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このページは、2024年の労働安全衛生コンサルタント試験の「健康管理(記述式)」問題の解説と解答例を示しています。
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解説文中の法令の名称等は、適宜、略語を用いています。また、引用している法令は、読みやすくするために漢数字を算用数字に変更するなどの修正を行いました。
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2024年度(令和6年度) | 問 3 | 一部に明らかな出題ミスがあり、また細かい知識を問う問題もあるが、60 %は得点可能な問題である。 |
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騒音対策 |
問3 騒音とその健康障害に関する以下の設問に答えよ。
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(1)人が聞くことができる音について、次の問に答えよ。
① 人が通常聞くことができる音の周波数[Hz]の範囲を答えよ。-
【解説】
健康成人の可聴範囲は、下限は 16~20 ㎐ 程度、上限は 15,000~20,000 ㎐ 程度といわれる。この数値で答えておけばよいが、上限を 20,000 ㎐ 程度と答えても減点されることはないだろうと思う。ただ、高年齢になってくると高音域は聞こえなくなってくる。山田(※)によると「
小型スピーカーから 17,000 ㎐ という高周波の耳障りなブザー音を鳴らし、店舗にたむろしている迷惑な 10 代の若者を追い払う
」英国の会社が販売したブザーがあるそうだが、この程度の周波数になると顧客となる 20 歳以上の社会人には聞こえないのである。※ 山田琢之他「健康診断の見方」(安全衛生コンサルタント 2024/7月)次の動画は、周波数の聞こえのテストとして公開されているものである。低周波と高周波が聞こえない場合、聞こえないからといって、あまりボリュームを上げないで頂きたい。ただし、医学的に厳密な測定ではないことにご留意頂きたい。この動画で低周波と高周波が聞こえなかったとしても、あなたがお使いになっているオーディオ機器(スピーカー又はヘッドフォン等)の性能による可能性もある。また、補聴器のメーカが「聞こえ年齢チェック」というページを公開している。こちらも、医学的な厳密な測定ではなく、(このページにも明記されている通り)参考程度にとどめるべきである。筆者の場合、YouTube 動画では 9,000 ㎐ までしか聴こえなかったが、補聴器メーカーのページでは、 10,000 ㎐ まで聞こえた。ちなみに、筆者の年齢は 70 歳である。閉じる -
【解答例】
健康成人の可聴範囲は、下限は 16~20 ㎐ 程度、上限は 15,000~20,000 ㎐ 程度といわれる。閉じる
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【解説】
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② 物理的な音の強さと音の聞こえ方の関係が、周波数の違いによりどのように異なるか述べよ。
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【解説】
音の聞こえ方は、①音の高さ(周波数)、②音の大きさ(振幅=音圧と比例関係にある)、③音の音色(波形)という「音の三要素」によって決まる。音の大きさは、通常は音圧レベル(SPL:Sound Pressure Level)で表し、音の音圧(実効値)を としたとき、音圧レベルは次式で表される(※)。※ JIS Z 8106:2000「音響用語」参照本小問の「物理的な音の強さ」とは、②音の大きさ(振幅)のことであるが、音の大きさが同じであっても、①の音の高さ(周波数)が異なれば、感覚的には異なる大きさ(ラウドネス(※))として聞こえる。※ ラウドネスとは、音の主観的な音の大小関係を表す量のことである。JIS Z 8106:2000「音響用語」では、「
聴覚にかかわる音の属性の一つで、小から大に至る尺度上に配列される。備考 音の大きさは、主として刺激の音圧に依存するが、周波数、波形及び継続時間にも依存する
」と定義されている。なお、詳細な計算法は ISO 532-2:2017 に標準化されている。周波数を変化させたときに、感覚的に同じ大きさに聞こえる音圧レベル(等ラウドネスレベル)のグラフを等ラウドネスレベル曲線と呼び、ISO226 として規格化(最終改正2023年(※))されている。※ 鈴木陽一他「ISO 226(等ラウドネスレベル曲線)2023 年版:改訂の背景と実務への影響」(日本音響学会誌 Vol.80 No.1 2024年)参照ここに示した図は、2003年に改正されたときのもので現時点ではやや古くなっているが、2023 年の改正後のものとは軽微な差(20Hz の最小可聴値を除けば、全域で 0.1dB に収まっている。)があるのみである。閉じる -
【解答例】
物理的な音の強さ(音圧)が同じであっても、感覚的な音の聞こえ方(ラウドネス)は、周波数によって異なる。周波数を変化させたときに、感覚的に同じ大きさに聞こえる音圧レベルを「等ラウドネスレベル」と呼ぶ。物理的な音の強さ(音圧)が同じであっても 低い音には鈍感になるが、3000~4000Hz 程度では大きな音に聞こえ、500kHz以上の高い周波数では鈍感になる。閉じる
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【解説】
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(2)騒音へのばく露を低減する措置等について、次の問に答えよ。
① 騒音発生源対策として騒音を発生させる原因を除去すること以外に検討すべき方法を三つ挙げ、その具体例を一つずつ述べよ。-
【解説】
騒音の障害の防止については厚生労働省より「騒音障害防止のためのガイドライン(令和5年4月20日基発0420第2号)」(以下「ガイドライン」という。)が定められている(※)。※ 通達の名称が「騒音障害防止のためのガイドラインの改訂について」となっているのは、平成4年10月1日基発第546号「騒音障害防止のためのガイドラインの策定について」を廃止して新たに策定したためである。ガイドラインには、「騒音障害防止のためのガイドラインの解説」(以下「解説」という。)が示されている。本小問については、解説の「3 「6 作業環境管理について」の(3)のアの「表1 代表的な騒音対策の方法」の、表1に示されている。この表中の「1 騒音発生源対策」のうち、発生原因の除去以外の方法(※)を3つを解答すればよい。※ 「騒音を発生させる原因を除去すること」を出題者が除いたのは、簡単になりすぎると思ったためかもしれない。しかし、これが解答の例示になっており、ガイドラインの解説の表について知らなかったとしても、これをヒントとして何か書けるのではないだろうか。騒音発生源対策で、騒音を発生させる原因を除去することを除くというのであるから、ガイドラインを知らなくても(※)、発生源を囲う、衝立を立てる、音が出にくくする、音が小さいものに代えるなどが思いつくのではなかろうか。※ ガイドラインの解説の表1に当たる対策は衛生一般の2019年の問8に出題されているので、衛生一般の過去問を当サイトで学習していれば、見たことはあるはずなのだが・・・。なお、この表は「3 「6 作業環境管理」について」の中に記されているが、表中には作業管理に属するものも含まれていることに留意すること。【騒音障害防止のためのガイドラインの解説】3 「6 作業環境管理」について(3)結果に基づく措置ア 施設、設備、作業工程等における騒音発生源対策及び伝ぱ経路対策並びに騒音作業に従事する労働者に対する受音者対策の代表的な方法は表1のとおりである。なお、これらの対策を講ずるに当たっては、改善事例を参考にするとともに、労働衛生コンサルタント等の専門家を活用することが望ましい。
表1 代表的な騒音対策の方法 分類 方法 具体例 1 騒音発生源対策発生源の低騒音化 低騒音型機械の採用 発生原因の除去 給油、不釣合調整、部品交換等 遮音 防音カバー、ラギング等の取り付け 消音 消音器、吸音ダクト等の取り付け 防振 防振ゴムの取り付け 制振 制振材の装着 運転方法の改善 自動化、配置の変更等 2 伝ぱ経路対策距離減衰 配置の変更等 遮蔽効果 配置の変更等 吸音 建屋内部の消音処理 指向性 音源の向きの変更 3 受音者対策遮音 防音監視室の設置 作業方法の改善 作業スケジュールの調整、遠隔操作化等 耳の保護 耳栓、耳覆いの使用 -
【解答例】
騒音発生源対策の方法と具体例としては、以下のものがある。1 検討すべき方法:発生源の低騒音化 対策:低騒音型機械の採用2 検討すべき方法:発生源の遮音 対策:防音カバー、ラギング等の取り付け3 検討すべき方法:発生源の防振 対策:防振ゴムの取り付け閉じる
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【解説】
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② 騒音対策のうち伝播経路対策に分類される方法を二つ挙げ、その具体例を一つずつ述べよ。
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【解説】
本小問についても、解説の「3 「6 作業環境管理」について」の(3)のアの「表1 代表的な騒音対策の方法」の、表1に示されている。この表中の「2 伝ぱ経路対策」のうち、2つを解答すればよい。ただ、ガイドラインを知らないと、伝播経路対策は発生源対策よりも難しいかもしれない。閉じる
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【解答例】
騒音対策のうち伝播経路対策に分類される方法として、以下のものがある。1 検討すべき方法:距離減衰 対策:配置の変更等2 検討すべき方法:遮蔽効果 対策:配置の変更等閉じる
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【解説】
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③ 聴覚保護具の選択と着用方法に関して留意すべき事項を四つ述べよ。
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【解説】
聴覚保護具の選択と着用方法に関しては、ガイドラインの「7 作業管理」の「(1)聴覚保護具の使用」等に示されている。ここで、「8 健康管理」と「9 労働衛生教育」にも聴覚保護具の選択と使用に関する記述がある。これらを解答に記載するべきかどうかだが、「7 作業管理」に4つの事項は含まれているので、出題者はおそらく「7 作業管理」について答えることを期待しているものと思われる。【騒音障害防止のためのガイドライン】7 作業管理(1)聴覚保護具の使用ア 事業者は、聴覚保護具については、日本産業規格(JIS)T 8161-1 に規定する試験方法により測定された遮音値を目安に、必要かつ十分な遮音値のものを選定すること。なお、危険作業等において安全確保のために周囲の音を聞く必要がある場合や会話の必要がある場合は、遮音値が必要以上に大きい聴覚保護具を選定しないよう配慮すること。イ 事業者は、管理者に、労働者に対し聴覚保護具の正しい使用方法を指導させた上で、目視等により正しく使用されていることを確認すること。8 健康管理(2)騒音健康診断結果に基づく事後措置事業者は、健康診断の結果の評価に基づき、次に掲げる措置を講ずること。ア 前駆期の症状が認められる者及び軽度の聴力低下が認められる者に対しては、第Ⅱ管理区分に区分された場所又は等価騒音レベルが85dB以上90dB未満である場所においても、聴覚保護具を使用させるほか、必要な措置イ 中等度以上の聴力低下が認められる者に対しては、聴覚保護具を使用させるほか、騒音作業に従事する時間の短縮、配置転換その他必要な措置9 労働衛生教育(1)騒音健康診断結果に基づく事後措置事業者は、管理者を選任しようとするときは、当該者に対し、次の科目について労働衛生教育を行うこと。①及び② (略)③ 聴覚保護具の使用及び作業方法の改善④ (略)(2)騒音作業に従事する労働者に対する労働衛生教育事業者は、騒音作業に労働者を常時従事させようとするときは、当該労働者に対し、次の科目について労働衛生教育を行うこと。ただし、第Ⅰ管理区分に区分されることが継続している場所又は等価騒音レベルが継続的に85dB未満である場所において業務に従事する労働者については、当該教育を省略することができる。① (略)② 聴覚保護具の使用※ 厚生労働省「騒音障害防止のためのガイドライン」(令和5年4月20日基発0420第2号)なお、ガイドラインにいう JIS の規定は、JIS T 8161-1:2020「聴覚保護具(防音保護具)− 第1部:遮音値の主観的測定方法」であるが、試験方法は「4 聴覚保護具の遮音値測定」に示されている。閉じる
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【解答例】
聴覚保護具の選択と着用方法に関して留意すべき事項としては、以下の4点がある。① JIS に規定する試験方法により測定された遮音値を目安に、必要かつ十分な遮音値のものを選定する② 危険作業等において安全確保のために周囲の音を聞く必要がある場合や会話の必要がある場合は、遮音値が必要以上に大きい聴覚保護具を選定しないよう配慮する③ 管理者に、労働者に対し聴覚保護具の正しい使用方法を指導させる④ 管理者は、③の教育を労働者に受けさせたうえで、目視等により労働者の聴覚保護具が正しく使用されていることを確認する閉じる
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【解説】
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④ 騒音による聴力低下と加齢による聴力低下の違いを述べよ。
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【解説】
騒音による聴力低下と加齢による聴力低下の違いは、衛生コンサルタント試験を目指すなら知っておかなければならないことだが、騒音性難聴は 4,000 Hz 付近から聴力が低下する(c5dip)(※)のに対し、加齢によるものは高周波から聴力が低下するという特徴がある。※ かつての聴力検査は、1,000 Hz(c3)、2,000 Hz(c4)、4,000 Hz(c5)、8,000 Hz(c6)の4種類の音叉を用いていた。騒音性難聴では、そのうち 4,000 Hz が低下(dip)していたため、c5dip と呼ばれるようになったものである。実際に障害されている周波数は、5,000 Hz、6,000 Hz などのこともあり、「四捨五入すれば 4,000 Hz になる周波数」が障害されるということではない。なお、c5dip の c5は cv と書いてもよいが、「c」は必ず小文字で書くこと。c5 とは 4,186 Hz(ピアノの鍵盤の一番右(ド)の音)を指すが、大文字の C5 は周波数が異なってしまう。なお、騒音による聴力低下も加齢による聴力低下も、感音性難聴であることに変わりはない。これは、内耳や耳神経の異常のために音の信号を脳に伝えられないことで起きる難聴であり、比較的高音の音が聞こえにくくなる(※)。※ これに対して、伝音難聴は、外耳や中耳の異常のため、外耳による音の集音と、中耳による音の増幅ができないため、小さな音が聞こえにくくなる。幅広い年齢で発症し、片耳だけ起きることもある。騒音性難聴と老人性難聴の違いについて、茨城産業保健総合支援センターの作成したQ&A(※)の「Q2-2 騒音性難聴と老人性難聴の違いを教えてください」に次のように示されている。※ 独立行政法人労働者健康安全機構茨城産業保健総合支援センター他編「騒音性難聴に関わるに関わるすべての人のためのQ&A(第2版)」(平成29年度産業保健調査研究報告書)【騒音性難聴と老人性難聴の違い】Q2-2 騒音性難聴と老人性難聴の違いを教えてください。A 騒音性難聴は大きな音に長期間さらされたために起こる難聴です。老人性難聴(加齢性難聴)は年齢変化による難聴です。両者とも内耳の障害で難聴が起こり、感音難聴をきたします。また、騒音職場で長く働き高齢になった労働者では、その割合に差はあれ、両方の影響による難聴が合併している可能性が考えられます。典型的な老人性難聴の聴力変化は図 2-1(聴力の年齢変化)のようになり、また、典型的な騒音性難聴の難聴進行は図 2-2(騒音性難聴の進展様式)のようになります。難聴進行の時間経過が聴力検査でつかめていれば両者の鑑別が可能ですが、難聴が進行した後の聴力図を見ただけではどちらがどの程度影響した結果なのか判断するのは極めて難しくなり、騒音性難聴の認定基準(表8-2)に従って慎重に診断が行われます。定期的な聴力検査を行い、記録を保存しておくことの重要性がわかっていただけると思います。※ 茨城産業保健総合支援センター他編「騒音性難聴に関わるに関わるすべての人のためのQ&A(第2版)」(平成29年度産業保健調査研究報告書)
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なお、昭和 61 年3月 18 日基発第 149 号「騒音性難聴の認定基準について」に、騒音性難聴の病態についての説明がある。老人性難聴との比較として記されているのではないが、これも参考となろう。【騒音性難聴の病態】(解説)1.騒音性難聴の病態聴力はある一定限度以上の騒音に繰り返しばく露されると次第に障害される。聴力障害は高音域から始まり、一般に初期の段階ではオクターブオージオメトリーにおいてはオージオグラムがc5dipの型(4,000Hz 付近に限局した聴力障害)を示す。その高音域の聴力障害の進行は騒音ばく露の比較的早い時期において著明で、次第にその障害進行の速度は緩慢となる。さらに聴力障害は、ばく露期間に応じて、より高音域へ、次いで中音域、低音域へと拡がる。騒音ばく露によって障害される部位は内耳である。内耳に起こる病的変化の発生機序に関しては必ずしも明らかになってはいないが、蝸牛基底回転におけるラセン器の変性であると考えられている。騒音性難聴は、一般に両側性であり、騒音下の作業を離れるとほとんど増悪しない性質を有している。なお、認定の対象となる如き騒音性難聴の治療については、現在までのところ、有効治療法が確立されていないため、その治療は必要な療養とは認められない。※ 厚生労働省「騒音性難聴の認定基準について」(昭和 61 年3月 18 日基発第 149 号) -
【解答例】
騒音性難聴は 4,000 Hz 付近から聴力が低下する(c5dip)のに対し、加齢によるものは高周波から聴力が低下するという特徴がある。閉じる
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【解説】
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⑤ 厚生労働省の「騒音障害防止のためのガイドライン」において、騒音作業に従事する予定の労働者を雇い入れる際に実施すべきとされている純音聴力検査の周波数を1,000 Hz、4,000 Hz 以外に五つ挙げよ。
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【解説】
ガイドラインの「8 健康管理」において、雇い入れ時の健康診断の項目が定められているので、それに沿って解答すればよい。それにしても、かなり細かいことを問うている。通達レベルの健康診断項目の聴力検査の周波数まで知っている必要性があるのだろうか? 出題の内容そのものに疑問を感じなくもない。なお、平成4年 10 月1日基発第546号の旧ガイドラインでは、6,000Hz について検査することとはされていなかった。このことは口述試験で問われることがあるので、覚えておいた方がよい。【騒音障害防止のためのガイドライン】8 健康管理(1)騒音健康診断ア 雇入時等健康診断事業者は、騒音作業に常時従事する労働者に対し、その雇入れの際又は当該業務への配置替えの際に、次の項目について、医師による健康診断を行うこと。①~③ (略)④ オージオメータによる 250 ヘルツ、500 ヘルツ、1,000 ヘルツ、2,000 ヘルツ、4,000 ヘルツ、6,000 ヘルツ及び 8,000 ヘルツにおける聴力の検査⑤ (略)※ 厚生労働省「騒音障害防止のためのガイドライン」(令和5年4月20日基発0420第2号)
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【解答例】
「騒音障害防止のためのガイドライン」において、騒音作業に関する雇い入時の健康診断で実施すべきとされている純音聴力検査の周波数は、1,000 Hz、4,000 Hz 以外に次のものとなっている。250 ヘルツ、500 ヘルツ、2,000 ヘルツ、6,000 ヘルツ及び 8,000 ヘルツにおける聴力の検査閉じる
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【解説】
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(3)次の①及び②について騒音レベル[dB]を求めよ。計算過程も示すこと。
なお、音圧が p[Pa]である騒音レベル LA[dB]は次の式で表されるものとし、この騒音は、反射、干渉、回折及び吸収を受けず、その音圧は距離の2乗に反比例して減衰するものとする。
また、log102= 0.3、log103= 0.5、log105= 0.7 とする。
① 騒音源から ℓ の距離にある作業場で測定した騒音レベルが 94 dB である場合に、2ℓ、3ℓの距離にある作業場におけるそれぞれの騒音レベル[dB]を求めよ。-
【解説】
1 本小問の基本的な誤り本小問には基本的な誤りが含まれている。「反射、干渉、回折及び吸収を受けず、その音圧は距離の2乗に反比例して減衰する」とある。しかし、音源が点で周囲に障害物のない自由空間で「反射、干渉、回折及び吸収を受けない」のであれば、音のエネルギーは距離の2乗に反比例して減衰する(※)が、音圧は距離の2乗に反比例して減少したりしない。※ 自由空間にある点音源の場合、音は球状に広がる。従って、音が「反射、干渉、回折及び吸収を受け」ないのであれば、エネルギー保存の法則から、「球面の面積」と「単位面積当たりの音のエネルギー」の積は変化しない。球の表面積は (:音源からの距離=球体の半径)であるから、音エネルギーは距離の2乗に反比例することになる。なお、音のエネルギー と音圧 の関係は、(音の関係式。なお、:媒質の密度、:光速)となる。すなわち、音のエネルギーは、音圧(※)の2乗に比例するのである。※ 音とは媒体中を伝わる縦波であり、大気中を伝わる場合は、気圧の変動が縦波となって伝わる。この気圧の変化分の実効値(2乗和の平方根)が音圧である。なお、圧力であるから単位は[Pa]である。エネルギーは距離×力で表せる。一方、振幅が大きくなるということは、距離が大きくなるだけでなく、空気の分子を動かすための力も振幅に比例して大きくなる。従って、エネルギーは振幅の2乗に比例するのである。なお、錘が付いたバネの錘が振動している場合や、振り子が揺れている場合の、その系が持つエネルギーも振幅の2乗に比例する。従って、「音圧は距離の2乗に反比例して減衰する」ことはない。音圧(振幅)は距離に反比例して減衰するのである。従って、問題文を前提として解答する限り、答えはかなり非常識なものになってしまう。しかし、本小問の場合は、問題文に書かれていない物理法則を無視した、何かの超自然的な力(メルセゲル(Meretseger:静寂を愛する女神)とか?)により、音のエネルギーが距離とともに吸収されて、大きく減衰するのだろう。2 本小問の解き方(1)与えられた条件をそのまま使用する場合本小問は、基本的な誤りがあることを別にすれば、公式と考え方が問題文に示されているので、慎重に問題を解いていけばよい。騒音レベル LA[dB]は問題文に与えられており、与式より次のようになる。一方、音圧は距離の2乗に反比例し、騒音源から ℓ の距離にある作業場で測定した騒音レベルが 94 dB であるというのであるから、ある(騒音減からの距離によらない)常数 K が存在して次式のようになる。また、騒音減からの距離が 2ℓ の位置の騒音レベルの値は次のようになる。となる。また、騒音減からの距離が 3ℓ の位置の騒音レベルの値は次のようになる。これは、かなり非常識な数値である。騒音レベルは、点音源で自由空間の場合、距離が2倍になれば6 dB、3倍になれば 10 db 減衰するからである(※)。※ このことは、労働衛生一般又は口述試験のために、覚えておく方がよい。(2)与えられた条件を無視して正しい結論を導く方法試験協会(採点者)が採点時にミスに気づいていれば良いが、ミスに気づいておらずかつ正しい結論を知っていれば=当然、知っているだろうが=(1)に示した答案では誤りとして処理されるリスクがある。そこで、与えられた条件を無視して、正しい結論を導く答案も示しておく。音圧は距離の2乗に反比例し、騒音源から ℓ の距離にある作業場で測定した騒音レベルが 94 dB であるというのであるから、ある(騒音減からの距離によらない)常数 K が存在して次式のようになる。また、騒音減からの距離が 2ℓ の位置の騒音レベルの値は次のようになる。となる。また、騒音減からの距離が 3ℓ の位置の騒音レベルの値は次のようになる。【以下参考】1 音圧と音の強さと音圧レベルの関係参考までに音についていくつか解説しておく。最初に、音圧と、音圧レベルの関係について説明しよう(加来治郎「音響の基礎:音の発生と伝搬」を参考にした。)。音の強さは、JIS Z 8106:2000「音響用語」によれば、「指定された方向に垂直な面を通過する音響エネルギー束をその面積で除した値」と定義される。しかし、人間の耳は精巧にできていて、小さな音から大きな音まで非常に広い範囲の音を聞くことが可能である。そこで、音の強さをそのまま数値で表すと小さな音があらわしにくいので、音の強さのレベルLA(や音圧レベル)は、音の強さの基準値との比の常用対数を 10 倍した値で表示をすることになっている(※)。※ 2つの量の比の常用対数はベル(Bel)と呼ばれるが、これに1/10を表すデシ(deci)を付して、単位をデシベル(dB)としている。2 騒音レベルと音圧レベルの関係次に、騒音レベル、音圧レベルの関係について説明をしておく。音圧レベルとは、問題文の公式で表される純粋な物理量で、周波数が異なっても音圧が同じであれば同じ値となる。しかし、騒音レベルとは、人が音を騒音として感じるレベルであり、周波数が異なると同じ音圧レベルでも騒音として感じるレベルは異なる。現実の騒音は様々な周波数の音を含んでいるが、周波数ごとに人が感じる聴感を考慮して補正を加えたものが騒音レベルである。この補正の方法には、A特性、Z特性、C特性があるが、騒音レベルはA特性で補正したものと考えてよい。しかし、距離によって減衰する程度は、音圧レベルも騒音レベルも同じなので、距離による変化は同じ公式が使える。閉じる
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【解答例】
【A案】2ℓの距離にある作業場におけるそれぞれの騒音レベルは 82[dB]、3ℓの距離にある作業場におけるそれぞれの騒音レベルは 74[dB]となる。騒音レベル LA[dB]は与式より次のようになる。一方、音圧は距離の2乗に反比例し、騒音源から ℓ の距離にある作業場で測定した騒音レベルが 94 dB であるというのであるから、ある(騒音減からの距離によらない)常数 K が存在して次式のようになる。また、騒音減からの距離が 2ℓ の位置の騒音レベルの値は次のようになる。となる。また、騒音減からの距離が 3ℓ の位置の騒音レベルの値は次のようになる。従って、騒音源から2ℓの距離の騒音レベルは、82 dB、3ℓの距離の騒音レベルは、74 dB となる。【B案】音圧は距離の2乗に反比例し、騒音源から ℓ の距離にある作業場で測定した騒音レベルが 94 dB であるというのであるから、ある(騒音減からの距離によらない)常数 K が存在して次式のようになる。また、騒音減からの距離が 2ℓ の位置の騒音レベルの値は次のようになる。となる。また、騒音減からの距離が 3ℓ の位置の騒音レベルの値は次のようになる。従って、騒音源から2ℓの距離の騒音レベルは、82 dB、3ℓの距離の騒音レベルは、74 dB となる。閉じる
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【解説】
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② ある測定点で騒音レベルが 82 dB である騒音の発生源がある。その発生源がその場所で一つから二つに増えた場合のその測定点での騒音レベル[dB]を求めよ。
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【解説】
騒音の発生源が一つから二つに増えても、個々の発生源の発する音のエネルギーはそのままであるから、二つの発生源の発する音のエネルギーは単純に2倍になる。小問②で説明したように、音のエネルギーは音圧の2乗に比例する。従って、単純に与式のが2倍になったと考えればよいのである。騒音レベルが 82 dB である騒音の音圧をとすると、与えられた条件よりとなる。音源が一つから二つに増えたときの騒音レベルは、次のようになる。となり、3 dB 大きくなる(※)。※ 騒音源の数が2倍になると、騒音レベルは3 dB 増加するという結論も、労働衛生一般及び口述試験対策のために覚えておいた方がよい。閉じる
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【解答例】
騒音レベルが 82 dB である騒音の音圧をとすると、となる。音源が一つから二つに増えたときの騒音レベルは、次のようになる。となり、3 dB 大きくなる(※)。閉じる
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【解説】
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(4)等価騒音レベルについて、次の問に答えよ。
① 騒音に関する作業環境測定において、A 測定と B 測定の等価騒音レベルがどのような場合に、第Ⅲ管理区分と評価されるか述べよ。-
【解説】
騒音職場の作業環境測定の評価の方法については、ガイドラインの別紙1「作業環境測定による等価騒音レベルの測定」に定められているので、その通りに答えればよい。【作業環境測定による等価騒音レベルの測定】2 測定結果の評価事業者は、1による作業環境測定を行った後、単位作業場所ごとに、次の表により、結果の評価を行うこと。
B測定 85 dB 未満 85 dB 以上
90 dB 未満90 dB 以上 A測定平均値 85 dB 未満 第Ⅰ管理区分 第Ⅱ管理区分 第Ⅲ管理区分 85 dB 以上
90 dB 未満第Ⅱ管理区分 第Ⅱ管理区分 第Ⅲ管理区分 90 dB 以上 第Ⅲ管理区分 第Ⅲ管理区分 第Ⅲ管理区分 備考1 「A測定平均値」は、測定値を算術平均して求めること。2 「A測定平均値」の算定には、80dB未満の測定値は含めないこと。3 A測定のみを実施した場合は、表中のB測定の欄は85dB未満の欄を用いて評価を行うこと。※ 厚生労働省「作業環境測定による等価騒音レベルの測定」(令和5年4月20日基発0420第2号「騒音障害防止のためのガイドラインの改訂について」の別紙1) -
【解答例】
騒音に関する作業環境測定において、A 測定と B 測定の等価騒音レベルの測定を行っている場合、A 測定又は B 測定のいずれかが第Ⅲ管理区分になっている場合に、作業場全体を第Ⅲ管理区分と評価する。閉じる
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【解説】
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② A 特性の等価騒音レベルが 91 dB のとき、日本産業衛生学会が勧告する騒音のばく露許容基準による1日のばく露限度時間を答えよ。
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【解説】
日本産業衛生学会の勧告する騒音のばく露許容基準は次のように示されている。従って、A 特性の等価騒音レベルが 91 dB のとき、1日のばく露限度時間は2時間となる。※ 日本産業衛生学会「Ⅵ.騒音の許容基準」(産衛誌 Vol.65 2023年)【騒音の許容基準】1.許容基準b)騒音レベル(A特性音圧レベル)による許容基準この許容基準では騒音の周波数分析を行うことを原則とするが、騒音計のA特性で測定した値を用いる場合には、表Ⅵ-2 に示す値を許容基準とする。ただし、1日の曝露時間が8時間を超える場合の許容騒音レベルは、2交替制等によって、1日の曝露時間がやむを得ず8時間を超える場合の参考値である。
表Ⅵ-2.騒音レベル(A特性音圧レベル)による許容基準 1日の曝露時間
時間-分許容騒音レベル
dB1日の曝露時間
時間-分許容騒音レベル
dB24 - 00 80 2 - 00 91 20 - 09 81 1 - 35 92 16 - 00 82 1 - 15 93 12 - 41 83 1- 00 94 10 - 04 84 0 - 47 95 8 - 00 85 0 - 37 96 6 - 20 86 0 - 30 97 5 - 02 87 0 - 23 98 4 - 00 88 0 - 18 99 3 - 10 89 0 - 15 100 2 - 30 90 これは、ここ数年の労働安全衛生コンサルタント試験の特徴で、やたらに細かいことを問う種類の問題である。問題を難しくするなとは言わないが、それならそれで知識と能力のある者が解ける問題にするべきだろう。ここまで細かいことを問う必要があるのか、大いに疑問を感じる。コンサルタントとしては、騒音にさらされる作業においては、日本産業衛生学会が騒音レベル(A特性音圧レベル)による許容基準を定めていることを知っていれば十分ではなかろうか(※)。実務においては、産業衛生学会の資料を参照すればよいことである。※ A 特性の等価騒音レベルが 90 dB のときと 85 dB のときの1日のばく露限度時間は覚えておく必要がある。むしろ、これを適用するときの留意事項などについて問う方が、よほどコンサルタントとしての能力を測るための設問としては適切であろう。閉じる -
【解答例】
A 特性の等価騒音レベルが 91 dB のとき、1日のばく露限度時間は2時間となる。閉じる
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【解説】