労働衛生コンサルタント試験 健康管理 2017年 問1

化学物質の有害性リスクアセスメント等




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 このページは、2017年の労働安全衛生コンサルタント試験の「健康管理(記述式)」問題の解説と解答例を示しています。

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 解説文中の法令の名称等は、適宜、略語を用いています。また、引用している法令は、読みやすくするために漢数字を算用数字に変更するなどの修正を行い、フリガナ、傍点等は削除しました。

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2017年度(平成29年度) 問 1 化学物質の有害性のリスクアセスメント及びリスク低減措置に関する基本的な知識を問う問題である。
有害性リスクアセスメント
2018年10月21日執筆 2020年03月22日修正

問1 化学物質の有害性のリスクアセスメント及びその結果に基づくリスク低減措置は、次の流れで実施するものとされている。

     [ステップ1]化学物質による有害性の特定
              下向き矢
     [ステップ2]リスクの見積り
              下向き矢
     [ステップ3]リスク低減措置の検討
              下向き矢
     [ステップ4]リスク低減措置の実施
              下向き矢
     [ステップ5]リスクアセスメントの結果の労働者への周知

 これに関して以下の設問に答えよ。

  • (1)リスクアセスメントを実施すべき時期及び実施するよう努めるべき時期はどのような場合か、四つ挙げよ。

    • 【解説】
      設問に「実施すべき時期及び実施するよう努めるべき時期」とあるので、どうやら法令の条文を覚えているかどうかを試す問題らしい。条文及び指針に記されていることを(覚えている範囲で)答えるしかないだろう。
      実施すべき時期は安衛則第34条の2の7に規定されており、実施するよう努めるべき時期は「化学物質等による危険性又は有害性等の調査等に関する指針」に記されている。
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    • 【解答例】
      1 実施すべき時期
      ア 化学物質等を原材料等として新規に採用し、又は変更するとき。
      イ 化学物質等を製造し、又は取り扱う業務に係る作業の方法又は手順を新規に採用し、又は変更するとき。
      ウ 化学物質等による危険性又は有害性等について変化が生じ、又は生ずるおそれがあるとき。具体的には、化学物質等の譲渡又は提供を受けた後に、当該化学物質等を譲渡し、又は提供した者が当該化学物質等に係るSDSの危険性又は有害性に係る情報を変更し、その内容が事業者に提供された場合等が含まれる。
      2 実施するよう努めるべき時期
      ア 化学物質等に係る労働災害が発生した場合であって、過去のリスクアセスメント等の内容に問題がある場合
      イ 前回のリスクアセスメント等から一定の期間が経過し、化学物質等に係る機械設備等の経年による劣化、労働者の入れ替わり等に伴う労働者の安全衛生に係る知識経験の変化、新たな安全衛生に係る知見の集積等があった場合
      ウ 既に製造し、又は取り扱っていた物質がリスクアセスメントの対象物質として新たに追加された場合など、当該化学物質等を製造し、又は取り扱う業務について過去にリスクアセスメント等を実施したことがない場合
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  • (2)シンナーはさまざまな塗装に使われる混合化学物質であるが、乾燥性が高いシンナーに主成分として含まれる有機溶剤を四つ挙げよ。

    • 【解説】
      シンナーには、塗料用シンナー、ラッカーシンナーなどがあるが、「乾燥性が高いシンナー」というのはラッカーシンナーのことであろう。ラッカーシンナーの成文は、製品によっては公表されていないものもあるが、トルエン、酢酸メチル、メタノール、イソブタノールなどが主成分で、その他には酢酸イソブチル、酢酸ブチル、キシレン、ブチルアルコール、アセトン、メチルエチルケトン、エチレングリコールモノエチルエーテルなどが含まれるものもある。
      なお、本問の「有機溶剤」が有機則の有機溶剤を指すのか、一般的な意味の有機溶剤を指すのかは、必ずしも明らかではないが、出題者が有機則の有機溶剤のことだと考えている場合に備えて、有機則の有機溶剤を答えておいた方が無難である。
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    • 【解答例】(※ 以下のうち4つを挙げておけばよい)
      1 トルエン
      2 酢酸メチル
      3 メタノール
      4 キシレン
      5 酢酸イソブチル
      6 アセトン
      7 メチルエチルケトン
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  • (3)有害性の特定に関して、設問(2)で挙げた有機溶剤の有害性及びそれらによる健康影響を調べるときの情報源を四つ挙げよ(個別の資料の名称などは不要)。

    • 【解説】
      “個別の資料の名称などは不要”の意味がはっきりしない。「個別の論文の題名を挙げる必要がない」ことは間違いないだろうが、「職場の安全サイト」、「NITE-CHIRP」などの名称を挙げるかどうかは迷うところである。“個別の資料の名称”をどう理解するかで正答は異なってくるだろう。
      設問の趣旨を取り違えるリスクを避けつつ、無難に解答するとすれば次のようになるだろうか。おそらく、このように解答しておけば減点されることはないと思う。
    • 【解答例】
      1 SDS(安全データシート)
      2 WEB上の化学物質情報サイト(「職場の安全サイト」、「NITE-CHIRP」、「OECD QSAR Toolbox」など)
      3 公的な機関が公表している情報(日本産業衛生学会の許容濃度、ACGIHのTLV、IARCの発がん性分類など)
      4 国内外の主要な学術誌に掲載された論文
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  • (4)リスクの見積りに関して、コントロール・バンディングとはどのようなものか、その概要と特徴を述べよ。

    • 【解説】
      これは、やや意地の悪い質問といえる。というのは、リスクの見積りに関して、コントロール・バンディングとは、本来はリスクを見積もるにあたって具体的な数値を問題にするのではなく、ある程度の幅(バンド)で判断しようという考え方なのだが、厚労省はこの言葉を英国の安全衛生庁(HSE)が作成した、HSE COSHH essentialsに基づく方式の意味で用いているからである。
      ただ、採点するのは役人ではなく専門家だろうから、本来の意味で回答する方がよいと思う。その上で、誤答とされることを避けるために、厚生労働省版コントロール・バンディングについて言及しておくのが無難な解答であろう。
    • 【解答例】
      コントロール・バンディングとは、化学物質のリスクを判定するに当たって、有害性の程度やばく露量を具体的な数値によってではなく、ある程度の幅(バンド)で判断しようというものである。いわゆるマトリクス法がその最も単純化されたものである。
      英国HSEのCOSHH essentialsやドイツのBAuAが開発したEMKG Expo Toolがよく知られている。我が国ではCOSHH essentialsに基づいて開発された「厚生労働省方式コントロール・バンディング」がよく用いられる。
      これらは、とくに化学物質の有害性についての専門的な知識がなくても使用することが可能で、コンピュータを使用して入力するシステムも開発されている。このシステムの利点として、①コストが低く、②容易に実施でき、③実際に作業を開始する前でもリスクを判定できるなどの利点もあるが、反面、簡易なシステムであるため、必ずしも正確なリスクが判定できるわけではないということを認識しておく必要がある。
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  • (5)リスク低減措置を四つに大別し、それら四つを優先順位の高い方から①、②、③、④として、それぞれの内容を述べよ。

    • 【解説】
      これは、かなりオーソドックスな設問である。リスクアセスメントのどのような参考書にも記されていることである。
    • 【解答例】
      ① 本質安全化
      これは危険性又は有害性そのものをなくしたり、減少させたりすることである。具体的には、有害性のある化学物質を、有害性の低いことが明確な化学物質に変更したり、沸点の低い化学物質を沸点の高い化学物質に変更したりする。また、遠隔操作により危険性又は有害性と作業者との接触する機会をなくすことも本質安全化である。
      ② 工学的対策
      化学物質の危険性又は有害性はそのままで、工学的な対策によりそれが作業者に危害を与えないようにすることである。密閉化装置により化学物質を封じ込めたり、局所排気装置又はプッシュプル型換気装置を用いたりして、有害な化学物質が作業者に触れないようにすることである。また、全体換気装置によって、化学物質の濃度を下げることも工学的対策に位置付けられる。
      ③ 管理的対策
      作業手順書やマニュアルを作成してそれによる作業の実施、関係者以外の者の危険有害な場所への立入禁止、教育訓練の実施などによる危険性の低減などである。優先順位は3位に位置付けられるが、本来は他の対策と並列的に行われるべきものである。
      ④ 個人用保護具の使用
      呼吸用保護具、化学防護手袋、化学防護服、化学防護長靴、保護眼鏡などにより、作業者が有害な化学物質による影響を受けることを防止しようとするものである。
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  • (6)リスクアセスメントの結果を労働者に周知する方法を二つ挙げよ。

    • 【解説】
      (2) (1)の周知は、次に掲げるいずれかの方法によること。
      ア 各作業場の見やすい場所に常時掲示し、又は備え付けること
      イ 書面を労働者に交付すること
      ウ 磁気テープ、磁気ディスクその他これらに準ずる物に記録し、かつ、各作業場に労働者が当該記録の内容を常時確認できる機器を設置すること
      しかし、ミーティングによる周知、集合教育での周知などを挙げても、たぶん減点はされないのではないかと思う。常識で回答すればよい。
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    • 【解答例】
      ① 各作業場の見やすい場所に常時掲示し、又は備え付ける方法
      ② 書面を労働者に交付する方法
      ③ 磁気テープ、磁気ディスクその他これらに準ずる物に記録し、かつ、各作業場に労働者が当該記録の内容を常時確認できる機器を設置する方法
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  • (7)法に基づいたリスクアセスメントの義務が無い化学物質についてはどのように考えるべきか述べよ。

    • 【解説】
      これも、かなりオーソドックスな設問である。ただ、法令上の義務がない物質には、有害性の判明していないものがあるという観点を忘れないこと。「法に基づいたリスクアセスメントの義務が無い化学物質についてもリスクアセスメントを行うことが望ましい」と書くだけだと、間違いなく減点の対象となると思った方が良い。
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    • 【解答例】
      法に基づいたリスクアセスメントの義務が無い化学物質であっても、有害性が判明しているものは、その判明した有害性に基づいてリスクアセスメントを行う必要がある。
      しかしながら、法に基づいたリスクアセスメントの義務が無い化学物質には、有害性の判明していないものや、一部しか判明していないものがある。このような物質について、形式的・機械的にリスクアセスメントを行うと、実際よりもリスクが低いという結果が出る。
      そのため、法に基づいたリスクアセスメントの義務が無い化学物質については、使用を避けるか、有害性があるものとして扱うことが望ましいものと考える。
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