労働衛生コンサルタント試験 健康管理 2016年 問2

酸素欠乏及び硫化水素による健康影響




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 このページは、2016年の労働安全衛生コンサルタント試験の「健康管理(記述式)」問題の解説と解答例を示しています。

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 解説文中の法令の名称等は、適宜、略語を用いています。また、引用している法令は、読みやすくするために漢数字を算用数字に変更するなどの修正を行い、フリガナ、傍点等は削除しました。

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2016年度(平成28年度) 問 2 酸素欠乏及び硫化水素による健康影響及びその防止措置に関する基本的な知識を問う問題である。
酸素欠乏及び硫化水素
2018年10月21日執筆 2020年04月21日修正

問2 酸素欠乏危険場所における酸素欠乏及び硫化水素による健康影響とその予防に関し、以下の設問に答えよ。

  • (1)酸素欠乏が生じる具体的な原因を五つ挙げよ。

    • 【解説】
      要は、実務において酸素欠乏症が発生する原因を5つ挙げればよい。安衛令別表第6が参考になる。
      なお、頭の中で分かっていても、初学者は一酸化炭素中毒の発生原因と混乱することがあるので注意すること。「換気の悪い場所における内燃機関の使用」は一酸化炭素中毒の原因であって、酸素欠乏の原因とはなりにくい。
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    • 【解答例】(以下のうち5件を挙げればよい)
      ① 相当期間密閉されていた鋼製のボイラー、タンク、反応塔、船倉などにおいて、内壁が酸化されることによって起きる。
      ② 青果、穀物、木材類等を保存している密閉された倉庫、船倉の内部において穀物等の呼吸によって起きる。
      ③ し尿・汚水等のタンク、マンホールにおける細菌類の酸素消費や炭酸ガス発生により起きる。
      ④ 醤油や 酒類のタンクにおける酵母等の微生物の発酵に伴って起きる。
      ⑤ 密閉された場所において、不活性ガスを用いる溶接によって、不活性ガスによって起きる。
      ⑥ 土木作業、建設作業において土中で酸素が消費され酸素欠乏気体が噴出・流入することによって起きる。
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  • (2)空気中の酸素濃度と健康状態との関連について述べよ。

    • 【解説】
      酸素濃度と現れる症状については、テキストによっても異なるが、厚労省のパンフレットが参考になる。
      解答例には厚生労働省のパンフレットに従って記しておいた。
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    • 【解答例】
      酸素は、通常では空気中に約20%程度含まれている。人間の生存には酸素が不可欠であり、その濃度が低下すると、下記に示すような症状が現れる。ただし、現実の症状には個人差がある。
      21% 通常の空気の状態である。健康障害は現れない。
      18% 安全限界である。連続換気が必要。
      16% 頭痛や吐き気が現れる。
      12% めまい、筋力低下が現れる。このため、本人が酸欠状態に対応することが困難となる。
      8% 失神昏倒する。7~8 分以内に死亡のおそれがある。
      6% 瞬時に昏倒する。呼吸が停止し、死亡に至る。
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  • (3)硫化水素の発生機序とその性状(特性)を述べよ。

    • 【解説】
      要は、実務において硫化水素が発生する原因を挙げればよい。安衛令別表第6第三号の三、第九号又は第十二号が参考になる。性状について解答例では具体的な数を記したが、これは書かなくても合格点にはなるのではないかと思う。
      なお、本問は硫化水素の発生機序であり、硫化水素中毒の発生機序ではないので、問題文の誤読によるミスをしないように注意すること。
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    • 【解答例】
       (1)発生機序
      硫酸イオン(SO42-)及び有機酸(乳酸・プロピオン酸・酢酸等=硫酸塩還元菌の炭素源)が存在し、嫌気性(酸素が存在しない)の環境になり、硫酸塩還元菌が存在していると、硫酸塩還元菌により硫化水素が発生する。水のたまる場所があると、嫌気性環境が一層促進される。
      その発生機序は、嫌気性菌である硫酸塩還元菌が、酸素の存在しない条件下で有機 物の分解産物である有機酸を栄養源とし、硫酸イオン中の酸素を呼吸源として増殖する。その過程で、硫酸イオンが還元されて、硫化水素が生成する。
      具体的な例としては、温泉などの硫黄等を含有する地層や炭酸水を湧出又は湧出するおそれのある地層の内部、腐敗した魚貝類や海水が滞留しているピット・マンホ―ル等の内部、し尿、汚水等を入れてあり又は入れたことがあるピット・マンホール等の内部等などで、硫黄が嫌気性細菌によって還元されて硫化水素が発生するケースがある。
       (2)性状
      無色の可燃性ガスで、独特の臭気(孵卵臭)があるが、高濃度(50~150ppm以上)になると臭気を感じなくなるので注意が必要である。
      融点は-85℃、沸点は-60℃で、通常はガス状である。蒸気圧は18.75×105と高い。蒸気密度(空気 = 1)は1.19で空気よりやや重く、ピットなどに滞留しやすい。水への溶解度は5g/Lとよく溶け、脂溶性が高いため、生体膜を容易に通過する。
      加熱すると、激しく燃焼又は爆発し、有毒なガスを生じる。
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  • (4)空気中の硫化水素濃度と健康影響との関連について述べよ。

    • 【解説】
      解答例の通り。
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    • 【解答例】
      硫化水素ガスは、嗅覚の麻痺や眼の損傷、呼吸障害、肺水腫を引き起こし死亡に至る例もある。高濃度ばく露では、knockdown現象により、急激に呼吸抑制、頻脈、振戦、痙攣などを伴って、死亡することがある。
      濃度により、下記に示すような症状が現れる。ただし、現実の症状には個人差がある。
      5ppm 不快臭
      10ppm 許容濃度(眼の粘膜の刺激下限値)
      20ppm 気管支炎、肺炎、肺水腫
      350ppm 生命の危険
      700ppm 呼吸麻痺、昏倒、呼吸停止、死亡
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  • (5)酸素欠乏症及び硫化水素中毒を防止するために必要な対策を五つ挙げ、各々について簡潔に説明せよ。

    • 【解説】
      原則として酸欠則第2章の「一般防止措置」のうち酸素欠乏症の防止の条文に従って書けばよいだろう。
      5つと言われれば、作業環境管理としての①作業環境測定と②換気の実施、作業管理としての①保護具の着用、②安全衛生教育の実施など、③立ち入り禁止などだろうか。
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    • 【解答例】A
      1 酸素濃度等の測定
        酸素欠乏が予測される場所で作業を行う場合は、その都度、事前に酸素濃度及び硫化水素濃度を測定し、酸素濃度が 18%以上であること及び硫化水素濃度が10ppm 未満であることを確認する。
      2 換気等の実施
        酸素欠乏の危険が予測される場所等で作業を行う場合は、まず酸素欠乏危険場所の外側から、送風機等で外気を酸素欠乏危険場所の内部に吹き込み、酸素濃度等の測定をして、充分な酸素濃度があることを確認したうえで、内部に立ち入る。
        作業が終了するまで送気を継続する。
      3 保護具の使用等
        酸素欠乏の状態等であるにもかかわらず、換気等を行うことが困難な場合は、呼吸用保護具(空気呼吸器、送気マスク等)を使用する。硫化水素等の有害物が発生しており、又は発生するおそれがある場合は、呼吸用保護具に加えて保護眼鏡等を使用する。
      4 適切な作業の実施
      (1)作業主任者の選任
         作業主任者を選任して、①作業の方法の決定及び労働者の指揮、②作業を開始する前及び作業終了後の作業場所の酸素の濃度の測定、③測定器具、換気装置、空気呼吸器等の機器又は設備の点検、④空気呼吸器等の使用状況について監視等を行わせる。
      (2)特別教育の実施
         酸素欠乏危険作業に従事する労働者に対して、特別教育を行った 後に業務に就かせる。
      (3)監視人等の配置等
         万一の事態に備え、酸素欠乏等危険場 所以外の外側に監視人等を配置し、①作業の進行状況や換気の状況、保護具の使用状況、作業員の異常等の監視、②作業員に異常を認めたときの、作業の中止と退避の指示・命令、③作業員が意識を失い倒れる等の場合における緊急要請、送風機等による外気の吹き込みなどの対処を行わせる。
      5 立入禁止等
        酸素欠濃度が 18%に満たない場所又は硫化水素濃度が10ppmを超える場所について は、関係者以外の者が立ち入ることを禁止し、かつ、その旨を見やすい箇所に表示する。
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