衛生管理者の選任違反の状況の推移




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レッドカードを示す女性

※ イメージ図(©photoAC)

衛生管理者は業種を問わず、常時 50 人以上の労働者を雇用するすべての適用事業場で選任しなければなりません。

しかし、現実にはかなりの違反があることも事実です。本稿では厚生労働省が公表している「労働基準監督官年報」の各年版から、衛生管理者選任の違反状況をグラフを用いて示しています。

なお、柳川に著作権があることにご留意ください。



1 はじめに

執筆日時:

最終改訂:


衛生管理者は安衛法第12条安衛令第4条)により、適用事業場であれば、常時 50 人以上の労働者を雇用するすべての業種の事業者が選任しなければならない。

【労働安全衛生法】

(衛生管理者)

第12条 事業者は、政令で定める規模の事業場ごとに、都道府県労働局長の免許を受けた者その他厚生労働省令で定める資格を有する者のうちから、厚生労働省令で定めるところにより、当該事業場の業務の区分に応じて、衛生管理者を選任し、その者に第十条第一項各号の業務(第二十五条の二第二項の規定により技術的事項を管理する者を選任した場合においては、同条第一項各号の措置に該当するものを除く。)のうち衛生に係る技術的事項を管理させなければならない。

 (略)

【労働安全衛生法施行令】

(衛生管理者を選任すべき事業場)

第4条 法第十二条第一項の政令で定める規模の事業場は、常時五十人以上の労働者を使用する事業場とする。

しかし、現実には、衛生管理者選任のような基本的な法令がなかなか守られていないのが実態である。これが守られない大きな理由は、安衛法を知らないということもあろうが、衛生管理者試験に合格できない(※)ということも一因である。

※ 衛生管理者と同じように、常時50人以上の事業場で選任しなければならない産業医の選任についての違反件数は、通常は衛生管理者より低いのである。産業医は事業場外の医師を選任するため、自社の従業員で衛生管理者の資格を有する者を選任しなければならない衛生管理者より、選任しやすいのであろう。

そこで、衛生管理者の選任に関する違反の状況の推移を業種ごとにみてみよう。


2 衛生管理者選任に関する違反状況

(1)違反件数の推移

厚生労働省が毎年公表している「労働基準監督官年報」から、定期監督等(※)における業種別に安衛法第12条(衛生管理者)の違反件数をグラフにすると次図のようになる。

※ ここにいう定期監督等には、「申告監督」と「再監督」は含まれていない。ここに、申告監督とは、労働者の申告によって監督を行うものであり、「再監督」は、一度、監督をした事業場に対して是正状況の確認を行うための監督である。

業種別衛生管理者選任違反状況の推移

図をクリックすると拡大します

衛生管理者の選任は、事業場における労働衛生管理の基本となるべきことであるが、現実には毎年 4,000~5,000 件程度の違反が摘発される(※)

※ 2020年及び2021年の違反件数の減少は、新型コロナ感染症の影響等により監督件数が減少したことも影響している。

業種別では、製造業が最も多く、これに商業、保健衛生業が続いている。保健衛生業の違反の多くは、社会福祉施設で発生している。建設業が少ないのは、建設業への監督は有期事業に対して行われることが多く、その事業場において衛生管理者の選任が必要であることが少ないためである。


(2)違反率の推移

次に、違反率を見てみよう。業種別の定期監督等の件数は次図の通りである。

業種別臨検監督件数の推移

図をクリックすると拡大します

定期監督等の件数は、建設業、製造業が多くを占めているが、近年では商業の割合が増加しつつある。

定期監督等の件数を母数とすると(※)、違反率は次のようになる。

※ 現実には、定期監督等は50人以下の事業場に対して行うことも多いので、定期監督件数を母数にすると、違反率は実際よりも低くなる。しかし、50人以上の事業場に対する監督件数が公表されていないので、50人未満の事業場も含めた違反率となっている。

業種別衛生管理者選任違反率

図をクリックすると拡大します

建設業の違反率が低いのは、先述したように衛生管理者を選任しなければならない事業場の割合が少ないためである。全業種の違反率も、建設業の割合がかなり高いことからかなり小さくなっており、実質的な違反率はもっと高いと考えられる。

建設業以外の業種では、保健衛生業、教育研究業、清掃と畜業で高くなっている。保険衛生業の違反の多くは社会福祉施設に集中している。これらの業種で違反率が高いのは、遵法意識の低さのみならず、法令についての理解が低いことも一因であろう。

一方、商業と農林業では違反率が低い。しかし、これは 50 人以上の事業場が少ないことも一因であろう。

典型的なのは製造業であるが、5%前後の違反率で推移している。この数値は決して低いものではない。


3 最後に

衛生管理者の女性

※ イメージ図(©photoAC)

繰り返しになるが、衛生管理者の選任は、事業場の衛生管理の基本になるべきことである。

化学物質の自律的な管理、メンタルヘルスの重要性の増加、職場における高齢化などにより、衛生管理者の果たす役割は、益々、大きくなってゆくだろう。

50人をわずかに超える程度の比較的小規模な事業場においても、衛生管理者の役割は低くない。長期的に衛生管理者となる従業員の育成に努め、試験への積極的な支援を含めて違反となるようなことのないようにする必要がある。

また、衛生管理者をより積極的に活用するために、次のようなことを実施するべきと考える。

【衛生管理者をより積極的に活用するために】

  • 長期的な衛生管理者資格の取得・育成の計画を立て、受験のために必要な支援を行う。
  • 衛生管理者が業務を適切に行えるよう、必要な権限の付与、業務時間の確保等を図る。
  • 衛生管理者の能力向上のため、試験合格後も事業場内外の研修の受講、安全衛生大会への参加等による能力向上を図る。
  • 必要に応じ、衛生管理者の社外の交流会や関係学会への参加等も行う。
  • 衛生管理者が、衛生コンサルタントやインダストリアルハイジニストの資格を取得することを勧める。

また、事業場の衛生管理者の選任は、法令によって定められているから行うということではなく、従業員の心身の健康の確保や快適な職場の実現に役立てるという意識を持って行うべきである。


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