緊急事態宣言にリスク管理の理論を!




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コロナによる感染リスク

菅総理は緊急事態宣言の解除と再宣言を繰り返しています。

ところが、緊急事態宣言は国民の生活や経済活動に大きな影響を与えるにもかかわらず、恣意的で場当たり的に見えます。

これでは、国民の理解は得られません。その効果と基準を明確にするべきです。




1 緊急事態解除の議論が分かりにくい

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コロナによる感染リスク

なぜ今、どういう見通しがあって解除するのか

政府が、緊急事態宣言を3月21日に全面解除したこと、そして6月に五輪を直前にして解除したことの双方に対して、報道機関やSNSが疑問を呈した。確かに、政府の説明はまったく分かりにくい。

3月の解除について、読売新聞によると、「閣僚の一人は16日、『宣言の効果が薄れている。解除で一度、仕切り直さないといけない』と述べた」とされている。ということは、宣言が役に立たなくなったから解除するということだろう。では、他の代替施策は何なのか? 何も説明がない。

※ 読売新聞オンライン2021年3月17日「【独自】宣言は21日解除へ、閣僚『効果薄れた…仕切り直しだ』」による。

そればかりか、6月9日の党首討論で立憲民主党の枝野代表の質問に対し、菅総理は「世界の様々な国でロックダウン行ってきました、新型コロナ対策。まさに外出を禁止する、そういう厳しい措置が行ってきた国々でも、結果として収束させることはできなかったんです」と答えているのである。緊急事態宣言は役に立たないと国会の場で明言したのだ。

※ 国会会議議事録「第204回国会 国家基本政策委員会合同審査会 第1号 令和3年6月9日

宣言を解除することで、感染者数の見通しがどうなるのか、その説明が全くないばかりか、国民に多大な犠牲をさせた宣言の効果について役に立たないと明言しているのだ。これでは、政府のコロナ対策は「場当たり的」と批判されるのも当然であろう(※)

※ 新型コロナ対応・民間臨時調査会報告書(2020年10月)

菅総理は、ワクチンに期待をかけるということかもしれない。世界的にも接種が遅れている我が国の政府は無能だと認めているようなものだがその批判はおく。それにしても、ワクチンの効果が限定的と言われるデルタ株についてどのように考えているのかの説明をすべきであろう。

そして、コロナの感染者数が急増する中で五輪が開催され、五輪の開催されている中で東京に緊急事態宣言を発した。しかし、これまでの緊急事態宣言では、宣言後に感染者数が減少に転じたが、今度は感染者数は急拡大をしている。概して、専門家も悲観的な見方をしているようである。


2 政府は、コロナ対策とコロナ禍のリスク分析を示せ

(1)緊急事態宣言の効果が示されなければ国民は戸惑う

 コロナ感染者数の推移

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上図は、東京都が公表している都内の新規陽性者数の推移である。これを見ると、2020年3月に感染者数が急増し、緊急事態宣言が出されると収束した。また、2021年1月に急増したが同様に宣言が出されると感染者数は減少した。このように言うと、緊急事態宣言は一定の効果があるように思われるかもしれない。

しかし、よくみると2020年8月にも小さなピークがあり、宣言を出していないにもかかわらず、一旦は感染者数が半減しているのである。こうなると、2020年3月と2021年1月の増加も、宣言を出さなくても、感染者は減少したのではないか、宣言を出すことによって減少したように見えるのは偶然ではないかという疑問がわくのである。

これを動きで表したのが次の動画である。これまでは緊急事態宣言が発令されると感染者数はある程度抑えられたが、今回は押さえ切れていないことが感覚的によく分かる。こちらは、範囲が2021年10月7までとなっている。詳細はリンク先を見て欲しい。

※ Computational Soft and Biological Matter groupのサイト「COVID-19」からお借りしています。

緊急事態宣言の発出や解除の時期・内容について、国民の側から「分かりにくい」という批判が出るのは、その目的と効果についての分析が示されていないからである。どのような効果があるかが不明瞭では、協力せよと言われても「緩み」が出るのは当然なのだ。

なお、政府は重症化しやすい高齢者の感染比率は減少していると主張しているが、下記に重症者数(人工呼吸器装着者数)の推移を示す。決して重症者数が低下しているとは言い難い状況にある。

 コロナ重症感染者数の推移

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 コロナ重症感染者数(年代別)の推移

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 コロナ新規重症感染者数の推移

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(2)協力を求めるなら、その効果と弊害を示せ

説明する女性

コロナ禍が、与野党、保守・革新の別なく、解決しなければならない国家的危機であることは当然である。そして、これを解決するに当たっては、どのような方法があり、それらの効果の効果と弊害(※)はどの程度なのかという分析を、まず政府の側が行なって国民に広く知らせなければならない。

※ 当然だが、どのような施策にも弊害は伴う。政府は、その弊害がどのようなもので、どのような大きさなのかを国民に示して、かつそれへの対策も示して、理解を求めなければならない。

今回のコロナ対策では、政府がこれを行っていないのである。なぜ、野党が要求している広範なPCR検査を行わないのか、GoToの効果と弊害をどのように予想しているのか、緊急事態宣言の効果と弊害をどのように予想しているのか、これらが全く発信されないのである。

また、実際に2度に渡って行われた、緊急事態宣言について、どのような効果あり、また反省点は何なのかも示されていない。

このような状態で、緊急事態宣言を一方的に解除したり、再宣言したりすると言われても、国民が不安を感じるのは当然であろう。


3 コロナ禍のリスク分析と、国の施策の分析が急務だ

危機管理に必要なことは、場当たり的な対応ではなく、まずは情報の収集と分析である。そして、その結果に基づいて対策を建て、その対策による効果と弊害を分析し、それを国民の前に示すことが当然である。そして、弊害についても国民の理解を得るように努力しつつ、対策について国民の協力を得るようにしなければならない。

緊急事態宣言のような、大きな“痛み”を伴う施策をとっておきながら、その効果の分析もなく、弊害に対する補償も不明瞭では、国民に協力せよと言っても不可能だ。

国民の側としては、政府が、今のような危機管理能力しかないなら、交替させるしかないであろう。





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