ウイルスとの戦いに勝利はあるのか




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コロナによる感染リスク

菅政権は観客を入れた形での五輪開催を「人類が新型コロナに打ち勝った証」としています。しかし、そこには新型コロナへの戦いの現状を正しく評価して対応しようという姿勢がみられません。

新型コロナにコロナに打ち勝ったという証拠はどこにも存在はしていないと考えるべきです。第二次大戦の台湾沖航空戦(1944年10月)の大本営発表ではあるまいに、戦果は課題に評価されているようです。

これでは、正しく新型コロナに対処することは不可能です。




1 緊急事態宣言ではウイルスに勝利できなかった

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今にして思えば不思議なことであった。当初は、誰もここまで長引くとは思っていなかったのだ。2020年3月末のことである。客観的にみて、その当時、ウイルスに勝利する方法など、何もなかったにもかかわらずである。

政府は緊急事態宣言のために特措法の改正が必要だと主張し、同年3月14日に施行された。ところが、緊急事態宣言が可能になったにもかかわらず、その後しばらくの間、なぜか安倍総理(当時)は緊急事態宣言を出し渋った。ようやく4月7日に宣言を出すと、総理は2週間で感染者数を収束させると大見得を切ったのである(※)

※ 総理官邸WEBサイトの2020年4月7日の「新型コロナウイルス感染症に関する安倍内閣総理大臣記者会見」によると、安倍氏は「専門家の試算では、私たち全員が努力を重ね、人と人との接触機会を最低7割、極力8割削減することができれば、2週間後には感染者の増加をピークアウトさせ、減少に転じさせることができます」と述べた。

そして、緊急事態宣言後、外出者の数がかなり減少したこともあり、新規感染者数は、一旦は、急速に減少した。だが、実際には緊急事態宣言後に、再び感染者数は増加に転じたのである。

人と人の接触を減らすことは、そのときだけは新規感染者を減少させることができるものの、ウイルスを撲滅させることはできなかったのである。再び、人と人との接触が増えるようになると、感染者数は再び増加に転じる。まさに“元の木阿弥”であった。


2 ワクチンは救世主なのか

ワクチン接種

次に期待を寄せられたのが、ワクチンである。ワクチンを接種することにより、感染が収束すると予測されたのだ。わが国のワクチン接種は他の「先進国家」に比較すると遅れに遅れたが、ようやく2021年6月になって始まったのである。

しかし、その時点で、デルタ株などの変異株が発生しており、その期待が大きく揺らいでいる。ワクチン接種が進んだ英国では、コロナは一時的に収束したかに見えたものの、再び変異株が猛威を振るっている(※)

※ BBC News 2021年6月21日「デルタ株 なぜイギリスでこれほど急拡大したのか」など参照。

また、倉橋節也・筑波大教授が行ったシミュレーション結果によると、「東京都でのブラジル型変異種ウイルスの感染者予測を⾏った結果、3/21時点で10名のブラジル型変異種ウイルス感染者がいた場合、6/1以降に0.3%/日のワクチン接種では、第5波の感染拡大が防げないこと、0.5%/日であっても、6000人を超える感染拡大が発生することが示された」としている。

変異株はこれからも現れるであろう。感染力が強く、免疫が効きにくいものが出現するおそれもある。ワクチン接種が進んだからといって、予断を許さない状況になってきたのだ。

さらに言えば、ワクチンを過信しすぎると、ワクチンを接種した人々が感染の予防の行動に消極的になり、一時的に感染者が拡大するということまで予測されるのである。

※ 朝日新聞DIGITAL 2021年6月21日「英国、接種が進んだのに感染が再拡大 ワクチンを過信?」など参照。


3 リスクの考えに基づいた行動を

コロナ禍が長引く恐れがある以上、コロナ禍を拡大させないように、経済活動を進めてゆく必要がある。コロナによる感染者を押さえても、経済停滞によってそれ以上の犠牲者を出すようなことは、愚かな行為と言うしかないのである。

PCR検査

そして、政府に求められることは、短期的な課題として、まず第一に無症状者を含めたPCR検査の広範な実施であろう。第二には、ワクチンの接種を急ぐことである。第三には貧困層への経済援助を拡大することである。

中長期的には、医療体制の整備・充実、変異株に効果のあるワクチンの開発が必要である。とりわけ、医療体制の中長期的な整備は欠かせない。新型コロナが収束したとしても、他のウイルスが蔓延するおそれがあるのだ。

さらには、不必要な感染リスクを避けることも必要である。GoToや五輪など、完全に止めるべきなのだ。


4 現政権には期待できそうにない

残念ながら、現在の菅政権は、まともなリスク管理ができないようだ。期待されることの逆ばかりを行っているのである。

PCR検査の拡大に反対し、ワクチンの接種は遅れに遅れ、感染収束の兆しさえ見えない中でGoToを推し進め、さらには第5波の予兆がある中で五輪を強行しようとしている(※)

※ 朝日新聞 2021年6月17日「五輪中止『極めて非現実的な主張』と批判 公明・山口氏」によれば、公明党は五輪中止を訴える国民の多数派に対して「非現実的」と批判している。公明党は、これまで、自民党の施策を口先では批判しつつ、自民党政権を支えるというぬえのような立場をとってきたが、五輪については積極的に推進する立場を明確にしたようだ。

これでは、野党連合政権の実現を期待するしかないだろう。





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