このページは、2020年の労働安全衛生コンサルタント試験の「健康管理(記述式)」問題の解説と解答例を示しています。
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2020年度(令和2年度) | 問 2 | 騒音に関する物理的指標、作業環境測定、健康影響とその対策に関する基本的な知識を問う問題。 |
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騒音に関する対策 |
問2 騒音及び騒音性難聴について、以下の設問に答えよ。
※ 本問は、出題後に「騒音障害防止のためのガイドライン」が改訂されているため、問題文を一部修正している。
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(1)以下の語句について簡潔に説明せよ。
① デシベル(㏈)-
【解説】
我々が普段聴いている音は、空気の振動によって伝わっている。音の大きさは、この空気の振動するときの圧力の変化の実効値によって表され、これを音圧と呼ぶ。この音圧の単位は㎩であるが、そのレベルを表す単位が、デシベル(㏈)である(※)。※ 厳密には「㏈ SPL」という単位であるが、SPLは省略されることが普通である。具体的には、音圧レベル()は、測定された音圧()の自乗と基準音圧(:20µ㎩)の自乗との比の対数を10倍(※)した値で、次式のように表せる。※ 「㏈」のd(デシ)は、デシリットルのデシと同じで、基準値の10分の1という意味である。
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【解答例】
デシベル(㏈)とは、音の大きさのレベル(音圧レベル)を表す単位である。具体的には、音圧レベル()は、測定された音圧()の自乗と基準音圧(:20µ㎩)の自乗との比の対数を10倍した値で、次式のようになる。
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【解説】
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② A特性
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【解説】
人間の聴覚の感度は、周波数によって異なっている。一方、単純なデシベルで表した音量は周波数とは無関係なので、人間に対する騒音による影響の大きさを考えるときは、周波数によって補正をする必要が出てくる。人間が感じる騒音を評価するために、周波数によって補正を行う(重みづけを行う)規格がA特性であり、JIS C 1505の付表に定められている(※)。なお、騒音計は、このA特性の他、少なくともC特性又は平たん特性(Z特性)のいずれかで補正が行えるようになっている。※ 三浦甫「JIS C 1505「精密騒音計」の改正原案について」(日本音響学会誌43巻10号(1987))に、その時点でのJIS改定案の全文が紹介されており、そこにA特性の表も載っている。A特性によって補正された音圧レベルは、騒音レベル(sound level / noise level)と呼ばれ、単位は㏈(A)又はホン(※)が用いられる。※ 音の大きさの単位としては「phon」があるが、これは音の大きさを表すレベルの単位であり、カタカナのホンとは別なものである。閉じる
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【解答例】
A特性とは、人間が感じる騒音を評価するために、周波数によって補正を行う(重みづけを行う)ための規格である。2.5㎑を最大とし、その両側で低くなっている。このA特性によって補正された音圧レベルは、騒音レベル(sound level / noise level)と呼ばれ、単位は㏈(A)又はホンが用いられる。閉じる
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【解説】
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③ 等価騒音レベル
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【解説】
等価騒音レベルの定義はJIS C 8731に示されているが、環境省「騒音に係る環境基準の評価マニュアル 一般地域編」(2015年)の定義が分かりやすい。環境省のマニュアルによれば、等価騒音レベルとは「
ある時間範囲 T について、変動する騒音レベルをエネルギー的な平均値として表したもの。時間的に変動する騒音のある時間範囲 T における等価騒音レベルはその騒音の時間範囲 T における平均二乗音圧と等しい平均二乗音圧をもつ定常音の騒音レベルに相当する。単位はデシベル(㏈)
」とされている。等価騒音レベルは、時間的に変動する騒音に対する人間の生理・心理的反応とよく対応するとされており、騒音の大きさを表す値として広く用いられている。閉じる -
【解答例】
等価騒音レベルとは、騒音レベルが時間によって変化している場合、測定対象の時間内でこれと等しい平均2乗音圧を与える連続定常音の騒音レベルをいう。閉じる
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【解説】
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(2)同じ機械を同一場所に2台設置した屋内作業場において、1台のみ運転した時の騒音レベルは 85 dB (A) であった。2台同時に運転したときの騒音レベル dB (A) の値を記し、どうしてその値になるか説明せよ。
ただし、log 2 = 0.3、log 3 = 0.5 とする。-
【解説】
まず、騒音の音源が2倍になると、発生する音のエネルギーも2倍になる。すなわち、(1)①に示した「音圧の自乗(※)」も2倍になるのである。※ 音のエネルギー は音圧 の2乗に比例する。具体的には、 となる。ただし、 は空気密度(kg/m3)で、 は音速(m/s)である。従って、を満たすようなが2倍になったときの騒音レベルを考えればよい。そのときの騒音レベルをとすると、なお、音源の数が2倍になったときに、騒音レベルが3だけ大きくなることは覚えておこう。閉じる
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【解答例】
音源の数が2倍になると、騒音レベルは3大きくなり、88db(A)となる。その理由は以下の通り。まず、騒音の音源が2倍になると、発生する音のエネルギーも2倍になる。すなわち、(1)①の音圧の自乗も2倍になるのである。すなわち、を満たすようなが2倍になったときの騒音レベルを考えればよい。そのときの騒音レベルをとすると、以上。閉じる
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【解説】
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(3)騒音職場における等価騒音レベルの測定を行う際の次の測定の実施方法について、それぞれの概略を説明せよ。
① A測定-
【解説】
この種の設問については、何をどのように書くべきかを迷うと思う。「測定の実施方法」というのであるから、目的を書く必要はないと思うが、簡単に触れた方が答えやすいだろう。まず、絶対に落としてはならないことは、作業場を縦、横6m以下の等間隔で引いた直線の交点(5点以上)を測定点とすること、及び、床上1.2mから 1.5mの間で測定するということである。また、6月ごとに1回行うことは書かなくても減点されないと思うが、1測定点につき10分間測定すること、周波数補正回路のA特性で行うことは書かないと減点対象になると思う。閉じる
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【解答例】
A測定とは、単位作業場所内の平均的な騒音レベルの分布を調べるための測定である。作業場を縦、横6m以下の等間隔で引いた直線の交点(5点以上)において、床上1.2mから 1.5mの間で、各測定点を10分間測定する。測定に用いる機器は、等価騒音レベルを測定できるもので、騒音計の周波数補正回路のA特性で行う。閉じる
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【解説】
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② B測定
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【解説】
B測定を行うのは、発生源に近接する場所において作業が行われる場合であり、その位置において測定する。他はA測定と同じである。閉じる
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【解答例】
B測定とは、音源に近接する場所において作業が行われる単位作業場所で、その位置において行う測定である。測定に用いる機器は、等価騒音レベルを測定できるもので、騒音計の周波数補正回路のA特性で、10分間測定する。閉じる
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【解説】
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(4)以下の周波数 [㎐] の値を記せ。
① 可聴域(健康成人が感知できる周波数の最小値と最大値)-
【解説】
健康成人の可聴範囲は、下限は 16~20 ㎐ 程度、上限は 15,000~20,000 ㎐ 程度といわれる。この数値で答えておけばよいが、上限を 20,000 ㎐ 程度と答えても減点されることはないだろうと思う。閉じる
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【解答例】
健康成人の可聴範囲は、下限は 16~20 ㎐ 程度、上限は 15,000~20,000 ㎐ 程度といわれる。閉じる
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【解説】
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② 日常会話での周波数域(周波数の最小値と最大値)
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【解説】
これも、テキストによってかなりばらつきがある。下限は 250~500 ㎐ 程度、2,000~4,000 ㎐程度とするものが多いようだ。日常会話と言っても、低音や高音で話すケースもあるだろうから、多少の違いでは減点されることはないと思う。閉じる
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【解答例】
日常会話での周波数域は、下限が250 ㎐ 程度、上限は4,000 ㎐ 程度である。閉じる
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【解説】
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③ 騒音ばく露者の聴力検査で初期に異常が認められる周波数
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【解説】
これは、4,000 ㎐ としておけばよい。高齢による聴力の衰えは高周波数から起きるが、騒音によるものは4,000 ㎐ 程度で始まる。閉じる
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【解答例】
騒音ばく露者の聴力検査で初期に異常が認められる周波数は、4,000 ㎐ である。閉じる
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【解説】
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(5)騒音性難聴で障害される解剖学的部位と その病的変化を記せ。
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【解説】
ヒトの内耳には、蝸牛と呼ばれる渦巻き状の器官があり、その内側は、有毛細胞につながった聴毛が覆っている。この聴毛が内リンパの振動を電気パルスに変換して、有毛細胞から神経線維を通して脳に伝えることで、ヒトは音を聴いているのである。昭和61年3月18日基発第149号「騒音性難聴の認定基準について」によれば、「
騒音ばく露によって障害される部位は内耳である。内耳に起こる病的変化の発生機序に関しては必ずしも明らかになってはいないが、蝸牛基底回転におけるラセン器(※)の変性であると考えられている
」とされている。※ 「ラセン器」はコルチ器とも呼ばれ、蝸牛の内部を仕切る2つの膜のひとつで、2種の有毛細胞をがつながった聴力の感覚器官である。コルチ器が音を感知して発した信号は、らせん状に並んでいる無数の「らせん神経節(蝸牛神経節)」が集めて、それぞれが内耳神経の蝸牛根と呼ばれる線維束に信号を送り出している。大きな音量に、長期間にわたって晒されると、有毛細胞が傷ついたり、聴毛が抜け落ちたりする。有毛細胞は再生することはできないため、非可逆的な変化となる。これが騒音性難聴の原因である。ひとたび有毛細胞が変性すると、らせん神経節が数ヶ月から数年で変性していく。そして、さらに病状が進むと神経線維(hair-cell ribbon synapses)の損傷につながることがある。閉じる -
【解答例】
騒音性難聴で障害される部位は、内耳の蝸牛内の聴毛と有毛細胞である。これらは、再生することはないので非可逆的な変化となる。ひとたび有毛細胞が変性すると、らせん神経節が数ヶ月から数年で変性していくことがある。そして、さらに病状が進むと神経線維(hair-cell ribbon synapses)の損傷に進むケースもある。閉じる
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【解説】
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(6)騒音性難聴を悪化させる日常生活活動を三つ挙げよ。
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【解説】
騒音性難聴を悪化させる最大の原因は騒音である。最近は、ヘッドフォンによる難聴が大きな問題となっている。ただ、騒音性難聴を悪化させる生活習慣は、騒音のみならず、喫煙、疲労の蓄積、ストレス、偏った栄養(動脈硬化、肥満)、運動不足なども影響すると言われている。閉じる
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【解答例】
騒音性難聴を悪化させる日常生活活動としては、以下のものが挙げられる。① 大音量による音楽等の視聴やカラオケなど② 疲労の蓄積や睡眠不足③ 動脈硬化や肥満の原因となる食事や運動不足閉じる
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【解説】
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(7)騒音職場改善策を五つ挙げよ。
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【解説】
騒音対策を挙げておけばよい。対策について問われたときは、本質安全化、工学的対策、作業環境管理、作業管理(管理的対策、保護具の着用)に分けて考えると、答えが容易に見つかるかもしれない。なお、健康診断や健康教育は「騒音職場改善策」とはいえない。答えない方がよい。閉じる
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【解答例】
騒音職場改善策としては、以下のものが挙げられる。① 作業環境測定による、騒音に関する問題点の把握② 騒音を発生させる原因の除去(本質安全化)や、騒音の発生を小さくすることなど③ 騒音源の密閉化や遮蔽などによる、騒音の低下(工学的対策)④ 作業手順の作製や労働衛生教育による、騒音にばく露されない作業の推進⑤ 保護具の適切な選択、正しく確実な使用、正しい管理の推進閉じる
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【解説】
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(8)常時騒音作業に従事する労働者に対して行う「労働衛生教育」の科目を二つ挙げよ。
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【解説】
令和5年4月20日基発0420第2号「騒音障害防止のためのガイドラインの改訂について」による「騒音障害防止のためのガイドライン」(※)の「9 労働衛生教育」について解答すればよい※ なお、出題当時は「騒音障害防止のためのガイドラインの策定について」(平成4年10月1日基発第546号)(※)が有効であり、その「7 労働衛生教育」に示された科目は次のようになっていた。① 騒音の人体に及ぼす影響② 適正な作業環境の確保と維持管理③ 防音保護具の使用の方法④ 改善事例及び関係法令その後、2021年度に「騒音障害防止のためのガイドライン見直し検討会」が開催され、2022年3月22日に「騒音障害防止のためのガイドライン見直し方針」が作成されて本文の通達により改訂され、「9 労働衛生教育」の「(2)騒音作業に従事する労働者に対する労働衛生教育」に示された科目は次のように改訂されている。① 騒音の人体に及ぼす影響② 聴覚保護具の使用そのため、出題当時の問題文は「「労働衛生教育」の科目を四つ挙げよ」となっていたが、「「労働衛生教育」の科目を二つ挙げよ」と修文した。閉じる
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【解答例】
① 騒音の人体に及ぼす影響② 聴覚保護具の使用閉じる
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【解説】
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(9)騒音性難聴で「予防」が特に重要である医学的理由を簡潔に説明せよ。
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【解説】
すでに述べたことであるが、騒音性難聴は非可逆的な変化であり、現在の医学では治療が困難なのが実態である。そのことを述べればよい。閉じる
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【解答例】
騒音性難聴では、内耳の蝸牛内の聴毛と有毛細胞が損傷を受ける。これらは、再生することはないので非可逆的な変化となる。そのため、予防が何よりも重要となる。閉じる
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【解説】