労働衛生コンサルタント試験 健康管理 2025年 問4

睡眠や休息が労働者の健康に及ぼす影響等




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 このページは、2025年の労働安全衛生コンサルタント試験の「健康管理(記述式)」問題の解説と解答例を示しています。

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 解説文中の法令の名称等は、適宜、略語を用いています。また、引用している法令は、読みやすくするために漢数字を算用数字に変更するなどの修正を行いました。

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前の問題
本問が最後の問題です
2025年度(令和7年度) 問 4 過去問に出題歴のない内容。知識問題がメインだが、やや解答に苦しむ内容の問も。
睡眠と休息
2025年11月15日執筆

問4 睡眠は年齢によらず健康の保持増進に不可欠なものであり、適切な睡眠や休息の確保は、職業性疾病・労働災害の発生リスクの低減等につながるものである。睡眠や休息が労働者の健康に及ぼす影響等に関して、以下の設問に答えよ。

  • (1)睡眠に関する次の問に答えよ。
    ① 良質な睡眠を確保するための環境づくりや生活習慣について、自らが心掛けるべき事項を四つ挙げよ。

    • 【解説】
      本小問は、厚労省の「健康づくりのための睡眠ガイド2023」(睡眠対策)からの出題であろう。
      環境づくりと、生活習慣について、それぞれ4つの項目についてポイントが記されているので、この中から4つの項目を挙げればよいだろう。
      【良質な睡眠を確保するための環境づくりや生活習慣】
      4. 睡眠に関する参考情報
      (1)良質な睡眠のための環境づくりについて
        ポイント
       日中にできるだけ日光を浴びると、体内時計が調節されて入眠しやすくなる。
       寝室にはスマートフォンやタブレット端末を持ち込まず、できるだけ暗くして寝ることが良い睡眠につながる。
       寝室は暑すぎず寒すぎない温度で、就寝の約1~2時間前に入浴し身体を温めてから寝床に入ると入眠しやすくなる。
       できるだけ静かな環境で、リラックスできる寝衣・寝具で眠ることが良い睡眠につながる。
      (2)
        ポイント
       適度な運動習慣を身につけることは、良質な睡眠の確保に役⽴つ。
       しっかり朝食を摂り、就寝直前の夜食を控えると、体内時計が調整され睡眠・覚醒リズムが整う。
       就寝前にリラックスし、無理に寝ようとするのを避け、眠気が訪れてから寝床に入ると入眠しやすくなる。
       規則正しい生活習慣により、日中の活動と夜間の睡眠のメリハリをつけることで睡眠の質が高まる。
      ※ 厚生労働省「健康づくりのための睡眠ガイド2023」(令和6年2月/健康づくりのための睡眠指針の改訂に関する検討会)
      ただ、これ以外にも「良質な睡眠を確保するための環境づくりや生活習慣」はいくらでもあるだろう。医学的にある程度の根拠があることであれば、何を書いても正答になるのではなかろうか。しかし、出題者が採点をするとは限らないので、必ず採点の基準があるはずである(※)。ここ数年、衛生管理の問題には、どうとでも解答ができるような問題が多いが、採点の時にどのような基準で採点するのか、やや疑問も感じる。
      ※ 基準がなければ、複数の採点者が異なる方針で採点をすることになり、公平性が保てない。
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    • 【解答例】
      良質な睡眠を確保するための環境づくりや生活習慣について、自らが心掛けるべき事項としては、以下のようなものがある。
      1 日中にできるだけ日光を浴びると、体内時計が調節されて入眠しやすくなる。
      2 寝室にはスマートフォンやタブレット端末を持ち込まず、できるだけ暗くして寝ることが良い睡眠につながる。
      3 寝室は暑すぎず寒すぎない温度で、就寝の約1~2時間前に入浴し身体を温めてから寝床に入ると入眠しやすくなる。
      4 できるだけ静かな環境で、リラックスできる寝衣・寝具で眠ることが良い睡眠につながる。
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  •   ② 就業年齢の女性において、月経周期が睡眠に及ぼす影響を簡潔に述べよ。

    • 【解説】
      本小問も「健康づくりのための睡眠ガイド2023」からの出題であろうか。もっとも、医学的な事実関係に関する問題であるから、とくにガイドラインにこだわる必要はないだろう。
      【良質な睡眠を確保するための環境づくりや生活習慣】
      4. 睡眠に関する参考情報
      (5)妊娠・子育て・更年期と良質な睡眠について
       月経周期に関連した睡眠変化
       初潮を迎えた女性の身体は、約1ヶ月ごとに妊娠の準備を整えるようになり、この周期を「月経周期」と呼びます。月経周期を形成・維持する代表的な女性ホルモンであるプロゲステロンとエストロゲンは、睡眠に影響すると考えられています。
       月経周期に関連した睡眠変化は、多くの女性が経験します。図に月経周期と女性ホルモンそれぞれの血中濃度の関係を示しました。エストロゲン優位な卵胞期と比較して、プロゲステロン優位となる黄体期では、睡眠が浅くなるとともに、日中の眠気が強まります。この傾向は、特に月経前に心身の不調を来たしやすい人でより顕著に現れやすいと考えられています。なお、月経による出血量が多いこと等で貯蔵鉄が少なくなると、むずむず脚症候群が出現・増悪しやすくなり、睡眠を妨害することも知られています。

      月経周期に関わる女性ホルモン変動と睡眠

      図のクリックで拡大します

       これらの睡眠問題に対処するために、月経周期をご自身で記録することで、睡眠変化が起こりやすい時期を把握することが役立ちます。日頃の睡眠環境、生活習慣を整え、嗜好品のとり方を見直すことで、月経周期に伴う睡眠の問題を和らげることが期待できます。むずむず脚症候群は、安静時の足のむずつきや不快感により寝つきが妨げられる睡眠障害です(「睡眠障害について」参照)。また、月経のある女性は、むずむず脚症候群を防ぐためにも鉄分の摂取を心がけましょう。
      ※ 厚生労働省「健康づくりのための睡眠ガイド2023」(令和6年2月/健康づくりのための睡眠指針の改訂に関する検討会)(※ 文中の参考文献は省いた。)
      なお、ガイドラインにある「むずむず脚症候群」とは、最近ではレストレスレッグス症候群とか下肢静止不能症候群と呼ばれることが多いが、夕方から深夜にかけて下肢を中心にむずむずする、痛い、かゆいなどの不快な感覚が生じ、じっとしていると非常に不快で下肢を動かさずにはいられない病気である。このため入眠困難となり、逆に日中の過眠にもつながる場合もある。その原因の一つに、鉄欠乏性貧血が挙げられる。
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    • 【解答例】
      多くの女性が月経周期に関連した睡眠変化経験している。月経周期を形成・維持する代表的な女性ホルモンであるプロゲステロンとエストロゲンが、睡眠に影響していると考えられている。
      エストロゲン優位な卵胞期と比較して、プロゲステロン優位となる黄体期では、睡眠が浅くなるとともに、日中の眠気が強まる。この傾向は、特に月経前に心身の不調を来たしやすい人でより顕著に現れやすいと考えられている。
      また、月経による出血量が多いこと等で貯蔵鉄が少なくなると、レストレスレッグス症候群(むずむず脚症候群)が出現・増悪しやすくなり、睡眠を妨害することも知られている。
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  •   ③ 交替制勤務が睡眠に及ぼす影響、及び、業務に及ぼす影響について、それぞれ二つずつ挙げよ。

    • 【解説】
      1 睡眠に及ぼす影響
      交代制勤務が睡眠に悪影響を与えることは当然であろう。交替をするたびに地球の反対側へ行って時差ボケになるようなものである。厚生労働省のヘルスネットの「交代勤務睡眠障害」は次のように述べる。
      【交替制勤務による健康影響】
      交代勤務睡眠障害(こうたいきんむすいみんしょうがい)
       交代勤務のために睡眠時間帯が頻繁に変化することにより、睡眠をはじめ精神・身体機能の障害がもたらされる症状。
       交代勤務のために睡眠時間帯が頻繁に変化させられることによって、睡眠障害をはじめとする種々の精神・身体機能の障害がもたらされることがあり、交代勤務睡眠障害と呼んでいます。
       典型的なものでは、夜間の勤務を終えて朝方から睡眠をとる際になかなか寝付けず、寝付いても何回も途中で目が覚めてしまうという症状が認められます。起床後に疲労回復感が乏しく、夜間の勤務時間帯における眠気と注意集中困難および作業能力の低下がみられます。
       深部体温リズムやメラトニン・コルチゾールなどのホルモンリズムは夜間勤務に伴う睡眠スケジュールに完全に同調しにくいため、上記の症状は、交代勤務に伴う睡眠・覚醒スケジュールと、他の生体リズムとの間のずれによると考えられています。
       治療としては、まとまった期間夜勤が続く場合には、個々の生体リズム間のずれを改善し、夜間勤務時の覚醒レベルを高めるために夜間の高照度光照射を行うことがあります。また夜間勤務中に仮眠をとると作業能率の低下が少ないとも言われています。さらにカーテンなどで日中の遮光に十分注意すれば、日中の睡眠内容を改善させることも可能です。三交代勤務の場合には、日勤、準夜勤、深夜勤の順にシフトを組むと、生体リズムを同調させやすいことがわかっています。
      ※ 厚生労働省「交代勤務睡眠障害」(ヘルスネット)
      2 業務に及ぼす影響
      また、それが勤務に与える影響も明白であろう。睡眠不足は勤務中の眠気をもたらし、生産性の低下ばかりか、事故やミスの発生につながることとなる。
      さらに、長期の交替制勤務が様々な疾病につながることも明らかで、久保(※)は、交替制勤務による疾病の増加を次のようにまとめている。疾病の増加は、プレゼンティーズム、アブセンティーズムやさらには、労働力の完全な喪失につながることとなる。
      ※ 久保達彦「交替制勤務者の健康管理
      【交替制勤務による健康影響】
      表3 交替制勤務による健康影響
       睡眠障害
       胃腸障害
       肥満・脂質異常症・高血圧・糖尿病・メタボリックシンドローム
       月経周期の乱れ・月経痛・不妊
       流産・早産・低体重児出産
       循環器疾患(心筋梗塞・脳卒中)
       悪性腫瘍(乳がん・前立腺がん)
      ※ 久保達彦「交替制勤務者の健康管理」(平成30年9月7日「労働者の心身の状態に関する情報の適切な取扱い指針公示第1号」)
      ここに「悪性腫瘍(乳がん・前立腺がん)」が記されているが、IARC は、2019年7月5日付で発がん性評価結果を更新し、夜間の交代制勤務を 2A (ヒトに対して恐らく発がん性がある)に位置付けている。
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    • 【解答例】
      ① 睡眠に及ぼす影響
      (1)入眠障害
      (2)起床後の疲労回復感の低下
      ② 業務に及ぼす影響
      (1)ミスや事故の発生
      (2)生産性の低下
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  • (2)勤務間インターバル制度について、次の問に答えよ。
    ① 制度の概要を簡潔に説明せよ。

    • 【解説】
      勤務間インターバル制度」とは、ある日の仕事を終えた時間から次に勤務するまでの時間を、あらかじめ定めた時間より短くならないようにしようという制度である。
      労働時間等の設定の改善に関する特別措置法第2条第1項により事業主に努力義務が課されている。これは、「働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律」(平成 30 年法律第 71 号)が、2018年(平成30年)7月6日に公布されたことを契機に、新たな努力義務とされたものである。
      【労働時間等の設定の改善に関する特別措置法】
      (定義)
      第1条の2 (第1項 略)
       この法律において「労働時間等の設定」とは、労働時間、休日数、年次有給休暇を与える時季、深夜業の回数、終業から始業までの時間その他の労働時間等に関する事項を定めることをいう。
      (事業主等の責務)
      第2条 事業主は、その雇用する労働者の労働時間等の設定の改善を図るため、業務の繁閑に応じた労働者の始業及び終業の時刻の設定、健康及び福祉を確保するために必要な終業から始業までの時間の設定、年次有給休暇を取得しやすい環境の整備その他の必要な措置を講ずるように努めなければならない
      2~4 (略)
      【労働基準法】
      第41条の2 賃金、労働時間その他の当該事業場における労働条件に関する事項を調査審議し、事業主に対し当該事項について意見を述べることを目的とする委員会(使用者及び当該事業場の労働者を代表する者を構成員とするものに限る。)が設置された事業場において、当該委員会がその委員の5分の4以上の多数による議決により次に掲げる事項に関する決議をし、かつ、使用者が、厚生労働省令で定めるところにより当該決議を行政官庁に届け出た場合において、第二号に掲げる労働者の範囲に属する労働者(以下この項において「対象労働者」という。)であつて書面その他の厚生労働省令で定める方法によりその同意を得たものを当該事業場における第一号に掲げる業務に就かせたときは、この章で定める労働時間、休憩、休日及び深夜の割増賃金に関する規定は、対象労働者については適用しない。ただし、第三号から第五号までに規定する措置のいずれかを使用者が講じていない場合は、この限りでない。
      一~四 (略)
       対象業務に従事する対象労働者に対し、次のいずれかに該当する措置を当該決議及び就業規則その他これに準ずるもので定めるところにより使用者が講ずること。
       労働者ごとに始業から24時間を経過するまでに厚生労働省令で定める時間以上の継続した休息時間を確保し、かつ、第37条第4項に規定する時刻の間において労働させる回数を1箇月について厚生労働省令で定める回数以内とすること。
      ロ~ニ (略)
      六~十 (略)
      ②~⑤ (略)
      本条における「終業から始業までの時間」についての定めが勤務間インターバル制度であり、この改正に関する行政の通達には次のように記載されている(※)
      ※ なお、下記通達の「新設定改善法」とは、上記の(2018年の改正後の)「労働時間等の設定の改善に関する特別措置法」を意味する。
      【勤務間インターバル制度】
      1 勤務間インターバルの努力義務化(新設定改善法第1条の2及び第2条第1項関係)
      (1)趣旨
        勤務間インターバル(前日の終業時刻と翌日の始業時刻の間に一定時間の休息を確保することをいう。以下同じ。)については、労働者が十分な生活時間や睡眠時間を確保し、ワーク・ライフ・バランスを保ちながら働き続けることを可能にする制度であり、その普及促進を図る必要がある。
        このため、労働時間等の設定の改善に関する特別措置法を改正し、勤務間インターバルを事業主の努力義務としたものであること。
      (2)「労働時間等の設定」の定義(新設定改善法第1条の2第2項関係)
        「労働時間等の設定」の定義に深夜業の回数、終業から始業までの時間を加え、「労働時間、休日数、年次有給休暇を与える時季、深夜業の回数、終業から始業までの時間その他の労働時間等に関する事項を定めることをいう。」と改めたものであること。
      (3)事業主の責務(新設定改善法第2条第1項関係)
        事業主がその雇用する労働者の労働時間等の設定の改善を図るための責務として、「健康及び福祉を確保するために必要な終業から始業までの時間の設定」を規定したものであること。
      ※ 厚生労働省「働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律による改正後の労働時間等の設定の改善に関する特別措置法の施行について」(平成 30 年9月7日基発 0907 第 12 号他)
      勤務間インターバル

      図のクリックで拡大します

      ※ 厚労省「勤務間インターバル制度とは」より

      また、この制度は厚労省の WEB サイト(※)によると、「勤務間インターバル制度とは、終業時刻から次の始業時刻の間に、一定時間以上の休息時間(インターバル時間)を設けることで、従業員の生活時間や睡眠時間を確保しようとするものです」とされている。
      ※ 厚生労働省「勤務間インターバル制度とは
      この制度の具体的な実施方法については、厚労省が詳細なマニュアル(※)を公表しており、「ある時刻以降の残業を禁止し、次の始業時刻以前の勤務を認めないこととする等によりインターバル時間を確保する方法も考えられます」などとされている。
      ※ このマニュアルは、IT業種版、建設業版、高齢者福祉・介護事業種版、食料品製造業種版、宿泊業・飲食サービス業版、医療業版の6業種について業種ごとに定められているほか、業種によらない「勤務間インターバル制度導入・運用マニュアル(全業種版)」が出されている。
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    • 【解答例】
      勤務間インターバル制度とは、終業時刻から次の始業時刻の間に、一定時間以上の休息時間(インターバル時間)を設けることで、従業員の生活時間や睡眠時間を確保しようとするものである。
      ある時刻以降の残業を禁止し、次の始業時刻以前の勤務を認めないこととする等によりインターバル時間を確保する方法もある。
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  •   ② 制度を導入する意義を述べよ。

    • 【解説】
      制度を導入する意義については、厚労省の「勤務間インターバル制度導入・運用マニュアル」に次のように記されている。
      【勤務間インターバル制度を導入する意義】
      1.勤務間インターバル制度について
      (2)勤務間インターバル制度の意義
        「働き方改革関連法」に基づき労働基準法が改正され、時間外労働の上限規制が導入されました。しかし、規制の具体的方法が、「1ヶ月間あるいは1年間における労働時間の総量規制」であるため、 “特定の日”や“特定の期間”に労働時間が長くなり、十分な休息時間がとれない等の事態を防ぐことができません。つまり、時間外労働の上限規制では「従業員が健康な生活を送るために必要なインターバル時間を確保する」ことの十分な実現が難しいということです。そのため、勤務終了後から一定時間以上のインターバル時間を毎日設けるための勤務間インターバル制度が必要なのです。
        勤務間インターバル制度の導入には、もう1つ重要な意義があります。それは、企業、従業員ともにこれまでの労働時間中心の考え方を変え、「休息の重要性を理解する」という効果が期待できることです。また、企業が従業員に対して休息の重要性を伝えることにもつながります。
      ※ 厚生労働省「勤務間インターバル制度導入・運用マニュアル(全業種版)」(2020 年3月)
      なお、2025 年1月8日に公表された「労働基準関係法制研究会報告書」(労働基準関係法制研究会)が、勤務間インターバル精度の目的をワーク・ライフ・バランスの確保であると言っていることを紹介しておく。
      【勤務間インターバル制度を導入する意義】
      Ⅲ 労働時間法制の具体的課題
      2 労働からの解放に関する規制
      (3)勤務間インターバル
        働き方改革関連法で導入された時間外・休日労働時間の上限規制は、過重労働を防止する観点から、月を単位として、労使協定によっても超えることのできない上限を設定したものである。一方で、労働者の暮らしと健康を考えると、月を単位とした労働時間管理だけでなく、日々の生活を送る上でのワーク・ライフ・バランスの確保が必要となる。このため、欧州等では、日々の勤務と勤務の間に一定の時間を空けることを義務とする勤務間インターバル制度が設けられている。
      ※ 厚生労働省「労働基準関係法制研究会報告書」(2025 年1月)
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    • 【解答例】
      労働者の暮らしと健康を確保するためには、月を単位とした労働時間管理だけでなく、日々の生活を送る上でのワーク・ライフ・バランスの確保が必要となる。このため、日々の勤務と勤務の間に一定の時間を空けることが有効となる。
      また、勤務間インターバル制度を導入する意義としては、企業、従業員ともにこれまでの労働時間中心の考え方を変え、「休息の重要性を理解する」という効果が期待できることである。また、企業が従業員に対して休息の重要性を伝えることにもつながる。
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  •   ③ 導入によって事業場にもたらされる効果を二つ挙げよ。

    • 【解説】
      制度を導入する効果については、厚労省の「制度導入がもたらすメリット」(働き方・休み方改善ポータルサイト)に次のように記されている。
      【勤務間インターバル制度を導入する意義】
      メリット1 従業員の健康の維持向上につながります。
        インターバル時間が短くなるにつれてストレス反応が高くなるほか、起床時疲労感が残ることが研究結果から明らかになっています。十分なインターバル時間の確保が、従業員の健康の維持・向上につながります。
      メリット2 従業員の定着や確保が期待できます。
        労働力人口が減少するなか人材の確保・定着は、重要な経営課題になっています。十分なインターバル時間の確保により、ワーク・ライフ・バランスの充実を図ることは、職場環境の改善等の魅力ある職場づくりの実現につながり、人材の確保・定着、さらには、離職者の減少も期待されます。
      メリット3 生産性の向上につながります。
        十分なインターバル時間の確保は、仕事に集中する時間とプライベートに集中する時間のメリハリをつけることができるようになります。このため、仕事への集中度が高まり、製品・サービスの品質水準が向上するのみならず、生産性の向上にも期待できます。
      ※ 厚生労働省「制度導入がもたらすメリット
      解答例には、メリット1とメリット3を記したが、メリット1からメリット3のうち2つを挙げればよい。
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    • 【解答例】
      勤務間インターバル制度を導入する効果には次のようなものがある。
      1 従業員の健康の維持向上につながる。
      2 生産性の向上につながる。
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  •   ④ インターバル時間の設定に当たり、考慮・留意すべき事項を三つ挙げよ。

    • 【解説】
      インターバル時間の設定に当たり、考慮・留意すべき事項については、「勤務間インターバル制度導入・運用マニュアル(全業種版)」に次のような記述がある。
      本小問は、おそらくここからの出題であろう。
      【インターバル時間の設定に当たり、考慮・留意すべき事項】
      3.勤務間インターバル制度導入の手順
      フェーズ2 制度を設計する
      ステップ1 制度の詳細の決定
      ② インターバル時間数の設定
      《留意点》
      インターバル時間には通勤時間が含まれることを考慮
        通勤時間はインターバル時間に含まれます。そのため、インターバル時間数の設定にあたっては、従業員の通勤時間を考慮し、「休息が確保できているか」という観点に立つことが重要です。
        参考情報 -労働時間等見直しガイドラインでは-
       「労働時間等見直しガイドライン(労働時間等設定改善指針)」において、「勤務間インターバルは、労働者の生活時間や睡眠時間を確保し、労働者の健康の保持や仕事と生活の調和を図るために有効であることから、その導入に努めること。なお、当該一定時間を設定するに際しては、労働者の通勤時間、交替制勤務等の勤務形態や勤務実態等を十分に考慮し、仕事と生活の両立が可能な実効性ある休息が確保されるよう配慮すること。」とされています。
       インターバル時間を設定するにあたっては、
       1)労働者の生活時間
       2)労働者の睡眠時間
       3)労働者の通勤時間
       4)交替制勤務等の勤務形態や勤務実態
       等を十分に考慮し、仕事と生活の両立が可能な実効性ある休息が確保されるよう配慮することが求められます。
      ※ 厚生労働省「勤務間インターバル制度導入・運用マニュアル(全業種版)」(2020 年3月)
      また、「労働時間等設定改善指針」(平成 20 年3月 24 日厚生労働省告示第 108 号)は次のように述べる。
      【インターバル時間の設定に当たり、考慮・留意すべき事項】
      2 事業主等が講ずべき労働時間等の設定の改善のための措置
        事業主等は、労働時間等の設定の改善を図るに当たり、1の基本的考え方を踏まえつつ、労動者と十分に話し合うとともに、経営者の主導の下、次に掲げる措置その他の労働者の健康と生活に配慮した措置を講ずるよう努めなければならない。
      (1)事業主が講ずべき一般的な措置
      ト 終業及び始業の時刻に関する措置
      (ロ)勤務間インターバル 勤務間インターバル(前日の終業時刻と翌日の始業時刻の間に一定時間の休息を確保することをいう。以下同じ。)は、労働者の生活時間や睡眠時間を確保し、労働者の健康の保持や仕事と生活の調和を図るために有効であることから、その導入に努めること。なお、当該一定時間を設定するに際しては、労働者の通勤時間、交替制勤務等の勤務形態や勤務実態等を十分に考慮し、仕事と生活の両立が可能な実効性ある休息が確保されるよう配慮すること。
      ※ 厚生労働省「労働時間等設定改善指針」(平成 20 年3月 24 日厚生労働省告示第 108 号)
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    • 【解答例】
      インターバル時間の設定に当たり、考慮・留意すべき事項としては、以下のものが挙げられる。
      ① 労働者の生活時間を確保すること
      ② 労働者の睡眠時間を確保すること
      ③ インターバル時間から通勤時間を除いた時間が労働者が自由に使える時間であること
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  •   ⑤ 制度を導入している場合でも、状況により適用除外とすることができるケースがあるが、そのようなケースに該当するものを三つ挙げよ。

    • 【解説】
      勤務間インターバル制度は、そもそも法令上は努力義務である。必ず行わなければならないわけではないので、適用除外とすることができる場合が法定されているわけではない。従って、各事業場で制度を創設するときに(労働基準法等のインターバル制度以外の労働時間の規定に反しない限り)、事業場ごとに柔軟に定めることが可能である。
      本小問の意図が判然としないが、「勤務間インターバル制度導入・運用マニュアル(全業種版)」の中の「図表3-8 適用除外となる業務等(例)」に沿って解答しておけばよいのではないかと思われる(※)
      ※ なお、全く同じ記述が厚労省の WEB サイト「働き方・休み方改善ポータルサイト」の「制度の導入・運用に向けて」にもまったく同じ記述がある。
      【適用除外となる業務等(例)】
      図表3-8 適用除外となる業務等(例)
       重大なクレーム(品質問題・納入不良等)に対する業務
       突発的な設備のトラブルに対応する業務
       予算、決算、資金調達等の業務
       海外事案の現地時間に対応するための電話会議、テレビ会議
       労働基準法第 33 条の規定に基づき、災害その他避けることのできない事由によって臨時の必要がある場合
      ※ 厚生労働省「勤務間インターバル制度導入・運用マニュアル(全業種版)」(2020 年3月)
      なお、医療業版の「勤務間インターバル制度導入・運用マニュアル(医療業版)」には、「救急搬送や緊急手術への対応」が追加されている。
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    • 【解答例】
      状況により適用除外とすることができるケースの例としては以下のものが挙げられる。
      ① 重大なクレーム(品質問題・納入不良等)に対する業務
      ② 突発的な設備のトラブルに対応する業務
      ③ 予算、決算、資金調達等の業務
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  • (3)近年の多様な働き方が睡眠に与える影響について、今後の課題となると考えられる事項を二つ挙げよ。

    • 【解説】
      1 多様な働き方とは
      (1)本小問の趣旨
      これまで(厚労省を含む)政府は、働き方改革を進める中で、多様な働き方が可能となるよう法制度の改正を進めてきた。その目的について、政府は、「働く方の置かれた個々の事情に応じ、多様な働き方を選択できる社会を実現し、働く方一人ひとりがより良い将来の展望を持てるようにすること(※)であるとしている。
      ※ 厚労省サイト「「働き方改革」の実現に向けて」より引用。もっとも、その一方で、その政策によって様々な問題を生じているのではないかとの指摘がされていることも事実である。
      すなわち、労働者のおかれた個々の事情に応じて、多様な働き方を選択できるようにすることで、睡眠や家庭生活の時間を確保できるようにし(※)、働きやすい社会を目指すとしているのである。
      ※ 平成 19 年版労働経済の分析の「第2章人材マネジメントの動向と勤労者生活」の「第3節働き方の変化と勤労者生活」は、「正規従業員、パート、アルバイト、派遣などの非正規従業員の生活時間と有業者平均との違いをみてみると(図略)、男性の正規従業員は、1次活動(睡眠等)や3次活動(テレビ・ラジオ、くつろぎ等)の時間が小さく、非正規従業員ではこれらの時間が大きくなる」などとして、多様な働き方によって睡眠時間が確保されているとしている。
      ところが、本小問は、「多様な働き方が睡眠に与える影響について、今後の課題となると考えられる事項を二つ」挙げよとしている。すなわち、「多様な働き方」が、睡眠に悪い(※)影響を与えることがあるということを前提に、今後の課題を挙げよというのである。
      ※ もちろん、影響には良い影響と悪い影響があり、本小問にはどちらとも記されていないが、良い影響だというなら「課題」など生じないであろう。
      筆者が調べた範囲内では、行政や公的な機関が公表している文書などで、多様な働き方の睡眠への悪い影響について直接言及しているものは見当たらなかった。そこで、解答の内容は公的な見解オフィシャルストーリーではなく、自由な考え方で記述する必要がある。
      どうとでも答えられそうではあるが、出題者の意図(採点基準)を予想して解答しなければ得点はできない。また、これは、3つある大きな小問の一つであるから、配点は3割程度ある可能性が高い。どう答えるかは慎重に考える必要がある。なお、大きな小問であるから、解答にある程度の分量は必要であろう。
      (2)多様な働き方とは
      そもそも本小問に言う「多様な働き方」とはなんだろうか。政府の「多様な働き方の実現応援サイト」をみると、「このサイトは、パート・アルバイト・契約社員等の待遇の改善と、職務・勤務地・時間を限定した多様な正社員についての情報を掲載しています」と書かれている。
      これによれば、多様な働き方とは、「パート・アルバイト・契約社員等」及び「職務・勤務地・時間を限定した多様な正社員」ということになりそうである。
      しかし、それらとは反対の極にある「高度プロフェッショナル制度(高プロ制度)」や「裁量労働制」も、一般には多様な働き方の範疇に入ると考えられているであろう。
      また、フレックスタイム制、在宅勤務なども多様な働き方に含まれるだろう。さらに、最近、政府が推し進めている副業・兼業を行うことについても、多様な働き方のひとつといえるかもしれない。
      なお、フリーランスやギグワークなども、一般には多様な働き方のひとつであると考えられている。しかし、労働者性についてかなりグレーな面があるにせよ(※)、形式的には個人事業主という位置づけであるから、これは念頭に置かなくてもよいかもしれない。
      ※ 政府の見解は、第 217 回国会における「質問主意書への解答」の通りで、「個別の事案に応じ、労働基準法(略)第九条に規定する労働者に該当するか否かを判断」するというものである。この他、フリーランス協会「フリーランス・ギグワーカーの労働者性に係る現状と課題」など
      まとめると次のようになろうか。
      【多様な働き方とは】
      (1)パート・アルバイト・契約社員等
      (2)職務・勤務地・時間を限定した多様な正社員
      (3)高度プロフェッショナル制度(高プロ制度)及び裁量労働制
      (4)フレックスタイム制、在宅勤務など
      (5)副業・兼業を持つ働き方
      (6)(フリーランス、ギグワークなど)
      2 睡眠に影響を与える勤務上の問題
      本小問は、これに対し、睡眠に与える(悪い)影響について、今後の課題となると考えられる事項を2つ挙げよというのである。
      では、睡眠は、どのような事情によって悪い影響を受けるのだろうか。一般論として、すぐに思いつくのが、①睡眠時間が確保できない状況、②質の良い睡眠ができない状況(不規則な入眠時間、ストレス等)であろう。
      3 本問の解答について
      さて、以上のことを前提に、本小問の言う「睡眠に与える(悪い)影響について、今後の課題となると考えられる事項」とは何かについて考えてみよう。
      常識的に考えれば、次の2つが大きな課題と考えられよう。
      【働き方の多様化による睡眠への影響】
      ① 勤務時間の不規則化や在宅勤務による生活リズムの乱れを原因とする睡眠の質の低下
      ② 労働時間の長時間労働化による睡眠時間の不足
      以下、この2点について多様な働き方との関係について検討してみよう。
      4 多様な働き方と生活リズム
      多様な働き方が、生活リズムを乱すことは容易に想像がつく。人は、体内時計(生物時計)によって、ほぼ 24 時間を周期とする睡眠と覚醒のリズム(概日リズム/サーカディアンリズム)を整えている。
      しかし、多様な働き方によってこれが乱されれば、睡眠の質が低下することとなろう。
      ① 非典型的な時間帯の就労(夜間のみの短期勤務、時期による労働時間の変動、フレックスタイムなど)が増加し、睡眠時間を整えることが困難になっていることは容易に想像できる。
      ② テレワークの普及により、通勤がなくなった反面、仕事と私生活の境界が曖昧になり(※)、生活リズムが乱れやすくなっている。
      ※ 日本労働組合総連合会「テレワークに関する調査2020」では、回答者中「勤務時間とそれ以外の時間の区別がつけづらい」とするものが最も多かった。
      また、Chirico F et al.「Working from home in the context of COVID-19: A systematic review of physical and mental health effects on teleworkers.」(Journal of Health and Social Sciences. 2021)は、テレワークと睡眠の質の低下の関連を報告している。
      ③ 特に看護職やサービス業などでは、長時間勤務や夜勤による慢性的な睡眠不足が健康リスクを高めている。
      ※ 厚生労働省「看護の多様なワークスタイル」(2025年3月)は「また、交代制勤務や長時間勤務に従事する人は、睡眠時間の短縮や、睡眠の質の低下を頻繁に経験しており、睡眠不足や睡眠不足による疲労や眠気を生じやすくなると言われています」とする。
      従って、これらについて解答すればよいと思うが、以下、詳細に確認しておきたい。
      5 多様な働き方と長時間労働
      (1)パート・アルバイト・契約社員等
      パート・アルバイト・契約社員等のいわゆる非正規労働者について、これらは「短時間労働者」と呼ばれることもあり、皮相的には睡眠時間が減ることはなさそうに思える(※)
      ※ 先述したように、「平成19年版 労働経済の分析」の第2章の「第3節 働き方の変化と勤労者生活」によると、男女労働者の睡眠時間は、年々、減少傾向にあるとされている。しかし、その一方で、「男性の正規従業員は、1次活動(睡眠等)や3次活動(テレビ・ラジオ、くつろぎ等)の時間が小さく、非正規従業員ではこれらの時間が大きくなる」という。
      しかし、(独法)労働政策研究・研修機構の調査結果(※)などによれば、非正規労働者の労働時間は短くなると単純に結論づけられるものではないようだ。
      ※ (独法)労働政策研究・研修機構「多様な働き方の実態と課題」(2007年3月)
      【非正社員の労働条件】
      研究結果の要旨
      2.増大する非正社員の実態と課題
       (略)
       非正社員の労働条件をみると、正社員の長時間労働が問題となる中で非正社員においても残業頻度が増大していること、労働時間数の違いを考慮してもなお非正社員の賃金は正社員との間に相当の格差がみられること、社会・労働保険等の公的制度を含め福利厚生の適用についても正社員との間の格差がむしろ拡大しており、また、非正社員から正社員への転換制度に広がりはみられていない。
       非正社員の賃金単価が低いこともあって、非正社員としての就業を複数行う人が少なくない。特に女性の場合、育児等の問題を抱えながら、生計費を得るために複数の非正規就業を行っていることが窺われる。
       (略)
      ※ (独法)労働政策研究・研修機構「多様な働き方の実態と課題(サマリー)」(2007年3月)(下線強調引用者)
      また、企業が正規社員を非正規社員に置き換えるのはなぜかという視点に立てば、非正規社員と短時間勤務とは必ずしもストレートには結びつかない。例えば、社会福祉業などの業種は、一人当たりの生産性を簡単には上げることができない。このため、企業の利益を上げる最も簡便な方法は賃金を低水準に抑えることになる。そのため、正社員を非正規社員に切り替え、その結果、低賃金が慢性的な労働力不足につながると、労働者一人当たりの負担量が増加するのである(※)
      ※ (独法)労働政策研究・研修機構「やりがいがあっても低賃金・人手不足・ハラスメントで働き続けられない。全産業平均との賃金格差は月11万円に」(ビジネス・レーバー・トレンド2025年8・9月号)は、ある労組の調査を紹介し、「非正規雇用労働者は、「嘱託・継続雇用・再雇用」の平均 151.7 時間(前回調査比 13.4 時間増)が最も長く、次いで「臨時・パート職員(フルタイム)」の平均 140.4 時間(同 5.9 時間増)が続く。6年前の前回調査より労働時間が伸びており、人手不足を長時間労働で補っている様子がうかがえる」としている。
      また、(独法)労働政策研究・研修機構の調査結果でも、低い賃金・短時間労働を選んだ労働者は、生きるために副業を行わざるを得ず、実質的な労働時間が極端に長いケースがあることも指摘されている。
      ※ 例えば、藤原千沙「シングルマザーの仕事と副業・兼業」(The Hosei University Economic Review Vol.89 No.3 2022年)、飯島裕子「副業の実態は「非正規の掛け持ち」」(YAHOO記事 2019年)など
      なお、報道(※)によると、2025年11月の参議院予算委員会において、野党議員の「だったら労働時間を規制緩和して、長くするなんていうのは逆行じゃないか。残業しないと、生活できないということを解決するのが政治の責任ではないか」という質問に対して、高市総理は「賃上げできる環境を作ることが、この内閣の責任」と突っぱねている。
      非正規の労働者は、勤務時間が短いなどとと、ストレートに言えるようなものではないのである。
      (2)職務・勤務地・時間を限定した多様な正社員
      職務・勤務地・時間を限定した多様な正社員については、労働時間は一般の正社員よりは短いのであろうが、(独法)労働政策研究・研修機構が行った調査(※)では、多様な正社員の中に「労働時間と比較して、業務量が過大である」という不満を持つものの割合が 18.9 %と、必ずしも業務量が少ないというわき絵ではないようだ。
      ※ (独法)労働政策研究・研修機構「多様化する労働契約の在り方に関する調査」(2022年3月)
      (3)高度プロフェッショナル制度(高プロ制度)及び裁量労働制
      一方、多様な生き方のもう一方の範疇である高度プロフェッショナル制度(高プロ制度)及び裁量労働制(※)についてはどうだろうか。
      ※ 裁量労働制とは、一言でいえば自ら働く時間を決める制度ということである。何時間働こうと、あらかじめ決めた時間(みなし労働時間)だけ働いたものとみなして賃金が支払われることとなる。もっとも、一定の業務量はこなす必要はあるので、ある意味で賃金が、時間に対してではなく成果に対して支払われる制度といえるかもしれない。なお、みなし労働時間」に対しては、36 協定の締結が必要であり上限規制も適用され、割増賃金の支払いもしなければならない。
      もちろん、これらの働き方についても、企業が労働時間管理を行わなくてもよいということではない。高プロ制度については健康管理時間を把握する必要がある(※)し、裁量労働制の場合も安衛法の長時間労働者に対する面接指導の義務がなくなるわけではないので労働時間を把握する必要はある。
      ※ 「勤務間インターバルの確保(11時間以上)+深夜業の回数制限(月4回以内)」、「健康管理時間の上限措置(1週間当たり40時間を超えた時間について、月 100 時間以内又は3か月 240 時間以内とすること)」、「1年に1回以上の連続2週間の休日の付与」又は「臨時の健康診断」のいずれかの措置を実施する必要がある。
      しかし、現実に、これらの働き方をする労働者の労働時間が長くなっていることも事実である。高プロ制度の労働者への調査(※)によると「「働いている時間が長い」(68.5%)と「業務量が過大である」(58.6%)は6割前後となっており、「休暇が取りにくい 」(35.4%)も3割台と一定割合存在する」などとなっており、長時間労働となっていることがうかがえる。
      ※ (独法)労働政策研究・研修機構「高度プロフェッショナル制度の適用労働者アンケート調査」(2023 年12月)

      労働時間制度別に見た月間総労働時間の分布

      図のクリックで拡大します

      ※ (独法)独立行政法人 労働政策研究・研修機構「「労働時間制度に関する調査結果」の分析」(2021年)

      また、裁量労働制については、(独法)労働政策研究・研修機構が様々な労働時間制度について、実際の労働時間を調査した研究(※)によると、図に示すように、月間労働時間が 220 時間超であるものの割合は、専門業務型、企画業務型ともに、通常の労働時間のものよりかなり長くなっていることが分かる。
      ※ (独法)労働政策研究・研修機構「「労働時間制度に関する調査結果」の分析」(2021 年 12 月)
      同調査にると、「平均では事業場外みなし、専門業務型、適用除外の順に長く、またこれら3種類では「220 時間以上」の長時間労働者の比率も高い」とされている。裁量労働制は、労働時間が短くなるような制度ではないのである。
      そして、「最長月間総労働時間の平均は、専門業務型、事業場外みなし、適用除外、企画業務型の順に長く、最短月間総労働時間の平均は、フレックスタイム、通常の労働時間、企画業務型の順に短い。さらに最長と最短の差の平均では、専門業務型、適用除外、企画業務型の順に長い。これら3種類の労働時間制度は、月々の繁閑による労働時間の差が比較的大きいようだ」などとされている。

      【裁量労働制】
      研究結果の要旨
      3.正社員の働き方の多様性と問題点
       管理職であったり、裁量労働制が適用されていたりなどにより使用者による時間管理が緩やかな下で働く場合が拡がってきているが、そうした働き方の人は労働時間が総じて長くなりがちとなっている。長時間労働はストレスを高め、心身に悪い影響を及ぼす恐れがある。労働時間管理の柔軟化に際しては、適切な健康管理とともに「柔軟化」の名に値する実質的な裁量性が働く人に確保される必要がある。
      ②及び③ (略)
      ※ (独法)労働政策研究・研修機構「多様な働き方の実態と課題(サマリー)」(2007年3月)(下線強調引用者)
      なお、裁量労働制であっても、非裁量労働制であっても、労働時間が長くなれば同じように睡眠時間は減少するという調査結果(※)もある。同じように長時間労働を行っていれば、裁量労働制だから睡眠時間を確保できるなどというようなものではないことは当然である。
      現実には、高プロ制度、裁量労働制ともに労働時間は比較的長く、裁量労働制の場合、月によってはとくに長くなるケースもみられるようだ。
      また、一般の管理職についても、WEB サイトには、働き方改革で一般労働者に残業をさせられなくなったため、管理職が長時間労働になったという情報があふれている。
      ※ (独法)労働政策研究・研修機構「管理職ヒアリング調査結果」(資料シリーズNo.254)でさえ、「一方、管理職自身の働き方においては、長時間労働になりやすいことがうかがえた」と指摘している。
      (4)フレックスタイム制、在宅勤務など
      在宅勤務などについても、容易に想像がつくように、現実には長時間労働となっているケースが多いのが現実である。
      【在宅勤務など】
      研究結果の要旨
      3.正社員の働き方の多様性と問題点
       (略)
       制度として在宅勤務が実施されている割合は現在のところ極めて少ないが、事実として自宅で仕事をしているケースは少なくない。特に子育てなど家庭生活と仕事との両立に効果的である場合が多い。一方、在宅での就業は長時間労働になりがちといった面もみられ、時間管理を中心に適切な管理のための制度整備等が求められる。
       (略)
      ※ (独法)労働政策研究・研修機構「多様な働き方の実態と課題(サマリー)」(2007年3月)(下線強調引用者)
      フレックスタイム制については、これによって労働時間が長期化しているという証拠はない。
      (5)副業を持つ働き方
      政府は、副業を行うことを推進しているが、現実には、正社員が副業を行う例は多くはないようだ。
      【副業】
      研究結果の要旨
      3.正社員の働き方の多様性と問題点
      ①及び② (略)
       サラリーマンの副業が注目されているが、現状では正社員の間で副業が増えているとはいえない。しかしながら、雇用慣行や労働市場の変化が進む中で、所得確保のほか、キャリア形成の面からも副業の役割が高まることが考えられ、企業及び社会的制度において的確な対応が望まれる。
      ※ (独法)労働政策研究・研修機構「多様な働き方の実態と課題(サマリー)」(2007年3月)(下線強調引用者)
      政府が副業を進める理由としては、キャリア形成などが理由ではあるが、大手企業を中心に高年齢の労働者の仕事が減少している中で、賃金を抑制する場合の緩衝材として期待された面が強いことも事実であろう。
      副業を行う理由も(独法)労働政策研究・研修機構の調査では、「収入を増やしたいから」54.5 %、「1つの仕事だけでは収入が少なくて、生活自体ができないから」38.2 %などとなっている(※)
      ※ (独法)労働政策研究・研修機構「副業者の就労に関する調査」(資料シリーズNo.245)
      さらに同調査では、「仕事で必要な能力を活用・向上させる」ことができたものとしては、「コミュニケーション能力」が 15.8 %と比較的高かったものの、その他は「ITスキル」が3%などほとんど能力向上はできていない様子がうかがえる。
      また、収入のもっとも多い副業の1週あたりの労働時間は「5時間~10時間未満」が 33.6 %で最も多いが、「40時間以上」が 5.1 %、「30時間~40時間未満」が 3.3 %などかなり長いケースもみられる。とくに「本業・正社員+副業・正社員」の場合は、「40時間以上」が 14.1 %となっている。
      副業はそれほど一般的にはなっていないものの、収入のためにスキルアップの期待できない単純労働に、かなりの長時間、働く状況がうかがえる。
      (6)フリーランス、ギグワークなど
      フリーランス関連の団体が行った調査(※)によると月間稼働時間は、「250 時間以上」5.6 %、「200 ~ 250 時間未満」11.2 %などとなっており、極端な長時間となっているものの割合はそれほど多くはないようである。
      ※ プロフェッショナル&パラレルキャリア・フリーランス協会「フリーランス白書2023」(2023年3月)
      しかし、フリーランスの場合、顧客との契約した時間のみを稼働時間と考え、準備や学習のための時間を労働時間ととらえていない可能性もあり、これらを含めると実際の就労時間はさらに長くなっていることも考えられよう。
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    • 【解答例】
      近年の多様な働き方が睡眠に与える影響として、今後の課題となると考えられる事項には以下のものがある。
      ① 勤務時間の不規則化や在宅勤務による生活リズムの乱れを原因とする睡眠の質の低下
      フレックスタイム制、裁量労働制及び在宅勤務は、労働時間の管理があいまいになりやすく、日によって勤務時間が大きく変わることにより、入眠時間・起床時間が変動して睡眠の質が低下することがある。
      高度プロフェッショナル制度(高プロ制度)及び裁量労働制については、運用次第では期間によって労働時間の長短ができやすい。また、副業を持つ働き方についても、副業の受注量が期間によって変動することがある。このため、これらの働き方では、繁忙期に睡眠時間が減少することになる。
      また、パート、アルバイト、契約社員等は、会社に対する立場が弱くなりがちであり、勤務時間が日によって変動したり、勤務時間帯が深夜や早朝になることもあり、睡眠時間が変動することがあり得る。
      ② 労働時間の長時間労働化による睡眠時間の不足
      フレックスタイム制、在宅勤務では、勤務時間とそれ以外の時間の境界があいまいになりがちで、労働時間が長くなる傾向がある。また、裁量労働制も現実には労働時間が長くなる傾向があることが指摘されている。
      高度プロフェッショナル制度及び裁量労働制についても、運用によっては労働時間が長くなったり、日によって変動したりすることがある。そのため睡眠時間が一定せず、睡眠の質が低下しやすい。
      また、副業を持つ場合、副業をどこまで受けるかは本人次第ではあるが、本業の低収入を補填する場合や、受注量を断われない場合などでは、かなりの長時間労働となることも考えられる。
      パート・アルバイト・契約社員等にあっては、一般に賃金レベルが低いため、生活水準の維持(収入の確保)のために長時間労働になるケースがあることが指摘されている。
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