自家用車による出張の企業リスク




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急ブレーキをかける女性

※ イメージ図(©photoAC)

社員の遠距離の出張を自家用車で行わせるケースが増えているるようです。電車で移動中に新型コロナに感染するリスクを避けようとしてのことのようです。

しかし、社用車であればともかく、自家用車を出張に使用することは、事業者にとって大きなリスクを抱え込むことになります。

自家用車で社員を出張させることは、リスク管理の観点からは合理的な判断とは言い難いというべきです。




1 出張を自家用車で行わせるリスク

執筆日時:

最終改訂:

自動車事故

最近、社員の遠距離の出張を自家用車で行わせるケースが増えているるようだ。電車で移動中に新型コロナに感染するリスクを避けようとしてのことらしい。

だが、自家用車を出張に使用することは、事業者にとって多くのリスクを抱え込むことになるのである。事業者はそのことを理解しているのだろうか。出張中に、事故で第三者に損害を与えた場合は言うに及ばず、出張から戻って休日に私用でその車を使って事故を起こした場合や、通勤時にその車で起こした事故にまで責任を問われる可能性があるのだ。


2 社員が自家用車で事故を起こした場合の事業者責任

(1)社員が第三者に加害行為をした場合の事業者の法的責任

社員が、出張中に乗用車で事故を起こして第三者に損害を与えた場合、事業者に責任が問われ得るのは、民法上の不法行為責任と自賠法第3条の運行管理責任の2つである。もちろん、不法行為責任を問われるのは乗用車で事故を起こした場合に限られないが、出張を乗用車で行わせる場合は電車による場合よりも事故を起こして民事賠償責任を問われる可能性は格段に高くなる。

さらに重要なことは、自家用車の場合は、持ち主が任意保険をかけるときに、目的をレジャーや日常生活などに限っている可能性があることだ。その場合、出張中の事故には、任意保険は使えないことになる。すなわち、会社ばかりでなく、本人にも重大な責任が発生することがあり得るのだ。


(2)民法上の不法行為責任

裁判

民法上の不法行為責任で、社員が起こした事故の民事責任を事業者が問われ得るのは、709条の事業者(使用者)そのものに過失がある場合と、715条の社員に過失がある場合に使用者が負う責任の2種類がある。

前者は、社員が病気や服薬の影響で運転を医師から止められていることを知っていながら、乗用車での出張を命じたというような、事業者自身に事故発生について過失が認められる場合に発生する責任である。現実には、このようなケースも起こり得るのである。

後者は、社員の過失によって事故が発生した場合である。この場合は、民法715条により事業者が責任を負うおそれがある。というより、責任を免れ得ることは困難であろう。

しかも、出張中の事故であるから、被害者は遠隔地に住んでいる。そして、被害者が民事賠償訴訟を起こすときは、その住所地の地方裁判所(請求金額によっては簡易裁判所)に訴えることができるのである(民訴法第5条表第一号)。

訴訟の実務上、数回は裁判所へ出かけなければならない。裁判所が遠隔地にあると、会社の近くの弁護士に代理人を依頼する場合など、出張などの費用で相当な費用が必要になるのだ。請求金額が数十万円程度であれば、争わない方がよいというケースさえある。


(3)自賠法第3条の責任

社員の自家用車を業務に用いてはならない最大の理由が自賠法第3条である。事業者及び運転者が自動車の運行に関し注意を怠らなかったこと等を証明できない限り、事業者責任が問われることになるからである。

しかも、社員の乗用車を社用に用いていると、その社員が私用や通勤にその乗用車を用いて事故を起こした場合にまで事業者責任が問われることがあり得るのだ。自家用車を社用に用いている場合に、社員の通勤途上の事故について会社の責任を認めた例としては大阪地判昭和42年6月30日などがある(※)

※ マイカー通勤途上の事故に関しては、社用にその自家用車を用いていなくとも、通勤を会社が実質的に管理(運行支配)して利益を得ている(運行利益)として、会社の責任を認めた例として、最3小判平成元年6月6日や、最1小判昭和52年12月22日などがあり、また、会社がマイカー通勤を容認していたことを理由に「通勤を本来の業務と区別する実質的な意義は乏しく、むしろ原則として業務の一部を構成するものと捉えるべきが相当」として会社に民法の使用者責任を認めたもの(福岡地飯塚支判平成10年8月5日)がある。従って、社用に用いていなければマイカー通勤時の事故の責任を会社が追わないというものではない。

また、自家用車を社用に用いていると、通勤のみならず、社員が勤務時間外に乗用車を私用に用いていた場合にも、自賠法第3条の責任を問われ得る。これは、自家用車を社用で使用していなければ問われることのない責任なのである。


3 出張に自家用車を用いるべきではない

冒頭にも述べたが、社員を出張に出させるときに、電車で移動するとコロナに感染するリスクがあるとして、自動車による出張をさせる企業が増えている。とりわけコロナ感染者の少ない地域の企業から、東京、大阪などへ出張する場合に、このようなケースが多いようだ。

ところが、社用車の数は限られており、他にも使う必要があるため、自家用車の使用を軽い気持ちで認めてしまう場合があるのだ。

これはきわめてリスクの高い行為である。そもそも、2020年の交通事故による死者数は2,839人(前年3,215人)に対し、コロナの死者数は3,492人である。交通事故に遭遇する確率は、コロナに罹患する確率よりも著しく低いとまでは言えないのである。さらに、電車内は、感染のリスクがそれほど高い空間ではないのだ。

むしろ、自家用車を社用に使用することによるリスクを考えると、自家用車で社員を出張させることは合理的な判断とは言い難いのである。





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