEBサイトには引用するべきではない。
なお、学者の論文中の図表等についても、引用元を明らかにしておけば、問題となるようなことはめったにない。学者は、自分の成果物であっても、自分の氏名が表示されれば、他人の著作物中に使用されることは、あまり気にしないからである。ただし、人物が写っているものは避けた方がよいと思う。
他人の書いたものを参考にするときは、できる限り参考文献を記した方がよい。また、自分のオリジナルの文書であっても、偶然に他人の書いたものに似てしまうということはあり得よう。人間であるから、考えることは皆同じとまでは言わないにせよ、同じようなことを考える者はいると考えた方がよい。
もちろん、このような場合に著作権法違反となることはないが、トラブルになれば、WEBサイトの運営上、好ましい結果をもたらすことはない。
また、単純なデザインなどについては、偶然に他人の意匠に似ているものを使わないような注意も必要である。
(エ)付随対象著作物の場合
不随対象著作物の使用については、2012年の著作権法改正によって認められた。例えば、自ら撮影した写真中に、他人の著作物が写り込んでいても、これを使用することが認められるのである(著作権法第30条の2)。
そのため、スナップ写真を撮った場合に、背景に著作物が写っていても、自由にWEBサイトで使用することができる。また、著作物のプリントされたTシャツを着て撮影した写真も公表することは可能である。
ただし、その著作物がメインとなっているような写真の場合は除かれる。著作権の存在する絵画の前で記念撮影をした写真などは、公表しない方が無難である。もっとも撮影そのものが禁止されていることが多いだろうが。
(オ)公開の美術の著作物等の利用の場合
美術の著作物で、「その原作品が屋外の場所に恒常的に設置されているもの又は建築の著作物」は、一定の場合を除いて、利用することができる(著作権法第46条)。
従って、屋外に展示されている美術品等を写真に撮って、WEBサイトに掲示する程度であれば、著作権法上の問題とはならない。
本サイトのサブページのページトップには、広島市内の屋外の彫像や建築物の写真を掲示(※)している。これらは、この条文があるために可能となっているのである。
※ もちろん、すべての写真について柳川が撮影している。なお、一部の写真については、写っていた人物を消去した。
ただし、他人が写っているもの場合は肖像権(※)の関係があるので、注意した方がよい。俳優やスポーツ選手などの有名人の場合は、パブリシティ権の問題もあるのでさらに注意が必要である。さらに、屋外における人物の撮影は条例によって禁止されているケースもある。
※ 肖像権とは、判例によると「承諾なしに、みだりにその容貌、姿態撮影されない権利、および、撮影されたものの公表を拒絶できる権利」と考えられている。
観光施設を撮影したときに周囲の観光客が写っているような写真や、祭りの写真に参加者が写っているようなものについては、公表してもよいと考えられている(※)ようだが、顔が判別できないような大きさのものにしておいた方が無難であろう。自分の写真が誰かのサイトに載せられることで、嫌な思いをするケースもあるかもしれない。他人に嫌がられるようなことは、法的に問題がなくてもするべきではないだろう。なお、本サイトでは、他人の写っている写真は使用していない。
※ 例えば、飯沼総合堀津事務所「デジタル著作権の知識とQ&A」(2008年法学書院)によると「風景や、場の雰囲気を表現するために、群像として撮影される写真などについては、特定の個人を大写しにしたものでない限り、本人に無断で写真が使用されても、肖像権の侵害にはあたらないと考えてもよい」とされている。
(カ)時事の報道の利用の場合
著作権法第10条第2項は「事実の伝達にすぎない雑報及び時事の報道は、前項第一号に掲げる著作物に該当しない」としている。なお、事実の伝達にすぎない雑報とは死亡広告のようなものである。
問題は"時事の報道"である。これについては立法経緯などから、通説は、誰が書いても同じようなものになってしまう事実の報道について、確認的に規定したものであるとしている(※)。
※ 荒井純一「ビジネス著作権法」(2006年産経新聞出版)、高林龍 前掲書など
なお、小林は「事実の報道であれば、たとえその報道記事の筆致が文才豊富に書かれていたとしても、著作権は否定される
」(※)としている。
※ 小林尋次「現行著作権法の立法理由と解釈〔復刻版〕」(2010年第一書房)
この条文を根拠として、かつては新聞記事の切り抜きをコピーした書物が出版されたり、研修会などで新聞記事のコピーが配布されたりすることもあったようだが、最近は見られなくなっている。これは、著作権についての世の中の意識が進んだために、出版社や研修機関としても慎重にならざるを得ないからであろう(※)。
※ 筆者が所属していた厚生労働省や出向先でも新聞記事のコピーが回覧されることがあったが、これは権利者(新聞著作権協議会、日本経済新聞社など)の許可を得て行っているのである。許可されるコピーの部数に制限があるため、回覧には「複写厳禁」の表示がされていた。
なお、社説や解説記事、インタビュー記事などについては"時事の報道"に当たらないことは当然である。これらを引用する場合には、著作権法第32条の規定による必要があることはいうまでもない。
(3)名誉に対する罪と信用に対する罪
名誉棄損や侮辱罪などの名誉に対する罪は、自然人のみならず法人相手でも成立する(大判大正15年3月24日)。なお、名誉棄損と侮辱罪の違いは、名誉棄損は"事実"を適示する必要があるが、侮辱罪はその必要がないということである。ただし、ここにいう"事実"とは"真実"という意味ではない。"客観的に存否が証明できること"という程度の意味である(※)。
※ ある記述が"事実"に該当するかどうかの判断も意外に難しい。例えば、"Aレストランの店員は態度が悪いのが多い"といったとしても、それは評価・判断にすぎず"事実"とはいえないだろう。しかし、"Aレストランの店員は接客態度が悪く、重要な顧客の接待には使わないという営業マンが多い"となると、たんなる評価なのか事実なのかは明瞭とはいえなくなってくる。
ここで誤解してはならないことは、真実であれば名誉棄損にはならないというわけではないということだ。むしろ、真実の方が被害者にとっての実害は大きいとさえいえるのだから、名誉棄損になり得ることは当然である。この点、誤解のないようにする必要がある。
他人について書くときは(企業などの法人であっても)原則として実名は書かないようにした方がよい。ただし、そうしてさえも、他の公開されている情報と照らし合わせれば個人や企業が特定できる場合もあるので注意を要する。
例外的に許されるのは、「公共の利害に関する事実に係り、かつ、その目的が専ら公益を図ることにあったと認める場合には、事実の真否を判断し、真実であることの証明があったとき」(刑法第230条の2第1項)は罪とはならず、違法性もない(※)。
※ インターネットにおける名誉棄損などに詳しい弁護士の河瀬季は、「デジタル・タトゥー」(2017年自由国民社)において、WEBサイトにおける記述の内容が真実であれば、かなり広い範囲で名誉棄損にならないとしているように見える。
また、国会議員や市会議員などの公人の、政策や公務に関連する発言について批評を加えることも許される(同第3項)のは当然であろう。もちろん、WEBサイトの品位を保つためには建設的・論理的な批評であるべきだし、公人相手であっても私生活に関することを記すべきではないだろう。
もちろん、ここでも、虚偽の内容が含まれていれば、名誉棄損となり得ることは当然である。ある雑誌が、某野党議員が郵政民営化法案の「衆院通過の打ち上げ」に参加したとの報道を行って、議員側の損害賠償請求が認められたケースもある(東京地判平成19年1月17日、東京高判平成19年6月14日(上告されたが棄却)T衆院議員名誉棄損事件)。
さらに、学者の学術的な意見に対して、反論を加えたり評価を加えたりすることも名誉棄損になるとは考え難い。地方自治体や国の政策についても同様であろう。
(4)秘密漏洩罪と守秘義務違反
次に、秘密を侵す罪について考えよう。まず、刑法上の秘密漏洩罪は身分犯なので、これが問題となるケースは多くはないだろう。問題となるのは、特別法による秘密漏洩罪である。これについては、元公務員の場合は現職時代に知り得たことについての守秘義務に十分な注意が必要である。
基本的に、個人や企業が関わっていることについて業務上で知ったことは書いてはならない。私も、災害事例などは、判例から引いたり、公開された報告書などから引用したりするようにしている。オープンになっている情報以外は、使わないという原則を確立しておくことが重要である。
もちろん、先述したように、法令や通達等の内容について書くことは何の問題もない。
(5)広く、犯罪の幇助及び教唆の罪
教唆とは、罪を犯す意思のない者に、罪を犯す意思を持たせることである。ただし、罪を犯す意思を持たせる側が、持たされる側を強く支配しているようなケースなどでは、教唆ではなく正犯になることもあり得る。一方、幇助とは、罪を犯す意図のある者の、実行行為を助けることである。
教唆は、普通は言葉によって行われるが、言葉によらずに行うこともあり得ないわけではない。一方、幇助は、言葉によっても、よらなくても行うことは可能である。
インターネットで問題になるのは、言葉や表現によって行われる、犯罪の幇助であろう。例えば、犯罪の方法を教示したり、犯罪に用いられるプログラムを公開したりするケースである(※)。ほかにも、誰かに危害を加えようとしている者に対して、被害者の所在を伝えるようなことも幇助になり得る。かつて米国同時多発テロ事件の際に、米国大統領の所在場所をマスコミに漏らした外務大臣がいたが、これなど不注意では済まない事案であった。
※ 犯罪に用いられるソフトの公開は、そのソフトを使う側が、そのソフトが公開されていることを知ったために犯意を生じたとすれば、理論上は教唆にもなり得よう。
不注意で他人の個人情報を提供して、それが結果的に第三者による犯罪行為を幇助するような結果になることがないよう注意しなければならない。
WEBサイトは誰でも閲覧できるものであるから、何かの犯意を持つ者が見るおそれもあることに留意する必要がある。幇助罪は、特定の誰かを助けるという意図でなくても、犯意のある誰かを助けようとする意図でも不確定的故意として故意は認められ得る。また、「犯意のある誰かに利用されるかもしれないが、それでも構わない」と思った場合も、未必の故意として故意は認められ得るのである。
また、犯罪の煽り・唆しをするようなことも、一定の具体性を持っていれば犯罪となり得る。「○○について○○社に対して抗議活動をしよう」と呼びかけるような行為は、場合によっては威力業務妨害の教唆又は幇助となり得よう。もっとも、このような行為はたいていの場合 “確信犯” ではあろうが・・・。
通常のホームページでの運営では、犯罪の幇助や教唆が問題になることはないだろうが、少なくとも最近の法令は複雑になっているため、その内容をよく知らずに誤った知識で、違反となる行為を勧奨したりすることのないように気を付ける必要がある。
また、掲示板などの運営をするのであれば、常に監視しておき、おかしな書き込みがあればただちに削除する必要がある。場合によっては、管理者が認めたもののみを掲示するような方法の採用も検討してよいかもしれない。
(6)その他
この他、よくある「炎上」事件などで、あまりにも問題のある表現をして、対象となる者が精神疾患に罹患するようなことでもあれば、理論上は傷害罪になることも考えられよう。
このようなことは普通のサイトで問題になるようなことはないと思うが、一般論を書いたつもりの記述が、何かの事件に火を点けてしまい、結果的に炎上を煽るようなことにならないように注意しなければならない。捜査当局に誤解をされれば、傷害罪の幇助として捜査を受ける可能性もなくはないのである。
また、特定の政治家の名前を挙げて、"〇〇議員は、このような発言をしているようでは、そのうち襲われるのではないか。くれぐれも火の用心をし、身辺にも気を付けた方がよいだろう"などと書けば、本人にはその気がなくとも、脅迫ととられてもしかたがないだろう。
あまり、過激な発言はするべきではない。
3 WEBサイトの運営上の"炎上"への対応
(1)WEBサイトに掲示するべきではないこと
炎上の問題に対応するためには2つの処し方があろうと思う。ひとつは、議論になりそうなことは一切書かないことである。また、とりわけ以下のようなことは、倫理的にも書くべきではない。
【サイトに記すべきではないこと】
- ① ヘイトなど社会的な弱者を攻撃するようなこと
- ② 他人が大切にしていることを揶揄するようなこと(とりわけ宗教上の信仰の対象を揶揄するようなこと)
- ③ ビジネス上の信義則を外れるようなこと
①と②については、"言論の自由"の問題ではない。シャルリ・エブドは、イスラムを冒涜するような記事を書いてテロの対象となった。テロはもちろん許すべからざる犯罪行為であり、どのような言論に対してであっても、暴力による攻撃は許されない。しかし、シャルリ・エブドを言論によって批判することもまた自由であるべきだ。
※ テロの後、テロを批判する人々が、「私がシャルリ・エブドだ」というスローガンを掲げたことがあったが、私は白けた気持ちで見ていた。シャルリ・エブドなど、低俗な企業に過ぎない。多くのイスラム教徒が信仰しているものを冒涜するなど、唾棄すべき行為である。
シャルリ・エブドはテロに遭ったために、言論の自由の旗手のように思われることがあるが、たんにイスラム教を揶揄しているだけである。宗教を言論によって批判したり学問の対象にすることは自由であるべきだが、たんに他人が大切にしているものを貶めたりギャグの対象にするようなことは、倫理的に批判されるべき行為である。そこは区別して考えなければならない。
シャルリ・エブドが、テロではなく"炎上"の対象となっていたとしたら、私はシャルリ・エブドをWEBで攻撃する人々を非難したいとは思わなかっただろう。
また、②について、例えば、墓地で"お化け大会"を行ってその写真をブログに載せるようなことも避けるべきだ。その墓地で眠っている霊の遺族や関係者にとって、けっして楽しい記事ではないからである。米国の例だが、戦没者墓地の「Silence and Respect」という掲示の前で大声を出す写真を公開して、炎上したケースがあった(※)。本人はジョークのつもりだったようだが、政治的なメッセージを込めた挑発か侮辱と解されることもあるのだ。
※ ジョン・ロンソン著 夏目大訳「ルポネットリンチで人生を壊された人たち」(光文社新書,2017年)、東洋経済ONLINE 2017年3月31日記事「ネットで『炎上』した痕跡は2度と消せないのか」による
また、宗教については、たとえ怪しげな新興宗教であっても、信仰そのものについて揶揄するようなことは避けた方がよい。もちろん、宗教団体の宗教外の不正行為等について批評することは別論である。
なお、③について、自らのサイトについて、閲覧者のIPアドレスなどの個人情報を漏らすような行為をすることはしてはならない。それはWEBサイト運営者としては、決して行ってはならないことである。
(2)その他の留意事項
自らの個人情報については、どこまで出し、どこからは出さないかはきちんと決めておいた方がよい。要は、いったん決めた原則から外れないことである。気を付けなければならないのは、ホームページの他にブログやSNSを利用している場合である。ここにも個人情報が分かるようなことは書かないように注意する必要がある。
なお、ホームページは匿名、ブログは本名で記していても、Googleアナリティクスのアカウントを共通にしていると、ホームページのトラッキングID番号からブログの方を探し出される可能性がある(※)のだ。
※ ホームページは、各種のブラウザでソースコード(HTMLコード)を表示することが可能である。あるサイトがGoogleアナリティクスを導入していると、そのヘッダの部分にGoogleアナリティクスのscript要素が記述されており、その中にGoogleが割り振ったトラッキングID番号が記載されている。同じ番号で後ろの"-2"や"-3"だけが異なっているのであれば、それらのサイトの管理者は共通であると判断できる。そこで、似たような内容のサイトのトラッキングID番号を見比べることで、同じ管理者であると判明するおそれがあるのだ。
なお、他人のWEBサイトに名誉棄損の記述をされた場合に、そのサイトのトラッキングID番号を確認して、その後ろに"-2"よりも大きい数値が記されていた場合、弁護士に依頼すると、その管理者の他のサイトを割り出すことが可能なことがある。
さらに、独自ドメインで WEB サイトを公開している場合、Whois 情報に個人情報を書き込んで公開する設定にしていると誰からでも見られてしまう。これを隠したいのであれば、ドメイン管理会社の代理公開にしておく必要がある。
また、自宅の住所を明らかにしたくないのであれば、自宅の近くで撮った写真をアップしないことはもちろん、個人情報についてのヒントを与えそうなことも、書かないように注意した方がよい。
また、繰り返しになるが、掲示板などの運営をするのであれば、常に監視しておき、おかしな書き込みがあればただちに削除する必要がある。言論の自由への抑圧などということは考える必要はない。個人のサイトの掲示板から削除されたからと言って、言論の自由の問題になどならないのである。書きたければ他で書けばよいのだ。
それよりも、自らの掲示板に、第3者への名誉棄損や信用失墜など不法行為となる書き込みを放置すれば、共同不法行為となるおそれもないわけではない。違法な書き込みは、見つけ次第、ただちに削除した方がよい。
また、仮に公序良俗に反することのないような企業の広告であっても、掲示板などに書き込まれた場合は、原則としてすぐに削除した方がよい。そのままにしておくと、管理が悪い(=セキュリティに問題がある)などと疑われることもあるからだ。
(3)炎上が起きたときの処し方
炎上が起きたときに、自らに非があると考える場合は、WEBサイト上の該当部分をただちに削除して、謝罪する必要がある。
ただし、自らに非がないと考えるのであれば、もうひとつの処し方として、炎上するようなら、したで、自分も多少有名になったくらいに考えて気にしないということもあり得よう。