労働衛生コンサルタント試験 健康管理 2023年 問3

高年齢労働者の労働災害の特徴と予防




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※ イメージ図(©photoAC)

 このページは、2023年の労働安全衛生コンサルタント試験の「健康管理(記述式)」問題の解説と解答例を示しています。

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2023年度(令和5年度) 問 3 健康管理の過去問にはない内容。しかし、労働衛生一般の関連問題の総集編のような問題。
作業態様等に起因の疾病
2023年11月11日執筆

問3 高年齢労働者の労働災害の特徴とその予防に関する以下の設間に答えよ。

  • (1)高年齢労働者に発生する休業4日以上の労働災害は、30 歳代の若年者と比べてどのような特徴があるか。①発生率、②性別、③災害の事故の型及び④休業期間について説明せよ。

    • 【解説】

      本小問では高年齢労働者について、何歳以上などの定義は示されていない一方で、比較の対象は30 歳代と具体的である。若年齢者とせずに、あえて 30 歳代と明記したのは、出題者としては、抽象的な傾向だけではなく具体的な数値を求めているのかもしれない。
      しかし、労働者死傷病報告に基づく厚生労働省の「職場のあんぜんサイト=労働災害統計=」には、本小問で問われているような年齢階層別の詳細な労働災害統計は示されていない。
      また、令和2年3月16日基安発0316第1号「「高年齢労働者の安全と健康確保のためのガイドライン」の策定について」には、冒頭に「労働者千人当たりの労働災害件数(千人率)をみると、男女ともに最小となる 25~29 歳と比べ、65~69歳では男性で 2.0 倍、女性で 4.9 倍と相対的に高くなっている」とされているが、30 歳代との比較は示されていない。
      最近の公表数値としては、かろうじて厚生労働省安全衛生部安全課が作成した「令和4年 高年齢労働者の労働災害発生状況」に、男女別の 30 歳代と 60 歳以上の年千人率の比が紹介されている程度である。
      【令和4年 高年齢労働者の労働災害発生状況より】
      ◆ 雇用者全体に占める 60 歳以上の高齢者の占める割合は 18.4 %(令和4年)、労働災害による休業4日以上の死傷者数に占める 60 歳以上の高齢者の占める割合は 28.7 %(同)
      ◆ 60 歳以上の男女別の労働災害発生率(死傷年千人率(以下「千人率」という。))を 30 代と比較すると、男性は約2倍、女性は約4倍となっている。
      ◆ 転倒は、高年齢になるほど労働災害発生率が上昇。高齢女性の転倒災害発生率は特に高い。(男性の場合、60 代以上(平均0.91)は 20 代平均(0.28)の約3倍、女性の場合、60 代以上(平均 2.35 )は 20 代(平均 0.15 )の約 15 倍)
      なお、「人生 100 年時代に向けた高年齢労働者の安全と健康に関する有識者会議 報告書」(2020年)には、2018年の統計であるが、やや詳細なデータが示されている(※)
      ※ この報告書には、この第1回有識者会議に提出された「資料2 高年齢労働者の雇用・就業と労働災害の現状」がそのまま使用されている。
      【人生 100 年時代に向けた高年齢労働者の安全と健康に関する有識者会議 報告書(2020年)】
      ◆ 労働者千人当たりの災害件数(千人率)をみると、男女ともに最小となる25~29 歳と比べ、65~69 歳では男性で2.0 倍、女性で4.9 倍と相対的に高くなっている。(5歳刻みの年齢階層ごとの年千人率のグラフが記されている)
      ◆ 高齢者では、転倒災害、墜落・転落災害の発生率が若年者より高い傾向があり、特に女性でその傾向が顕著である。
      ◆ 年齢別・経験期間別に、事故の種類別の災害発生率をみると、年齢と経験期間の両方が災害発生に影響するが、事故の態様によって寄与の度合いが異なる。例えば、はさまれ・巻き込まれの災害では、年齢よりも経験期間による影響の方が大きいが、墜落・転落や交通事故(道路)では、経験期間による災害発生率への寄与は小さく、年の影響が大きくなっている(グラフあり)。
      ◆ 年齢別の休業見込期間では、それぞれの年齢層の災害発生件数を100 として、その休業見込期間を比較すると、年齢が高くなるほど休業見込期間が長くなる傾向がみられる(グラフあり)
      ◆ 労働者千人当たりの熱中症の発生率を年齢別にみると、特に男性で年齢が上がるとともに発生率が高くなっており(グラフあり)、働く高齢者は熱中症のリスクが高くなることに留意が必要である。
      ◆ 脳・心臓疾患における労災認定事案をみると、40 歳以上が約9割を占め、雇用者100 万人当たりの事案数では、40~59 歳で多い状況である(グラフあり)
      その他、やや古い資料だが木口(※)は、製造業における若年者と高齢者の休業災害発生内訳の比較を示しているが、29 歳以下と 60 歳以上の比較であり、本小問の趣旨とは合わない。
      ※ 木口昌子「高年齢労働者の労働災害の現状及び課題」(日本職業・災害医学会会誌 2014年 Vol.62,No.5)
      また、「生涯現役社会の実現につながる高年齢労働者の安全と健康確保のための職場改善に向けて」(2018年)にも、2016年の高齢者と若年者の「事故型別の労働災害の発生状況」が示されているが、50 歳未満と 50 歳以上の分類でのみある。
      いずれも、本小問の趣旨からはやや、しっくりとはこないが、これらをまとめて書くしかないだろう。上記の資料は、いずれも 30 歳代と高年齢者の具体的な数値は示されていないが、抽象的な表現であったとしても加点はされるのではないかと思う。
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    • 【解答例】
      ● 災害の 発生率(千人率)では、若年層と高年齢労働者で高くなる傾向がみられる。
      ● 60 歳以上の男女別の労働災害発生率(死傷年千人率)を 30 代と比較すると、男性は約2倍、女性は約4倍となっている。
      ● なお、千人率は女性では65~69 歳で最大となり、男性では75~79 歳で最大となっている
      ● 事故の型別では、転倒災害、墜落・転落災害の発生率が若年者より高い傾向があり、特に女性でその傾向が顕著である。
      ● 年齢別の休業見込期間では、それぞれの年齢層の災害発生件数を100 として、その休業見込期間を比較すると、年齢が高くなるほど休業見込期間が長くなる傾向がみられる。
      ● 労働者千人当たりの熱中症の発生率を年齢別にみると、特に男性で年齢が上がるとともに発生率が高くなっている。
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  • (2)加齢とともに増加するフレイルとはどのような概念か。 ロコモティブシンドローム(運動器症候群)との相違点を含めて説明せよ。

    • 【解説】
      フレイルとは、日本老年医学会が2014年に提唱した概念で、虚弱(Frailty)に由来する。健康な状態と介護が必要となる状態の中間である。要介護に移行するリスクが高い一方、適切なケアによって健常な状態へと戻ることが可能だといわれている。
      運動機能の低下だけではなく、加齢に伴い心身が衰え疲れやすくなり、家に閉じこもりがちになるなど、年齢を重ねたことで生じやすい衰え全般を指す。
      改訂日本版フレイル基準(J-CHS基準)によれば、以下の5項目の内3項目以上が該当する場合をフレイルとし、1又は2項目が該当する場合をプレフレイル(フレイルの前段階)とする。
      ● 体重減少(6か月で、2㎏以上の(意図しない)体重減少)
      ● 筋力(握力)の低下(男性<28㎏、女性<18㎏)
      ● 主観的疲労感((ここ2週間)わけもなく疲れたような感じがする)
      ● 身体能力(歩行速度)の低下(通常歩行速度<1.0m/秒)
      ● 日常生活の身体活動量の減少(週に1度も①軽い運動・体操、②定期的な運動・スポーツをしていない。)
      ※ (公財)長寿科学振興財団「フレイルの診断」を一部修正
      これに対し、ロコモティブシンドロームとは、2007年に日本整形外科学会が提唱した概念で、加齢による筋力の低下や、関節や脊椎などの病気の発症により、運動器の機能が低下した状態である。進行すると日常生活にも支障が生じてくる。
      ※ なお、同様な概念でサルコペニアという概念があるが、これは加齢による筋肉量の減少および筋力の低下のことを指す。
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    • 【解答例】
      フレイルとは、虚弱(Frailty)に由来する用語で、健康な状態と介護が必要となる状態の中間のことである。要介護に移行するリスクが高い一方、適切なケアによって健常な状態へと戻ることが可能だといわれている。
      運動機能の低下だけではなく、加齢に伴い心身が衰え疲れやすくなり、家に閉じこもりがちになるなど、年齢を重ねたことで生じやすい衰え全般を指す。
      これに対し、ロコモティブシンドロームとは、2007年に日本整形外科学会が提唱した概念で、加齢による筋力の低下や、関節や脊椎などの病気の発症により。運動器の機能が低下した状態である。進行すると日常生活にも支障が生じてくる。
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  • (3)加齢に伴う身体・精神機能の状況について、次の四つの事項ごとに特徴を説明せよ。
    ① 視力、聴力等の感覚機能の低下の状況

    • 【解説】
      加齢に伴う身体・精神機能の状況について、行政が公表した公式な調査研究があればよいのだが、あまり見当たらないようである。個人レベルの研究では、田口他(※)に以下のような記述がある。
      ※ 田口孝行他「加齢に伴う感覚機能の変化」(理学療法学 2021年 Vol.48 No.3)
      【加齢に伴う感覚機能の変化】
      1.視覚
      加齢に伴う主な視覚機能の変化として挙げられるのが遠視(老眼)、いわゆる近くのものが見えにくくなる状態(近方視困難)である。これは水晶体の硬化と水晶体を支える毛様体筋の収縮力低下によって生じる眼調整力の低下である。この状態は40歳台以降からはじまるとされる。また、加齢によって、動体視力の低下、色視力・コンストラクト視力・夜間視力なども低下する。外眼部では加齢性流涙症(鼻涙管閉塞など)、角結膜乾燥症(涙腺分泌低下、ドライアイなど)、眼瞼皮膚弛緩(皮膚や皮下脂肪のたるみ)、眼瞼内反・外反(瞼板のめくれ込み)などがみられ、視覚に影響する。
      (中略)
      3.聴力
      聴覚機能における生理的老化として、40 歳代以降から高音域の聴力低下がはじまり、年齢が進むと低音域の聴力低下も進行するが、高音域の聴力低下が加速的に進行する。難聴有病率は 60 ~ 64 歳台までは徐々に増加し、65 歳以上で急速に増加する。国立長寿医療センターの調査による難病有病率は、60 ~ 70 歳台では男性 43.7 %、女性 27.7 %、 80 歳以上では男性 84.3 %、女性 73.3 %であることが報告されている。
      ※ 田口孝行他「加齢に伴う感覚機能の変化」(理学療法学 2021年 Vol.48 No.3)
      また、長嶋(※)は、様々な文献の調査を行った結果から以下のように述べている。
      ※ 長嶋紀一「加齢に伴う感覚・知覚の変化」(心理学評論 1984年 Vol.27 No.3)
      【加齢に伴う感覚・知覚の変化】
      1.視覚
      (1)視力
       視力は年齢に伴って9歳ころまでは発達するが、30 歳ころから低下の傾向を示し、40 歳を過ぎると低下の度合いが顕著となる。Hirsh(1959)の 40 歳以上を対象とした測定結果をみると、50 歳から 60 歳を境にして視力が急激に低下している。戸張(1977)の老人を対象とした裸眼視力の測定では、60 歳代で 0.5~0.6、70 歳代で 0.4 弱、80 歳以上では0.2~0.3 であり、ほとんどの高齢者は加齢による視力の低下により日常生活に支障をきたしてると指摘している。加齢による視力低下の原因は、生理的な角膜および水晶体の屈折力の変化、網膜黄斑部の変化、視細胞の感覚能力の減退などが考えられるが、高齢になるにしたがって、白内障、黄斑部変性、網膜血管硬化症などの眼疾患により、さらに視力低下が強化される(中村,1957)。戸張(1977)は、高齢者の視力低下の最大の原因を水晶体の混濁による老人性白内障であるとしている。そして、養護老人ホームを対象とした測定で、60 歳代で 75 %、70 歳代で 83 %、80 歳代で 93 %、60 歳以上の全体では 81 %に程度の差はあれ白内障がみられたとしている。
       水晶体は加齢に伴い弾力性が低下するため眼の調節力は減退する。調節力の年齢的変化は、個人差が大であるが、加齢による影響が大きく、しかもその変異の範囲は静壮年期において大であり、老年期に至るにしたがって小さくなる傾向がある(Donders,1964)。このような眼の調節力の変化の原因は、水晶体の硬化に加えて毛様体の筋力の低下が加わって起こると考えられる。さらに、加齢に伴う瞳孔括約筋の萎縮性変化による対光反射または調節反射の障害、眼球運動の質的・量的な変化による輻輳や両眼協応の障害などは、単に視力だけではなくて高齢者の環境認知能力を大いに阻害しているものと考えられる。
      (中略)
      Ⅱ 聴覚
      加齢に伴って聴覚機能は徐々に低下し、やがて老人性難聴(加齢以外の原因を含まないもの)になりやすい。そのために、日常生活において、ことばをとおして十分なコミュニケーションが困難になったり、音刺激を主とする環境認知が不正確あるいは不可能になるために、事故に遭遇しやすくなったり、不適応行動が起こりやすくなり、さらには人格の変動をまねきやすくなることなどが考えられる。
      空気の振動が音として聞こえる範囲が可聴範囲であるが、可聴範囲には周波数による可聴周波数範囲と音圧で測定される最小聴閾・最大可聴閾がある。可聴閾として問題になるのは、最大可聴閾(最大可聴限)よりもむしろ最小可聴閾(最小可聴限)の方である。加齢に伴って、可聴周波数範囲では高い音がききにくくなり、最小可聴閾値が高くなるため小さな音が聞こえにくくなるなど、可聴範囲が狭くなる。さらに、音の大きさの弁別や高さの弁別が困難となり、両耳効果の低下とマスキング効果の増大のため可聴閾値が増大する。
      図7(図略:引用者)は、横内(1964)が 10 歳から 92 歳の 412 名(824 耳)を対象に、125Hz から8 kHz の範囲で純音可聴閾値の加齢による変化についての測定結果をまとめたものである。図から明らかなように、40 歳代から高音域から聴力低下が徐々に始まり、50 歳代になると3 kHz 以上の周波数の低下が顕著になる。60 歳代以降さらに高齢になるにしたがって、高音域での聴力低下が顕著になるばかりでなく、低音域での聴力低下が起こる。
      図8(図略:引用者)は、Spoor(1967)が 1938 年から 63 年に報告された聴力に関する8つの報告をまとめたものである。1 kHz まではほとんど男女差はなく、2 kHz 以上の高音域では女子よりも男子の聴力低下が大であることが分かる。
      ※ 長嶋紀一「加齢に伴う感覚・知覚の変化」(心理学評論 1984年 Vol.27 No.3)
      その他、加齢と緑内障の発症割合について国立研究開発法人 国立長寿医療研究センター(※)は、以下のように述べている。
      ※ 国立研究開発法人 国立長寿医療研究センター「緑内障と脳(大脳基底核)の関係」(国立研究開発法人 国立長寿医療研究センターのWEBサイト)
      【緑内障と脳(大脳基底核)の関係】
      日本人の一般住民を対象とする疫学調査では、60歳以上の約10%が緑内障を患っていると推計されており、年代別にみると60歳代では6%、70歳代では10%、80歳以上では16%程度と年齢が上がるにつれ、その有病率が高くなります。緑内障は、視神経が痩せて、視野が狭くなっていく病気です(図1)。視神経は神経組織であり、現在の医療技術では、一旦障害を受けた神経組織を回復させることができません。そのため緑内障は、早期発見により、障害が進行する前に治療を開始することが重要です。
      ※ 国立研究開発法人 国立長寿医療研究センター「緑内障と脳(大脳基底核)の関係」(国立研究開発法人 国立長寿医療研究センターのWEBサイト)
      これらの文献から、解答例のようにまとめてみた。
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    • 【解答例】
      1 視力
      加齢に伴う視力の低下として、近くのものが見えにくくなる近方視困難がある。この状態は40歳代以降からはじまるとされる。また、加齢によって、動体視力の低下、色視力・コンストラクト視力・夜間視力なども低下する。
      また、高齢になるにしたがって、白内障、緑内障、黄斑部変性、網膜血管硬化症などの眼疾患により、さらに視力低下が進むことも多い。
      2 聴力
      40 歳代から高音域から聴力低下が徐々に始まり、50 歳代になると3 kHz 以上の周波数の低下が顕著になる。60 歳代以降さらに高齢になるにしたがって、高音域での聴力低下が顕著になるばかりでなく、低音域での聴力低下が起こる。
      さらに、音の大きさの弁別や高さの弁別が困難となり、両耳効果の低下とマスキング効果の増大のため最小可聴閾値が増大する。
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  •   ② 筋力低下の状況

    • 【解説】
      加齢による筋力の低下は、骨格筋量の低下に伴うもので、近年、「サルコペニア」という用語で呼ばれる。立野他のシンポジウム資料(※)によると、高齢化による筋力低下について次のように記載されている。
      ※ 立野勝彦他「≪シンポジウム≫ 筋萎縮のメカニズムの解明とリハビリテーション」(第 43 回 日本リハビリテーション医学会学術集会予稿集 2006 年)
      【≪シンポジウム≫ 筋萎縮のメカニズムの解明とリハビリテーション】
      サルコペニア(sarcopenia)とは加齢性の筋肉量および筋力の低下であり、その語源はギリシャ語 sarx(flesh:肉)と penia(loss:失う)からなる。ヒトでは、30 歳を過ぎると 10 年毎に約 5%前後の割合で筋量が減少し、60 歳を超えるとその減少率は加速することが報告されている
      ※ 立野勝彦他「≪シンポジウム≫ 筋萎縮のメカニズムの解明とリハビリテーション」(第 43 回 日本リハビリテーション医学会学術集会予稿集 2006 年)
      また、小林(※)によれば、加齢に伴う骨格筋量の減少について、次のように説明されている。
      ※ 小林久峰「高齢者の骨格筋減弱(サルコペニア)の対策とアミノ酸」(2007年 化学と生物 Vol.45 No.2)
      【高齢者の骨格筋減弱(サルコペニア)の対策とアミノ酸】
      一般に、成長に伴って増加する骨格筋の量は、20 歳台をピークとし、その後 45 歳ごろからわずかに減少を始め、60 歳を超えると減少率は大きくなる。突然死した 15 歳から 83 歳までの男性の骨格筋量を直接測定した横断的研究では、25 歳から 50 歳までの減少率はおよそ 10 %であるのに対し、80 歳までの減少率はおよそ 40 %、つまり 50 歳から 80 歳の 30 年間で、25 歳時の骨格筋量のおよそ 30 %が減少すること、さらにこの減少は、主に筋線維の数の減少と2型(速筋)線維のサイズの減少によって起こることが報告されている。また、平均年齢 65.4 歳の男性の骨格筋量を 12 年にわたって CT で測定した縦断的研究では、一年で骨格筋量が 1.4 %減少することが示されている。男女の比較では、20 歳から 70 歳までの減少率が、女性では 10.8 %、男性で 14.7 %と、男性のほうが老化に伴う筋量の減少が大きい。骨格筋量の減少は、高齢者の筋力減弱の主な要因となり、転倒・骨折の危険を増加させる。さらに、骨格筋の量が少ないほど介護を必要とするリスクが高いことも知られている。
      ※ 小林久峰「高齢者の骨格筋減弱(サルコペニア)の対策とアミノ酸」(2007年 化学と生物 Vol.45 No.2)
      なお、加齢に伴う筋力低下の状況について、浅川(※)は、転倒予防教室に参加した女性高齢者56名(平均 70.5 ± 5.9 歳)の調査から以下のように述べる。
      ※ 浅川康吉「高齢者の筋力と筋力トレーニング」(理学療法科学 2003年 Vol.18 No.1)
      【高齢者の筋力と筋力トレーニング】
      日本人高齢者の場合、体重は 70 歳から 85 歳までの間に男性で 5.8 %、女性で 8.9 %減少することが報告されている。測定値として示した筋力は加齢にともない低下するが、体重比としてみた場合は、加齢にともなう体重の減少と筋力の減少が相殺され、結果として、体重比筋力は加齢の影響が見られなくなったと考えられる
      ※ 浅川康吉「高齢者の筋力と筋力トレーニング」(理学療法科学 2003年 Vol.18 No.1)
      これらのことから、解答例を以下のようにまとめてみた。
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    • 【解答例】
      加齢による筋力の低下は、骨格筋量の低下に伴うもので、近年「サルコペニア」という用語で呼ばれる。
      一般に、成長に伴って増加する骨格筋の量は、20 歳台をピークとし、その後 45 歳ごろからわずかに減少を始め、60 歳を超えると減少率は大きくなる。突然死した 15 歳から 83 歳までの男性の骨格筋量を直接測定した横断的研究では、25 歳から 50 歳までの減少率はおよそ 10 %であるのに対し、80 歳までの減少率はおよそ 40 %、つまり 50 歳から 80 歳の 30 年間で、25 歳時の骨格筋量のおよそ 30 %が減少する
      すなわち、筋力は 60 歳を過ぎると、急速に低下することが知られている。
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  •   ③ 訓練によって得た知識・技能の維持

    • 【解説】
      西田(※)は、国立長寿医療研究センターの WEB サイトで、知的能力の加齢に伴う変化について次のように紹介している。
      ※ 西田裕紀子「加齢にともなって成熟していく、知的な能力とは?」(国立長寿医療研究センターの WEB サイト)
      【加齢にともなって成熟していく、知的な能力とは?】
      知識力の加齢による変化
      どれくらい知識を持っているか、知識を蓄えることができるかという『知識力』、道筋を立てて物事の本質をとらえる『論理的抽象的思考力』、外から与えられた情報をすばやく処理する『情報処理のスピード』、物事に計画的に取り組む『実行機能』などが、知的な能力の重要な要素であることが知られています。これらの知的な能力の果たす役割は、それぞれに違います。また、これらの知的な能力が、加齢から受ける影響もまた、異なると考えられます。
      (中略)
      そこで、NILS-LSA(ニルス・エルエス・エー)では、さまざまな知的な能力が、加齢に伴ってどのように変化するかを調べました。
      (中略)
      『情報処理のスピード』は、50歳中頃までは少し向上するのですが、その後は急激な低下を示しました。しかしながら、『知識力』は、40歳から70歳を過ぎる頃まで、ぐんぐん向上していきます。その後、緩やかな低下を示していますが、90歳を目の前にしても、40歳よりも高得点なのです。
      ※ 西田裕紀子「加齢にともなって成熟していく、知的な能力とは?」(国立長寿医療研究センターの WEB サイト)
      本小問にいう「訓練によって得た知識・技能の維持」は、この『知識力』の年齢による変化のことだと言ってよいであろう。
      また西田(※1)は、結晶性知能(crystallized intelligence)と流動性知能(fluid intelligence)(※2)の高齢化に伴う変化について過去の研究を次のように紹介している。
      ※1 西田裕紀子「中高年者の知能の加齢変化」(老年期認知症研究会誌 2017年 Vol.21 No.10)
      ※2 西田によると「結晶性知能は、個人が長年にわたる経験、教育や学習から獲得していく知能であり、言語能力、理解力、洞察力などを含む。一方、流動性知能は、新しい環境に適応するために、新しい情報を獲得し、それを処理し、操作していく知能であり、処理のスピード、直感力、法則を発見する能力を含んでいる。
      【中高年者の知能の加齢変化】
      ソルトハウスは、新聞広告に応募してきた 1,000 名以上を対象に「語彙」「処理速度」「推論」「記憶」の4つの検査を施行し、各検査の得点の年代差を検討した。その結果、結晶性知能に当たる「語彙」は、60 歳頃まで上昇し、その後もほとんど低下しないこと、一方、流動性知能の指標となる「処理速度」「推論」や「記憶」は加齢に伴って直線的に低下することを示した。
      (中略)
      一方、シャイエとその研究チームは、ワシントン州西部地域に居住し、民間医療保険制度(Health Maintenaqnceママ Organization)に加入する 20 歳以上の成人を対象とした「シアトル縦断研究」において、知能の加齢変化に関して、よりポジティブなデータを報告している。すなわち、結晶性知能である「言語能力」は 60 歳代にピークを迎えるが、その後の低下は 80 歳代の前半まで非常に緩やかである。シャイエの縦断研究が示すさらに重要なことは、流動性知能を含むその他のほとんどの知能も、55~60 歳頃までは高く維持されることである。その後、緩やかに低下するが、明確な低下を示すのは 80 歳以降である。シャイエの研究が示すポジティブな加齢変化のパターン、すなわち、結晶性知能のみならず流動性知能の変化もまた、60 歳頃まではほとんど見られないという知能の軌跡は、現在、学術的にも広く受け入れられている。
      ※ 西田裕紀子「中高年者の知能の加齢変化」(老年期認知症研究会誌 2017年 Vol.21 No.10)
      本小問にいう「訓練によって得た知識・技能の維持」が、この結晶性知能の加齢に伴う変化にほぼ一致するだろう。労働安全衛生コンサルタント試験に挑戦される方は当サイトが行ったアンケート調査でも、60 歳以上の方がかなりの割合を占めておられる。高齢であるということは、必ずしも新しいことへの挑戦をあきらめる理由にはならないと感じる。
      ところで、私は 60 歳になってから、まったくの独学で WEB サイトの執筆に必要な html や css についての知識を習得してこの WEB サイト作成を始めている。それでも、このサイト程度のものは作れるようになるのである。私は、今は 68 歳だが、あと 20 年以上はこのサイトを続けられそうだという気がしてきた😅。
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    • 【解答例】
      訓練によって得た知識・技能の維持は、近代において結晶性知能と呼ばれるものに含まれる。結晶性知能は 60 歳を超えると緩やかに低下するが、その低下は 80 歳代の前半まで非常に緩やかである。
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  •   ④ 身体・精神機能の個人差

    • 【解説】
      身体・精神機能の個人差があるかないかと問われれば、あることは誰にでもわかる。また、高齢になるほど個人差が大きくなる(※)ことも当然であろう。これだけでは、答えにならない。
      ※ 例えば、厚労省の「高齢者の身体機能等の現状」によると「身体・精神機能の維持・変化は高齢になるほど個人差が大きい」とされている。
      おそらく、どの程度の差があるかという設問なのだろうとは思うが、現実にどのように答えるべきかは悩ましいところである。
      Daniel W. Belsky et al.(※)によると、26 歳から 38 歳で老化のペースは加速しているが、かなりのバラツキがあるとされている。
      ※ Daniel W. Belsky et al.「Quantification of biological aging in young adults」(2015年)
      【Quantification of biological aging in young adults】
      知識力の加齢による変化
      Aging is now understood as a gradual and progressive deterioration of integrity across multiple organ systems. Here we show that this process can be quantified already in young adults. We followed a birth cohort of young adults over 12 y, from ages 26–38, and observed systematic change in 18 biomarkers of risk for age-related chronic diseases that was consistent with age-dependent decline. We were able to measure these changes even though the typical age of onset for the related diseases was still one to two decades in the future and just 1.1% of the cohort members had been diagnosed with an age-related chronic disease.
      ※ 以下図への注
      Dunedin Study members with older Biological Age at 38 y exhibited an accelerated Pace of Aging from age 26–38 y. The figure shows a binned scatterplot and regression line. Plotted points show means for bins of data from 20 Dunedin Study members. Effect size and regression line were calculated from the raw data.
      ※ Daniel W. Belsky et al.「Quantification of biological aging in young adults」(2015年)
      同様な結果は、Maxwell L.Elliot et al.によっても示されているが、この研究では、45 歳で生物学的な老化が進んでいると、認知機能や身体機能の老化も進んでいるとしている。
      我が国では、瀬尾(※)が以下のように指摘している。
      ※ 瀬尾芳輝「加齢による身体機能の変化」(DJMS 2017年 Vol.44 No.3)
      【加齢による身体機能の変化】
      個々人の生理機能や体力には個人差がある。加齢にも個人差がある。従って、先に図2(図は略)や図3(図は略)で示した平均値には、かなり大きな分散がある。従って、ある1点での生理機能や体力の測定値そのものの有用性は低い。図4(図は略)に、10 年間にわたる体力の推移を縦断的に測定したデータの一部を示す。特定の年齢で横断的に見れば、個々人の体力のばらつきが大きいことがわかる。しかし、個々人のデータを追っていくと、変動はしつつも緩やかに低下していることは明らかである.握力,垂直跳びなど5項目の体力から主成分分析により体力老化指数(FAS)を定め、7年間での FAS の低下の傾きを計算すると、FAS の傾きは高齢者ほど大きく、女性よりも男性に大きいことが指摘されている。また、FAS の傾きの大きなグループほど死亡率が増大することが報告されている。
      ※ 瀬尾芳輝「加齢による身体機能の変化」(DJMS 2017年 Vol.44 No.3)
      また、積山他(※1)も認知機能について以下のように指摘している。
      ※ 積山薫他「加齢による認知脳機能の個人差拡大とその背景要因」(基礎心理学研究 2019年 Vol.38 No.1)
      【加齢による認知脳機能の個人差拡大とその背景要因】
      我々の横断データでは,実行機能と関連する神経心理学的検査の所要時間において、加齢による個人差拡大が特に顕著にみられた。ここでは、町内会や老人会を通して集めた高齢の参加者や大学生について、若者(20–27歳)、前期高齢者(65–74歳)、後期高齢者(77–87歳)に分けてデータを集計してみた。
      (中略)
      Figure 2(図は略)に、我々の研究の参加者のデータの散布図を示す。3つの年齢群ともに、サンプルサイズは 25 である。A、 B どちらの検査でも、加齢により所要時間が長くなり、課題の困難度が高まることがわかるが、それだけでなく、上の年齢群ほどばらつきが大きい。特に、より難しい TMT-B でそれが一層明瞭に示されている。TMT-Bの標準偏差は、若者が9秒、前期高齢者が35秒、後期高齢者が 58 秒と、加齢による顕著な拡大がみられる(Table 1(図は略))。また、散布図に戻ると(Figure 2(図は略))、後期高齢者で所要時間が 300 秒と非常に長い人がいる一方で,同じく後期高齢群に属しながら若者と同等の 60 秒程度でできる人が少数存在することがわかる。
      ※ 積山薫他「加齢による認知脳機能の個人差拡大とその背景要因」(基礎心理学研究 2019年 Vol.38 No.1)
      解答例には、やや一般的な内容で記述した。上記の資料なども参照して、各自、それぞれの解答を作成して欲しい。
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    • 【解答例】
      身体・精神機能は 30 歳代程度から低下する傾向があるが、個人差が大きく、かつ高齢化するほど個人差は広まってゆく。後期高齢者でも、機能の種類によっては若年齢者と同じようなレベルにある者もいれば、若年齢者でも老化が見られる者もいる。
      なお、身体機能が低下している個人では、精神機能も低下している傾向がある。
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  • (4)高年齢労働者の転倒を防止するには、施設、設備、装置をどのように改善すべきか。六つ挙げよ。

    • 【解説】
      意外に思われるかもしれないが、厚生労働省は転倒災害に関して、指針・ガイドラインの類は策定していない。また、「STOP!転倒災害プロジェクト」に基づき、「転倒防止リーフレット」等で4S実施等を事業者に求めているが、施設、設備、装置の改善に関する具体的な内容はほとんどない。
      高齢者の転倒災害防止については、転倒災害防止プロジェクトのサイトで「加齢と転倒災害」のページを設けているが、施設、設備、装置の改善に関する記述はない。また、「設備の改善」においても、具体的な記載はほとんどないのが実態である。
      一方、高齢者の労働災害防止一般については、「高年齢労働者の安全と健康確保のためのガイドライン」(令和2年3月16日基安発0316第1号)が策定されているが、本文には転倒災害防止に関する記述はない。
      おそらく本問は、エイジアクション100中の「Ⅳ 高年齢労働者の安全と健康確保のためのチェックリスト」からの出題であろう。この中には、高齢者の転倒災害防止のためのチェック事項として、以下の事項が挙げられている。
      ● 通路の十分な幅を確保し、整理・整頓により通路、階段、出入口には物を放置せず、足元の電気配線やケーブルはまとめている。
      ● 床面の水たまり、氷、油、粉類等は放置せず、その都度取り除いている。
      ● 階段・通路の移動が安全にできるように十分な明るさ(照度)を確保している。
      ● 階段には手すりを設けるほか、通路の段差を解消し、滑りやすい箇所にはすべり止めを設ける等の設備改善を行っている。
      ● 通路の段差を解消できない箇所や滑りやすい箇所が残る場合は、表示等により注意喚起を行っている。
      ● ヒヤリ・ハット情報を活用して、転倒しやすい箇所の危険マップ等を作成して周知している。
      ※ 「エイジアクション100」中の「Ⅳ 高年齢労働者の安全と健康確保のためのチェックリスト」から
      これらのチェック項目を整理して、6つの項目を挙げればよいと思われる。なお、危険マップは必ずしも施設、設備、装置の改善とは言えないので、他の項目から6つを取り上げた。
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    • 【解答例】
      高年齢労働者の転倒を防止するには、施設、設備、装置の改善としては、以下のものが挙げられる。
      ● 通路の十分な幅を確保する。なお、整理・整頓により通路、階段、出入口には物を放置せず、足元の電気配線やケーブル類はまとめておく。
      ● 床面の水たまり、氷、油、粉類等は放置せず、その都度取り除く。
      ● 階段・通路の移動が安全にできるように十分な明るさ(照度)を確保する。
      ● 階段には手すりを設ける。
      ● 通路の段差を解消し、滑りやすい箇所にはすべり止めを設ける等の設備改善を行う。
      ● 通路の段差を解消できない箇所や滑りやすい箇所が残る場合は、表示等により注意喚起を行う。
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  • (5)高年齢労働者が安全で健康に働き続けられるためには、どのように施設、設備を改善、又は装置を導入すればよいか、また、作業の内容や方法をどのように見直せばよいか。次に掲げる作業や場面ごとに、高年齢労働者の特徴に触れながら三つずつ挙げよ。
    ① 暑熱環境における作業

    • 【解説】
      【高年齢労働者の安全と健康確保のためのガイドライン】
      第2 事業者に求められる事項
      2 職場環境の改善
      (1)身体機能の低下を補う設備・装置の導入(主としてハード面の対策)
       身体機能が低下した高年齢労働者であっても安全に働き続けることができるよう、事業場の施設、設備、装置等の改善を検討し、必要な対策を講じること。
       その際、以下に掲げる対策の例を参考に、高年齢労働者の特性やリスクの程度を勘案し、事業場実情に応じた優先順位をつけて施設、設備、装置等の改善に取り組むこと。
      <共通的な事項>
       視力や明暗の差への対応力が低下することを前提に、通路を含めた作業場所の照度を確保するとともに、照度が極端に変化する場所や作業の解消を図ること。
       階段には手すりを設け、可能な限り通路の段差を解消すること。
       床や通路の滑りやすい箇所に防滑素材(床材や階段用シート)を採用すること。また、滑りやすい箇所で作業する労働者に防滑靴を利用させること。併せて、滑りの原因となる水分・油分を放置せずに、こまめに清掃すること。
       墜落制止用器具、保護具等の着用を徹底すること。
       やむをえず、段差や滑りやすい箇所等の危険箇所を解消することができない場合には、安全標識等の掲示により注意喚起を行うこと。
       (中略)
      <暑熱な環境への対応>
       涼しい休憩場所を整備すること。
       保熱しやすい服装は避け、通気性の良い服装を準備すること。
       熱中症の初期症状を把握できるウェアラブルデバイス等のIoT機器を利用すること。
      (2)高年齢労働者の特性を考慮した作業管理(主としてソフト面の対策)
       敏捷性や持久性、筋力といった体力の低下等の高年齢労働者の特性を考慮して、作業内容等の見直しを検討し、実施すること。
       その際、以下に掲げる対策の例を参考に、高年齢労働者の特性やリスクの程度を勘案し、事業場の実情に応じた優先順位をつけて対策に取り組むこと。
      <共通的な事項>
       事業場の状況に応じて、勤務形態や勤務時間を工夫することで高年齢労働者が就労しやすくすること(短時間勤務、隔日勤務、交替制勤務等)。
       高年齢労働者の特性を踏まえ、ゆとりのある作業スピード、無理のない作業姿勢等に配慮した作業マニュアルを策定し、又は改定すること。
       注意力や集中力を必要とする作業について作業時間を考慮すること。
       注意力や判断力の低下による災害を避けるため、複数の作業を同時進行させる場合の負担や優先順位の判断を伴うような作業に係る負担を考慮すること。
       腰部に過度の負担がかかる作業に係る作業方法については、重量物の小口化、取扱回数の減少等の改善を図ること。
       身体的な負担の大きな作業では、定期的な休憩の導入や作業休止時間の運用を図ること。
      <暑熱な環境への対応>
       一般に、年齢とともに暑い環境に対処しにくくなることを考慮し、脱水症状を生じさせないよう意識的な水分補給を推奨すること。
       健康診断結果を踏まえた対応はもとより、管理者を通じて始業時の体調確認を行い、体調不良時に速やかに申し出るよう日常的に指導すること。
       熱中症の初期対応が遅れ重篤化につながることがないよう、病院への搬送や救急隊の要請を的確に行う体制を整備すること。
      求められているのは、この「暑熱な環境への対応」であろう。
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    • 【解答例】
      一般に、年齢とともに暑い環境に対処しにくくなることから、以下のことを推進すること。
      ○ 涼しい休憩場所を整備すること。
      ○ 保熱しやすい服装は避け、通気性の良い服装を準備すること。
      ○ 熱中症の初期症状を把握できるウェアラブルデバイス等のIoT機器を利用すること。
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  •   ② 重量物を取り扱う作業

    • 【解説】
      「高年齢労働者の安全と健康確保のためのガイドライン」には、①に示した記述に続いて、次の項目がある。
      (1)身体機能の低下を補う設備・装置の導入(主としてハード面の対策)
      <重量物取扱いへの対応>
       補助機器等の導入により、人力取扱重量を抑制すること。
       不自然な作業姿勢を解消するために、作業台の高さや作業対象物の配置を改善すること。
       身体機能を補助する機器(パワーアシストスーツ等)を導入すること。
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    • 【解答例】
      高齢者は、年齢とともに筋力が低下することから、腰痛や転倒災害の予防の観点からこれを補助することが重要となる。
      ○ 補助機器等の導入により、人力取扱重量を抑制すること。
      ○ 不自然な作業姿勢を解消するために、作業台の高さや作業対象物の配置を改善すること。
      ○ 身体機能を補助する機器(パワーアシストスーツ等)を導入すること。
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  •   ③ 介護の作業

    • 【解説】
      「高年齢労働者の安全と健康確保のためのガイドライン」には、①、②に示した記述に続いて、次の項目がある。
      (1)身体機能の低下を補う設備・装置の導入(主としてハード面の対策)
      <介護作業等への対応>
       リフト、スライディングシート等の導入により、抱え上げ作業を抑制すること。
       不自然な作業姿勢を解消するために、作業台の高さや作業対象物の配置を改善すること。
       労働者の腰部負担を軽減するための移乗支援機器等を活用すること。
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    • 【解答例】
      介護作業でも急速に高齢化が進んでおり、長期的に腰痛災害や無理な姿勢動作の反動による災害が増加しつつある。高齢化とともに、筋力の衰えが進んでいることがその背景にあると考えられる。
      ○ リフト、スライディングシート等の導入により、抱え上げ作業を抑制すること。
      ○ 不自然な作業姿勢を解消するために、作業台の高さや作業対象物の配置を改善すること。
      ○ 労働者の腰部負担を軽減するための移乗支援機器等を活用すること。
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  •   ④ 情報機器を使用する作業

    • 【解説】
      「高年齢労働者の安全と健康確保のためのガイドライン」には、①、②、③に示した記述に続いて、次の項目がある。
      (1)身体機能の低下を補う設備・装置の導入(主としてハード面の対策)
      <情報機器作業への対応>
       パソコン等を用いた情報機器作業では、「情報機器作業における労働衛生管理のためのガイドライン」(令和元年7月 12 日付け基発 0712 第3号厚生労働省労働基準局長通知)に基づき、照明、画面における文字サイズの調整、必要な眼鏡の使用等によって適切な視環境や作業方法を確保すること。
      (2)高年齢労働者の特性を考慮した作業管理(主としてソフト面の対策)
      <情報機器作業への対応>
       情報機器作業が過度に長時間にわたり行われることのないようにし、作業休止時間を適切に設けること。
       データ入力作業等相当程度拘束性がある作業においては、個々の労働者の特性に配慮した無理のない業務量とすること。
      なお、ここにある「情報機器作業における労働衛生管理のためのガイドライン」の該当箇所は次のようになっている。
      【情報機器作業における労働衛生管理のためのガイドライン】
      10  配慮事項等
      (1)高齢者に対する配慮事項等
        高年齢の作業者については、照明条件やディスプレイに表示する文字の大きさ等を作業者ごとに見やすいように設定するとともに、過度の負担にならないように作業時間や作業密度に対する配慮を行うことが望ましい。
        また、作業の習熟の速度が遅い作業者については、それに合わせて追加の教育、訓練を実施する等により、配慮を行うことが望ましい。
      (解説)
      「10 配慮事項等」について
      (1)高齢者に対する配慮事項等
        見やすい文字の大きさや作業に必要な照度等は、作業者の年齢により大きく異なる。作業者によっては作業の視距離に応じた矯正(眼鏡)が必要になる場合がある。
        多くの情報機器作業の場合、文字サイズ、輝度コントラスト等の表示条件は使用する機器の設定により調整することが可能であり、作業者にとって見やすいように適合させることが望ましい。
        照明機器等も、天井に配置した全体照明とは別に必要となる場合は、局所に作業用照明機器を配置することにより個人の特性に配慮した照度条件を実現することが可能となる。
        作業時間、作業密度、教育、訓練等についても、高齢者の特性に適合させる配慮が望まれる。
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    • 【解答例】
      高齢化に伴い、視力が低下することが知られている。このため、情報機器作業への対応のため、以下の対応を行うことが重要である。
      ○ 照明機器等も、天井に配置した全体照明とは別に必要となる場合は、局所に作業用照明機器を配置することにより個人の特性に配慮した照度条件を実現する。
      ○ ディスプレイに表示する文字の大きさ等を作業者ごとに見やすいように設定する。
      ○ 作業者によって、作業の視距離に応じた矯正(眼鏡)を行う。
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  •   ⑤ 警報の伝達

    • 【解説】
      「高年齢労働者の安全と健康確保のためのガイドライン」には、①に示した記述の途中に次の項目がある。
      (1)身体機能の低下を補う設備・装置の導入(主としてハード面の対策)
      <危険を知らせるための視聴覚に関する対応>
       警報音等は、年齢によらず聞き取りやすい中低音域の音を採用する、音源向きを適切に設定する、指向性スピーカーを用いる等の工夫をすること。
       作業場内で定常的に発生する騒音(背景騒音)の低減に努めること。
       有効視野を考慮した警告・注意機器(パトライト等)を採用すること。
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    • 【解答例】
      高齢者は、高音域を中心に張力が低下する傾向がみられる。そのため、警報の伝達においても以下の配慮が必要となる。
      ○ 警報音等は、年齢によらず聞き取りやすい中低音域の音を採用する、音源向きを適切に設定する、指向性スピーカーを用いる等の工夫をすること。
      ○ 作業場内で定常的に発生する騒音(背景騒音)の低減に努めること。
      ○ 有効視野を考慮した警告・注意機器(パトライト等)を採用すること。
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  • (6)高年齢労働者の労働災害防止対策に関して、事業者が活用できる国や公的機関による支援策を三つ挙げよ。

    • 【解説】
      高年齢労働者の安全衛生対策に関する各種事業としては、以下のようなものがある。
      また、高年齢労働者の労働災害防止対策を含む個別の相談などの支援策としては、以下のものがある。
      有償のものを含めれば、以下のものも挙げられるだろう。
      ○ 労働安全コンサルタント、労働衛生コンサルタントによる安全衛生診断
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    • 【解答例】
      高年齢労働者の安全衛生対策に関する各種事業としては、以下のものがある。
      ○ エイジフレンドリー補助金事業
      また、高年齢労働者の労働災害防止対策を含む個別の相談などの支援策としては、以下のものがある。
      ○ 産業保健総合支援センター及び地域産業保健センター
      ○ 中小規模事業場安全衛生サポート事業
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