労働衛生コンサルタント試験 健康管理 2024年 問4

労働者のメンタルヘルス対策




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 このページは、2024年の労働安全衛生コンサルタント試験の「健康管理(記述式)」問題の解説と解答例を示しています。

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 解説文中の法令の名称等は、適宜、略語を用いています。また、引用している法令は、読みやすくするために漢数字を算用数字に変更するなどの修正を行いました。

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2024年度(令和6年度) 問 4 すべてメンタルヘルス対策についての厚労省の公式文書からの出題である。高得点の狙える問題である。
メンタルヘルス
2025年05月24日執筆

問4 厚生労働省は「労働者の心の健康保持増進のための指針」を定め、職場におけるメンタルヘルス対策を推進している。メンタルヘルス対策に関する以下の設問に答えよ。

  • (1)常時使用する労働者の数が 50 人以上の規模の事業場においては、メンタルヘルス対策に取り組んでいる割合が9割を超えている。常時使用する労働者の数が 50 人以上の規模の事業場において実施されているメンタルヘルス対策の取組内容のうち、実施割合の最も高いものから順に二つ挙げよ。

    • 【解説】

      本小問で問われているのは、「労働安全衛生調査(実態調査)」の調査結果である。
      メンタルヘルス対策の取組状況は、同調査結果の表2に示されている。完全な知識問題であり、統計結果を知らないと答えられない問題である。
      2023年(令和5年)調査で、「メンタルヘルス対策に取り組んでいる事業所」を100としたときの、50人以上の事業所のメンタルヘルス対策の取組内容は次のようになっている。
      【メンタルヘルス対策の取組内容別事業所割合】
      第2表 メンタルヘルス対策の取組内容(複数回答)別事業所割合(単位:%)
      区分 取組んでいる事業場の割合
      メンタルヘルス対策について、衛生委員会又は安全衛生委員会での調査審議 54.6
      メンタルヘルス対策に関する問題点を解決するための計画の策定と実施 32.4
      メンタルヘルス対策の実務を行う担当者の選任 49.5
      教育研修・情報提供 メンタルヘルス対策に関する労働者への教育研修・情報提供 45.0
      メンタルヘルス対策に関する管理監督者への教育研修・情報提供 41.2
      メンタルヘルス対策に関する事業所内の産業保健スタッフへの教育研修・情報提供 21.8
      職場環境等の評価及び改善(ストレスチェック結果の集団(部、課など)ごとの分析を含む) 73.6
      健康診断後の保健指導等を通じた産業保健スタッフによるメンタルヘルス対策の実施 39.3
      ストレスチェックの実施 89.6
      職場復帰における支援(職場復帰支援プログラムの策定を含む) 34.1
      メンタルヘルス対策に関する事業所内での相談体制の整備 60.3
      外部機関の活用 地域産業保健センター(地域窓口)を活用したメンタルヘルス対策の実施 1.0
      産業保健総合支援センターを活用したメンタルヘルス対策の実施 3.5
      医療機関を活用したメンタルヘルス対策の実施 13.3
      他の外部機関2)を活用したメンタルヘルス対策の実施 14.3
      メンタルヘルス不調の労働者に対する必要な配慮の実施 59.3
      その他のメンタルヘルス対策 1.5
      2)「他の外部機関」とは、精神保健福祉センター、中央労働災害防止協会などの心の健康づくり対策を支援する活動を行っている機関、メンタルヘルス支援機関などをいう。
      ※ 厚生労働省「令和5年 労働安全衛生調査(実態調査) 結果の概要」(図表
      ここから分かるように、ストレスチェックの実施(89.6 %)が最も高く、職場環境等の評価及び改善(ストレスチェック結果の集団(部、課など)ごとの分析を含む)(73.6%)がこれに次いでいる。
      ストレスチェックは(出題当時は)常時使用する労働者数が 50 人以上の事業場で実施が義務付けられている法定事項である。このため、健康診断実施機関が実施を勧めることもあって、実施している割合が高くなるのである。
      また、職場環境等の評価及び改善は、法令では義務付けられていないものの、健診機関がストレスチェックの付随サービスとして「ストレスチェック結果の集団(部、課など)ごとの分析」を実施していることが多いので実施率が高くなるのである(※)
      ※ 積極的に自らの意思で実施しているとは限らないのである。現実にどれだけ活用されているかは、統計からでは分からない。
      なお、上記の実施割合は、「メンタルヘルス対策に取り組んでいる事業所計」(91.3 %)を 100 としたときの割合であり、全体に対する割合はさらに低くなる。
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    • 【解答例】
      50 人以上の規模の事業場において実施されているメンタルヘルス対策の取組内容のうち、実施割合の高いものは、高い順に「ストレスチェックの実施」、「職場環境等の評価及び改善(ストレスチェック結果の集団(部、課など)ごとの分析を含む)」となっている。
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  • (2)事業者が、メンタルヘルスケアを推進するに当たり留意すべき事項を四つ挙げ、それぞれについてその内容を簡潔に述べよ。

    • 【解説】
      本問は「労働者の心の健康の保持増進のための指針(最終改正:平成27年11月30日健康保持増進のための指針公示第6号)」(以下「メンタルヘルス指針」という。)からの出題である。
      メンタルヘルス指針の「2 メンタルヘルスケアの基本的考え方」の中に4点の留意すべき事項が記されている。これを要約して解答すればよい。
      【メンタルヘルスケアの基本的考え方】
      2 メンタルヘルスケアの基本的考え方
        (前略)
        さらに、事業者は、メンタルヘルスケアを推進するに当たって、次の事項に留意することが重要である。
      ① 心の健康問題の特性
        心の健康については、客観的な測定方法が十分確立しておらず、その評価には労働者本人から心身の状況に関する情報を取得する必要があり、さらに、心の健康問題の発生過程には個人差が大きく、そのプロセスの把握が難しい。また、心の健康は、すべての労働者に関わることであり、すべての労働者が心の問題を抱える可能性があるにもかかわらず、心の健康問題を抱える労働者に対して、健康問題以外の観点から評価が行われる傾向が強いという問題や、心の健康問題自体についての誤解や偏見等解決すべき問題が存在している。
      ② 労働者の個人情報の保護への配慮
        メンタルヘルスケアを進めるに当たっては、健康情報を含む労働者の個人情報の保護及び労働者の意思の尊重に留意することが重要である。心の健康に関する情報の収集及び利用に当たっての、労働者の個人情報の保護への配慮は、労働者が安心してメンタルヘルスケアに参加できること、ひいてはメンタルヘルスケアがより効果的に推進されるための条件である。
      ③ 人事労務管理との関係
        労働者の心の健康は、職場配置、人事異動、職場の組織等の人事労務管理と密接に関係する要因によって、大きな影響を受ける。メンタルヘルスケアは、人事労務管理と連携しなければ、適切に進まない場合が多い。
      ④ 家庭・個人生活等の職場以外の問題
        心の健康問題は、職場のストレス要因のみならず家庭・個人生活等の職場外のストレス要因の影響を受けている場合も多い。また、個人の要因等も心の健康問題に影響を与え、これらは複雑に関係し、相互に影響し合う場合が多い。
      ※ 厚生労働省「労働者の心の健康の保持増進のための指針」(最終改正:平成27年11月30日健康保持増進のための指針公示第6号)
      解答例には、メンタルヘルス指針の内容をそのまま記したが、実際にはその内容がある程度、分かるように書かれていれば得点はできるだろう。
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    • 【解答例】
      事業者が、メンタルヘルスケアを推進するに当たり留意すべき事項には、以下の4点が挙げられる。
      ① 心の健康問題の特性
      心の健康については、客観的な測定方法が十分確立しておらず、その評価には労働者本人から心身の状況に関する情報を取得する必要があり、さらに、心の健康問題の発生過程には個人差が大きく、そのプロセスの把握が難しい。また、心の健康は、すべての労働者に関わることであり、すべての労働者が心の問題を抱える可能性があるにもかかわらず、心の健康問題を抱える労働者に対して、健康問題以外の観点から評価が行われる傾向が強いという問題や、心の健康問題自体についての誤解や偏見等解決すべき問題が存在している。
      ② 労働者の個人情報の保護への配慮
      メンタルヘルスケアを進めるに当たっては、健康情報を含む労働者の個人情報の保護及び労働者の意思の尊重に留意することが重要である。心の健康に関する情報の収集及び利用に当たっての、労働者の個人情報の保護への配慮は、労働者が安心してメンタルヘルスケアに参加できること、ひいてはメンタルヘルスケアがより効果的に推進されるための条件である。
      ③ 人事労務管理との関係
      労働者の心の健康は、職場配置、人事異動、職場の組織等の人事労務管理と密接に関係する要因によって、大きな影響を受ける。メンタルヘルスケアは、人事労務管理と連携しなければ、適切に進まない場合が多い。
      ④ 家庭・個人生活等の職場以外の問題
      心の健康問題は、職場のストレス要因のみならず家庭・個人生活等の職場外のストレス要因の影響を受けている場合も多い。また、個人の要因等も心の健康問題に影響を与え、これらは複雑に関係し、相互に影響し合う場合が多い。
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  • (3)指針により事業者に策定することが求められている「心の健康づくり計画」に関し、次の問に答えよ。
    ① 心の健康づくり計画の策定に当たり留意すべき事項を三つ述べよ。

    • 【解説】
      心の健康づくり計画については、メンタルヘルス指針によって、策定が行政から指導されているものである。メンタルヘルス指針に明確に3つの留意事項が示されているわけではない。また、他の厚労省の公的文書にも、心の健康づくり計画にかかる留意事項が示されているものはない。
      そこで、メンタルヘルス指針において記されていることを3件にまとめて解答するのが現実的であろう。メンタルヘルス指針においては、次のようなことが記載されている。
      ① 衛生委員会等において十分調査審議を行い、心の健康づくり計画を策定すること
      ② 心の健康づくり計画は、各事業場における労働安全衛生に関する計画の中に位置付けること(望ましい)
      ③ 心の健康づくり計画の中で、事業者自らが事業場におけるメンタルヘルスケアを積極的に推進することを表明するとともに、その実施体制を確立する
      ④ 心の健康づくり計画の実施においては、実施状況等を適切に評価し、評価結果に基づき必要な改善を行うこと(実施に当たっての留意事項)
      ⑤ ストレスチェック制度について、心の健康づくり計画において、その位置付けを明確にすること(望ましい)
      しかし、④は実施に当たっての留意事項であるから、本小問の趣旨には合わない。また、②と⑤は「望ましい」とされているので、必ずしも本小問の趣旨には合わないが、これを除くと3点にならないので、これを含めて解答するべきであろう。
      【心の健康づくり計画】
      4 心の健康づくり計画
        メンタルヘルスケアは、中長期的視点に立って、継続的かつ計画的に行われるようにすることが重要であり、また、その推進に当たっては、事業者が労働者の意見を聴きつつ事業場の実態に則した取組を行うことが必要である。このため、事業者は、3に掲げるとおり衛生委員会等において十分調査審議を行い、心の健康づくり計画を策定することが必要である。心の健康づくり計画は、各事業場における労働安全衛生に関する計画の中に位置付けることが望ましい。
        メンタルヘルスケアを効果的に推進するためには、心の健康づくり計画の中で、事業者自らが事業場におけるメンタルヘルスケアを積極的に推進することを表明するとともに、その実施体制を確立する必要がある。心の健康づくり計画の実施においては、実施状況等を適切に評価し、評価結果に基づき必要な改善を行うことにより、メンタルヘルスケアの一層の充実・向上に努めることが望ましい。心の健康づくり計画で定めるべき事項は次に掲げるとおりである。
      ①~ ⑦ (略)
        なお、ストレスチェック制度は、各事業場の実情に即して実施されるメンタルヘルスケアに関する一次予防から三次予防までの総合的な取組の中に位置付けることが重要であることから、心の健康づくり計画において、その位置付けを明確にすることが望ましい。また、ストレスチェック制度の実施に関する規程の策定を心の健康づくり計画の一部として行っても差し支えない。
      ※ 厚生労働省「労働者の心の健康の保持増進のための指針」(最終改正:平成27年11月30日健康保持増進のための指針公示第6号)
      なお、平成 21 年3月 26 日基発第 0326002 号「当面のメンタルヘルス対策の具体的推進について」にも、心の健康づくり計画の策定に当たり留意すべき事項が示されている。
      【心の健康づくり計画】
      第3 事業場におけるメンタルヘルス対策の具体的推進事項
      (3)「心の健康づくり計画」の策定
        指針4に基づく「心の健康づくり計画」を策定するよう指導等を行うこと。
        特に、「心の健康づくり計画」には「事業者がメンタルヘルスケアを積極的に推進する旨の表明」、「事業場内メンタルヘルス推進担当者の選任」及び「教育研修の実施」について定めるよう指導等を行うこと。
        なお、常時 50 人未満の労働者を使用する事業場については、衛生委員会等の調査審議に代え、規則第23条の2に基づく関係労働者の意見を聴くための機会を利用して、メンタルヘルス対策について労働者の意見を聴取するように努め、その意見を踏まえつつ「心の健康づくり計画」を策定するよう指導等を行うこと。
      ※ 厚生労働省「当面のメンタルヘルス対策の具体的推進について」(平成 21 年3月 26 日基発第 0326002 号)
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    • 【解答例】
      心の健康づくり計画の策定に当たり留意すべき事項としては、以下の3点がある。
      ① 心の健康づくり計画は、衛生委員会等において十分調査審議を行い、各事業場における労働安全衛生に関する計画の中に位置付けること
      ② 心の健康づくり計画の中で、事業者自らが事業場におけるメンタルヘルスケアを積極的に推進することを表明するとともに、その実施体制を確立すること
      ③ ストレスチェック制度について、心の健康づくり計画において、その位置付けを明確にすること
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  •   ② 心の健康づくり計画で定めるべき事項を五つ挙げよ。

    • 【解説】
      本小問の「心の健康づくり計画で定めるべき事項」については、メンタルヘルス指針の中で、明確に示されている。
      7点が示されているので、このうちの5点を解答すればよいが、⑦を含めるのは得策ではない。
      【心の健康づくり計画】
      4 心の健康づくり計画
        (前略)
        メンタルヘルスケアを効果的に推進するためには、心の健康づくり計画の中で、事業者自らが事業場におけるメンタルヘルスケアを積極的に推進することを表明するとともに、その実施体制を確立する必要がある。心の健康づくり計画の実施においては、実施状況等を適切に評価し、評価結果に基づき必要な改善を行うことにより、メンタルヘルスケアの一層の充実・向上に努めることが望ましい。心の健康づくり計画で定めるべき事項は次に掲げるとおりである。
       事業者がメンタルヘルスケアを積極的に推進する旨の表明に関すること。
       事業場における心の健康づくりの体制の整備に関すること。
       事業場における問題点の把握及びメンタルヘルスケアの実施に関すること。
       メンタルヘルスケアを行うために必要な人材の確保及び事業場外資源の活用に関すること。
       労働者の健康情報の保護に関すること。
       心の健康づくり計画の実施状況の評価及び計画の見直しに関すること。
       その他労働者の心の健康づくりに必要な措置に関すること。
        (後略)
      ※ 厚生労働省「労働者の心の健康の保持増進のための指針」(最終改正:平成27年11月30日健康保持増進のための指針公示第6号)
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    • 【解答例】
      心の健康づくり計画で定めるべき事項には、以下のものがある。
      ① 事業者がメンタルヘルスケアを積極的に推進する旨の表明に関すること。
      ② 事業場における心の健康づくりの体制の整備並びにメンタルヘルスケアを行うために必要な人材の確保及び事業場外資源の活用に関すること。
      ③ 事業場における問題点の把握及びメンタルヘルスケアの実施に関すること。
      ④ 労働者の健康情報の保護に関すること。
      ⑤ 心の健康づくり計画の実施状況の評価及び計画の見直しに関すること。
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  • (4)メンタルヘルス対策を推進するための「4つのメンタルヘルスケア」とは何か、その内容を簡潔に述べよ。

    • 【解説】
      メンタルヘルス指針の4つのケアは、産業保健の専門家であれば誰でも知っていることであろう。なお、「事業場内産業保健スタッフ等によるケア」の「等」を落とさないこと。この「等」は「事業場内の心の健康づくり専門スタッフ、人事労務管理スタッフ等」を指している(※)
      ※ 平成 12 年8月9日基発第 522 号「事業場における労働者の心の健康づくりのための指針」の「別紙 用語の意義」の(6)に「事業場内産業保健スタッフ等」について「事業場内産業保健スタッフ及び事業場内の心の健康づくり専門スタッフ、人事労務管理スタッフ等をいう」とされている。
      この通達(最初のメンタルヘルス指針)は平成 18 年の改正で廃止され、しかも新指針では「別紙 用語の意義」が削除されたため、現在ではこの用語の意義はほとんど知られていないが、その趣旨は現在も生きている(平成 18 年指針を策定した厚生労働省の産業保健支援室(当時)の室長から筆者(柳川)が直接確認している。)。
      ここで、ラインによるケアのラインとは、管理監督者のことであり、こころの耳には、「部長・課長等」とされている。最初のメンタルヘルス指針(※)の「別紙 用語の意義」では、ラインとは「日常的に労働者と接する、現場の管理監督者」であるとされており、むしろ「直属の上司」といったイメージであった。
      ※ 最初のメンタルヘルス指針策定時は、筆者(柳川)が事務局の主担当として取りまとめた。
      なお、事業場外資源によるケアの事業場外資源について、現在のメンタルヘルス指針には何も書かれていないが、こころの耳には、「事業場外資源とは事業場外の医療機関や地域保健機関、従業員支援プログラム(EAP)機関、独立行政法人労働者健康安全機構が運営する産業保健総合支援センター及び地域産業保健センターなどのことを指します」とされている。
      また、最初のメンタルヘルス指針を策定したころのよくある誤解として、職場のメンタルヘルスを疾病対策と捉え、病状が重くなるにしたがって、セルフケア、ラインによるケア、事業場内産業保健スタッフ等によるケアなどとケアを段階的に進めてゆくという誤解があったが、まったくの誤りである。そもそも、職場のメンタルヘルス対策は疾病対策ではないし、一次予防、二次予防、三次予防のすべての段階で、4つのケアは有機的に行われるべきものである。
      さらに、当時は「セルフケア」が4つのケアの最初に置かれていることから、「まずは自己責任」という誤解もあった。しかし、セルフケアが最初に置かれているのは、職場のメンタルヘルスケアは積極的な健康の保持委増進を一義的とすることからそうしているのである。また、セルフケアに「自己責任」という意味は全く含まれていない。セルフケアもまた、事業者が行うことであり、労働者によるストレスへの気付きやストレスコーピングを助けるという趣旨である。
      【心の健康づくり計画】
      5 4つのメンタルヘルスケアの推進
        メンタルヘルスケアは、労働者自身がストレスや心の健康について理解し、自らのストレスを予防、軽減するあるいはこれに対処する「セルフケア」、労働者と日常的に接する管理監督者が、心の健康に関して職場環境等の改善や労働者に対する相談対応を行う「ラインによるケア」、事業場内の産業医等事業場内産業保健スタッフ等が、事業場の心の健康づくり対策の提言を行うとともに、その推進を担い、また、労働者及び管理監督者を支援する「事業場内産業保健スタッフ等によるケア」及び事業場外の機関及び専門家を活用し、その支援を受ける「事業場外資源によるケア」の4つのケアが継続的かつ計画的に行われることが重要である。
      (1)セルフケア
        心の健康づくりを推進するためには、労働者自身がストレスに気づき、これに対処するための知識、方法を身につけ、それを実施することが重要である。ストレスに気づくためには、労働者がストレス要因に対するストレス反応や心の健康について理解するとともに、自らのストレスや心の健康状態について正しく認識できるようにする必要がある。
        このため、事業者は、労働者に対して、6(1)アに掲げるセルフケアに関する教育研修、情報提供を行い、心の健康に関する理解の普及を図るものとする。また、6(3)に掲げるところにより相談体制の整備を図り、労働者自身が管理監督者や事業場内産業保健スタッフ等に自発的に相談しやすい環境を整えるものとする。
        また、ストレスへの気付きを促すためには、ストレスチェック制度によるストレスチェックの実施が重要であり、特別の理由がない限り、すべての労働者がストレスチェックを受けることが望ましい。
        さらに、ストレスへの気付きのためには、ストレスチェックとは別に、随時、セルフチェックを行う機会を提供することも効果的である。
        また、管理監督者にとってもセルフケアは重要であり、事業者は、セルフケアの対象者として管理監督者も含めるものとする。
      (2)ラインによるケア
        管理監督者は、部下である労働者の状況を日常的に把握しており、また、個々の職場における具体的なストレス要因を把握し、その改善を図ることができる立場にあることから、6(2)に掲げる職場環境等の把握と改善、6(3)に掲げる労働者からの相談対応を行うことが必要である。
        このため、事業者は、管理監督者に対して、6(1)イに掲げるラインによるケアに関する教育研修、情報提供を行うものとする。
        なお、業務を一時的なプロジェクト体制で実施する等、通常のラインによるケアが困難な業務形態にある場合には、実務において指揮命令系統の上位にいる者等によりケアが行われる体制を整えるなど、ラインによるケアと同等のケアが確実に実施されるようにするものとする。
      (3)事業場内産業保健スタッフ等によるケア
        事業場内産業保健スタッフ等は、セルフケア及びラインによるケアが効果的に実施されるよう、労働者及び管理監督者に対する支援を行うとともに、心の健康づくり計画に基づく具体的なメンタルヘルスケアの実施に関する企画立案、メンタルヘルスに関する個人の健康情報の取扱い、事業場外資源とのネットワークの形成やその窓口となること等、心の健康づくり計画の実施に当たり、中心的な役割を果たすものである。
        このため、事業者は、事業場内産業保健スタッフ等によるケアに関して、次の措置を講じるものとする。
       6(1)ウに掲げる職務に応じた専門的な事項を含む教育研修、知識修得等の機会の提供を図ること。
       メンタルヘルスケアに関する方針を明示し、実施すべき事項を委嘱又は指示すること。
       6(3)に掲げる事業場内産業保健スタッフ等が、労働者の自発的相談やストレスチェック結果の通知を受けた労働者からの相談等を受けることができる制度及び体制を、それぞれの事業場内の実態に応じて整えること。
       産業医等の助言、指導等を得ながら事業場のメンタルヘルスケアの推進の実務を担当する事業場   内メンタルヘルス推進担当者を、事業場内産業保健スタッフ等の中から選任するよう努めること。
        事業場内メンタルヘルス推進担当者としては、衛生管理者等や常勤の保健師等から選任することが望ましいこと。ただし、事業場内メンタルヘルス推進担当者は、労働者のメンタルヘルスに関する個人情報を取り扱うことから、労働者について解雇、昇進又は異動に関して直接の権限を持つ監督的地位にある者(以下「人事権を有する者」という。)を選任することは適当でないこと。なお、ストレスチェック制度においては、労働安全衛生規則第52条の10第2項により、ストレスチェックを受ける労働者について人事権を有する者は、ストレスチェックの実施の事務に従事してはならないこととされていることに留意すること。
       一定規模以上の事業場にあっては、事業場内に又は企業内に、心の健康づくり専門スタッフや保健師等を確保し、活用することが望ましいこと。
        なお、事業者は心の健康問題を有する労働者に対する就業上の配慮について、事業場内産業保健スタッフ等に意見を求め、また、これを尊重するものとする。メンタルヘルスケアに関するそれぞれの事業場内産業保健スタッフ等の役割は、主として以下のとおりである。なお、以下に掲げるもののほか、ストレスチェック制度における事業場内産業保健スタッフ等の役割については、ストレスチェック指針によることとする。
      ア 産業医等
        産業医等は、労働者の健康管理等を職務として担う者であるという面から、事業場の心の健康づくり計画の策定に助言、指導等を行い、これに基づく対策の実施状況を把握する。また、専門的な立場から、セルフケア及びラインによるケアを支援し、教育研修の企画及び実施、情報の収集及び提供、助言及び指導等を行う。就業上の配慮が必要な場合には、事業者に必要な意見を述べる。専門的な相談・対応が必要な事例については、事業場外資源との連絡調整に、専門的な立場から関わる。さらに、ストレスチェック制度及び長時間労働者等に対する面接指導等の実施並びにメンタルヘルスに関する個人の健康情報の保護についても中心的役割を果たすことが望ましい。
      イ 衛生管理者等
        衛生管理者等は、心の健康づくり計画に基づき、産業医等の助言、指導等を踏まえて、具体的な教育研修の企画及び実施、職場環境等の評価と改善、心の健康に関する相談ができる雰囲気や体制づくりを行う。またセルフケア及びラインによるケアを支援し、その実施状況を把握するとともに、産業医等と連携しながら事業場外資源との連絡調整に当たることが効果的である。
      ウ 保健師等
        衛生管理者以外の保健師等は、産業医等及び衛生管理者等と協力しながら、セルフケア及びラインによるケアを支援し、教育研修の企画・実施、職場環境等の評価と改善、労働者及び管理監督者からの相談対応、保健指導等に当たる。
      エ 心の健康づくり専門スタッフ
        事業場内に心の健康づくり専門スタッフがいる場合には、事業場内産業保健スタッフと協力しながら、教育研修の企画・実施、職場環境等の評価と改善、労働者及び管理監督者からの専門的な相談対応等に当たるとともに、当該スタッフの専門によっては、事業者への専門的立場からの助言等を行うことも有効である。
      オ 人事労務管理スタッフ
        人事労務管理スタッフは、管理監督者だけでは解決できない職場配置、人事異動、職場の組織等の人事労務管理が心の健康に及ぼしている具体的な影響を把握し、労働時間等の労働条件の改善及び適正配置に配慮する。
      (4)事業場外資源によるケア
        メンタルヘルスケアを行う上では、事業場が抱える問題や求めるサービスに応じて、メンタルヘルスケアに関し専門的な知識を有する各種の事業場外資源の支援を活用することが有効である。また、労働者が事業場内での相談等を望まないような場合にも、事業場外資源を活用することが効果的である。ただし、事業場外資源を活用する場合は、メンタルヘルスケアに関するサービスが適切に実施できる体制や、情報管理が適切に行われる体制が整備されているか等について、事前に確認することが望ましい。
        また、事業場外資源の活用にあたっては、これに依存することにより事業者がメンタルヘルスケアの推進について主体性を失わないよう留意すべきである。このため、事業者は、メンタルヘルスケアに関する専門的な知識、情報等が必要な場合は、事業場内産業保健スタッフ等が窓口となって、適切な事業場外資源から必要な情報提供や助言を受けるなど円滑な連携を図るよう努めるものとする。また、必要に応じて労働者を速やかに事業場外の医療機関及び地域保健機関に紹介するためのネットワークを日頃から形成しておくものとする。
        特に、小規模事業場においては、8に掲げるとおり、必要に応じて産業保健総合支援センターの地域窓口(地域産業保健センター)等の事業場外資源を活用することが有効である。
      ※ 厚生労働省「労働者の心の健康の保持増進のための指針」(最終改正:平成27年11月30日健康保持増進のための指針公示第6号)
      もちろん、実際の解答ではこの指針の内容をそのまま書くようなことはできないだろうから、簡潔にまとめて書くこととなる。解答例に解答の一例を示したが、各自、それぞれにどのように書くかを考えて欲しい。
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    • 【解答例】
      メンタルヘルス対策を推進するための「4つのメンタルヘルスケア」及びその内容は次の通りである。
      ① セルフケア
      労働者自身がストレスに気づき、これに対処するための知識、方法を身につけ、それを実施すること。事業者は、ストレスに気付く機械の付与(ストレスチェック)や、ストレスコーピングのためのこころの健康教育、相談体制の整備等を図る。
      ① ラインによるケア
      部下である労働者の状況を日常的に把握している管理監督者によるケアである。職場環境の把握と改善、労働者への日常的な相談、事例性の早期発見と対処等を行う。事業者としては、管理監督者への教育の実施や情報の提供を行う。
      ① 事業場内産業保健スタッフ等によるケア
      産業医や衛生管理者などの事業場内の産業保健スタッフと人事労務管理スタッフ等が協力して行うケアである。専門家としての立場から、それぞれの権限における対応を行う。
      ① 事業場外資源によるケア
      事業場外の専門機関や専門家を活用して行うケアである。専門家としての支援や、労働者への健康教育等の実施、事業場内産業保健スタッフ等への支援を行う。
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  • (5)ストレスチェック制度について、次の問に答えよ。
    ① ストレスチェック制度は何を目的として実施するものか述べよ。

    • 【解説】
      本問は「心理的な負担の程度を把握するための検査及び面接指導の実施並びに面接指導結果に基づき事業者が講ずべき措置に関する指針(最終改正:平成30年8月22日 心理的な負担の程度を把握するための検査等指針公示第3号)」(以下「ストレスチェック指針」という。)からの出題である。
      なお、ストレスチェックの解説書として、厚生労働省より「労働安全衛生法に基づくストレスチェック制度実施マニュアル」(2021年2月改訂)、「ストレスチェック制度の効果的な実施と活用に向けて」(2022年3月)などが公開されている(※)
      ※ こころの耳「ストレスチェック制度について」から各種の資料にリンクが張られている。
      ストレスチェック制度の目的は、ストレスチェック指針に端的に記されているが、労働者へのストレスへの気付きの機械の付与と職場におけるストレス要因の評価の2点である。
      【ストレスチェック制度の目的】
      2 ストレスチェック制度の基本的な考え方
        (前略)
        新たに創設されたストレスチェック制度は、これらの取組のうち、特にメンタルヘルス不調の未然防止の段階である一次予防を強化するため、定期的に労働者のストレスの状況について検査を行い、本人にその結果を通知して自らのストレスの状況について気付きを促し、個々の労働者のストレスを低減させるとともに、検査結果を集団ごとに集計・分析し、職場におけるストレス要因を評価し、職場環境の改善につなげることで、ストレスの要因そのものを低減するよう努めることを事業者に求めるものである。さらにその中で、ストレスの高い者を早期に発見し、医師による面接指導につなげることで、労働者のメンタルヘルス不調を未然に防止することを目的としている。
        (中略)
        また、事業者は、ストレスチェック制度が、メンタルヘルス不調の未然防止だけでなく、従業員のストレス状況の改善及び働きやすい職場の実現を通じて生産性の向上にもつながるものであることに留意し、事業経営の一環として、積極的に本制度の活用を進めていくことが望ましい。
      ※ 厚生労働省「心理的な負担の程度を把握するための検査及び面接指導の実施並びに面接指導結果に基づき事業者が講ずべき措置に関する指針」(最終改正:平成30年8月22日 心理的な負担の程度を把握するための検査等指針公示第3号)
      なお、ストレスチェック指針には、「生産性の向上にもつながる」との指摘があるが、これはストレスチェック制度の直接の目的ではない。
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    • 【解答例】
      ストレスチェック制度は次の2点を目的とする。
      ① 定期的に労働者のストレスの状況について検査を行い、本人にその結果を通知して自らのストレスの状況について気付きを促し、個々の労働者のストレスを低減させ、メンタルヘルス不調の未然防止につなげる。
      ② 検査結果を集団ごとに集計・分析し、職場におけるストレス要因を評価し、職場環境の改善につなげることで、ストレスの要因そのものを低減して働きやすい職場の実現を図る。
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  •   ② ストレスチェックにおける調査の項目の領域を三つ挙げよ。

    • 【解説】
      ストレスチェックにおける調査の項目の領域は、法定事項であり、安衛則第52条の9に記されている。その内容で答えればよい。
      【労働安全衛生法】
      (心理的な負担の程度を把握するための検査等)
      第66条の10 事業者は、労働者に対し、厚生労働省令で定めるところにより、医師、保健師その他の厚生労働省令で定める者(以下この条において「医師等」という。)による心理的な負担の程度を把握するための検査を行わなければならない。
      2~9 (略)
      【労働安全衛生規則】
      (心理的な負担の程度を把握するための検査の実施方法)
      第52条の9 事業者は、常時使用する労働者に対し、1年以内ごとに1回、定期に、次に掲げる事項について法第66条の10第1項に規定する心理的な負担の程度を把握するための検査(以下この節において「検査」という。)を行わなければならない。
       職場における当該労働者の心理的な負担の原因に関する項目
       当該労働者の心理的な負担による心身の自覚症状に関する項目
       職場における他の労働者による当該労働者への支援に関する項目
      なお、この3領域は、ストレスチェック指針にも引用されている。
      【ストレスチェックにおける調査の項目の領域】
      7 ストレスチェックの実施方法等
      (1)実施方法
      ア ストレスチェックの定義
        法第66条の10第1項の規定によるストレスチェックは、調査票を用いて、規則第52条の9第1項第1号から第3号までに規定する次の3つの領域に関する項目により検査を行い、労働者のストレスの程度を点数化して評価するとともに、その評価結果を踏まえて高ストレス者を選定し、医師による面接指導の要否を確認するものをいう。
       職場における当該労働者の心理的な負担の原因に関する項目
       心理的な負担による心身の自覚症状に関する項目
       職場における他の労働者による当該労働者への支援に関する項目
      ※ 厚生労働省「心理的な負担の程度を把握するための検査及び面接指導の実施並びに面接指導結果に基づき事業者が講ずべき措置に関する指針」(最終改正:平成30年8月22日 心理的な負担の程度を把握するための検査等指針公示第3号)
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    • 【解答例】
      ストレスチェックにおける調査の項目の領域は次の3つである。
      ① 職場における当該労働者の心理的な負担の原因に関する項目
      ② 当該労働者の心理的な負担による心身の自覚症状に関する項目
      ③ 職場における他の労働者による当該労働者への支援に関する項目
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  •   ③ ストレスチェックを実施することにより、労働者と事業者にもたらされる効果について、それぞれ二つ挙げよ。

    • 【解説】
      ストレスチェックによる労働者と事業者にもたらされる効果について、ストレスチェック指針にはまとまった記述はない。本小問の出題者としては、川上他(※)による調査結果で明らかになった「事業場が感じるストレスチェック制度の効果」及び「労働者が感じるストレスチェック制度の効果」の上位項目について問うているのかもしれない。
      ※ 川上憲人(研究代表者)「ストレスチェック制度の効果検証に係る調査等事業」(令和3年度厚生労働省委託事業)。なお、事業場と労働者が感じるストレスチェックの効果に関する調査結果は、次の引用ブロックの引用文中にグラフとして示されている。
      なお、厚労省の「ストレスチェック制度の効果的な実施と活用に向けて」(2022年3月公開)にその結果が紹介されている。
      【ストレスチェック制度の効果】
      (2)ストレスチェック制度の効果
        本事業で実施したアンケート調査(調査概要は p.3参照)では、事業者は、「社員のセルフケアへの関心度の高まり」や「メンタルヘルスに理解のある職場風土の醸成」を効果として感じており、回答した労働者の半数以上が、ストレスチェック制度の効果として、「自身のストレスを意識することになった」ということを挙げています。
        文献調査においても、ストレスチェックの実施だけでなく、その結果を集団分析し、職場環境改善に活用することにより、労働者のストレス反応において有意な改善がみられる等の効果が確認されています1
        また、ヒアリング調査においては、継続的にストレスチェック制度に取り組んだ結果、実施以前と比べて、メンタルヘルス不調者が5分の1に減少したという事業者もいました。
        ストレスチェックの実施が努力義務である小規模事業場においても、本制度は、労働者自身のストレスへの気づきを促す等の重要な効果があることを考慮し、導入を検討いただくことが望まれます。
      1 川上憲人(研究代表者)「ストレスチェック制度による労働者のメンタルヘルス不調の予防と職場環境改善効果に関する研究」(厚生労働科学研究費補助金労働安全衛生総合研究事業 平成27~29年度)
      ※ 厚生労働省「ストレスチェック制度の効果的な実施と活用に向けて」(2022年3月公開)

      図はクリックで拡大します

      また、厚労省の「ストレスチェック制度導入マニュアル」(2016年4月公表)に端的にまとめられている。本小問の趣旨からいえば、こちらをまとめて解答する方が良いかもしれない。
      本小問の解答例には、こちらをまとめたものを挙げている。
      【ストレスチェックの効果】
      労働者にとっての意義
      1.ストレスチェックを受けることで、自らの状態を知る
       自らのストレスの状態(ストレスがどの程度高まっているか)
       自らのストレスの原因(仕事上、どのようなことが原因になってるのか)
      2.ストレスへの対処(セルフケア)のきっかけにする
       ストレスチェックの実施者から必要なアドバイスが行われる。
      3.高ストレスの場合、面接指導を受けることで、就業上の措置につながる
       仕事上のストレスの要因を軽減するためにには、面接指導を受けて、医師の意見を会社側に届けることが重要。
      4.ストレスチェックの結果が職場ごとに分析されれば、職場改善にも結びつく
      事業者にとっての意義
      1.労働者がメンタルヘルス不調になることを未然に防止できる
       全ての労働者にストレスチェックを受けてもらえるようにすることが重要。
       高ストレス者がなるべく面接指導の申出を行いやすくなる環境づくりが重要。
       面接指導の結果を踏まえた就業上の措置を適切に実施することが重要。
      2.職場の問題点の把握が可能となり、職場改善の具体的な検討がしやすくなる
       人間関係が原因となっている場合もあり、職場改善については、工夫が必要。
      3.労働者のストレスが軽減され、職場の改善が進むことで、労働生産性の工場など、経営面でのプラス効果も期待される
      ※ 厚生労働省「ストレスチェック制度導入マニュアル」(2016年4月公表)
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    • 【解答例】
      ストレスチェックを実施することにより、労働者と事業者にもたらされる効果については次のようなものがある。
      1 労働者にもたらされる効果
      (1)自らのストレスの状態やその原因を知ることができ、ストレスコーピング(対処)のきっかけにすることができる。
      (2)高ストレスの場合、面接指導を受けることで、就業上の措置につながる。また、ストレスチェックの結果が職場ごとに分析されれば、職場改善にも結びつく
      2 事業者にもたらされる効果
      (1)労働者がメンタルヘルス不調になることを未然に防止できる。
      (2)職場の問題点の把握が可能となり、職場改善の具体的な検討がしやすくなる。
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  • (6)事業者が心の健康に関する情報を把握した場合において、これを理由とした労働者にとって一般的に合理的でない不利益な取扱いは禁止されている。その不利益な取扱いに該当するものを三つ挙げよ。

    • 【解説】
      本問は「労働者の心身の状態に関する情報の適正な取扱いのために事業者が講ずべき措置に関する指針(最終改正:令和4年3月 31 日 労働者の心身の状態に関する情報の適切な取扱い指針公示第2号)」(以下「健康情報取扱い指針」という。)からの出題である。
      なお、ここにある「合理的でない不利益な取扱い」が禁止されるのは、「事業者が心の健康に関する情報を把握した場合」にそのことを理由として行われるときである。すなわち、こころの健康に関する情報を得ているが、その労働者の職務を遂行する能力に問題を生じていないのであれば、健康情報取扱い指針の(8)の ③ に定められている行為に限らず、どのような不利益な取り扱いであっても許されない(※)のである。
      解雇などの法律行為としては、公序良俗に反し民法第 90 条により無効となり、退職勧奨などの事実行為も社会通念を逸脱した形で行われれば民法第 709 条以下の不法行為となる。
      一方、こころの健康に問題を生じた結果、現実に労働能力が低下しているのであれば、その事業場で定められた合理性のある手続きを経てその不利益な取扱いが行われ、かつ、社会通念上も相当な範囲のことであれば、健康情報取扱い指針の(8)の ③ に定められている行為であったとしても、(e)は別として絶対的に許されないというわけではない(※)
      ※ 例えば(労働災害ではなく)こころの健康問題によって、労働者の労働能力が完全に喪失し、将来的にも回復する見込みが全くないことが明らかな場合にまで、解雇が許されないということにはならない。
      要は、その不利益な取り扱いが、現に労働能力が低下していることを理由としているか、合理性のある就業規則等に定められた手続きを経ているか、社会通念に照らして相当なものかどうかなどが問題となるのであって、健康情報取扱い指針の(8)の ③ に定められているかどうかが問題となるわけではない。試験の解答としては、健康情報取扱い指針の(8)の ③ に定められていることを書けばよいが、実務においてはこの規定にあまり拘泥するべきではない。
      【合理的でない不利益な取扱い】
      2 心身の状態の情報の取扱いに関する原則
      (8)労働者に対する不利益な取扱いの防止
        事業者は、心身の状態の情報の取扱いに労働者が同意しないことを理由として、又は、労働者の健康確保措置及び民事上の安全配慮義務の履行に必要な範囲を超えて、当該労働者に対して不利益な取扱いを行うことはあってはならない。
        以下に掲げる不利益な取扱いを行うことは、一般的に合理的なものとはいえないので、事業者は、原則としてこれを行ってはならない。なお、不利益な取扱いの理由が以下に掲げるもの以外のものであったとしても、実質的に以下に掲げるものに該当する場合には、当該不利益な取扱いについても、行ってはならない。
       心身の状態の情報に基づく就業上の措置の実施に当たり、例えば、健康診断後に医師の意見を聴取する等の労働安全衛生法令上求められる適切な手順に従わないなど、不利益な取扱いを行うこと。
       心身の状態の情報に基づく就業上の措置の実施に当たり、当該措置の内容・程度が聴取した医師の意見と著しく異なる等、医師の意見を勘案し必要と認められる範囲内となっていないもの又は労働者の実情が考慮されていないもの等の労働安全衛生法令上求められる要件を満たさない内容の不利益な取扱いを行うこと。
       心身の状態の情報の取扱いに労働者が同意しないことや心身の状態の情報の内容を理由として、以下の措置を行うこと。
      (a)解雇すること
      (b)期間を定めて雇用される者について契約の更新をしないこと
      (c)退職勧奨を行うこと
      (d)不当な動機・目的をもってなされたと判断されるような配置転換又は職位(役職)の変更を命じること
      (e)その他労働契約法等の労働関係法令に違反する措置を講じること
      ※ 厚生労働省「労働者の心身の状態に関する情報の適正な取扱いのために事業者が講ずべき措置に関する指針」(最終改正:令和4年3月 31 日 労働者の心身の状態に関する情報の適切な取扱い指針公示第2号)
      なお、心の健康に関する情報を理由とした不利益な取扱いの防止については「メンタルヘルス指針」においても同様なことが定められている。
      【合理的でない不利益な取扱い】
      8 心の健康に関する情報を理由とした不利益な取扱いの防止
      (1)事業者による労働者に対する不利益取扱いの防止
        事業者が、メンタルヘルスケア等を通じて労働者の心の健康に関する情報を把握した場合において、その情報は当該労働者の健康確保に必要な範囲で利用されるべきものであり、事業者が、当該労働者の健康の確保に必要な範囲を超えて、当該労働者に対して不利益な取扱いを行うことはあってはならない。
        このため、労働者の心の健康に関する情報を理由として、以下に掲げる不利益な取扱いを行うことは、一般的に合理的なものとはいえないため、事業者はこれらを行ってはならない。なお、不利益な取扱いの理由が労働者の心の健康に関する情報以外のものであったとしても、実質的にこれに該当するとみなされる場合には、当該不利益な取扱いについても、行ってはならない。
       解雇すること。
       期間を定めて雇用される者について契約の更新をしないこと。
       退職勧奨を行うこと。
       不当な動機・目的をもってなされたと判断されるような配置転換又は職位(役職)の変更を命じること。
       その他の労働契約法等の労働関係法令に違反する措置を講じること。
      (2)派遣先事業者による派遣労働者に対する不利益取扱いの防止
        次に掲げる派遣先事業者による派遣労働者に対する不利益な取扱いについては、一般的に合理的なものとはいえないため、派遣先事業者はこれを行ってはならない。なお、不利益な取扱いの理由がこれ以外のものであったとしても、実質的にこれに該当するとみなされる場合には、当該不利益な取扱いについても行ってはならない。
       心の健康に関する情報を理由とする派遣労働者の就業上の措置について、派遣元事業者からその実施に協力するよう要請があったことを理由として、派遣先事業者が、当該派遣労働者の変更を求めること。
       本人の同意を得て、派遣先事業者が派遣労働者の心の健康に関する情報を把握した場合において、これを理由として、医師の意見を勘案せず又は当該派遣労働者の実情を考慮せず、当該派遣労働者の変更を求めること。
      ※ 厚生労働省「労働者の心の健康の保持増進のための指針」(最終改正:平成27年11月30日健康保持増進のための指針公示第6号)
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    • 【解答例】
      事業者が心の健康に関する情報を理由とする、労働者への不利益な取扱いとして禁止されていることには、次のようなものがある。
      • 解雇、契約の更新の停止又は退職勧奨を行うこと。
      • 不当な動機・目的をもってなされたと判断されるような配置転換又は職位(役職)の変更を命じること。
      • その他の労働契約法等の労働関係法令に違反する措置を講じること。
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  • (7)厚生労働省の「第 14 次労働災害防止計画」において、メンタルヘルス対策に関し計画の目標に掲げられているアウトプット指標及びアウトカム指標を述べよ。

    • 【解説】
      本問は問題文にもあるように、「第 14 次労働災害防止計画(※)からの出題である。これは、本年度に固有の問題であり、次に出題されると知れば4又は5年後に第 15 次労働災害防止計画の目標が問われることとなろう。
      ※ 厚生労働省「労働災害防止計画について」から過去の計画へのリンクが張られている。
      いずれにせよ、完全な知識問題であり、知らないと解答できない問題である。
      【メンタルヘルス対策に関する目標】
      1 計画のねらい
      (3)計画の目標
        国、事業者、労働者等の関係者が一体となって、一人の被災者も出さないという基本理念の実現に向け、以下の各指標を定め、計画期間内に達成することを目指す。
      ア アウトプット指標
        本計画においては、次の事項をアウトプット指標として定める。事業者は、後述する計画の重点事項の取組の成果として、労働者の協力の下、これらの指標の達成を目指す。国は、その達成を目指し、当該指標を用いて本計画の進捗状況の把握を行う。
      (ア)~(エ) (略)
      (オ)労働者の健康確保対策の推進
       年次有給休暇の取得率を 2025 年までに 70 %以上とする。
       勤務間インターバル制度を導入している企業の割合を 2025 年までに 15 %以上とする。
       メンタルヘルス対策に取り組む事業場の割合を 2027 年までに 80 %以上とする。
       使用する労働者数 50 人未満の小規模事業場におけるストレスチェック実施の割合を 2027 年までに 50 %以上とする。
       各事業場において必要な産業保健サービスを提供している事業場の割合を 2027 年までに 80 %以上とする。
      (カ) (略)
      イ アウトカム指標
        事業者がアウトプット指標を達成した結果として期待される事項をアウトカム指標として定め、本計画に定める実施事項の効果検証を行うための指標として取り扱う。
        なお、アウトカム指標に掲げる数値は、本計画策定時において一定の仮定、推定又は期待の下、試算により算出した目安であり、計画期間中は、従来のように単にその数値比較をして、その達成状況のみを評価するのではなく、当該仮定、推定又は期待が正しいかどうかも含め、アウトプット指標として掲げる事業者の取組がアウトカムにつながっているかどうかを検証する。
      (ア)~(エ) (略)
      (オ)労働者の健康確保対策の推進
       週労働時間 40 時間以上である雇用者のうち、週労働時間 60 時間以上の雇用者の割合を 2025 年までに5%以下とする。
       自分の仕事や職業生活に関することで強い不安、悩み又はストレスがあるとする労働者の割合を 2027 年までに 50 %未満とする。
      (カ) (略)
      (参考)アウトプット指標及びアウトカム指標の考え方
      (ア)~(エ) (略)
      (オ)労働者の健康確保対策の推進
      【アウトプット指標】
        労働者の健康確保対策については、特にメンタル不調や過重労働による健康障害が課題となっていることから、これらの対策を推進することが本重点項目の目的となる。
        メンタル不調については、メンタルヘルス対策として職場におけるハラスメント防止対策やストレスチェックの実施も含めたメンタルヘルス対策を進めることが有効であると考えらえられる。このような考えから、事業者が取り組む具体的対策を4(7)ア(ア)に取りまとめ、4(7)ア(ア)の推進状況を1(3)に掲げるメンタルヘルス対策及びストレスチェックの実施状況をアウトプット指標として把握することとする。
        また、過重労働による健康障害防止については、時間外・休日労働時間を削減することに加え、年次有給休暇の取得や勤務間インターバル制度の導入といった長時間労働の抑制策による働き方の見直しの促進や、長時間労働者の面接指導を含めた産業保健サービスの充実が有効であると考えられる。このような考えから、事業者が取り組む具体的対策を4(7)イ(ア)に取りまとめ、4(7)イ(ア)の推進状況を上記に掲げる年次有給休暇の取得率やインターバル制度の導入率をアウトプット指標として把握することとする。
        さらに、これらの対策を含めて全ての事業場において産業保健サービスが提供されることが労働者の健康確保対策として重要であることから、事業者が取り組む具体的対策を4(7)ウ(ア)に取りまとめ、4(7)ウ(ア)の推進状況を1(3)に掲げる必要な産業保健サービスを提供している事業場の割合をアウトプット指標として把握することとする。
      【アウトカム指標】
        メンタルヘルス対策及びストレスチェックの実施状況がそれぞれ 80 %、50 %に進捗すれば(アウトプット指標達成)、メンタルヘルス不調につながる「自分の仕事や職業生活に関することで強い不安、悩み、ストレスがあるとする労働者の割合」を 2027 年までに 50 %未満となることが期待できる。
        また、年次有給休暇の取得率が 70 %以上、勤務間インターバル制度の導入率が 15 %以上に進捗すれば(アウトプット指標達成)、長時間労働の抑制に繋がる働き方の見直しが図られるほか、「過労死等の防止のための対策に関する大綱」に基づく労働時間削減に向けた取組を着実に進めることで、週労働時間 40 時間以上である雇用者のうち、週労働時間 60 時間以上の雇用者の割合を2025 年までに5%以下となることが期待できる。
        なお、必要な産業保健サービス(※)の提供割合が 80 %以上に進捗すれば(アウトプット指標達成)、労働者の健康障害全般の予防につながり、健康診断有所見率等が改善することが想定されるが、労働災害防止の成果を直接反映する適切な指標を設定することが困難であるため、このアウトプット指標に直接関係するアウトカム指標は設定していない。
      ※ 必要な産業保健サービスとして、以下の取組を想定している。
      ・ 労働安全衛生法の健康診断結果に基づく保健指導
      ・ 健康診断で所見が認められた者や要治療者など治療・服薬・就業上の配慮等の健康管理上の措置が必要な者に対する指導、支援、相談
      ・ 睡眠、喫煙、飲酒等に関する健康的な生活に向けた教育や相談
      ・ メンタルヘルス対策(ストレスチェックの実施、相談体制の整備、職場環境改善等)
      ・ 高年齢労働者の身体能力の低下を踏まえた転倒等の予防対策
      ・ がん、精神障害等の病気を抱える労働者の治療と仕事の両立支援
      ・ 女性の健康課題(更年期障害、月経関連の症状、疾病等)に対する配慮、支援
      ・ 化学物質等の有害物を取り扱う者に対する健康診断等の健康管理
      ・ テレワークの増加等に伴う事業場以外の場所で就業する者に対する相談対応等の健康管理支援
      (カ) (略)
      ※ 厚生労働省「第 14 次労働災害防止計画」(2023 年(令和5年)3月)
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    • 【解答例】
      「第 14 次労働災害防止計画」のメンタルヘルス対策に関するアウトプット指標及びアウトカム指標は次のようになっている。
      1 アウトプット指標
      メンタルヘルス対策に取り組む事業場の割合を 2027 年までに 80 %以上とする。
      使用する労働者数 50 人未満の小規模事業場におけるストレスチェック実施の割合を 2027 年までに 50 %以上とする。
      2 アウトカム指標
      自分の仕事や職業生活に関することで強い不安、悩み又はストレスがあるとする労働者の割合を 2027 年までに 50 %未満とする。
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  • (8)常時使用する労働者の数が 50 人未満の小規模事業場におけるメンタルヘルスケアの取組の留意事項を述べよ。

    • 【解説】
      これは、メンタルヘルス指針の「9 小規模事業場におけるメンタルヘルスケアの取組の留意事項」からの出題であろう。なお、中小規模事業場における留意事項は、「3 衛生委員会等における調査審議」及び「5 4つのメンタルヘルスケアの推進」の「(4)事業場外資源によるケア」にも記述がある(※)
      ※ なお、「5 4つのメンタルヘルスケアの推進」の「(4)事業場外資源によるケア」に「小規模事業場においては、ママに掲げるとおり」とあるのは、「小規模事業場においては、9に掲げるとおり」の誤植であろう。
      【小規模事業場におけるメンタルヘルスケアの取組の留意事項】
      3 衛生委員会等における調査審議
        (前略)
        なお、衛生委員会等の設置義務のない小規模事業場においても、4に掲げる心の健康づくり計画及びストレスチェック制度の実施に関する規程の策定並びにこれらの実施に当たっては、労働者の意見が反映されるようにすることが必要である。
      5 4つのメンタルヘルスケアの推進
      (4)事業場外資源によるケア
        (前略)
        特に、小規模事業場においては、ママに掲げるとおり、必要に応じて産業保健総合支援センターの地域窓口(地域産業保健センター)等の事業場外資源を活用することが有効である。
      9 小規模事業場におけるメンタルヘルスケアの取組の留意事項
        常時使用する労働者が 50 人未満の小規模事業場では、メンタルヘルスケアを推進するに当たって、必要な事業場内産業保健スタッフが確保できない場合が多い。このような事業場では、事業者は、衛生推進者又は安全衛生推進者を事業場内メンタルヘルス推進担当者として選任するとともに、地域産業保健センター等の事業場外資源の提供する支援等を積極的に活用し取り組むことが望ましい。また、メンタルヘルスケアの実施に当たっては、事業者はメンタルヘルスケアを積極的に実施することを表明し、セルフケア、ラインによるケアを中心として、実施可能なところから着実に取組を進めることが望ましい。
      ※ 厚生労働省「労働者の心の健康の保持増進のための指針」(最終改正:平成27年11月30日健康保持増進のための指針公示第6号)
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    • 【解答例】
      常時使用する労働者が 50 人未満の小規模事業場では、メンタルヘルスケアを推進するに当たって、必要な事業場内産業保健スタッフが確保できない場合が多い。このような事業場では、事業者は、衛生推進者又は安全衛生推進者を事業場内メンタルヘルス推進担当者として選任するとともに、地域産業保健センター等の事業場外資源の提供する支援等を積極的に活用し取り組むことが望ましい。また、メンタルヘルスケアの実施に当たっては、事業者はメンタルヘルスケアを積極的に実施することを表明し、セルフケア、ラインによるケアを中心として、実施可能なところから着実に取組を進めることが望ましい。
      なお、50 人未満の小規模事業場でも、心の健康づくり計画及びストレスチェック制度の実施に関する規程の策定並びにこれらの実施に当たっては、労働者の意見が反映されるようにすることが必要である。
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