労働衛生コンサルタント試験 健康管理 2020年 問3

情報機器作業における労働衛生管理




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 このページは、2020年の労働安全衛生コンサルタント試験の「健康管理(記述式)」問題の解説と解答例を示しています。

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 解説文中の法令の名称等は、適宜、略語を用いています。また、引用している法令は、読みやすくするために漢数字を算用数字に変更するなどの修正を行い、フリガナ、傍点等は削除しました。

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2020年度(令和2年度) 問 3 情報機器作業ガイドラインの内容についてのやや詳細な内容を問う問題である。
情報機器作業
2020年11月03日執筆

問3 近年、パソコンなどの情報機器の技術的発展に伴い、「情報機器作業における労働衛生管理のためのガイドライン」が発出されるなど、データ入力や文章作成等のオフィスワークの形態も変化している。

情報機器を扱う作業の労働衛生に関する以下の設問に答えよ。

  • (1)一般に、パソコンなどを使う情報機器作業においては身体的な拘束性が強いと考えられている。
     この場合の「身体的な拘束性が強い」とは具体的にどのようなことか、簡潔に述べよ。

    • 【解説】
      本問は題意にも示されているように、令和元年7月12日基発0712第3号「情報機器作業における労働衛生管理のためのガイドライン通達)」(以下「ガイドライン」という。)を念頭においた出題である(※)。以下の各小問について、ガイドライン中に解答となる記述があれば、その内容に従って答えるべきである。
      ※ なお、ガイドラインについてのパンフレット解説も適宜参照されたい。
      「身体的拘束性」についてガイドラインには「情報機器作業においては、画面からの情報を正確に得るために頭(眼)の位置が限定されること、さらに、特にキーボードからの入力においては、手の位置も限定されることから、身体の動きが極端に制限される」とのみ記述されているほかには、定義や説明はない。
      むしろ、その解説において「『拘束性』が強いかどうかの判断は容易ではない場合が少なからずある。作業者自身が気付かないことも多く、また個人差も大きいことから、衛生管理者や産業医等の客観的な観察も必要である」との記述がある。ガイドラインとしては、明確な定義は示せないという考えのようだ。
      しかしながら、別紙において、「作業時間又は作業内容に相当程度拘束性があると考えられるもの」については、次のように定められている。
      〇 1日に4時間以上情報機器作業を行う者であって、次のいずれかに該当するもの
      ・ 作業中は常時ディスプレイを注視する、又は入力装置を操作する必要がある
      ・ 作業中、労働者の裁量で適宜休憩を取ることや作業姿勢を変更することが困難である
      解答例のように記述すれば、完璧であろうが、自らの言葉で情報処理作業についての身体的拘束性について正しく説明できていれば、減点されることはないだろう。
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    • 【解答例】
      情報機器作業においては、画面からの情報を正確に得るために頭(眼)の位置が限定されること、さらに、特にキーボードからの入力においては、手の位置も限定されることから、身体の動きが極端に制限される。これが情報処理作業における身体的拘束性である。
      しかしながら、「拘束性」が強いかどうかの判断は容易ではない場合が少なからずある。作業者自身が気付かないことも多く、また個人差も大きいことから、衛生管理者や産業医等の客観的な観察も必要である。
      なお、1日に4時間以上情報機器作業を行う者であって、次のいずれかに該当するものは、「作業時間又は作業内容に相当程度拘束性がある」と考えられる。
      ・ 作業中は常時ディスプレイを注視する、又は入力装置を操作する必要がある
      ・ 作業中、労働者の裁量で適宜休憩を取ることや作業姿勢を変更することが困難である
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  • (2)照明に関して、一般的な事務作業では書類あるいはキーボード上への照度(ルクス)はどの程度必要か、簡潔に述べよ。
     また、書類あるいはキーボード面における明るさと周辺の明るさの適切な関係について述べよ。

    • 【解説】
      本小問で「一般的な事務作業」とあり、情報機器を用いない一般的な事務作業のこととも読めるが、キーボードという言葉が使われており、また、問題全体の流れから考えれば、情報機器を用いた(プログラミングなどの専門作業ではない)一般的な事務作業という趣旨であろう。
      本小問の前半は、選択式の「労働衛生一般」の過去問(2019年問10)で問われたことがある。このことからも分かるように、過去問は、試験委員の問題意識がどこにあるかを知るための重要な手掛りなのである。
      解答例に示したのは、ガイドラインからの引用そのままである。なお、ディスプレイ画面上の照度は答える必要はないが、500ルクス以下とされている。
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    • 【解答例】
      書類上及びキーボード上における照度は 300 ルクス以上を目安とし、作業しやすい照度とする。
      また、ディスプレイ画面の明るさ、書類及びキーボード面における明るさと周辺の明るさの差はなるべく小さくする。
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  • (3)ディスプレイにグレアがあると眼疲労の原因となる。
     「グレア」とは何か、簡潔に述べよ。また、グレア対策について簡潔に述べよ。

    • 【解説】
      解答例に、ガイドラインに記述されているグレアの定義と、対策をそのまま示す。
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    • 【解答例】
      (1)「グレア」とは
      「グレア」とは、視野内で過度に輝度が高い点や面が見えることによっておきる不快感や見にくさのことで、光源から直接又は間接に受けるギラギラしたまぶしさなどをいう。
      ディスプレイを注視している時に視野内に高輝度の照明器具・窓・壁面や点滅する光源がある場合や、これらがディスプレイ画面上に映り込む場合などがある。
      (2)「グレア」対策の方法
      グレアを防止する方法には、以下のことがある。
      ① 間接照明等のグレア防止用照明器具を用いたり、照明器具にルーバを取り付ける。
      ② ディスプレイを置く位置を工夫して、視界内に輝度が高いものがないようにしたり、映り込みを防ぐ。
      ③ ディスプレイにフィルター(反射率の低いもの)を取り付けることで映り込みを防ぐ。
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  • (4)デスクトップ型パソコンと比べたとき、ノート型パソコンが持つ労働衛生上の問題点は何か、簡潔に述べよ。
     また、ノート型パソコンを使い続ける場合、その問題点を緩和する方策は何か、簡潔に述べよ。

    • 【解説】
      ノートパソコンが開発されたとき、これが事務所で恒常的に使用されることは想定されていなかった。これは、出張先等で臨時に使用されたり、(専用のパソコン机が確保できない)家庭で短時間使用されることが想定されていたのである。
      デスクトップ型の方が価格も安く、ディスプレイも大きく、キーボードにはテンキーも備えられていて便利だったので、事務所でノートパソコンが恒常的に用いられることになるなどとは、開発者たちは思ってもいなかったのだ。ところが、当時のデスクトップパソコンのディスプレイは、やたらに大きく、かなりの電力を消費し、熱も発生した。このため机の上で場所をとらないノートパソコンは、あっという間に(中央省庁も含めて)多くの事務所に広まったのである。
      労働衛生の専門家は、当時からノートパソコンはプロフェッショナルな使用のために用いるものではなく、継続した長期の使用は人間工学上の問題があると警告していた。しかし、その警告は、ほとんど顧みられることはなかったのである。
      旧VDTガイドラインが廃止されて、本問の新しいガイドラインが発出された背景の一つには、あまり明確にはされていないがノートパソコンへの対応という課題も含まれていたのである。
      ガイドラインにはノートパソコンの問題点と対応策が記述されている。解答例Aには、ガイドラインの記載事項をそのまま記述し、解答例Bにはガイドラインから必要事項を抜き出してまとめて記述した。もっとも、そこまでするくらいならデスクトップ型パソコンを採用した方がよいだろうという気がしないでもない。
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    • 【解答例 A】
      (1)ノート型パソコンが持つ労働衛生上の問題点
      ノート型機器には、携帯性を重視した設計(画面が小さい、キーストロークが短い、キーピッチが小さいなど)のものがあり、それらを長時間の情報機器作業に使用する場合には、人間工学上の配慮が必要となる。
      小さいキーボードを、手が大きい作業者が使用する場合には、連続キー入力作業で負担が大きくなることがあり、小型の画面は文字が小さく視距離が短くなりすぎる傾向がある。また、キーボードとディスプレイが一体となった構成は、デスクトップ型に比べてディスプレイと頭の位置及びキーボード等入力装置と手の位置の関係において自由度が小さくなるため、作業者に特定の拘束姿勢を強いることや過度の緊張を招くことなどがある。
      (2)ノート型パソコンの問題点を緩和する方策
      多くのノート型機器は外付けのディスプレイ、キーボード、マウス、テンキー入力機器などを接続し、利用することが可能であり、小型のノート型機器で長時間の情報機器作業を行う場合には、これらの外付け機器を利用することが望ましい。
      【解答例 B】
      (1)ノート型パソコンが持つ労働衛生上の問題点
      ノート型パソコンが持つ労働衛生上の問題点には、以下のことがある。
      ① ノート型機器は、通常、ディスプレイが本体から分離できない。このため、ディスプレイの大きさや明るさなどで、適切なものを選択することが困難である。また、位置を調整することも難しいため、作業姿勢も拘束され易い。
      ② ノート型機器は、通常、キーボードが小さく、本体から分離できない。このため、使いやすい入力機器を選択することができず、また、位置を調整することも難しいため、作業姿勢も拘束され易い。
      (2)ノート型パソコンの問題点を緩和する方策
      上記の問題点のそれぞれに対応して、以下の方策が考えられる。
      ① 適切なサイズで、明るさやコントラストを調整可能な外付けディスプレイを採用し、画面の位置、前後の傾き、左右の向き等を適切に調節する。
      ② 使いやすい大きさや形状でキーストロークの適切な外付けのキーボードやマウスを採用し、その位置や傾き等を適切に調節する。
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  • (5)情報機器作業における椅子と机に関して、望ましい要件を述べよ(300 字程度まで)。

    • 【解説】
      椅子と机については、ガイドラインの「4 作業環境管理」の(2)のトとチに記述されている。ただ、そのままだと460文字程度あるので、適宜、自らの言葉で簡潔にまとめて書く必要がある。
      最近は、Twitterが広く用いられているので、短い文字数で意図を的確に表現することには慣れている人も多いだろう。解答例は300文字以下になっている。
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    • 【解答例】
      (1)椅子
      椅子は、次の要件を満たすもの。
      ① 安定しており、容易に移動できる。
      ② 座面の高さが、作業者の体形に合わせて調整できる。
      ③ 複数の作業者が一の椅子を使用する場合は、高さの調整が容易で、調整中に座面が落下しない構造である。
      ④ 傾きを調整できる適当な背もたれがある。
      ⑤ 適当な長さの肘掛けがある。
      (2)机
      机は、次の要件を満たすもの。
      ① 作業面は、作業に必要なものが適切に配置できる広さである。
      ② 作業者の脚の周囲の空間は、脚が窮屈でない大きさのものである。
      ③ 机の床からの高さは、高さが調整できない場合は作業者の体形にあった高さとし、調整が可能な場合は作業者の体形にあった高さに調整できる。
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  • (6)一連続作業時間及び作業休止時間の目安について述べよ。

    • 【解説】
      これは、ガイドラインそのままの数値を挙げればよい。
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    • 【解答例】
      一連続作業時間が1時間を超えないようにし、次の連続作業までの間に10 分~15 分の作業休止時間を設け、かつ、一連続作業時間内において1回~2回程度の小休止を設ける。
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  • (7)情報機器作業においては、長時間椅座位姿勢を続けることによる腰痛のリスクがある。
     腰痛のリスクに対処するうえで留意すべき作業姿勢やその場で実施できる対策などについて述べよ(300 字程度まで)。

    • 【解説】
      ガイドラインには、「腰痛予防」のためと明記してはいないが、望ましい作業姿勢について記されており、全体の流れから腰痛予防を念頭においた記述と考えられるので、それをあげればよいだろう。また、これも、腰痛予防のためと明記されてはいないが、「その場で実施できる対策」としてストレッチ(職場体操)が挙げられている。
      また、「職場における腰痛予防対策指針及び解説」に、望ましい作業姿勢について同様な記述がある。
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    • 【解答例】
      (1)作業姿勢
      座位のほか、時折立位を交えて作業することが望ましく、座位においては、次の状態による。
      ① 椅子に深く腰をかけて背もたれに背を十分にあて、履き物の足裏全体が床に接した姿勢を基本とすること。また、十分な広さを有し、かつ、すべりにくい足台を必要に応じて備えること。
      ② 椅子と大腿部膝側背面との間には手指が押し入る程度のゆとりがあり、大腿部に無理な圧力が加わらないようにすること。
      ③ 膝や足先を自由に動かせる空間を取ること。
      (2)その場で実施できる対策
      就業の前後又は就業中に、体操、ストレッチ、リラクゼーション、軽い運動等を行うことが望ましい。
      また、前傾姿勢を避け、適宜、立ち上がって腰を伸ばす等姿勢を変えること。
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  • (8)高齢者が情報機器作業に携わる場合に配慮すべき事項について簡潔に述べよ(200 字程度まで)。

    • 【解説】
      これも、ガイドラインの「10 配慮事項」の(1)にそのままの記述がある。
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    • 【解答例】
      高年齢の作業者については、照明条件やディスプレイに表示する文字の大きさ等を作業者ごとに見やすいように設定するとともに、過度の負担にならないように作業時間や作業密度に対する配慮を行うことが望ましい。
      また、作業の習熟の速度が遅い作業者については、それに合わせて追加の教育、訓練を実施する等により、配慮を行うことが望ましい。
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  • (9)テレワークで情報機器作業を行う労働者の長時間労働を防ぐための具体的な手法・配慮の例を三つ挙げよ。

    • 【解説】
      労働基準法上の労働者については、テレワークを行う場合においても、労働基準関係法令が適用されることは当然である。ただ、ガイドラインには「テレワークで情報機器作業を行う労働者の長時間労働を防ぐための具体的な手法・配慮」についての記述はない。
      本小問については、2018年2月に厚生労働省が策定した「情報通信技術を利用した事業場外勤務の適切な導入及び実施のためのガイドライン」(パンフレット)の2の「(3)長時間労働対策について」等により解答すればよい。
      解答例には4点挙げたが、ここから3点を選べばよい。
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    • 【解答例】(以下から3点選んで答える)
      テレワークにおける長時間労働等を防ぐ手法としては、以下のような手法が考えられる。
      ① メール送付の抑制
      役職者等から時間外、休日又は深夜におけるメールを送付することの自粛を命ずること等。
      ② システムへのアクセス制限
      深夜・休日は、企業等の社内システムにアクセスできないよう設定する。
      ③ テレワークを行う際の時間外・休日・深夜労働の原則禁止等
      時間外・休日・深夜労働を原則禁止とする。。この場合、労働者にその趣旨を十分理解させるとともに、時間外・休日・深夜労働の原則禁止や使用者等による許可制とすること等を就業規則等に明記しておく。また、時間外・休日労働に関する三六協定の締結の仕方を工夫する。
      ④ 長時間労働等を行う労働者への注意喚起
      労働者に対して、注意喚起を行う。具体的には、管理者が労働時間の記録を踏まえて行う方法や、労務管理のシステムを活用して対象者に自動で警告を表示することが考えられる。
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  • (10)情報機器作業を行う労働者の健康診断で、業務歴・既往歴・自覚症状の有無の調査に加えて行う検査を二つ挙げよ。

    • 【解説】
      ガイドラインに、眼科学的検査と筋骨格系に関する検査が挙げられているので、それを答えればよい。
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    • 【解答例】
      ① 眼科学的検査
      ② 筋骨格系に関する検査
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