このページは、2019年の労働安全衛生コンサルタント試験の「健康管理(記述式)」問題の解説と解答例を示しています。
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解説文中の法令の名称等は、適宜、略語を用いています。また、引用している法令は、読みやすくするために漢数字を算用数字に変更するなどの修正を行い、フリガナ、傍点等は削除しました。
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2019年度(令和元年度) | 問 3 | 一般的な労働衛生対策についての設問であるが、最新の行政情報についての知識も併せて問うている。 |
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屋内事務作業の衛生管理 |
問3 屋内における事務作業の労働衛生対策について助言を求められた。以下の設問に答えよ。
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(1)事務室内における二酸化炭素濃度について
① 大気中の二酸化炭素濃度はどの程度か。
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【解説】
① 大気中の二酸化炭素濃度出題意図のつかみ難い問題であるが、大気中の二酸化炭素濃度は人類の活動によって年々増加している。気象庁の測定点における二酸化炭素濃度は、2020年には413ppm程度である。しかし、労働衛生関係のテキストでは外気中の二酸化炭素濃度は300~400ppmとするものもあり、このように答えても減点はされないのではないかと思う。閉じる
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【解答例】
① 大気中の二酸化炭素濃度気象庁の調査によると、大気中の二酸化炭素濃度は年々増加しているが2020年には410ppm程度である。閉じる
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【解説】
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② 空気調和設備のある事務室内で測定したところ1600ppmであった。
a 労働衛生管理を行う上で、この測定結果は高いと考えるか又は低いと考えるか。
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【解説】
②-a 労働衛生管理を行う上で、二酸化炭素濃度1600ppmをどう評価するか。わざわざこんな問題を出題した意図を考えれば分かるが、出題者は「高いと考える」という答えを期待しているのであろう。ところが、事務所則第3条第2項では二酸化炭素濃度は5,000ppm以下とすることを求めている。これは日本産業衛生学会が二酸化炭素の許容濃度を5,000ppmとしていることによるのであろう。すなわち、1,600ppmは法令を十分に満足するのである。しかし、同規則第5条第1項第2号では、空気調和設備又は機械換気設備を設けている場合の、室に供給される空気は1,000ppm以下になるように調整しなければならないとしている。これは、室内の二酸化炭素の濃度を定めたものではないが、室内の望ましい濃度と考えることはできる。また、建築物環境衛生管理基準でも空気環境中の二酸化炭素の含有率は1,000ppm以下にするように求めている。学校環境衛生基準では1,500ppm以下にすることが望ましいとされている。ここは素直に「高い」と答えておこう。閉じる
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【解答例】
②-a 労働衛生管理を行う上で、二酸化炭素濃度1600ppmをどう評価するか。日本産業衛生学会は二酸化炭素の許容濃度を5,000ppmとしているが、建築物環境衛生管理基準では空気環境中の二酸化炭素の含有率は1,000ppm以下にするよう定めており、高いと考える。閉じる
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【解説】
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b この職場の労働者にはどのような症状が生じるか。
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【解説】
②-b 二酸化炭素濃度1600ppmで現れる健康影響これは、次の③を見れば出題者の意図が推測できるが、事務所則の基準が5,000ppmとなっており、日本産業衛生学会の許容濃度も5,000ppmとなっていることから、「ほとんどのすべての労働者に健康影響は表れない」と答えておくのが得策だろう※。なお、「ほとんど、すべての」は付けておかなければならない。※ ただし、(財)ビル管理教育センター「ビルの環境衛生管理. 厚生大臣指定建築物環境衛生管理技術者講習会・テキスト」(1971)には、
「二酸化炭素自体は、少量であれば人体に有害ではないが、1000ppmを超えると倦怠感、頭痛、耳鳴り、息苦しさ等の症状を訴えるものが多くなり、フリッカー値(フリッカー値が小さいほど疲労度が高い)の低下も著しいこと」
とある。また、海外の調査だが、1,000ppmの二酸化炭素の吸入実験で、呼吸、循環器系、大脳の電気活動に変化がみられたとの報告(Eliseeva 1964)もある。どう解答するべきかは、迷うところではあるが、労働衛生コンサルタントの試験であることから、解答例のようにしておいた。閉じる -
【解答例】
②-b 二酸化炭素濃度1600ppmで現れる健康影響事務所則の基準が5,000ppmとなっており、日本産業衛生学会の許容濃度も5,000ppmとなっていることから、ほとんどのすべての労働者に健康影響は表れないと考える。閉じる
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【解説】
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③ 一般に、二酸化炭素濃度が高くなると作業者にはどのような症状が生じるか。
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【解説】
③ 二酸化炭素で現れる症状これは文献によって多少の違いがあるが、高橋正好「二酸化炭素と人体」(安全工学Vol.37 No.5(1998年))には、次のように記されている。
空気中のCO2濃度[%] 症状 1.0 呼吸数と1回換気量の増加 2.5 数時間の吸入で症状に変化なし 3.0 危険な影響はない。呼吸の深さが増す 4.0 粘膜に刺激、頭部圧迫感、血圧上昇、耳鳴り 6.0 呼吸数が著明に増加、皮膚血管の拡張・悪心 8.0 精神活動の乱れ、呼吸困難が著明 10.0 意識喪失、呼吸困難 20.0 中枢の麻痺,死亡 -
【解答例】
③ 二酸化炭素で現れる症状二酸化炭素の濃度が高くなると、呼吸数と1回換気量の増加、呼吸の深さが増すといった症状が現れ、さらに濃度が高くなると粘膜に刺激、頭部圧迫感、血圧上昇、耳鳴りが現れる。6%程度になると、呼吸数が著明に増加、皮膚血管の拡張・悪心が起こり、さらに8%程度では精神活動の乱れ、呼吸困難が著明となる。10%では、意識喪失、呼吸困難となり、20%まで上昇すると中枢が麻痺し、死亡することもある。閉じる
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【解説】
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④ 事務室内で二酸化炭素濃度を上昇させる原因としてどのようなものを推測するか。
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【解説】
④ 事務所で二酸化炭素濃度を上昇させる要因都市部の近代的なビルの事務所では、事務所内の要員の増加、空調機のメンテ不足や誤った調整による外気取り入れ量の減少などが大きな原因である。プレハブの建築事務所などでは、ガスファンヒータ、湯沸かし器の設置等によるケースも見られる。また、特殊な例として換気の外気取り入れ口が地下駐車場に設置されていたため二酸化炭素濃度の高い外気を取り入れるようなケースも見られる。閉じる
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【解答例】
④ 事務所で二酸化炭素濃度を上昇させる要因都市部の近代的なビルの事務所では、事務所内の要員の増加、空調機のメンテ不足や誤った調整による外気取り入れ量の減少などが大きな原因である。プレハブの建築事務所などでは、ガスファンヒータ、湯沸かし器の設置等によるケースも見られる。また、特殊な例として換気の外気取り入れ口が地下駐車場に設置されていたため二酸化炭素濃度の高い外気を取り入れるようなケースも見られる。閉じる
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【解説】
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⑤ 二酸化炭素濃度を正常範囲内にするにはどのような対策が必要か、三つ挙げよ。
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【解説】
⑤ 二酸化炭素濃度を適正にするための方法ちょっと考えると、換気以外にいったい何があるんだという気がするかもしれない。ただ、本問では「対策」と言っているので、測定も入るのだろう。あと一つは何か?燃焼器具がある場合に「排気筒、換気扇、その他の換気設備を設けること」(事務所則第6条第1項)を挙げるか、室内の人数を適正な数とすることを挙げるか。まず、換気量を1人当たり30m3/h以上となるようにする※。次に気中濃度の測定を行い、二酸化炭素の濃度を評価する。さらに燃焼器具がある場合に「排気筒、換気扇、その他の換気設備を設けるといったところだろうか。※ 東京都は、25m3/h以上と指導している。閉じる
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【解答例】
⑤ 二酸化炭素濃度を適正にするための方法気中濃度の測定換気量の適正化(1人当たり30m3/h以上)燃焼器具がある場合は、排気筒、換気扇、その他の換気設備を設ける。閉じる
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【解説】
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(2)空気調和設備が設置された事務室内の温熱環境について
① 適切な温度域とそのための対策について説明せよ。
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【解説】
① 適切な温度域とそのための対策事務所則第5条第3項では、空気調和設備を設けている場合は、室の気温を18度(※)以上28度以下になるように努めなければならないとされている。ただし、同規則第4条で、原則として「室を冷房する場合は、当該室の気温を外気温より著しく低くしてはならない」とされていることにも触れておいた方がよい。※ 本問出題時には17度となっていたが、事務所則の改正により2022年4月1日以降は18度である。そのための対策であるが、都市部の快適なビルを前提に考えていてはいけない。世の中には建設現場のプレハブのような事務所も多いということを前提に答えよう。その方法としては、①空調機の設置、②サーキュレータによる室内気流の循環、③壁、天井、床、窓等の断熱効果の強化、④二重窓の採用、窓ガラスへの遮熱シートの設置、ブラインドやカーテンの設置、⑤部屋の気密性の向上などが挙げられる。閉じる
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【解答例】
① 適切な温度域とそのための対策事務所の気温は18度以上28度以下が適切である。ただし、夏場の冷房は、外気温より著しく低くしないこと。そのための対策としては、①空調機による改善(設定温度と室内温度の違いに留意する必要がある)、②サーキュレータによる室内気流の循環、③壁、天井、床、窓等の断熱効果の強化、④二重窓の採用、窓ガラスへの遮熱シートの設置、ブラインドやカーテンの設置、⑤部屋の気密性の向上などが挙げられる。閉じる
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【解説】
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② 室内の気流についてどのようにすべきか説明せよ。
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【解説】
② 室内の気流について事務所則第5条第2項では、空気調和設備等により室に流入する空気が、特定の労働者に直接、継続して及ばないようにし、かつ、室の気流を0.5m/s以下としなければならないとされている。閉じる
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【解答例】
② 室内の気流について空気調和設備等により室に流入する空気が、特定の労働者に直接、継続して及ばないようにし、かつ、室の気流を0.5m/s以下としなければならない。閉じる
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【解説】
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③ 冬期に湿度が低くなると作業者にはどのような症状や疾病が生じやすくなるか、三つ挙げよ。
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【解説】
③ 冬期に湿度が低くなったときの症状や疾病風邪やインフルエンザの原因となるウイルスは、乾燥していると増殖しやすい。従って、風邪やインフルエンザに罹患しやすくなる。また、皮膚が乾燥して肌が荒れるというのはよく言われることである。その他、アレルギ症状は20~30%から30~40%への加湿で改善するという研究(Reinikainen et al 1992)や、相対湿度が低いと目の刺激症状や角膜前涙液層の変質が増加するとの研究がある(Wolkoff et al 2007)。眼への影響は、VDT作業で増悪する可能性がある。さらに、安衛研の行った「冬季オフィス環境における温湿度の実態と健康影響」※によると、「皮膚の乾燥・かゆみ」,「のどの痛み・乾燥」,「くしゃみ」,「せき」,「鼻水,鼻づまり」などが、乾燥が一因となっているものと考えられるとされている。※ これについては「冬季のオフィス環境における低湿度の実態と対策について」の“3.低湿度による健康影響”が分かりやすい。閉じる
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【解答例】
③ 冬期に湿度が低くなったときの症状や疾病湿度が低いとウイルスが増殖しやすいので、風邪やインフルエンザに罹患しやすくなる。また、皮膚が乾燥して肌が荒れる、アレルギ症状が悪化する、目の刺激症状や角膜前涙液層の変質が増加するなどの症状が出る。この他、アンケート調査によると「皮膚の乾燥・かゆみ」、「のどの痛み・乾燥」、「くしゃみ」、「せき」、「鼻水,鼻づまり」なども、乾燥が一因となっているものと考えられる。閉じる
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【解説】
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④ 上記③の疾病や症状を予防するためにどのような対策が必要か、説明せよ。
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【解説】
④ ③の対策湿度が低くなることの対策なら、湿度を挙げればよいだけのはずである。感染症対策としては湿度を50~60%程度にすればよい。しかし、これでは当たり前すぎるので、質問の意図はそのようなことではないのだろう。安衛研の資料によると、調湿機能付きの空調システムを活用することが対策として挙げられている。また、マスクをするのもひとつの対策となる。閉じる
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【解答例】
④ ③の対策冬季の湿度は50~60%程度にすることが望ましい。そのためには、調湿機能付きの空調システムを活用することが考えられる。また、マスクをするのもひとつの対策となる。閉じる
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【解説】
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(3)パソコンを使用する作業について
① パソコン作業を長時間行うと作業者の眼、上肢、脊椎に、それぞれどのような症状や疾病が生じやすくなるか。
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【解説】
① パソコンによる症状と疾病いわゆる職業病リストと呼ばれる労基則別表第1の2には「電子計算機への入力を反復して行う業務その他上肢に過度の負担のかかる業務による後頭部、頸部、肩甲帯、上腕、前腕又は手指の運動器障害」が挙げられている。眼と脊椎は挙げられていないのがやや気になるが、常識的な解答をしておけばよいだろう。まず、眼については眼精疲労、視力(5m視力、近見視力)の低下が挙げられる。研究によっては乱視、結膜炎、麦粒腫をあげるものもあるが、確実な証拠はないので書かない方が無難である。上肢については運動機能低下を挙げればよい。問題は脊椎だが、座位作業一般にいえることではあるが、脊椎後方の結合組織への負荷量が高くなることから腰痛の原因とはなると言えるだろう。閉じる
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【解答例】
① パソコンによる症状と疾病眼については眼精疲労、視力(5m視力、近見視力)の低下が挙げられる。上肢については運動機能低下がある。脊椎は、脊椎後方の結合組織への負荷量が高くなることから腰痛が発症しやすくなる。閉じる
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【解説】
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② 上記①の症状を予防するために、作業環境管理や作業管理に関してどのような対策が必要か説明せよ。
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【解説】
② 上記の対策本問は、令和元年7月12日基発0712第3号「情報機器作業における労働衛生管理のためのガイドラインについて」を参考に解答すればよいものと思われるが、このガイドラインは詳細なものなので、どのように解答するかは考えどころだろう。閉じる
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【解答例】
② 上記の対策作業環境管理に関しては、室内の照明について明暗の対照が著しくなく、グレアを生じさせないようにすること、ディスプレイの照度を作業しやすいものとすることが挙げられる。また、情報機器等についても、作業者が行う作業に最も適した機器を選択し導入することが重要となる。椅子については、安定しており容易に移動できること、床からの座面の高さが適切な状態に調整できること、また、机等については一定の広さが確保できるものなど、適切なものを選ぶ必要がある。ソフトウエアも、目的とする情報機器作業の内容、作業者の技能、能力等に適合したも のであること等が望ましい。作業管理に関しては、作業時間について、一日の作業時間、一連続作業時間及び作業休止時間を適切なものとし、業務量へも配慮することが重要である。また、作業者に自然で無理のない姿勢で情報機器作業を行わせるため、作業姿勢、ディスプレイ、入力機器、ソフトウエアについて作業者に留意させ、椅子の座面の高さ、机又は作業台の作業面の高さ、キ ーボード、マウス、ディスプレイの位置等を総合的に調整させることが重要である。閉じる
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【解説】