北朝鮮の核実験停止宣言


2018年4月、金正恩が核実験等の停止を宣言しました。相変わらず当時の安倍政権は情報を得ることもできず、右往左往するのみでした。

これは、当時「実務家のための労働安全衛生のサイト」に掲示したものですが、そのままの形で当サイトに移行しました。




1 はじめに

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筆者:柳川

2018年4月21日、我が国の報道機関は、金正恩が核実験とICBM試射を中止し、咸鏡北道豊渓里の核実験場を廃止すると宣言したと報じた。また、朝日新聞は、同日付けで、金正恩がポンペオCIA長官に「完全な非核化」について伝えたと報じ、毎日新聞など数紙も、23日になって、未確認情報としてではあるが同様な内容を報じている。

これらに対して、我が国の世論は、疑いの念を向けつつも一定の歓迎をしているようである。

だが、それは、理想には程遠くかつ若干ではあるにせよ、非核化へ向けた一歩前進として、喜ぶべきことなのだろうか。また、アジア地域の安定と平和へ向けて、金正恩が方向転換したということなのだろうか。少なくない我が国の国民が感じているようだが、私にもとてもそうは思えない。

むしろ、我が国の国益を大きく損なう可能性のある動きではないかと思えるのである。本稿では、その点について論じてみたい。


2 都合の良い米朝交渉の着地点を探っているだけではないか

(1)金正恩の宣言の実質

ア 核実験の停止等について

金正恩の宣言にいう核実験停止については、言っているのは、実験とICBMの試射を止めるということだけである。逆から考えれば、これまで開発してきた核とミサイルは、そのままにしておくということであろう。さらに言えば、実験や試射をしなくても、これまでと同じものを造ることはできるのである。

これまでに開発してきた核とミサイルが、我が国への攻撃能力を有している以上、我が国にとって、決して一歩前進などとは言えないのではなかろうか。

イ ポンペオCIA長官への伝達について

また、ポンペオCIA長官に伝えた「完全な非核化」も、たんなる「理念としての目標」にすぎない可能性もあるのだ。というより、具体的な内容が示されていないのであるから、そう考える方がかえって自然であろう。

事実、この点について、中日新聞は、23日付けの記事の中で、「米紙ウォールストリート・ジャーナル(電子版)は22日、トランプ大統領の特使として訪朝したポンペオ中央情報局(CIA)長官に対し、北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長が、非核化まで何年もかかる可能性がある段階的な措置に合意するよう要請していたと報じた。米側は難色を示したもようだ」と報じている。外交の世界においては、"何年"が"事実上永年"となる可能性もあるのである。


(2)金正恩が米国を納得させる妥協点とは?

結局のところ、金正恩にとって都合の良い、米国との話し合いの落としどころを探っているだけなのではないかと思えるのである。

金正恩にしてみれば、米朝会談を前にして、米国が納得できるぎりぎりのところはどこかを探りたいであろう。米国が席を蹴るほど怒らせたくはないが、核は維持したい。そこで、「米国に被害を与えるような長距離のミサイルは持ちません」から、「日本への攻撃能力は温存させてください」と言って、出方をうかがっているのではないかというのが、考えられるところであろう。

金正恩は、どこまでなら"譲歩"する気があるのだろうか。ことによると、「アメリカの情報機関が状況を把握しにくいウラニウム核には手を出しませんから、今持っているプルトニウム核の方は認めてください」でも金正恩としては都合がよい"譲歩"かもしれない。

米国にしてみれば、日本の米軍基地への攻撃能力は許したくはないであろうが、金正恩が完全な核廃棄に同意するとは思えない以上、そこで手を打つ可能性もなくはないのである。米本土にさえミサイルが飛んでこなければ、まあ良いとしようというわけだ。

目の前にした人物の言うことを受け入れる傾向の強いトランプならあり得ないことではないだろう。


(3)結局、日本がバカを見るのではないか

そうなってくると、バカを見るのはどの国だろうか。結局のところ、北との対話を拒否して、「制裁、制裁」と言ってきた日本だけということになりかねないのである。

韓国は北朝鮮との対話ムードの中で、経済交流を進めてゆくことで、北の脅威を取り除くことに成功するかもしれない。一定の、経済交流が実現できれば、金正恩としてもその利益を失ってまで韓国を攻撃しようなどとは考えなくなるだろう。そうなれば、韓国としては、それほど核の恐怖を感じることはなくなるのである。しかも、金正恩にしてみれば、同じ民族に対して核による攻撃をすれば、国民の支持を一気に失うかもしれないのだ。

また、中国とロシアは、北朝鮮の核攻撃を受ければ、北朝鮮を地上から消滅させるだけの反撃能力を有している。この両国は、事実上、北朝鮮の核を恐れる理由はないのである。

こうなってくると、北朝鮮による核の脅威にさらされるのは、日本だということになろう。


3 終わりに

残念ながら、安倍総理が、北朝鮮に対して対話を拒否してきたことのツケが、ここにきて出てきたとしか言いようがない状況ではなかろうか。結局のところ、安倍総理は、原則(制裁)に拘って、米国、韓国、中国に出し抜かれた形なのである。

外交とは、場合によっては悪魔とでも話し合いをするくらいの覚悟がなければできないのである。自分とは考え方の違う者と話ができないような人物では、外交の責任者は務まらないのだ。

ちょっと批判を受けると、感情的になって「こんな人たちに負けるわけにはゆかない」などと言い出す人物に、我が国の総理を任せておいたのでは、外交面で外国に出し抜かれるだけで、我が国に有利に進めることはできず、国益を大きく損なうことになるのではなかろうか。

もし、米朝の会談の結果、米国が自国の利益を優先させて、結果的に北朝鮮における核の固定化が進むようなら、その責任を取るべきは誰なのであろうか。

そもそも、現在、国政での重大な問題となっている森友学園と加計学園の問題も、総理夫妻の個人的な問題に端を発しているのである。「朋友相信じ」た隣国の大統領は、厳しい懲役刑を受けるようだが、「夫婦相和し(森友)、朋友相信じ(加計)」てこられた我が国の総理も、そろそろ責任をとられたら如何だろうか。