労働衛生コンサルタント試験 健康管理 2025年 問1

アーク溶接作業(ヒューム)による健康障害防止対策




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※ イメージ図(©photoAC)

 このページは、2025年の労働安全衛生コンサルタント試験の「健康管理(記述式)」問題の解説と解答例を示しています。

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2025年度(令和7年度) 問 1 アーク溶接関連の政省令改正の理解を試すものか。ヒューム関連の出題は、2012年度以降は初めてである。
アーク溶接
2025年11月03日執筆

問1 金属アーク溶接等作業を継続して屋内作業場で行う場合の労働衛生管理について、以下の設問に答えよ。

  • (1)金属アーク溶接等作業において発生する「溶接ヒューム」について、次の問に答えよ。
    ① 性状について説明せよ。

    • 【解説】

      アーク溶接
      ※ イメージ図(©photoAC)
      図をクリックすると拡大します
      1 ヒュームとは
      ヒュームとはいうまでもなく、高温で気化した金属の蒸気が空気中に舞い上がり、その後、空気中で、酸化、凝縮して、微細な粒子(金属酸化物)となって作業空間中に浮遊しているものである(※)。写真で白い湯気のように見えるのがヒュームである。
      金属ヒュームは、微細粒子なのでなかなか沈降せず、そのため気流に乗って容易に短時間で作業空間中に拡散する。アーク溶接を行っていた場所の近くで作業を行っていた作業者が、ヒューム熱を発症して労働災害となる例も存在している。
      2 ヒュームの形状等
      ヒュームの粒子径は、0.01〜1µm 程度だが、分散範囲は狭い。一般には、1 μm 以下など微細なものが多いので、グラインダ作業などで生じる一般の粉じんに比べると、⾧時間空気中に浮遊する。ただし、発生の直後は、単独粒子として浮遊しているが、すぐに粒子同士が引き合って直鎖状に連なるので、ある程度大きな塊に凝集すると沈降しやすくなる。
      なお、呼吸域のヒュームの粒径は、被覆系に関係なく、1μm 程度のものが多いとされる(※1)。また、 ACGIH の提案書(※2)によれば、溶接ヒュームのインハラブル粒子とレスピラブル粒子の比は、1:1であるとされている。
      ※1 中央労働災害防止協会 前掲書
      ※2 ACGIH「“Manganese, elemental and inorganic compounds.” Documentation of Threshold Limited Value and Biological Exposure Indices.」(2013年)
      一般の粉じんが形状が整っていないのに比して、ヒュームの形状は、球形のものが多く形が整っている。
      球形をしているのは、気体がいったん液体となって一次粒子を形成するときに表面張力で球形となり、それが固体となるからである(※)。なお、青銅ヒュームなどでは球形ではなく固有の結晶形をしている。
      ※ 西田隆法「溶接ヒュームと防御対策」(溶接学会誌 Vol.62 No.7 1993年)など
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    • 【解答例】
      ヒュームは高温で気化した金属が、空気中で酸化、凝縮して球状又は結晶状の整った固体の粒子として空気中に浮遊している。
      個々の粒子の粒径は 0.01〜1µm 程度であるが、互いに引き合って直鎖状に連なっており、インハラブル粒子とレスピラブル粒子の比は、1:1である。
      作業者の呼吸域においては、被覆系に関係なく、1μm 程度のものが多いとの報告もあり、作業者が吸引すると容易に肺胞に達する。
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  •   ② 発がん性について説明せよ。

    • 【解説】
      厚労省の以下の報告書によると、溶接ヒュームのばく露による有害性については、溶接ヒュームのばく露による肺がんのリスクが上昇していることが多数報告され、ばく露量=作用関係も大規模疫学研究等で確認されたとされている。
      【溶接ヒュームのばく露による肺がんのリスク】
      Ⅲ 検討結果
      第1 マンガン及びその化合物並びに溶接ヒュームへの健康障害防止対策の基本的考え方
      3 溶接ヒュームの特定化学物質としての位置付けについて
      (1)溶接ヒュームのばく露による有害性については、マンガンによる神経機能障害のほか、肺がんのリスクが上昇していることが報告され、ばく露量-作用関係もいくつかの大規模研究で確認されたとされている(資料 略)
      (2)このため、「溶接ヒューム」と「マンガン及びその化合物」の毒性や健康影響は異なる可能性が高いことから、「溶接ヒューム」を独立した特定化学物質(管理第2類物質)として位置付けることが妥当である。
      (3)発がん性に伴う特別管理物質への位置付けについては、溶接ヒュームは、疫学研究によって発がん性があることが示されたが、原因物質は特定されず、じん肺を機序とする原発性肺がんとの区別もついていない(資料 略)。(以下略)
      4 溶接ヒュームの特殊健康診断の項目
      (1)(略)
      (2)肺がんについては、じん肺を機序とする原発性肺がんとの区別がついていないことから、(以下略)
      ※ 厚生労働省「令和元年度 化学物質による労働者の健康障害防止措置に係る検討会 報告書」(2020 年2月 10 日)
      すなわち、溶接ヒュームについては、疫学研究によって発がん性があることが示されたが、原因物質は特定されず、じん肺を機序とする原発性肺がんとの区別がついていないとされている。
      なお、IARC は、「溶接ヒューム及び溶接におけるアーク光」についてグループ1(ヒトへの発がん性あり)と分類している。
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    • 【解答例】
      溶接ヒュームについては、疫学研究によって発がん性があることが示されている。しかし、原因物質は特定されず、また、じん肺を機序とする原発性肺がんとの区別もついていない。
      なお、IARC(国際がん研究機関)は、「溶接ヒューム及び溶接におけるアーク光」についてグループ1(ヒトへの発がん性あり)と分類している。
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  •   ③ 溶接ヒュームに含まれる化学物質で神経機能障害の原因となる金属元素及びその化合物を答えよ。

    • 【解説】
      厚労省の下記通達によると 2020年(令和2年)に、溶接ヒュームについて「労働者に神経障害等の健康障害を及ぼすおそれがあることが(行政的に:引用者注)明らかになった」とされている。
      【溶接ヒュームのばく露による肺がんのリスク】
      第1 改正の趣旨及び概要等
      1 改正の趣旨
      (略)
      今般、新たに「溶接ヒューム」及び「塩基性酸化マンガン」について、労働者に神経障害等の健康障害を及ぼすおそれがあることが明らかになったことから、(中略)労働者の化学物質へのばく露防止措置や健康管理を推進するため、労働安全衛生法施行令(法令番号等略)、特定化学物質障害予防規則(法令番号等略)、作業環境評価基準(法令番号等略)、作業環境測定基準(法令番号等略)等について、所要の改正を行ったものである。
      ※ 厚生労働省「労働安全衛生法施行令の一部を改正する政令等の施行等について」(令和2年4月 22 日基発 0422 第4号)
      これについて、厚労省の WEB サイトの職場のあんぜんサイトの安全衛生キーワード「アーク溶接」は、「溶接ヒュームに含まれる酸化マンガン(MnO)について神経機能障害、三酸化二マンガン(Mn2O3)について神経機能障害、呼吸器系障害があることが指摘されています」としている。
      岩崎(※)が、厚労省の見解をわかりやすく表にまとめているので紹介しておく。
      ※ 岩崎明夫「溶接ヒュームの健康障害とその対策」(産業保健21 Vol.106 2021.10)
      表 溶接ヒュームの性状と健康障害
      主な有害性(発がん性、その他の有害性) 性状
      発がん性
      国際がん研究機関(IARC)グループ1
      ヒトに対する発がん性
      溶接により生じた蒸気が空気中で凝固した固体の粒子
      (粒径 0.1 ~1 ㎛ 程度)
      その他
      溶接ヒュームに含まれる酸化マンガン(MnO)について神経機能障害
      三酸化二マンガン(Mn2O3)について神経機能障害、呼吸器系障害
      ※ 岩崎明夫「溶接ヒュームの健康障害とその対策」(産業保健21 Vol.106 2021.10)
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    • 【解答例】
      溶接ヒュームに含まれる酸化マンガン及び三酸化二マンガンについて、神経機能障害があるとされる。
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  • (2)(1)の③による神経機能障害の疾患名を述べよ。また、同疾患において出現する症状を四つ挙げよ。

    • 【解説】
      1 神経機能障害の疾患名
      マンガン及びその化合物によって、精神・神経症状が出現することは、かなり古くから判明していたことである。厚労省の次の通達にも明確なように、典型的な職業性疾病のひとつとして扱われている。
      【マンガンによる神経症状】
        マンガン等にばく露する業務に従事し、又は従事していた労働者に発生した次の1又は2のいずれかに該当する疾病であって、医学上療養を必要とすると認められるものは、労働基準法施行規則別表第1の2第4号1の規定に基づく昭和53年労働省告示第36号の表に掲げる「マンガン及びその化合物」による疾病として取り扱うこと。
      1.精神・神経症状を示す疾病であって、次の(1)、(2)及び(3)のいずれの要件をも満たすもの
      (1)相当の濃度のマンガン等を含む粉じん、ヒューム等にばく露する業務に一定期間にわたり従事し、又は従事したことのある労働者に発生したものであること。
      (2)初期には神経衰弱様の症状などが現われ、その後錐体外路症候(パーキンソン症候群様症状)を中核とした多彩な神経症状が、進行性に出現してくるものであること。
      (3)上記の症状及び症候がマンガン等以外の原因によって発症したものでないと判断されるものであること。
      〔解説〕
      4.精神・神経症状
      (1)初期の症状
        神経衰弱様症状としては、全身倦怠感、易疲労感と意欲の乏しさを主徴とし、若年者にも性欲の低下を訴える者がいる。また、ねむけ、記銘・記憶障害、時には頑固な不眠、さらには食思不振や動作緩慢、つまずき易さを来たすこともある。
        時には精神病的症状として、精神興奮状態がみられ高揚気分、多弁等そう的状態が出現し、時に攻撃的となり、暴力行為もみられ、衝動行為や目的の不明な行動も現われる。まれに幻覚や妄想が出現する。また、うつ状態や無気力、無為となる例もみられる。
        しかしながら、これら初期の精神・神経症状の軽度のものは時に看過されることがある。
      (2)中間期及び確立期の症状
      イ 精神症状
        中間期には、初期の症状の増強に加え、客観的精神症状が明らかになる。最も多いのは、強迫笑又は強迫泣であり、一般に、誘因がなくて唐突に起こる。
        記銘・記憶障害は、中間期の初めに出現することがあるが、重症化することはない。また、確立期の精神症状としては、精神病的症状は消退し、残遺症状として無気力、多幸、軽度の知能低下、強迫笑、強迫泣のほか、無関心、意欲減退などが残る。
      ロ 神経症状
        中間期及び確立期では、神経症状が次第に明確になる。この神経症状は、錐体外路症候、錐体路症候、小脳症候、末梢神経症候、自律神経症候等に分けられ、その現われ方は複雑であるが、錐体外路症候、錐体路症候及び小脳症候が重要である。これらの組合わせにより、(イ)錐体外路症候が主体のもの、(ロ)錐体外路症候に錐体路症候を伴うもの、並びに(ハ)錐体外路症候、錐体路症候及び小脳症候の3つの症候を伴うものに分けられ、その発現頻度は(イ)が最も高く、次いで(ロ)、(ハ)の順である。
        主な神経症状を症候別に区分するとおおむね次のとおりである。
        錐体外路症候:寡動、筋緊張亢進、仮面様顔貌、振戦、歩行障害、後方突進、側方突進(前方突進はあまりみられない。)、言語障害、書字拙劣、小書症等のパーキンソン症候群様症状、痙性斜頸
        錐体路症候:腱反射亢進、バビンスキー反射陽性、歩行障害、言語障害
        小脳症候:変換運動障害、運動失調
        末梢神経症候:複視、筋萎縮、遠位部知覚障害
        自律神経症候:発汗亢進、流涎、膏顔
      (3)症状出現の特徴
        マンガン等による精神・神経症状を示す疾病は、上記(1)及び(2)のとおり多岐にわたっており、その症状の組合わせは症例によって種々であるので、十分留意すること。
      (4)及び(5)(略)
      ※ 厚生労働省「マンガン又はその化合物(合金を含む。)による疾病の認定基準について」(昭和 58 年1月5日基発第2号)
      本小問については、上記通達の4の(2)のロに従って解答すればよいものと思われる。
      2 同疾患において出現する症状
      なお、参考までに、厚労省の前掲報告書に引用された文献を紹介しておく。
      【マンガン及びその化合物による神経機能作用の症状】
      別紙1 マンガン及びその化合物(塩基性酸化マンガンを含む)による健康影響等に関する文献
      2 溶接ヒュームに含まれるマンガンによる健康影響について
      (2)Bowler ら(2007)は、閉鎖空間で溶接を行っていた 43 人の溶接工の時間平均のマンガン濃度(全粉じん)が0.11-0.46mg/m3であり、マンガンの累積ばく露指標(CEI)と神経機能作用との間に、統計的に有意な、ばく露反応関係があったと報告している。
         溶接工が訴えた神経機能作用の症状としては、震え(tremors, 41.9%)、感覚障害(numbness, 60.5%)、著しい疲労感、(excessive fatigue, 65.1%)、不眠(sleep disturbance, 79.1%)、性不能(sexual dysfunction, 58.1%)、幻覚(toxic hallucinations, 18.6%)、うつ(depression, 53.5%)、不安(anxiety, 39.5%)が上げられている。このうち、性不能(p<0.05)、疲労(p<0.05)、うつ(p<0.01)、頭痛(p<0.05)については、累積ばく露指標(CEI)と統計上有意な関連があった。
      ※ 厚生労働省「令和元年度 化学物質による労働者の健康障害防止措置に係る検討会 報告書」(2020 年2月 10 日)
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    • 【解答例】
      マンガン及びその化合物による神経機能障害の疾患名としては下記のものがあり、それぞれの症状は以下の通りである。
      ア 錐体外路症候:(症状)寡動、筋緊張亢進、仮面様顔貌、振戦、歩行障害、後方突進、側方突進(前方突進はあまりみられない。)、言語障害、書字拙劣、小書症等のパーキンソン症候群様症状、痙性斜頸
      イ 錐体路症候:(症状)腱反射亢進、バビンスキー反射陽性、歩行障害、言語障害
      ウ 小脳症候:(症状)変換運動障害、運動失調
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  • (3)「溶接ヒューム」を取り扱う業務に常時従事する労働者に対して行う特定化学物質健康診断のうち、6か月以内ごとに1回、定期に行う健康診断における健康診断項目を五つ挙げよ。

    • 【解説】
      本小問については、「溶接ヒューム」を取り扱う業務に常時従事する労働者に対して行う特定化学物質健康診断の項目が法定されているので、それに従って解答する。
      具体的には、特化則別表第三第六十二号の内容を答えればよい。
      【労働安全衛生法】
      (健康診断)
      第66条 (第1項 略)
       事業者は、有害な業務で、政令で定めるものに従事する労働者に対し、厚生労働省令で定めるところにより、医師による特別の項目についての健康診断を行なわなければならない。有害な業務で、政令で定めるものに従事させたことのある労働者で、現に使用しているものについても、同様とする。
      3~5 (略)
      【労働安全衛生法施行令】
      (健康診断を行うべき有害な業務)
      第22条 法第66条第2項前段の政令で定める有害な業務は、次のとおりとする。
      一及び二 (略)
       別表第三第一号若しくは第二号に掲げる特定化学物質(中略)を製造し、若しくは取り扱う業務(以下略)
      四~六 (略)
      別表第三 特定化学物質(第六条、第十五条、第十七条、第十八条、第十八条の二、第二十一条、第二十二条関係)
       (略)
       第二類物質
      1~34 (略)
      34の2 溶接ヒューム
      34の3~37 (略)
       (略)
      【特定化学物質障害予防規則】
      (健康診断の実施)
      第39条 事業者は、令第22条第1項第三号の業務(中略)に常時従事する労働者に対し、別表第三の上欄に掲げる業務の区分に応じ、雇入れ又は当該業務への配置替えの際及びその後同表の中欄に掲げる期間以内ごとに1回、定期に、同表の下欄に掲げる項目について医師による健康診断を行わなければならない。
      2~7 (略)
      別表第三 (第三十九条関係)
      業務 期間 項目
      (略) (略) (略) (略)
      (六十二) 溶接ヒューム(これをその重量の1パーセントを超えて含有する製剤その他の物を含む。)を製造し、又は取り扱う業務 六月
      一 業務の経歴の調査
      二 作業条件の簡易な調査
      三 溶接ヒュームによるせき、たん、仮面様顔貌、こう顔、流えん、発汗異常、手指の振せん、書字拙劣、歩行障害、不随意性運動障害、発語異常等のパーキンソン症候群様症状の既往歴の有無の検査
      四 せき、たん、仮面様顔貌、こう顔、流えん、発汗異常、手指の振せん、書字拙劣、歩行障害、不随意性運動障害、発語異常等のパーキンソン症候群様症状の有無の検査
      五 握力の測定
      (略) (略) (略) (略)
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    • 【解答例】
      一 業務の経歴の調査
      二 作業条件の簡易な調査
      三 溶接ヒュームによるせき、たん、仮面様顔貌、こう顔、流えん、発汗異常、手指の振せん、書字拙劣、歩行障害、不随意性運動障害、発語異常等のパーキンソン症候群様症状の既往歴の有無の検査
      四 せき、たん、仮面様顔貌、こう顔、流えん、発汗異常、手指の振せん、書字拙劣、歩行障害、不随意性運動障害、発語異常等のパーキンソン症候群様症状の有無の検査
      五 握力の測定
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  • (4)屋内作業場で金属アーク溶接等作業に常時従事する労働者に対して行うことが必要となる特別の項目の健康診断について、特定化学物質健康診断の他に二つ挙げよ。

    • 【解説】
      特定化学物質健康診断の他にとされているで、これは、おそらく「じん肺健康診断」と「紫外線・赤外線健康診断(昭和31年5月18日基発第308号(※))」のことを問うているのであろう。
      ※ この通達は、ネット上に公開されていないので、原文を確認できなかったが、アーク溶接作業従事者に対する紫外線・赤外線健康診断を求めていることは事実である。
      なお、(3)では挙げなかったが、特化則の特殊健康診断で、金属アーク溶接等作業に常時従事する労働者に対して実施するべきものとしては、「マンガンを製造し又は取扱うものに対する特殊健康診断」が挙げられる。
      また、アーク溶接作業のうちガウジング作業はかなりの騒音を発生するが、行政のガイドライン(※)では、騒音の健康診断の対象とはされていないので、解答例には挙げなかった。しかし、実務においては、騒音が激しければそのレベルを測定して、必要に応じて騒音健康診断を行うべきである。
      ※ 令和5年4月20日 基発0420第2号「騒音障害防止のためのガイドラインの改訂について
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    • 【解答例】
      じん肺健康診断及び紫外線・赤外線健康診断
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  • (5)空気中の溶接ヒュームの濃度の測定について、次の問に答えよ。
    ① 第三管理区分に区分された場所について作業環境管理専門家が改善困難と判断した場合等は、個人サンプリング測定等による化学物質の濃度測定を行うこととされている。個人サンプリング測定における測定方法について、A測定・B測定と対比し、250 字程度で述べよ。

    • 【解説】
      1 溶接ヒュームの測定についての規定
      溶接ヒュームの濃度の測定に関する問題であるが、そもそも溶接ヒューム(安衛令別表第3第二号同号34の2に掲げる物)は安衛令第 21 条第七号の括弧書きにより、作業環境の対象とはされていない(※)。従って、これはマンガンに関する問いか、一般論としての作業環境測定についての設問であると思われる。
      ※ 溶接ヒュームの濃度の測定は、特化則第 38 条の 21 第2項 によって義務付けられているが、これは作業環境測定ではないので、その結果を管理区分に分類することはない(報道発表「「金属アーク溶接等作業を継続して行う屋内作業場に係る溶接ヒュームの濃度の測定の方法等」を告示しました」参照)。
      【労働安全衛生法】
      (作業環境測定)
      第65条 事業者は、有害な業務を行う屋内作業場その他の作業場で、政令で定めるものについて、厚生労働省令で定めるところにより、必要な作業環境測定を行い、及びその結果を記録しておかなければならない。
      2~5 (略)
      【労働安全衛生法施行令】
      (作業環境測定を行うべき作業場)
      第21条 事業者は、有害な業務を行う屋内作業場その他の作業場で、政令で定めるものについて、厚生労働省令で定めるところにより、必要な作業環境測定を行い、及びその結果を記録しておかなければならない。
      一~六 (略)
       別表第三第一号若しくは第二号に掲げる特定化学物質(同号34の2に掲げる物及び同号37に掲げる物で同号34の2に係るものを除く。)を製造し、若しくは取り扱う屋内作業場(同号3の3、11の2、13の2、15、15の2、18の2から18の4まで、19の2から19の4まで、22の2から22の5まで、23の2、33の2若しくは34の3に掲げる物又は同号37に掲げる物で同号3の3、11の2、13の2、15、15の2、18の2から18の4まで、19の2から19の4まで、22の2から22の5まで、23の2、33の2若しくは34の3に係るものを製造し、又は取り扱う作業で厚生労働省令で定めるものを行うものを除く。)、石綿等を取り扱い、若しくは試験研究のため製造する屋内作業場若しくは石綿分析用試料等を製造する屋内作業場又はコークス炉上において若しくはコークス炉に接してコークス製造の作業を行う場合の当該作業場
      八~十 (略)
      別表第三 特定化学物質(第六条、第十五条、第十七条、第十八条、第十八条の二、第二十一条、第二十二条関係
       (略)
       第二類物質
      1~34 (略)
      34の2 溶接ヒューム
      34の3~36 (略)
      37 1から36までに掲げる物を含有する製剤その他の物で、厚生労働省令で定めるもの
       (略)
      2 第3管理区分となった場所の測定に関する規定についての概要
      本小問の特化則に関する「個人サンプリング測定等による化学物質の濃度測定」(確認測定)は、特化則第 36 条の3の2第4項の規定により、作業環境測定(※)の結果、第3管理区分となった場合に義務付けられるものである。
      ※ 繰り返すが、溶接ヒュームは、作業環境の対象ではない。
      【特定化学物質障害予防規則】
      第36条の3の2 事業者は、前条第2項の規定による評価の結果、第三管理区分に区分された場所(同条第1項に規定する措置を講じていないこと又は当該措置を講じた後同条第2項の評価を行つていないことにより、第一管理区分又は第二管理区分となつていないものを含み、第5項各号の措置を講じているものを除く。)については、遅滞なく、次に掲げる事項について、事業場における作業環境の管理について必要な能力を有すると認められる者(当該事業場に属さない者に限る。以下この条において「作業環境管理専門家」という。)の意見を聴かなければならない。
       当該場所について、施設又は設備の設置又は整備、作業工程又は作業方法の改善その他作業環境を改善するために必要な措置を講ずることにより第一管理区分又は第二管理区分とすることの可否
       (略)
      2及び3 (略)
       事業者は、第1項の第三管理区分に区分された場所について、前項の規定による評価の結果、第三管理区分に区分された場合又は第1項第一号の規定により作業環境管理専門家が当該場所を第一管理区分若しくは第二管理区分とすることが困難と判断した場合は、直ちに、次に掲げる措置を講じなければならない。
       当該場所について、厚生労働大臣の定めるところにより、労働者の身体に装着する試料採取器等を用いて行う測定その他の方法による測定(以下この条及び第36条の三の四において「個人サンプリング測定等」という。)により、特定化学物質の濃度を測定し、厚生労働大臣の定めるところにより、その結果に応じて、労働者に有効な呼吸用保護具を使用させること(当該場所において作業の一部を請負人に請け負わせる場合にあつては、労働者に有効な呼吸用保護具を使用させ、かつ、当該請負人に対し、有効な呼吸用保護具を使用する必要がある旨を周知させること。)。ただし、前項の規定による測定(当該測定を実施していない場合(第1項第一号の規定により作業環境管理専門家が当該場所を第一管理区分又は第二管理区分とすることが困難と判断した場合に限る。)は、前条第2項の規定による測定)を個人サンプリング測定等により実施した場合は、当該測定をもつて、この号における個人サンプリング測定等とすることができる。
      二~四 (略)
      5~9 (略)
      この特化則第 36 条の3の2第4項による確認測定(本小問の特定化学物質等の個人サンプリング法等による化学物質の濃度測定)の具体的な手法については、厚生労働大臣告示「第三管理区分に区分された場所に係る有機溶剤等の濃度の測定の方法等」(2022年(令和4年)11月30日厚生労働省告示第341号)第7条によって定められている。
      これによると、確認測定は、作業環境測定(※1)又は個人ばく露測定(※2)によって行うものとされている。
      ※1 この場合、一般論としては、労働者の身体に装着する試料採取機器等を用いて行う作業環境測定(C測定・D測定)が原則である。ここに、D測定は、最も濃度が高くなる時間と作業位置で行う個人サンプリング法による作業環境測定である。
      なお、個人サンプリング法が不可の物質の場合はA測定・B測定を実施することとされているが、マンガンはとくに不可とはされていない。
      ※2 労働者の身体に装着する試料採取機器等を用いて行う方法により、労働者個人のばく露(労働者の呼吸域の濃度)を測定する方法。これは、作業管理のために行われる測定である。
      なお、C測定・D測定はあくまでも作業環境の測定であり、作業環境の評価を行うためのものである。
      具体的の、この告示の第7条は、次のように、特定個人サンプリング法対象特化物(第1項第一号又は第2項)、とそれ以外(第1項第二号)にわけて規定している。
      【特定化学物質の濃度の測定の方法等】
      (特定化学物質の濃度の測定の方法等)
      第7条 特化則第36条の3の2第4項第一号の規定による測定は、次の各号に掲げる区分に応じ、それぞれ当該各号に定めるところによらなければならない。
       労働安全衛生法施行令(昭和47年政令第318号。次号において「令」という。)別表第三第一号3若しくは6又は同表第二号1、2、5から7まで、8の2から11まで、13、13の2、15から18まで、19、19の4から22まで、23から23の3まで、25、27、27の2、30、31の2、33、34の3若しくは36に掲げる物(以下この条において「特定個人サンプリング法対象特化物」という。)の濃度の測定 測定基準第10条第5項各号に定める方法
       令別表第三第一号3、6若しくは7に掲げる物又は同表第二号1から3まで、3の3から7まで、8の2から11の2まで、13から25まで、27から31の2まで若しくは33から36までに掲げる物(以下第八条において「特定化学物質」という。)であって、前号に掲げる物以外のものの濃度の測定 測定基準第10条第4項において読み替えて準用する測定基準第2条第1項第一号から第三号までに定める方法
       前項の規定にかかわらず、特定個人サンプリング法対象特化物の濃度の測定は、次に定めるところによることができる。
       試料空気の採取は、特化則第36条の3の2第4項柱書に規定する第三管理区分に区分された場所において作業に従事する労働者の身体に装着する試料採取機器を用いる方法により行うこと。この場合において、当該試料採取機器の採取口は、当該労働者の呼吸する空気中の特定個人サンプリング法対象特化物の濃度を測定するために最も適切な部位に装着しなければならない。
       前号の規定による試料採取機器の装着は、同号の作業のうち労働者にばく露される特定個人サンプリング法対象特化物の量がほぼ均一であると見込まれる作業ごとに、それぞれ、適切な数(2以上に限る。)の労働者に対して行うこと。ただし、当該作業に従事する一の労働者に対して、必要最小限の間隔をおいた2以上の作業日において試料採取機器を装着する方法により試料空気の採取が行われたときは、この限りでない。
       試料空気の採取の時間は、当該採取を行う作業日ごとに、労働者が第一号の作業に従事する全時間とすること。
       前2項に定めるところによる測定は、測定基準別表第一の上欄に掲げる物の種類に応じ、それぞれ同表の中欄に掲げる試料採取方法又はこれと同等以上の性能を有する試料採取方法及び同表の下欄に掲げる分析方法又はこれと同等以上の性能を有する分析方法によらなければならない。
      ※ 厚生労働省「第三管理区分に区分された場所に係る有機溶剤等の濃度の測定の方法等」(最終改訂:2024(令和6年)4月10日厚生労働省告示第187号)
      なお、特定化学物質のC、D測定の具体的な方法については、作業環境測定基準第 10 条第5項に定められている。
      【特定化学物質の濃度の測定】
      (特定化学物質の濃度の測定)
      第10条 (第1項~第3項 略)
       第二条第一項第一号から第三号までの規定は、前三項に規定する測定について準用する。この場合において、同条第一項第一号、第一号の二及び第二号の二中「土石、岩石、鉱物、金属又は炭素の粉じん」とあるのは、「令別表第三第一号1から7までに掲げる物又は同表第二号1から36までに掲げる物(同号34の2に掲げる物を除く。)」と、同項第三号ただし書中「相対濃度指示方法」とあるのは「直接捕集方法又は検知管方式による測定機器若しくはこれと同等以上の性能を有する測定機器を用いる方法」と読み替えるものとする。
       前項の規定にかかわらず、第一項に規定する測定のうち、令別表第三第一号1、3から6まで又は同表第二号1、2、3の2、5から11まで、13、13の2、15から18まで、19、19の4から22まで、23から23の3まで、25から27の2まで、30、31の2から33まで、34の3若しくは36に掲げる物(以下この項において「個人サンプリング法対象特化物」という。)の濃度の測定は、次に定めるところによることができる。
       試料空気の採取等は、単位作業場所において作業に従事する労働者の身体に装着する試料採取機器等を用いる方法により行うこと。
       前号の規定による試料採取機器等の装着は、単位作業場所において、労働者にばく露される個人サンプリング法対象特化物の量がほぼ均一であると見込まれる作業ごとに、それぞれ、適切な数の労働者に対して行うこと。ただし、その数は、それぞれ、5人を下回つてはならない。
       第一号の規定による試料空気の採取等の時間は、前号の労働者が一の作業日のうち単位作業場所において作業に従事する全時間とすること。ただし、当該作業に従事する時間が2時間を超える場合であつて、同一の作業を反復する等労働者にばく露される個人サンプリング法対象特化物の濃度がほぼ均一であることが明らかなときは、2時間を下回らない範囲内において当該試料空気の採取等の時間を短縮することができる。
       単位作業場所において作業に従事する労働者の数が5人を下回る場合にあつては、第二号ただし書及び前号本文の規定にかかわらず、一の労働者が一の作業日のうち単位作業場所において作業に従事する時間を分割し、2以上の第一号の規定による試料空気の採取等が行われたときは、当該試料空気の採取等は、当該2以上の採取された試料空気の数と同数の労働者に対して行われたものとみなすことができること。
       個人サンプリング法対象特化物の発散源に近接する場所において作業が行われる単位作業場所にあつては、前各号に定めるところによるほか、当該作業が行われる時間のうち、空気中の個人サンプリング法対象特化物の濃度が最も高くなると思われる時間に、試料空気の採取等を行うこと。
       前号の規定による試料空気の採取等の時間は、15分間とすること。
      6~9 (略)
      ※ 厚生労働省「作業環境測定基準」(最終改訂:2024(令和6年)4月10日厚生労働省告示第187号)
      3 A測定・B測定と個人サンプリング法(C測定・D測定)の比較
      次に厚労省の報道発表資料から、A測定・B測定と個人サンプリング法(C測定・D測定)の比較を示す。なお、C測定・D測定と個人ばく露測定は似て非なるものである。C測定・D測定は場の評価を行うことを目的として入り、個人ばく露測定は個人のばく露の評価を目的とするものである(※)
      ※ このため、C測定が作業を行っている時間のみサンプリングを行って気中濃度は作業時間で除して算出するのに対し、個人ばく露測定では作業を行っていない間もサンプリングを行いばく露濃度は全労働時間(8時間)で除して算出する。
      表 A・B測定と個人サンプリング法(C・D測定)の比較
      主な有害性(発がん性、その他の有害性) A・B測定 個人サンプリング法
      (C・D測定)
      測定の目的 有害物を取り扱う作業が行われる作業場所の作業環境の良否を評価し、環境改善対策の必要性を明らかにすること。
      デザイン 測定対象物質 指定作業場において取扱物質として測定の対象に設定した物質
      指定作業場で取り扱われる化学物質のうち、以下のもの。
      ① 個人サンプリング法対象特化物
        ベリリウムおよびその化合物など
      ② 鉛及びその化合物
      ③ 第1種有機溶剤等、第2種有機溶剤等及び特別有機溶剤等
      ④ 粉じん(遊離けい酸含有率が著しく高いものを除く)
      単位作業場所 当該作業場の区域のうち、労働者の作業中の行動範囲、有害物の分布等の状況等に基づき定められる作業環境測定のために必要な区域(作業環境測定基準第2条)
      測定点(測定対象者)の決定の考え方 測定場所の床面上に6メートル以上の等間隔で引いた縦横線の交点の床上50cm~150cmの位置 均等ばく露作業ごとに、それぞれ、適切な労働者に対して行う。
      測定点(測定対象者)の数 A測定は、一単位作業場所につき5つ以上を測定する。
      B測定は、最も濃度が高くなる時間と作業位置で測定する。
      C測定は、一単位作業場所につき、均等ばく露作業の労働者を5名以上測定する。D測定は、最も濃度が高くなる時間で測定する。
      サンプリング 測定時間
      ・ 1測定点ごとに継続した10分間以上を測定。
      ・ 一単位作業場所の測定は1時間以上。
      ・ 試料採取機器を装着した労働者個々の均等ばく露作業の全時間を測定。(作業時間が2時間を超える場合であって、同一の作業を反復して行う等、ばく露濃度がほぼ均一であることが明らかなときは、2時間を下回らない時間)
      ・ D測定の場合は、測定を継続して15分間行う。
      分析 分析方法等 作業環境測定基準に基づき行う。
      評価 測定結果の評価方法 作業環境評価基準に基づき行う。
      ※ 厚生労働省報道発表資料「「第三管理区分に区分された場所に係る有機溶剤等の濃度の測定の方法等」に関する告示について」の別添「概要」より引用
      問題は、これをどう回答するかであるが、A、B測定と対比させて答えよとなっているので、測定する場所、測定する時間、測定する時間帯について解答すればよいであろう。
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    • 【解答例】
      安衛法における個人サンプリング測定は、平均的な作業者のばく露量及び、作業者の中で最もばく露量が高くなる時間帯のばく露量を測定する。これに対し、A測定は場の平均的な濃度を測定し、B測定は(作業者が移動する範囲内で)最も濃度が高くなる場所・時間帯について測定する。
      A測定が作業場を均等に区分して床上 50cm から 150cm の高さでサンプリングを行うのに対し、個人サンプリング測定では作業者の身体(呼吸域近傍)に装着してサンプリングを行う。
      測定する時間は、A測定・B測定が 10 分以上の連続した時間であるのに対し、個人ばく露測定では原則として全作業時間(少なくとも2時間以上)で、最もばく露量が高くなる時間帯の測定は15分である。
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  •   ② 空気中の溶接ヒュームの濃度の測定と労働安全衛生法第 65 条に基づく作業環境測定との違いについて説明せよ。

    • 【解説】
      先述したように、溶接ヒュームの濃度の測定は、特化則第 38 条の 21 第2項 によって義務付けられている。これは安衛法第 65 条を根拠とする作業環境測定の義務付けではない(※)
      ※ このため、特化則第 38 条の 21 第2項の測定には、安衛法第 65 条第2項の作業環境測定基準は定められておらず、測定の方法については別途告示(令和2年7月 31 日厚生労働省告示第 286 号)が定められている。また、この測定を実施した結果について、安衛法第 65 条の2の義務はない。
      特化則第 38 条の 21 第2項の測定実施義務の安衛法上の根拠条文については、厚労省は明確には公表していないが、安衛法第 22 条(第一号)であると考えるのが自然である。
      この測定に関する関連の告示や通達類は、厚労省の報道発表「「金属アーク溶接等作業を継続して行う屋内作業場に係る溶接ヒュームの濃度の測定の方法等」を告示しました」に別添としてまとめられている。
      【特定化学物質障害予防規則】
      (金属アーク溶接等作業に係る措置)
      第38条の21 (第1項 略)
       事業者は、金属アーク溶接等作業を継続して行う屋内作業場において、新たな金属アーク溶接等作業の方法を採用しようとするとき、又は当該作業の方法を変更しようとするときは、あらかじめ、厚生労働大臣の定めるところにより、当該金属アーク溶接等作業に従事する労働者の身体に装着する試料採取機器等を用いて行う測定により、当該作業場について、空気中の溶接ヒュームの濃度を測定しなければならない。
      3~12 (略)
      ここで、注意しておかなければならないことは、特化則第 38 条の 21 第2項の測定の目的は、あくまでも場の評価であって、個人のばく露状況を評価するためのものではないということである。その点については作業環境測定と同じなのである。
      この測定と、作業環境測定の違いは次のようなことであろう。
      表 作業環境測定と溶接ヒューム測定(特化則)の比較
      作業環境測定 溶接ヒューム測定(特化則)
      測定の目的 作業場の場の評価を目的とする 使用する保護具の要求性能防護係数を明らかにすることを目的とする。
      測定の時期 法定された一定期間ごとに定期的に行う 新たな金属アーク溶接等作業の方法を採用しようとするとき、又は当該作業の方法を変更しようとするとき
      測定の方法 A測定・B測定又はC測定・D測定。 作業に従事する労働者の身体に装着する試料採取機器を用いる方法により行う。
      測定の最低数 C測定は5以上、その他にD測定を行う。 測定の数は2以上、D測定に当たるものはゴムづけられない。
      測定の結果の活用 測定結果を評価し、第3管理区分となったときは第1管理区分又は第2管理区分になるようにし、困難な場合は専門家の意見を聴いて必要な措置を採る。 測定結果に応じた有効な呼吸用保護具を使用させる。
      記録の保存義務 記録を作成し、測定のときから起算して、測定対象物質に応じて法定されている期間保存する。 その測定に係る金属アーク溶接等作業の方法を用いなくなつた日から起算して3年を経過する日まで保存。
      結果の周知 測定の結果を評価した記録、測定結果に基づき講ずる措置及びその措置をした結果に基づく評価の結果を労働者に周知する。 関係請負人に対して、有効な呼吸用保護具を使用する必要がある旨を(その労働者に対して)周知させなければならない。(直接雇用する労働者に対しては、保護具を使用させる義務があるので、使用の必要性を周知する義務は法定されてはいない。)
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    • 【解答例】
      空気中の溶接ヒュームの濃度の測定と労働安全衛生法第 65 条に基づく作業環境測定との違いには、以下のようなことがある。
      1 測定の目的(測定結果の活用)
      (1)溶接ヒュームの濃度の測定  :使用する保護具の要求性能防護係数を明らかにすることを目的とする。
      (2)作業環境測定(安衛法第65条):作業場の場の評価を目的とし、問題がある場合には、作業環境の改善、困難な場合の専門家への意見聴取、必要な保護具の着用等を行う。
      2 実施の時期
      (1)溶接ヒュームの濃度の測定  :新たな金属アーク溶接等作業の方法を採用しようとするとき、又は当該作業の方法を変更しようとするときに行う。
      (2)作業環境測定(安衛法第65条):法定された一定の期間以内ごとに定期的に行う。
      3 具体的な測定方法
      (1)溶接ヒュームの濃度の測定  :作業に従事する労働者の身体に装着する試料採取機器を用いる方法により行う。なお、最低の測定数は原則として2以上とする。
      (2)作業環境測定(安衛法第65条):以下のいずれかの方法によって行う。
      ア 作業場を一定間隔で格子状に分けた交点及び最も気中濃度が高くなる時間・場所における測定。原則として、2日間で行う。
      イ 作業に従事する労働者の身体に装着する試料採取機器を用いる方法。少なくとも5人以上の作業者について測定するとともに、原則として(その他に)最もばく露が高くなると考えられる作業者についても測定する。
      4 結果の周知義務
      (1)溶接ヒュームの濃度の測定  :関係請負人に対して測定の結果から必要と考えられる保護具の必要性について周知させる。
      (2)作業環境測定(安衛法第65条):測定の結果、その結果に応じて取った措置等について、労働者及び関係請負人に対して周知する。
      5 結果の保存義務
      (1)溶接ヒュームの濃度の測定  :その測定に係る金属アーク溶接等作業の方法を用いなくなつた日から起算して3年を経過する日まで保存。
      (2)作業環境測定(安衛法第65条):測定のときから、測定の結果等について、測定対象物質ごとに法定された期間まで保存する。
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  •   ③ 空気中の溶接ヒュームの濃度の測定を行う場合、試料採取機器の採取口の装着部位の留意事項について説明せよ。

    • 【解説】
      先述したように、溶接ヒュームの濃度の測定は、特化則第 38 条の 21 第2項 によって義務付けられている。そして、同項では、「厚生労働大臣の定めるところにより」測定しなければならないとされている。
      この労働大臣の定めるところは、次の告示に定められているが、本小問の「試料採取機器の採取口の装着部位」は、この告示の第1条第一号に定められている。
      【金属アーク溶接等作業を継続して行う屋内作業場に係る溶接ヒュームの濃度の測定の方法等】
      (溶接ヒュームの濃度の測定)
       試料空気の採取は、特化則第27条第2項に規定する金属アーク溶接等作業(次号及び第三号において「金属アーク溶接等作業」という。)に従事する労働者の身体に装着する試料採取機器を用いる方法により行うこと。この場合において、当該試料採取機器の採取口は、当該労働者の呼吸する空気中の溶接ヒュームの濃度を測定するために最も適切な部位に装着しなければならない
      二~四 (略)
      ※ 厚生労働省「金属アーク溶接等作業を継続して行う屋内作業場に係る溶接ヒュームの濃度の測定の方法等」(令和2年7月 31 日厚生労働省告示第 286 号)より
      そして、その留意事項が次の労働基準局長通達に示されている。
      【試料採取機器の採取口の装着部位の留意事項】
      第2 細部事項
      1 第1条(溶接ヒュームの濃度の測定)関係
       (略)
       本条第1号の「労働者の呼吸する空気中の溶接ヒュームの濃度を測定するために最も適切な部位」とは、労働者の呼吸域(当該労働者が使用する呼吸用保護具の外側であって、両耳を結んだ直線の中央を中心とした、半径 30 センチメートルの顔の前方に広がった半球の内側をいう。以下同じ。)をいうものであること。ただし、呼吸用保護具を使用することにより呼吸域に試料採取機器の吸気口を装着できない場合等は、呼吸域にできるだけ近い位置とすること。また、溶接用の面体の外側の溶接ヒュームの濃度は、内側と比較して大幅に高いため、試料採取機器の採取口が溶接用の面体の内側に位置するように装着すること。
      ウ~ク (略)
      ※ 厚生労働省「金属アーク溶接等作業を継続して行う屋内作業場に係る溶接ヒュームの濃度の測定の方法等の施行について」(令和2年7月 31 日基発 0731 第1号)より
      従って、この告示と通達に従って、解答すればよい。
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    • 【解答例】
      空気中の溶接ヒュームの濃度の測定を行う場合、試料採取機器の採取口の装着部位については、以下のようにする必要がある。
      1 試料採取機器の採取口は、労働者の呼吸域(労働者が使用する呼吸用保護具の外側であって、両耳を結んだ直線の中央を中心とした、半径 30 センチメートルの顔の前方に広がった半球の内側をいう。以下同じ。)に装着しなければならない。ただし、呼吸用保護具を使用することにより呼吸域に試料採取機器の吸気口を装着できない場合等は、呼吸域にできるだけ近い位置とする。
      2 溶接用の面体の外側の溶接ヒュームの濃度は、内側と比較して大幅に高いため、試料採取機器の採取口が溶接用の面体の内側に位置するように装着する。
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  • (6)呼吸用保護具の選択の方法について、次の問に答えよ。
    ① 「要求防護係数」の算出方法について説明せよ。

    • 【解説】
      「要求防護係数」の算出方法は、厚労省の告示に次のように定められている。この通りに答えればよい。
      【特定化学物質の濃度の測定の方法等】
      第2条 特化則第38条の21第7項に規定する呼吸用保護具は、当該呼吸用保護具に係る要求防護係数を上回る指定防護係数を有するものでなければならない。
       前項の要求防護係数は、次の式により計算するものとする。
      PFr=C0.05
      この式において、PFr 及び C は、それぞれ次の値を表すものとする。
      括弧左 PFr   要求防護係数 括弧右
      C   前条の測定における溶接ヒューム中のマンガンの濃度の測定値のうち最大のもの(単位ミリグラム毎立方メートル)
       (略)
      ※ 厚生労働省「金属アーク溶接等作業を継続して行う屋内作業場に係る溶接ヒュームの濃度の測定の方法等」(令和2年7月 31 日厚生労働省告示第 286 号)より
      なお、この告示中の特化則第38条の21第7項に規定する呼吸用保護具とは、次のようなものである。
      【特定化学物質障害予防規則】
      (金属アーク溶接等作業に係る措置)
      第38条の21 (第1項 略)
       事業者は、金属アーク溶接等作業を継続して行う屋内作業場において、新たな金属アーク溶接等作業の方法を採用しようとするとき、又は当該作業の方法を変更しようとするときは、あらかじめ、厚生労働大臣の定めるところにより、当該金属アーク溶接等作業に従事する労働者の身体に装着する試料採取機器等を用いて行う測定により、当該作業場について、空気中の溶接ヒュームの濃度を測定しなければならない。
       (略)
       事業者は、前項に規定する措置を講じたときは、その効果を確認するため、第2項の作業場について、同項の規定により、空気中の溶接ヒュームの濃度を測定しなければならない。
      5及び6 (略)
       事業者は、金属アーク溶接等作業を継続して行う屋内作業場において当該金属アーク溶接等作業に労働者を従事させるときは、厚生労働大臣の定めるところにより、当該作業場についての第2項及び第4項の規定による測定の結果に応じて、当該労働者に有効な呼吸用保護具を使用させなければならない。
      8~12 (略)
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    • 【解答例】
      「要求防護係数」の算出方法は以下による。
      要求防護係数=溶接ヒューム中のマンガンの濃度の測定値のうち最大のものmg/m30.05
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  •   ② ①の算出に基づき、どのように呼吸用保護具を選択するかについて説明せよ。

    • 【解説】
      本小問は、①の解説で述べた告示の第2条第1項により、「その呼吸用保護具に係る要求防護係数を上回る指定防護係数を有するもの」を選べばよいこととなる。
      【特定化学物質の濃度の測定の方法等】
      第2条 特化則第38条の21第7項に規定する呼吸用保護具は、当該呼吸用保護具に係る要求防護係数を上回る指定防護係数を有するものでなければならない。
       (略)
       第1項の指定防護係数は、別表第一から別表第三までの上欄に掲げる呼吸用保護具の種類に応じ、それぞれ同表の下欄に掲げる値とする。ただし、別表第四の上欄に掲げる呼吸用保護具を使用した作業における当該呼吸用保護具の外側及び内側の溶接ヒュームの濃度の測定又はそれと同等の測定の結果により得られた当該呼吸用保護具に係る防護係数が同表の下欄に掲げる指定防護係数を上回ることを当該呼吸用保護具の製造者が明らかにする書面が当該呼吸用保護具に添付されている場合は、同表の上欄に掲げる呼吸用保護具の種類に応じ、それぞれ同表の下欄に掲げる値とすることができる。
      ※ 厚生労働省「金属アーク溶接等作業を継続して行う屋内作業場に係る溶接ヒュームの濃度の測定の方法等」(令和2年7月 31 日厚生労働省告示第 286 号)より
      なお、この告示の解釈例規が次の通達に示されている。
      【試料採取機器の採取口の装着部位の留意事項】
      第2 細部事項
      2 第2条(呼吸用保護具の使用)及び別表関係
      (1)第1項関係
        本項は、金属アーク溶接等作業を継続して行う屋内作業場において当該金属アーク溶接等作業に従事する労働者に十分な性能を有する呼吸用保護具を使用させるため、特化則第38条の21第6項に規定する「有効な」呼吸用保護具の要件を規定する趣旨であること。
      (2)(略)
      (3)第3項及び別表関係
       本項本文及び別表第1から第3までは、呼吸用保護具の種類に応じて、指定防護係数の値を規定する趣旨であること。指定防護係数は、呼吸用保護具の種類ごとに、実際の作業における測定又はそれと同等の測定の結果により得られた防護係数(呼吸用保護具の外側の測定対象物質の濃度を当該呼吸用保護具の内側の測定対象物質の濃度で除したもの。以下同じ。)の値の集団を統計的に処理し、当該集団の下位5%に当たる値として決定された値であること。
       本項ただし書及び別表第4は、別表第1から第3までに規定する指定防護係数の例外を規定する趣旨であること。具体的には、別表第4に掲げる呼吸用保護具の種類のうち、特定の呼吸用保護具の防護係数が、別表第4に規定する指定防護係数の値よりも高い値を有することが製造者により明らかにされているものについては、別表第4に規定する値を指定防護係数とすることを認める趣旨であること。
      ※ 厚生労働省「金属アーク溶接等作業を継続して行う屋内作業場に係る溶接ヒュームの濃度の測定の方法等の施行について」(令和2年7月 31 日基発 0731 第1号)より
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    • 【解答例】
      呼吸用保護具は、その作業に係る要求防護係数を上回る指定防護係数を有するものを選ぶ必要がある。
      なお、指定防護係数は、厚労大臣告示に定められているものを用いる。
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  • (7)フィットテスト(呼吸用保護具が適切に装着されていることの確認)において確認する事項を述べ、金属アーク溶接等作業で使用する呼吸用保護具で、フィットテストを実施するものの種類、実施頼度、確認の結果の保存期間についてそれぞれ述べよ。

    • 【解説】
      本小問は、法令の内容であるが、特化則第 38 条の 21 第9項のフィットテストの対象及び測定事項等を問うものである。
      【特定化学物質障害予防規則】
      (金属アーク溶接等作業に係る措置)
      第38条の21 (第1項~第8項 略)
       事業者は、第7項の呼吸用保護具(面体を有するものに限る。)を使用させるときは、1年以内ごとに1回、定期に、当該呼吸用保護具が適切に装着されていることを厚生労働大臣の定める方法により確認し、その結果を記録し、これを3年間保存しなければならない。
      11及び12 (略)
      このフィットテストの具体的な測定事項は、次の告示に示されている。
      【呼吸用保護具の装着の確認】
      第3条 特化則第38条の21第9項の厚生労働大臣が定める方法は、同条第7項の呼吸用保護具(面体を有するものに限る。)を使用する労働者について、日本産業規格T8150(呼吸用保護具の選択、使用及び保守管理方法)に定める方法又はこれと同等の方法により当該労働者の顔面と当該呼吸用保護具の面体との密着の程度を示す係数(以下この項及び次項において「フィットファクタ」という。)を求め、当該フィットファクタが呼吸用保護具の種類に応じた要求フィットファクタを上回っていることを確認する方法とする。
       フィットファクタは、次の式により計算するものとする。
      FF=C outC in
      この式において、FFC out 及び C in は、それぞれ次の値を表すものとする。
      括弧左 FF   フィットファクタ 括弧右
      C out   呼吸用保護具の外側の測定対象物の濃度
      C in   呼吸用保護具の内側の測定対象物の濃度
       第1項の要求フィットファクタは、呼吸用保護具の種類に応じ、次に掲げる値とする。
       全面形面体を有する呼吸用保護具 500
       半面形面体を有する呼吸用保護具 100
      ※ 厚生労働省「金属アーク溶接等作業を継続して行う屋内作業場に係る溶接ヒュームの濃度の測定の方法等」(令和2年7月 31 日厚生労働省告示第 286 号)より
      なお、この告示の解釈例規が次の通達に示されている。
      【呼吸用保護具の装着の確認】
      第2 細部事項
      2 第3条(呼吸用保護具の装着の確認)関係
      (1)第1項関係
       本項は、金属アーク溶接等作業を継続して行う屋内作業場において当該金属アーク溶接等作業に従事する労働者が、呼吸用保護具を適切に装着しているかを確認するため、特化則第38条の21第7項に規定する確認の方法を規定する趣旨であること。
       本項の「日本産業規格T 8150に定める方法」には、改訂予定のJIS T 8150に定める「定量的フィットテスト」による方法が含まれること。また、本項の「これと同等の方法」には、改訂予定のJIS T 8150に定める「定性的フィットテスト」(半面形面体を有する呼吸用保護具に対して行うものに限る。)のうち定量的な評価ができる方法が含まれること。
       本項に規定する呼吸用保護具の適切な装着の確認は、フィットファクタの精度等を確保するため、十分な知識及び経験を有する者が実施すべきであること。
      (2)第2項関係
       本項の「フィットファクタ」は、呼吸用保護具の外側の測定対象物の濃度が、呼吸用保護具の内側の測定対象物の濃度の何倍であるかを示す趣旨であること。
       本項の「測定対象物」には、改訂予定のJIS T 8150に定める「定量的フィットテスト」及び「定性的フィットテスト」で使用される空気中の粉じん、エアロゾル等が含まれること。
      (3)第3項及び別表関係
        本項の「要求フィットファクタ」の値は、米国労働安全衛生庁(OSHA)の規則等を踏まえて決定したものであること。
      ※ 厚生労働省「金属アーク溶接等作業を継続して行う屋内作業場に係る溶接ヒュームの濃度の測定の方法等の施行について」(令和2年7月 31 日基発 0731 第1号)より
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    • 【解答例】
      フィットテストにおいて確認する事項は、次に示すフィットファクタである。
      FF=C outC in
      この式において、FFC out 及び C in は、それぞれ次の値を表すものとする。
      括弧左 FF   フィットファクタ 括弧右
      C out   呼吸用保護具の外側の測定対象物の濃度
      C in   呼吸用保護具の内側の測定対象物の濃度
      フィットテストを実施するものの種類、実施頼度、確認の結果の保存期間は次の通りである。
      1 実施するものの種類:呼吸用保護具(面体を有するものに限る。)
      2 実施頼度:1年以内ごとに1回
      3 確認の結果の保存期間:3年間
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  • (8)JIS T 8150「呼吸用保護具の選択、使用及び保守管理方法」に定めるフィットテストの種類を二つ挙げ、それぞれについて方法を説明せよ。

    • 【解説】
      JIS T 8150「呼吸用保護具の選択、使用及び保守管理方法」は、「5.3.1 フィットテスト」に定性的方法と定量的方法の2種類のフィットテストが挙げられている。
      ※ ここに、陰圧法と陽圧法の2種類を挙げるべきではない。確かに、「呼吸用保護具の選択、使用及び保守管理方法」に定めるフィットテストの種類のうちの2つには違いはないが、出題意図は、より大きな項目である定性的方法と定量的方法の2種類の2種類を答えさせようというものであろう。
      ただ、陰圧法と陽圧法の2種類を挙げても、部分点は取れたのではないかと思う。
      【呼吸用保護具のフィットテスト】
      5.使用方法
      5.3 面体と顔面とのフィットネスの検討
      5.3.1 フィットテスト 面体形の呼吸用保護具を着用し,作業区域内に立ち入るときには,事前に面体と顔面とのフィットネスを試験し,良好であることを確認しなければならない。試験方法は,次による
      a)定性的方法
      1)陰圧試験 陰圧試験は,次による。
      1.1) 呼吸用保護具を装着して吸気口又は空気流入部を,呼吸用保護具に具備されている密そく(塞)具又は手のひらで閉鎖し,静かに吸気する。ただし,閉鎖することによって,面体と顔面との接触状態が変化したり,改善されることがないように注意する。
      1.2)顔面との密着部分に空気の漏れが感じられず,かつ,面体内の圧力低下が感じられれば,顔面とのフィットネスは良好と考えてよい。
      2)陽圧試験 陽圧試験は,次による。
      2.1) 呼吸用保護具の排気弁,呼気管などの排気口を呼吸用保護具に具備されている密そく(塞)具又は手のひらで閉鎖し,静かに息を吐き出す。ただし,閉鎖することによって,面体と顔面との接触状態が変化したり,又は改善されることがないように注意する。
      2.2) 顔面との密着部分に空気の漏れが感じられず,かつ,面体内の圧力増加が感じられれば,顔面とのフィットネスは良好と考えてよい。
      備考 陽圧試験で漏れが認められても陰圧試験の結果が良好であれば,この面体のフィットネスは良好と判断してよい。ただし,循環式呼吸器の場合,陽圧試験で漏れが感じられるものは,呼吸ガスの消費が加速し,高圧ガス容器の耐用時間が短縮する原因となりやすいので,注意を要する。
      3)臭気,刺激などのある物質による試験 臭気,刺激などのある物質による試験は,次による。
        なお,この試験は,給気式呼吸用保護具及び試験に使用する物質(試験用コンタミナンツ)を除去することのできるフィルタをもつろ過式呼吸用保護具(2)に限る。
      注(2) ここでいうろ過式呼吸用保護具は,酢酸イソアミルについては有機ガス用吸収缶を備えたもの,刺激性の煙については JIS T 8151 で規定する S3 以上の粒子捕集性能をもつフィルタを備えたもの,及びサッカリンエアロゾルについては防じんマスクがそれぞれ該当する。
      3.1) 呼吸用保護具を着用した後,人間がきゅう(嗅)覚又は味覚によって容易に感知できる物質(例えば,酢酸イソアミル,刺激性の煙,サッカリンエアロゾルなど。)を含む環境空気中に入る。
      3.2) 臭気,刺激などを感じなければ,顔面とのフィットネスは良好と考えてよい。
      b)定量的方法
      1)JIS T 8159 による面体の漏れ率試験方法 使用する試験用コンタミナンツに有効なフィルタを取り付けた面体を着用し,面体の内側及び外側の試験用コンタミナンツ濃度を測定することによって,面体の漏れ率を求める。フィットネスの良否の評価,面体の選択,面体の着用教育などに用いることができる。
      2)大気じんを用いる試験方法 粒子状物質用フィルタを取り付けた面体を着用し,面体の内側及び外側の大気じん濃度を測定することによって,面体のフィットネスの良否を判定する。試験法の詳細は,附属書による。
      ※ JIS T 8150「呼吸用保護具の選択、使用及び保守管理方法」より
      これを見れば分かるように、定性的方法に比して、定量的方法は防護係数を数値で表すことが可能なため、より優れているといえる。むしろ、定性的方法のうち陰圧試験及び陽圧試験は、労働衛生分野においては、日常的なフィットチェックであると考えられており、安衛法で求められているフィットテストには該当しないというべきであろう(※)
      ※ 例えば、環境省の石綿に関するテキスト「6 呼吸用保護具、保護衣」の「6.2.4 呼吸⽤保護具の密着性の確認」に示された記述を参照されたい。ここでも、陽圧法と陰圧法はフィットチェックであるとされている。
      なお、労働衛生分野では、一般には、フィットテストの定性的方法とは、JIS T 8150 に示された「臭気、刺激などのある物質による試験」のことであると考えられている。この方法は、現実には被試験者の頭部の周囲を囲って、その内部に臭気のある物質を満たして行われることが多い。もっとも、現実には、ほとんど行われていないのが実態である。
      労働衛生の分野においては、フィットテストは、JIS T 8150 に示された「大気じんを用いる試験方法による面体の漏れ率試験方法」によるべきであろう。現実に、フィットテストとして行われている多くの呼吸用保護具の試験は、ほとんどがこの方法によって行われている(※)
      ※ なお、JIS T 8159は、かなり大掛かりな試験設備が必要になるため、現実にはあまり行われていない。
      すなわち、労働衛生の分野においては、安衛法のフィットテストは、定量的方法のうちによる「大気じんを用いる試験方法による面体の漏れ率試験方法」ことがほとんどであり、定性的方法も「臭気、刺激などのある物質による試験」であると認識されているのである。
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    • 【解答例】
      JIS T 8150 では、フィットテストの種類として定性的方法と定量的方法の2種類がが定められている。これらは、それぞれ以下のように行われる。
      1 定性的方法:呼吸用保護具の吸気口又は空気流入部を閉じて、被試験者の呼吸によって呼吸用保護具の内部に陰圧または陽圧を加えて漏れがないことを確認したり、呼吸用保護具を装着して臭気を持つ物質の雰囲気の中でその物質の臭気がしないことを確認したりする方法が採られる。
      2 定量的方法:無害な粉じんや化学物質の蒸気の雰囲気中で呼吸用保護具を着用し、その内部と外部の濃度を測定する方法が採られる。
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