労働衛生コンサルタント試験 健康管理 2022年 問2

インジウム・スズ酸化物によるインジウム肺




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※ イメージ図(©photoAC)

 このページは、2022年の労働安全衛生コンサルタント試験の「健康管理(記述式)」問題の解説と解答例を示しています。

 各小問をクリックすると解説と解答例が表示されます。もう一度クリックするか「閉じる」ボタンで閉じることができます。

 解説文中の法令の名称等は、適宜、略語を用いています。また、引用している法令は、読みやすくするために漢数字を算用数字に変更するなどの修正を行いました。

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 柳川に著作権があることにご留意ください。

2022年度(令和4年度) 問 2 化学物質管理の範囲としてはやや細かい。しかし内容は基本的なもの。合格最低点はとれるのではないか。
インジウム・スズ酸化物
2022年11月06日執筆 2022年11月12日最終改訂

問2 ある工場で、インジウム化合物の一種であるインジウム・スズ酸化物の加工工程における研磨作業に従事する作業者に呼吸器疾患(以下、「インジウム肺」という。)が発生したことが明らかになった。以下の設問に答えよ。

  • (1)呼吸器系の構造について説明せよ。図示してもよい。

    • 【解説】

      呼吸器系の構造

      ©看護roo!の画像を利用規約に基づき修正

      図をクリックすると拡大します

      呼吸器系の構造を図示する等で説明せよとの出題だが、様々な解答が考えられる。どのように解答すべきかは、どう答えることで後の小問にストーリーがつながるかで、出題者の意図を推測して判断するしかない。
      図示してもよいというのは、実質的には図示せよという趣旨であろう。これまで衛生コンサルタント試験ではあまり類例がないが、解答を助けるような略図を書いておけばよい。
      出題者の意図が、内呼吸と外呼吸のいずれを問う趣旨か不明なので、その双方を答えた方が得策である。
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    • 【解答例】 呼吸器系の構造
      呼吸運動は、横隔膜等の呼吸筋が収縮と弛緩をすることによって、肺の容積(胸郭内容積)を周期的に増減させて行われる。なお、呼吸筋には、①横隔膜、②肋間筋及び胸壁の筋、③腹筋、④呼吸補助筋、並びに⑤上気道がある。
      呼吸運動によって肺胞内に取り入れられた酸素は、肺胞を取り巻く毛細血管中の血液中の二酸化炭素とガス交換される(外呼吸)。
      酸素を取り入れた血液は心臓の働きで、体内の各器官に送られ、体内の組織細胞の間で、酸素と二酸化炭素の交換が行われる(内呼吸)。
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  • (2)吸入した粒子径と呼吸器内沈着部位との関係について説明せよ。

    • 【解説】
      これは2018年の健康管理の問2の(2)と同じである。解説の必要はあるまい。粉じんについて、学習したことがあれば誰でも正答できるだろう。
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    • 【解答例】
      1 吸引性(インハラブル)粉じん(100µm以下)
      10µm以上の粒子は、鼻孔又は口を通過するが、気管より上で補足され消化器へ移動して排出される。
      2 咽頭通過性(ソラシック)粉じん(10µm以下)
      4µm以上、10µm以下の粒子は、咽頭を通過し気管まで到達するが、痰と共に吐き出されるか飲み込まれる。
      3 吸入性(レスピラブル)粉じん(4µm以下)
      4µm以下の粒子は肺胞まで達し、一部は肺胞に沈着する。微量であれば、マクロファージの働きで体外へ排出されるが、その量によっては様々な健康影響をもたらす。
  • (3)呼吸器系の機能である「ガス交換」について説明せよ。

    • 【解説】

      ガス交換

      ©看護roo!

      図をクリックすると拡大します

      (1)の解答例で述べたように、ガス交換は内呼吸と外呼吸の2つがある。外呼吸は、肺胞の周囲を覆っている毛細血管と肺胞内の吸気の間で行われる。一方、内呼吸は、細胞と毛細血管の間で行われる。
      当然のことながら、内呼吸と外呼吸で、血液側からみた酸素と二酸化炭素の交換は逆になる。
      外呼吸では、酸素は、肺毛細血管の内皮細胞と肺胞細胞の二層の細胞層を通して肺胞内の空気から毛細血管内の血液へ拡散(※)してくる。逆に、二酸化炭素はこの二層の細胞層を通り、毛細血管内の血液から肺胞中の空気へ拡散する。
      ※ 拡散とは、液体や気体が半透膜を介して接しているとき、その液体や気体に含まれている物質が濃度(分圧)の高い方から低い方へ移動する物理現象である。酸素の分圧は、肺胞内の空気中では約100Torrで、肺毛細血管中血液(静脈血)中では約45Torrなので、その分圧差によって酸素は肺胞から静脈血へ拡散する。また、二酸化炭素の分圧は、肺胞内が約40Torrで、肺静脈中は約45Torrなので、その分圧差によって二酸化炭素は静脈血から肺胞へ拡散する。これが外呼吸である。
      内呼吸では、これと逆の現象が起き、毛細血管中の酸素が細胞中に拡散し、細胞中の二酸化炭素が毛細血管の側に拡散する。
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    • 【解答例】
      液体や気体が、半透膜を介して接していると、そこに溶け込んでいるガスは、濃度(ガス分圧)の高い方から低い方へ拡散(移動)するという物理現象がある。
      肺の内部では、肺胞を取り巻く肺毛細血管中の静脈血と、肺胞内の空気が、毛細血管の内皮と肺胞の細胞層という半透膜を介して接している。
      二酸化炭素の分圧は、肺静脈中の方が肺胞内の空気中より高いため、二酸化炭素は肺静脈側から肺胞内へ移動する。逆に酸素の分圧は、肺胞内の方が肺静脈中よりも高いため、肺胞から肺静脈側へ移動する。
      これが、外呼吸(肺呼吸)におけるガス交換である。
      内呼吸では、毛細血管中の動脈血と体内の細胞中の細胞液との間で、酸素が動脈血中から細胞中の細胞液側へ移動し、二酸化炭素が細胞中から血液側へ移動する。これが内呼吸におけるガス交換である。
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  • (4)インジウム化合物の用途を二つ挙げよ。

    • 【解説】
      本問は、「インジウム化合物」の用途を問うているが、インジウムすず酸化物(ITO)を念頭においた設問であろう。
      平成22年12月22日基安発1222第2号「インジウム・スズ酸化物等取扱い作業による健康障害防止対策の徹底について」の別添1「インジウム・スズ酸化物等の取扱い作業による健康障害防止に関する技術指針」(以下、本問の解説において「技術指針」という。)の「参考1 対象物質の概要」の1の(4)には、インジウム化合物の用途が次のように示されている。
      物質名 用途
      インジウム・スズ酸化物 パソコン、テレビ、携帯情報端末等の薄型ディスプレイ、タッチパネル、太陽電池等の透明電極原料
      インジウム 銀ロウ、銀合金接点、ハンダ、低融点合金、液晶セル電極用、歯科用合金、防食アルミニウム、テレビカメラ、ゲルマニウム・トランジスター、光通信、太陽熱発電、電子部品、軸受金属、リン化インジウム結晶の原料
      酸化インジウム ITO 用原料
      三塩化インジウム ITO 用原料
      水酸化インジウム 透明電極材料用原料
      酸化インジウム製造用原料、硝酸インジウム、硫酸インジウム製造用原料、電池電極材料
      ※ 厚生労働省「インジウム・スズ酸化物等取扱い作業による健康障害防止対策の徹底について」より
      この中から、2件を解答すればよいであろう。
      なお、政府のモデルSDSによると、インジウムすず酸化物の推奨用途は、「液晶ディスプレー・プラズマディスプレー・発光ダイオード・その他電子部品原料」とされている。
      また、他のインジウム化合物のモデルSDSの推奨用途は次表のようになっている。ただし、リン化インジウムの括弧内の標記は引用者において付した。
      物質名 政府モデルSDSの推奨用途
      インジウムすず酸化物 液晶ディスプレー・プラズマディスプレー・発光ダイオード・その他電子部品原料
      リン化インジウム(インジウムリン) InP単結晶原料(InPは半導体であり半導体素子に用いられる。)
      酸化インジウム フェライト用,液晶パネル電極原料
      塩化インジウム(Ⅲ) インジウムメッキ,電子材料原料
      水酸化インジウム(Ⅲ) インジウム化合物原料,電池調整剤原料
      硫酸インジウム(Ⅲ) メッキ薬
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    • 【解答例】
      インジウムすず酸化物は、液晶ディスプレー・プラズマディスプレー・発光ダイオード・その他電子部品原料として用いられる。
      リン化インジウムは半導体であり半導体素子に用いられる。
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  • (5)インジウム肺について、以下の問に答えよ。
    ① インジウム肺の主たる呼吸器疾患名を記せ。

    • 【解説】
      2010年の厚生労働省の意見交換会で使用されたパワーポイント資料「インジウム肺の臨床」に次のような記載がある。
      1.インジウム化合物(ITO)は粉塵として吸入されると間質性肺炎を生じうる。
      2.インジウム化合物吸入による間質性肺炎は従来のじん肺よりも早期に出現し、間質性変化と共にブラの形成など気腫化を呈する事が多く、気胸を併発しやすい(インジウム肺)。
      ※ 大前和幸「インジウム肺の臨床」(2010年 厚生労働省の意見交換会パワーポイント資料)
      (2)その後、平成 15 年に ITO 及びその原料となるインジウム化合物を取扱っていた作業者に肺疾患が発症したとの最初の報告があり、これまでにインジウムによるとみられる症例が 10 件確認されている(国内 7 件、外国 3 件)。
      (3)ヒトでの典型的な症状は、肺胞蛋白症、間質性肺炎、気胸、ばち指等であり、肺がんは確認されていない。
      ※ 厚生労働省「インジウム・スズ酸化物等の健康障害への対応について(案)」(第4回インジウムの健康障害防止に係る小検討会資料 2010年9月)
      さらに、環境省「化学物質の環境リスク評価 第11巻」の[5]インジウム及びその化合物」の「④ ヒトへの影響」に挙げられた「事例イ)」に次のような記述がある。
      聴診で捻髪音、胸部X線検査で全肺野のスリガラス状陰影(GGA)、胸部高解像度CT(HRCT)検査で全肺野の胸膜直下の蜂窩肺と GGA を認めた。胸腔鏡下肺生検で肺胞腔内に赤血球、フィブリン、コレステロール結晶や微細粒子を貪食した肺胞マクロファージを認め、間質にはリンパ球と形質細胞が浸潤し、リンパ球小節が散在していた。肺胞腔内や肺胞中隔、気管支内腔で 1 µm 前後の微細な粒子を認め、X 線分析によってインジウムとスズが検出され、インジウム・スズ酸化物の粒子の吸入による間質性肺炎と診断された。ステロイドによる治療が行われたが、効果はなく、3 年後に両側気胸を併発して死亡した。
      ※ 環境省環境リスク評価室「化学物質の環境リスク評価 第11巻[5]インジウム及びその化合物」(2013年3月)
      個人レベルの報告として、色川俊也「職業性呼吸器疾患の動向」にも次のようにされている。
      インジウム肺の特徴は,①ITOは粉塵として吸入されると,コレステロール肉芽腫(一部は肺胞蛋白症の症例もあり)から間質性肺炎(肺線維症)を生じること,②従来のじん肺より曝露後早期に出現し,間質性変化と共にブラ形成等の気腫性変化を呈することも多く,気胸を併発することがあること
      ※ 色川俊也「職業性呼吸器疾患の動向」(日本内科学会雑誌 108巻 10号 2019年)
      解答としては、「インジウム肺の呼吸器疾患」には、インジウムの健康障害防止に係る小検討会の資料から肺胞蛋白症、間質性肺炎、気胸がある。本問は、「主たる」というのであるから1つを選ぶとして、正答としては間質性肺炎が想定されているのだろう。
      ※ 本小問について、呼吸器専門医の方から会員専用掲示板に貴重なご意見を頂いた。
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    • 【解答例】
      間質性肺炎
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  •   ② ①の疾患では、肺のどの部位にどのような変化が生じているかについて記せ。

    • 【解説】
      インジウム肺そのものの症例が現時点では多くなく、かなりの難問である。文献としては、以下のものがある。なお、図表及び論文中の参考文献は引用者において略した。
      症例 1 では右中葉や左舌区を中心に間質性変化(ground glass appearance ;GGA)を,症例 2 では右中葉や左下葉を中心に GGA を,症例 3 では両側肺尖中心に多発ブラと GGA や線維化を認めた.
      BAL では,症例 1,2 共マクロファージ優位の総細胞数の増加を認めた以外は,特記すべき所見は得られなかった.TBLB は症例 1,2 共ほぼ同じ所見で,大量のコレステリン結晶がマクロファージに貪食され,またその周囲間質にはリンパ球浸潤と膠原線維を主体とする線維化がみられた.
      ※ 田口治他「インジウム肺の3例」(日呼吸会誌 vol.44 No.7 2006年)
      男性作業者105 名を血清インジウム濃度により4 群に分けて分析した結果,血清インジウム濃度の最も高い群は最も低い群に較べて有意にHRCT 上の変化(間質性変化,気腫性変化共)が広汎で,肺拡散能が低く,KL-6 値の高いことが明らかになった(図1)
      我々は2006 年に3 例につき症例報告し,これらの症例が従来のじん肺と異なり,数年~十数年といった短期間にKL-6 上昇を伴う比較的高度な間質性肺炎をきたすのみならず,しばしば気腫化を伴い,時に難治性の気胸をひきおこすなどの特徴を有し,病理所見ではcholesterol crystals の存在が共通して認められるなどインジウム肺とでもいうべき特有の病態である事を提唱した.
      ※ 長南達也「インジウム肺 ─ 発見から管理まで」(東北医誌126 : 173-176, 2014)
      平成 18 年 12 月現在,6 例の症例(症例 1 ~ 6)が学術誌に掲載され,1 例(症例 7)が学会発表されている.
      Homma et al.は,1994 年より ITO 研磨作業に約 3 年間従事していた 28 歳の男性の症例を報告した.(中略)胸部 X 線撮影では,全肺野のスリガラス状陰影(ground-glass appearance, GGA),胸部高解像度 CT(HRCT)では全肺野で胸膜直下の蜂窩肺と GGA を認めた.胸腔鏡下肺生検(video-assisted thoracoscopic lung biopsy, VATS)で,肺胞腔内に赤血球,フィブリン,コレステロール結晶や微細粒子を貪食した肺胞マクロファージを認め,間質にはリンパ球と形質細胞が浸潤し,リンパ球小節がいたるところに存在していた.直径1 µm 前後の微細粒子を肺胞腔内,肺胞中隔,気管支内腔で認められ,X 線分析によりインジウムとスズが検出され,ITO 粒子と同定された.血清中インジウム濃度(In-S)は,290 µg/l と著明に上昇していた.以上より ITO 粒子吸入による間質性肺炎と診断された.
      2 例目は(中略)部 X 線撮影で右上肺野に網状影,HRCT で,右上肺野の末梢側に浸潤影を認め,それに沿ってびまん性のGGA,全肺野に散在する小葉中心性の粒状影や気腫性変化が認められた.血清学的検査では,In-S は 51 µg/l,KL-6 は 799 U/ml(正常範囲:< 500 U/ml)であった.VATS で,胸膜直下の気腫状変化の部位にはびまん性に黄色の小結節が認められ,コレステロール結晶と茶色の細粒子を含んだ異物巨細胞を伴う小葉中心性気管支周囲の線維組織増殖像であった.また,コレステロール結晶と茶色の細粒子を含んだ異物巨細胞を伴う肺胞炎を認めた.茶色の細粒子の X 線分析でインジウムとスズが検出され,ITO 吸入による肺線維症,肺気腫と診断された.
      症例3では,%DL,CO軽度低下,胸部 HRCT で GGA,経気管支鏡生検(transbronchial lung biopsy, TBLB)でコレステリン結晶を伴う線維性変化,(以下略)
      症例 4 では,HRCT で GGA,TBLB でコレステリン結晶を伴う線維性変化,(以下略)
      症例 5 では,閉塞性障害,% DL,CO軽度低下,HRCT で GGA,多発ブラ,線維性変化,右気胸,左気胸の既往,左気胸手術標本でコレステリン肉芽腫と肺胞上皮の肥厚(以下略)
      症例 6 は(中略)拘束性呼吸機能障害,DL,CO低下,胸部 X 線で右優位の上肺野異常影,肺門上昇し上葉の収縮性,HRCT で上肺野優位の間質性陰影,著明な容積減少,牽引性の気管支拡張,下葉でも小葉隔壁の肥厚などの間質性変化を認めた.(中略)TBLB による病理所見は,肺胞隔壁にびまん性に軽度の線維性肥厚が認められ,ごく軽度のリンパ球の浸潤が散見された.肺胞腔内には多数のコレステリン結晶の形成,それを貪食したマクロファージが認められた.また,In-S は 64.7 µg/l であった.インジウムによる肺障害と診断された.
      症例 7 は(中略)胸部 X 線,胸部 CT にて両側上肺野の容積減少と線状索状影,血清LDH 462 IU/l,KL-6 6,395 U/ml と著明な上昇,TBLB で針状結晶物を取り囲む多核巨細胞,2004 年 VATS で肺表面の不整でびまん性線維化,病理所見は,間質に硝子化した線維組織とリンパ球の集積,肺胞内に針状のコレステリン結晶を認め,間質および肺胞内には褐色粒子が沈着し一部はマクロファージに貪食,(中略)肺組織内の他の金属との複合影響は否定できないが,酸化インジウム吸入による間質性肺炎と考えられた.
      ※ 日本産業衛生学会「インジウムおよびその化合物」(産衛誌 Vol.49 2007年)
      なお、以下は参考までに挙げておく。
      以前より比較的安全な金属と考えられてきたインジウムであるが,US National Toxicology Program(NTP)による発癌性の報告や,Tanaka らによるハムスターの実験では,インジウムの反復吸入により肺内に炎症反応が引き起こされることが報告されている.ヒトにおいては,2001 年に本邦で初のインジウムによる致死的な間質性肺炎が発症し,2003 年に症例報告され,その後 2005 年に比較的軽症の間質性肺炎が報告され,現在までに 7 例のインジウムに伴う肺障害の例が報告されている.いずれも曝露年数が 3~12 年であり,従来の塵肺よりも短期間で肺障害が生じているのが特徴である.
      インジウム吸入による間質性肺炎の組織では,コレステリン結晶がマクロファージに貧食され肉芽腫を形成し,その周囲間質にリンパ球の浸潤や,膠原線維を主体とする線維化がみられている.一般的にコレステロール肉芽腫の形成は,リポイド肺炎での内因性の脂質または,脂質を含んだマクロファージに起因するコレステリン結晶が線維化する結果と言われ,コレステロール―エステル肉芽腫は顆粒状肺細胞の過形成や剝離によって生じるとされている.しかし現在報告されているインジウムによる間質性肺炎症例において,病理組織学的に顆粒状肺細胞の過形成や剝離は認めていない.インジウムの吸入によって生じる間質性変化の機序は不明であり,今後の研究を要すると考えられる
      今回の研究では,HRCT での間質性変化は認めなかった.これはインジウムによる肺障害が少しずつ明らかにされ,工場での環境が改善されているためかもしれない.しかし,血清中の KL-6 値や SP-D 値は高値であり,今後間質性変化を生じることも考えられる
      ※ 野上裕子他「インジウム吸入による肺障害について」(日呼吸会誌 Vol.46 No.1 2008年)(ITO 関連事業所における加工労働者 40 例を対象とする研究)
      どう解答するべきか、やや迷うところではある。解答例(※)に掲示板に頂いたご意見によって筆者なりの解答例を示したが、ご意見を頂ければと思う。
      ※ 本小問について、前小問と同様、呼吸器専門医の方から会員専用掲示板に貴重なご意見を頂いた。解答例は、そのご意見に従って記述している。
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    • 【解答例】
      間質性肺炎においては、間質に、炎症細胞浸潤と線維化を生じる。
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  •   ③ インジウム肺と同様な①の疾患を生じる金属元素を挙げよ。

    • 【解説】
      巨細胞性間質性肺炎(GIP)は、超硬合金肺の特徴で、タングステン、コバルト、ニッケル等を含む超硬合金の粉じんによって発症する。
      ※ 和田雅子他「巨細胞性間質性肺炎の所見を呈した超硬合金肺の1剖検例」(日胸疾会誌 1986年 Vol.24 No.6)、濵田恵理子他「経気管支肺生検,気管支肺胞洗浄,元素分析で診断した超硬合金肺の1例」(気管支学 2021年 Vol.43 No.4)、李諒「超硬合金肺の臨床病理学的検討」(新潟医学会雑誌 2013年 Vol.127 No.3)
      この他、カドミウムによって間質性肺炎が発症した報告(※)がある。
      ※ 井上修平他「銅配管の銀ろう溶接作業中にカドミウムフュームを吸入し, 問質性肺炎をきたした1例」(日本胸部疾患学会雑誌 1994年 Vol.32 No.9)、厚生労働省「カドミウム及びその化合物によるがん
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    • 【解答例】
      巨細胞性間質性肺炎(GIP)は、タングステン、コバルト、ニッケル等を含む超硬合金の粉じんによって発症する。
      また、カドミウムによって間質性肺炎が発症するとの報告がある。
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  •   ④ インジウム肺の発症後、長期にわたって発症を確認する必要のある呼吸器疾患を挙げよ。

    • 【解説】
      本小問について、技術指針にはとくに触れられていない。
      インジウムによる肺がんの発症があるとの確実な証拠はない(IARCではリン化インジウムとしての発がん性はグループ2A)が、常識的には肺がんの発症を確認する必要はあろう。
      その他、小問(5)①の解説に示した肺胞蛋白症及び気胸を確認する必要があろう。
      なお、日本バイオアッセイ研究センターの長期がん原性試験の結果、ラットに肺胞蛋白症、肺胞上皮の過形成、胞壁の線維化が認められている。解答例には書かなかったが、肺胞上皮の過形成を記してもよいかもしれない。
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    • 【解答例】
      肺がん、肺胞蛋白症及び気胸
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  • (6)インジウム肺が発生した同じ工場に勤務する作業者に対して、発症者と同じ疾患が発生していないかを調査することになった。健康調査項目を「性」、「年齢」以外に五つ挙げよ。

    • 【解説】
      本問は、問題の意図がつかみ難い。「発症者と同じ疾患が発生していないかを調査」というのであるから、インジウム肺に罹患していないかについて診断をすればよいのではないかという気がする。そもそも、なぜ「性」や「年齢」を調べる必要があるのか、ほとんどの臨床医は理解に苦しむのではないだろうか。
      しかし、本問においては、間質性肺炎、肺胞蛋白症、気胸等の疾患の検査は、(健康調査項目とは別に)行うのであろう。本小問の解答としては求められてはいない。
      おそらく出題者は公衆衛生の専門家で、疫学調査が念頭にあったのだろう。出題の意図としては、発症していた場合に、それがインジウム・スズ酸化物との因果関係があるかどうかを確認するために、発症に影響する他のリスク要因の影響を知りたいのであろう。
      また、出題者が「健康調査項目」という用語をどのような意味で用いているのかについて、疑問に感じるかもしれない。「性別」と「年齢」が健康調査項目の範疇に入るというのはやや違和感があるが、常識的には、身体状況調査、栄養摂取状況調査、生活習慣調査などを意味するのであろう。当然のことながら、エックス線検査、肺機能検査、高分解能 CT(HRCT)検査、KL-6・SP-A(肺サーファクタント蛋白A)・SP-D(肺サーファクタント蛋白D)の測定などは含まれていないと考えるべきである。
      そのように考えると、以下の項目が挙げられるだろうか。
      ● 喫煙習慣の有無(現在および過去について)
      ● 同居する家族の喫煙歴(間接喫煙の有無)
      ● インジウム・スズ酸化物の取扱い等の作業歴
      ● インジウム・スズ酸化物の取扱い等の作業以外の有害業務(とくに粉じん作業、金属の溶融・溶断等の業務)の作業歴
      ● 慢性の心臓病、肺の病気、糖尿病などの既往歴
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    • 【解答例】
      ● 喫煙習慣の有無(現在および過去について)
      ● 同居する家族の喫煙歴(間接喫煙の有無)
      ● インジウム・スズ酸化物の取扱い等の作業歴
      ● インジウム・スズ酸化物の取扱い等の作業以外の有害業務(とくに粉じん作業、金属の溶融・溶断等の業務)の作業歴
      ● 慢性の心臓病、肺の病気、糖尿病などの既往歴
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  • (7)インジウム化合物を製造し、又は取り扱う屋内作業場での呼吸用保護具の使用について留意すべきことを述べよ。

    • 【解説】
      本問は「インジウム化合物等を製造し、又は取り扱う作業場において労働者に使用させなければならない呼吸用保護具を定める件」(平成24年12月3日厚生労働省告示第579号(最終改正: 令和2年1月27日厚生労働省告示第18号))及び平成24年12月3日基発1203第1号「「インジウム化合物等を製造し、又は取り扱う作業場において労働者に使用させなければならない呼吸用保護具」の適用について」を参考に解答すればよい。
      本告示では、作業空間のインジウム化合物の濃度ごとに使用するべき呼吸用保護具の種類又は防護係数が定められている。
      また、その他の注意事項として、上記通達に次のように定められている。
      ● 防護係数の確認は、労働者に初めて使用させるとき、及びその後6月以内ごとに1回、定期に、JIS T 8150で定める方法により防護係数を求めることにより行うこと。
      ● 防じんマスク及び電動ファン付き呼吸用保護具は、型式検定に合格したものを使用すること。
      ● 防護係数の確認を行う呼吸用保護具以外のものについても、労働者に初めて使用させるとき、及びその後6月以内ごとに1回、定期に、JIS T 8150で定める方法により防護係数を求めることにより、防護係数が確保されていることを確認するよう努めること。
      ● 防じんマスク又は電動ファン付き呼吸用保護具を使用させる場合には、その都度、フィットチェッカー等を用いて、面体と顔面との密着性を確認するように努めるべきこと。
      ● 眼鏡を着用する労働者に全面形の面体を有する呼吸用保護具を使用させる場合には、呼吸用保護具のメーカーが推奨する眼鏡と面体との隙間をふさぐ部品等を使用して密着性を確保するように努めるべきこと。
      ● 本告示には、作業環境測定の結果から得られた値が0.3μg/m3未満の場合には使用させるべき呼吸用保護具を規定していないが、予防的観点から作業の状況に応じて防じんマスク等を使用させることが望ましいこと。
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    • 【解答例】
      ● 作業空間のインジウム化合物の濃度に応じて、呼吸用保護具の種類又は防護係数を、厚生労働大臣の定める告示に従って選択すること。
      ● 防護係数の確認は、労働者に初めて使用させるとき、及びその後6月以内ごとに1回、定期に、JISで定める方法で防護係数を求めることにより行うこと。
      ● 防じんマスク及び電動ファン付き呼吸用保護具は、型式検定に合格したものを使用すること。
      ● 防じんマスク又は電動ファン付き呼吸用保護具を使用させる場合には、その都度、フィットチェッカー等を用いて、面体と顔面との密着性を確認すること。
      ● 眼鏡を着用する労働者に全面形の面体を有する呼吸用保護具を使用させる場合には、呼吸用保護具のメーカーが推奨する眼鏡と面体との隙間をふさぐ部品等を使用して密着性を確保すること。
      ● 前記告示には、作業環境測定の結果が0.3μg/m3未満の場合には使用させるべき呼吸用保護具を規定していないが、作業の状況に応じて防じんマスク等を使用させることが望ましい。
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  • (8)インジウム化合物の製造・取扱い作業に関し、インジウムばく露を低減するために必要な対策を「呼吸用保護具の備付け、使用」以外に五つ挙げよ。

    • 【解説】
      前記「技術指針」に従って5件記入すればよい。なお、技術指針には、次の事項が掲げられている。
      1 設備に係る措置
      (1)遠隔操作の導入又は工程の自動化
      (2)粉じんの発散源を密閉又は隔離する設備の設置
      (3)局所排気装置の設置
      (4)プッシュプル型換気装置の設置
      (5)湿潤な状態に保つための設備の設置
      2 作業管理
      (1)労働者が当該物質にばく露されないような作業位置、作業姿勢又は作業方法の選択
      (2)作業手順書の作成と周知徹底
      (3)当該物質にばく露される時間の短縮
      (4)保護具の使用の徹底(呼吸用保護具のほか、必要に応じて保護眼鏡を使用する)
      (5)清掃作業について
      (6)作業記録の保存
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    • 【解答例】
      (1)遠隔操作の導入又は工程の自動化
      (2)粉じんの発散源を密閉又は隔離する設備の設置
      (3)局所排気装置又はプッシュプル型換気装置の設置
      (4)湿潤な状態に保つための設備の設置
      (5)労働者が当該物質にばく露されないような作業位置、作業姿勢又は作業方法の選択
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  • (9)インジウム化合物を譲渡・提供する際に添付される安全データシート(SDS)から得られる職場の衛生管理上有用な情報を五つ挙げよ。

    • 【解説】
      これも設問の趣旨が不明な問題である。しかし、SDSは政府のモデルSDSとは限らないので、SDSの作者の考え方や知識で異なるような詳細な内容が求められてるのではなく、普遍的な記載項目を問うているのであろう。
      SDSの記載項目から5つ挙げればよいものと思われる。
      〇 化学品及び会社情報
      〇 危険有害性の要約
      〇 組成及び成分情報
      〇 応急措置
      〇 火災時の措置
      〇 漏出時の措置
      〇 取扱い及び保管上の注意
      〇 ばく露防止及び保護措置
      〇 物理的及び化学的性質
      〇 安定性及び反応性
      〇 有害性情報
      〇 環境影響情報
      〇 廃棄上の注意
      〇 輸送上の注意
      〇 適用法令
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    • 【解答例】
      〇 漏出時の措置
      〇 取扱い及び保管上の注意
      〇 ばく露防止及び保護措置
      〇 有害性情報
      〇 廃棄上の注意
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