労働衛生コンサルタント試験 健康管理 2015年 問1

有害物質の吸入による健康障害の防止




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 このページは、2015年の労働安全衛生コンサルタント試験の「健康管理(記述式)」問題の解説と解答例を示しています。

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 解説文中の法令の名称等は、適宜、略語を用いています。また、引用している法令は、読みやすくするために漢数字を算用数字に変更するなどの修正を行い、フリガナ、傍点等は削除しました。

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2015年度(平成27年度) 問 1 職場の有害物質の吸入に起因する健康障害の防止に関する基本的な知識を問う問題である。
化学物質の吸入ばく露
2018年10月21日執筆 2020年05月06日修正

問1 職場の有害物質の吸入に起因する健康障害の防止に関し、以下の設問に答えよ。

  • (1)代表的な有害因子として、トルエン、粉じん、一酸化炭素がある。①トルエンによる健康障害、②石綿を含まない鉱物性粉じんによる肺障害、③一酸化炭素による健康障害について、それぞれ100字程度で述べよ。

    • 【解説】
      本問は「代表的な有害因子」としていることから、出題委の意図は、受検者が中枢神経毒性や生殖毒性のあるトルエン、じん肺の原因となる鉱物性粉じん、心臓、血液に影響を与える一酸化炭素の違いを理解しているかを判断したいということだろうか?
      記述式の問題では、出題意図を正確に把握してその意図に沿った形で回答することが高得点に繋がる。出題意図を把握するためには、結局は学習することが重要であり、また問題をこなすことも効果的だろう。
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    • 【解答例】
      1 トルエン
      高濃度の蒸気を吸入すると、気道を刺激し咳、咽頭痛を引き起こす。また、中枢神経系に影響を与え、めまい、嗜眠、頭痛、吐き気、意識喪失を生じることがある。皮膚に付着すると脱脂を起こし、眼に入ると刺激がある。
      長期ばく露により、中枢神経系に影響を与える。また、動物試験の結果では、ヒトに生殖・発生毒性を引き起こす可能性が示されている。
      2 石綿を含まない鉱物性粉じんによる肺障害
      粉じんが肺に吸いこまれて沈着すると線維組織が増加し、肺胞、細気管支、血管などが破壊され、空気をはき出すのが難しくなる気道系の障害が現れる。
      さらに線維性組織が増えると、肺そのものが硬くなったり、細気管支、肺胞などの境の壁が破壊され空気の出入りする量が減少したりする。さらに肺胞と毛細血管との間で酸素と二酸化炭素の交換も進まなくなり、合併症を発症することもある。
      3 一酸化炭素
      吸入すると、血液中にカルボキシヘモグロビンが増加し、神経系、循環器系に影響し、知力、運動能力、聴力などが低下する。症状は吸入した量によって悪化する。
      長期暴露については、動物の反復吸入実験で、心臓、血液系に影響が認められる。
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  • (2)化学物質を譲渡・提供する際に文書等で交付すべきものとして化学物質のSDS(安全データシート)があるが、SDSの記載事項を列挙せよ。

    • 【解説】
      法令の条文に従って書いてもよいし、実際のSDSの項目を書いてもよいだろう。下記解答例は、Aは法令の条文によっており、Bは実際のSDSの項目を書いている。
      なお、本小問は2016年度にも出題されているが、「5項目記せ」となっている。この年でも5つも書ければ合格点だったのではないだろうか。
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    • 【解答例】A(※ 以下のうち思い出せる範囲で書く。)
      ① 名称
      ② 成分及びその含有量
      ③ 物理的及び化学的性質
      ④ 人体に及ぼす作用
      ⑤ 貯蔵又は取扱い上の注意
      ⑥ 流出その他の事故が発生した場合において講ずべき応急の措置
      ⑦ 化学物質を譲渡又は提供する者の氏名(法人にあつては、その名称)、住所及び電話番号
      ⑧ 危険性又は有害性の要約
      ⑨ 安定性及び反応性
      ⑩ 適用される法令
      【解答例】B(※ 以下のうち思い出せる範囲で書く。)
      ① 化学物質等及び会社情報
      ② 危険有害性の要約
      ③ 組成及び成分情報
      ④ 応急措置
      ⑤ 火災時の措置
      ⑥ 漏出時の措置
      ⑦ 取扱い及び保管上の注意
      ⑧ ばく露防止及び保護措置
      ⑨ 物理的及び化学的性質
      ⑩ 安定性及び反応性
      ⑪ 有害性情報
      ⑫ 環境影響情報
      ⑬ 廃棄上の注意
      ⑭ 輸送上の注意
      ⑮ 適用法令
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  • (3)化学物質の作用に関して、「量-反応関係」及び「量-影響関係」とは何か、その例を含めて述べよ。

    • 【解説】
      毒性学の基本が理解できているかどうかを判別するための良い問題である。ただ、一般の受験生にはやや難しかったかもしれない。
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    • 【解答例】
      1 量-反応関係(Dose-Response Relationship)
      ある集団に対してある有害物質をばく露させると、曝露量が多くなるにつれて、様ざまな標的臓器について毒性が発現する固体の数が増加する。この標的臓器ごとにばく露量と毒性が発現する固体の数の関係を量-反応関係という。関係性はいわゆるS字曲線を描く。
      2 量-影響関係(Dose-Effect Relationship)
      ある固体に対してある有害物質をばく露させると、閾値のある物質では、無毒性量以下の曝露では毒性は発現せず、この量を超えると曝露量が多くなるにつれて、毒性の発現の程度も強くなる。個体に対する影響(毒性の発現)の関係を表したものを量-影響関係という。
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  • (4)「許容濃度」及び「管理濃度」について述べよ。

    • 【解説】
      これは答えられなければならない。「誰が」「どのような目的で使用するために」定めているのかは必ず記すこと。
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    • 【解答例】
      1 許容濃度
      通常の勤務状態(1日8時間、1週40時間)で働き続けても、ほとんど全ての労働者に著しい健康障害を起こさないと考えられる「ばく露量」として、日本産業衛生学会によって設定されているばく露限界値である。安全と危険の明らかな境界を示したものではない。また、人の有害物質等への感受性は個人毎に異なるので、許容濃度等以下のばく露であっても、不快、既存の健康異常の悪化、あるいは職業病の発生を防止できない場合がありうる。
      2 管理濃度
      作業環境管理を進めため、有害物質に関する作業環境の状態を評価するための指標である。作業環境測定基準に従って実施した作業環境測定の結果から作業環境管理の良否を判断する際の管理区分を決定するために用いる。学術団体が示すばく露限界及び各国のばく露規制のための基準等の動向を参考に、作業環境管理技術の実用可能性を考慮して国が設定し、作業環境評価基準の別表に定められている。
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  • (5)化学物質の健康リスクを見積もり、講ずべき措置の必要性を検討していく上で、一般的に、①個別の物質による健康障害に関する知識、②SDSの内容、③「量-反応関係」及び「量-影響関係」、④「許容濃度」及び「管理濃度」がどのように活用されるべきものであるかについて述べよ。

    • 【解説】
      いかにも当たり前のことを問われているように思える。当たり前のことを当たり前に答えればよいのだとは思うが、やや出題意図がつかみにくい問題である。何か気付いていないウラがあるのだろうか。
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    • 【解答例】
      化学物資による健康リスクの大きさを見積もるには、それによって発症する疾病の重大性(重篤度)と、それが発症する可能性の大きさを見積もる必要がある。そして、長期ばく露によるものについては、発症の可能性は、職業ばく露限界とばく露量の比較によって見積もることが可能である。
      このことを前提に、下記の知識(情報)は、それぞれ以下のように活用されるべきである。
      ① 個別の物質による健康障害に関する知識
      対象となる物質によって発症するおそれのある健康障害が分かっていれば、その健康障害の重大性によってリスクを判断する資料とすることが可能である。
      ② SDSの内容
      SDSには、その化学物質によって発生するおそれのある健康障害の内容が記載されており、健康影響の重大性の参考とすることが可能である。
      また、職業ばく露限界が記載されていれば、リスク評価の対象となる作業場の気中の濃度と比較することにより、健康障害の発生の可能性が分かる。
      「危険有害性の要約」によって、皮膚・眼への影響や、「有害性情報」によって経皮ばく露の恐れが判明すれば、健康障害を防止する方法の検討に活用できる。
      さらに、「取扱い及び保管上の注意」によって、化学物質のばく露防止対策の参考とすることが可能である。
      蒸気圧、沸点等を参考にして、作業場における発散の恐れを検討することが可能である。
      ③ 「量-反応関係」及び「量-影響関係」
      「量-反応関係」及び「量-影響関係」を参考にして、対象となる作業によるばく露量と比較することにより、発症の恐れを見積もることが可能である。
      ④「許容濃度」及び「管理濃度」
      許容濃度を、対象となる作業場の気中の濃度と比較することにより結果(職業性疾病)の発生の可能性が分かる。また、作業環境測定を行い、管理濃度を用いて作業場の作業環境の(良好かどうかという)状態を評価することができる。
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